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一章
国王陛下とお母様
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殿下はポツリポツリと話し始めた。
「お前も薄々気付いているとは思うが……その通りだ。父上は……いや、陛下はお前の母親のことが好きだったんだ」
「……」
別に驚きはしなかった。
殿下の言う通り、何となく予想していたことだったから。
(陛下のさっきの様子からして、まぁそうなんだろうなぁとは思っていたけれど……)
改めて真実を聞くと、やはりショックを隠しきることが出来なかった。
「……私に優しくしてくださっていたのは、私がお母様に似ているからでしょうか?」
「……その通りだ」
「やっぱり……そうだったんですね……」
正直、かなり落ち込んだ。
国王陛下は私にとって特別な人だったから。
前世で唯一私に優しくしてくれた人。
本当の父親と言っても過言ではなかった。
私はずっと、陛下が私に親切にしてくれているのは愛する息子の婚約者だからだと思っていた。
だけど、実際は違った。
陛下は私を愛していたのだ。
一人の女として。
殿下は目に見えて気持ちの沈んだ私を心配そうに見つめた。
「セシリア、大丈夫か?やはりこの話はここで――」
「いいえ、平気です。続けてください、殿下」
私は話すことを止めようとする殿下の言葉を遮った。
本来なら王太子殿下に対して不敬極まりない行為だったが、彼はそんな私を咎めなかった。
(ここまで来て、後戻りなんてしたくない……)
何が何でも真実を聞きたかった。
覚悟は随分前に出来ている。
「……陛下は即位する前、王太子だった頃からフルール公爵夫人に恋をしていたんだ。公爵夫人は元々陛下の婚約者候補で、人並み外れた美しい容姿を見て一瞬で恋に落ちてしまったそうだ」
「なるほど、私は見た目だけならお母様にそっくりですものね」
お母様の友人の一人であったフォンド侯爵夫人も、私をお母様の生き写しのようだと言っていた。
侯爵夫人だけではなく、公爵邸の使用人たちもだ。
それだけの人物にそう言われるということは、私は本当にお母様によく似ているのだろう。
「そうだな……それで陛下はすぐにでも公爵夫人を自分の婚約者にしようとしたんだが、当時まだフルール公爵家の嫡男だったお前の父親に先を越されたんだ」
「お父様に……」
お父様がお母様を心から愛していたことは使用人たちから聞いたため、知っている。
「それを聞いた陛下は公爵夫人を諦めきれずに実の父親である当時の国王陛下に抗議しに行ったんだが、そのとき既に陛下には隣国の王女との婚約が決まっていた。だからどうしようもなかった」
隣国の王女殿下。
エリザベス王妃陛下のことだろう。
この国で最も尊い、高貴な女性。
「陛下はどうしても公爵夫人を手に入れることが出来なかった。何より公爵と公爵夫人は誰から見ても相思相愛で、他人の入る隙なんて無かったからな。そしてその後陛下は母上を娶ったが……母上を見ることは無かった」
「え……?」
「陛下は未だに公爵夫人を想っていたんだ。それでも母上は歩み寄ろうと努力していたが、陛下はそれらを全て無視した」
そのときに私の脳裏をよぎったのは、私を視界に入れるたびに忌々しそうな顔をするエリザベス王妃陛下の姿だった。
(何故あれほど嫌われているのかと不思議に思っていたけれど……)
「……殿下、もしかして王妃陛下が私を嫌っていらっしゃるのは……」
「……お前が公爵夫人に似てるというだけならあそこまでキツくは当たらないだろう。だから母上は陛下がお前を寵愛していることに気付いているのだろうな」
それを聞いた私は妙に納得した。
私が前世でどれだけ頑張っても王妃陛下に認められなかった理由。
(そういうことだったのね)
しかし、私は王妃陛下の気持ちが分からなくはない。
だって私も前世で彼女と似たような経験をしていたから。
そのことを思い出して複雑な気持ちになっていると、隣にいた殿下が優しく私の頭を撫でた。
「セシリア、あまり気に病むなよ?お前と公爵夫人には何の罪もない。母上はそれが分からないほど愚かな人ではない」
「……分かっています、殿下」
私が微笑むと、殿下は安心したかのように笑い返した。
「お前も薄々気付いているとは思うが……その通りだ。父上は……いや、陛下はお前の母親のことが好きだったんだ」
「……」
別に驚きはしなかった。
殿下の言う通り、何となく予想していたことだったから。
(陛下のさっきの様子からして、まぁそうなんだろうなぁとは思っていたけれど……)
改めて真実を聞くと、やはりショックを隠しきることが出来なかった。
「……私に優しくしてくださっていたのは、私がお母様に似ているからでしょうか?」
「……その通りだ」
「やっぱり……そうだったんですね……」
正直、かなり落ち込んだ。
国王陛下は私にとって特別な人だったから。
前世で唯一私に優しくしてくれた人。
本当の父親と言っても過言ではなかった。
私はずっと、陛下が私に親切にしてくれているのは愛する息子の婚約者だからだと思っていた。
だけど、実際は違った。
陛下は私を愛していたのだ。
一人の女として。
殿下は目に見えて気持ちの沈んだ私を心配そうに見つめた。
「セシリア、大丈夫か?やはりこの話はここで――」
「いいえ、平気です。続けてください、殿下」
私は話すことを止めようとする殿下の言葉を遮った。
本来なら王太子殿下に対して不敬極まりない行為だったが、彼はそんな私を咎めなかった。
(ここまで来て、後戻りなんてしたくない……)
何が何でも真実を聞きたかった。
覚悟は随分前に出来ている。
「……陛下は即位する前、王太子だった頃からフルール公爵夫人に恋をしていたんだ。公爵夫人は元々陛下の婚約者候補で、人並み外れた美しい容姿を見て一瞬で恋に落ちてしまったそうだ」
「なるほど、私は見た目だけならお母様にそっくりですものね」
お母様の友人の一人であったフォンド侯爵夫人も、私をお母様の生き写しのようだと言っていた。
侯爵夫人だけではなく、公爵邸の使用人たちもだ。
それだけの人物にそう言われるということは、私は本当にお母様によく似ているのだろう。
「そうだな……それで陛下はすぐにでも公爵夫人を自分の婚約者にしようとしたんだが、当時まだフルール公爵家の嫡男だったお前の父親に先を越されたんだ」
「お父様に……」
お父様がお母様を心から愛していたことは使用人たちから聞いたため、知っている。
「それを聞いた陛下は公爵夫人を諦めきれずに実の父親である当時の国王陛下に抗議しに行ったんだが、そのとき既に陛下には隣国の王女との婚約が決まっていた。だからどうしようもなかった」
隣国の王女殿下。
エリザベス王妃陛下のことだろう。
この国で最も尊い、高貴な女性。
「陛下はどうしても公爵夫人を手に入れることが出来なかった。何より公爵と公爵夫人は誰から見ても相思相愛で、他人の入る隙なんて無かったからな。そしてその後陛下は母上を娶ったが……母上を見ることは無かった」
「え……?」
「陛下は未だに公爵夫人を想っていたんだ。それでも母上は歩み寄ろうと努力していたが、陛下はそれらを全て無視した」
そのときに私の脳裏をよぎったのは、私を視界に入れるたびに忌々しそうな顔をするエリザベス王妃陛下の姿だった。
(何故あれほど嫌われているのかと不思議に思っていたけれど……)
「……殿下、もしかして王妃陛下が私を嫌っていらっしゃるのは……」
「……お前が公爵夫人に似てるというだけならあそこまでキツくは当たらないだろう。だから母上は陛下がお前を寵愛していることに気付いているのだろうな」
それを聞いた私は妙に納得した。
私が前世でどれだけ頑張っても王妃陛下に認められなかった理由。
(そういうことだったのね)
しかし、私は王妃陛下の気持ちが分からなくはない。
だって私も前世で彼女と似たような経験をしていたから。
そのことを思い出して複雑な気持ちになっていると、隣にいた殿下が優しく私の頭を撫でた。
「セシリア、あまり気に病むなよ?お前と公爵夫人には何の罪もない。母上はそれが分からないほど愚かな人ではない」
「……分かっています、殿下」
私が微笑むと、殿下は安心したかのように笑い返した。
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