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一章
彼の本心
エリザベス王妃陛下がそんな辛い思いをしていただなんて全く知らなかった。
隣国から嫁いできて、頼れる人が誰もいない状態で夫となった国王陛下は自分に無関心。
おそらく彼女は前世の私よりも辛い状況だっただろう。
そう考えると、不思議と王妃陛下を恨む気にはなれなかった。
――夫に愛されない苦しさを、私は誰よりも知っていたから。
「……殿下、国王陛下は私を諦めていないのでしょうか」
私が尋ねると、殿下は軽く頷いた。
「……ああ、あれくらいで諦める人だとは思えない。陛下のお前に対する執着は並大抵のものではないからな。……陛下が夫人を未だに愛しているという事実は変わらない。だけど公爵夫人はもうこの世にはいないから。彼女によく似た娘であるお前に標的を変えたんだろう」
「陛下は……それほどまでにお母様を愛していらしたんですね」
陛下のお母様に対する深い愛についてはよく分かった。
しかし自分の息子の婚約者に、二回り近く年の離れた女に恋情を抱くなど正気の沙汰ではない。
(そして前世の私は……そんなことまるで知らなかった……)
知らない状態で国王陛下と関わっていたのだ。
やはり無知というものは恐ろしい。
改めて実感した。
私が考え込んでいると、彼が重い口を開いた。
「……セシリア」
「……はい?」
殿下は私と向き合うと、突然深く頭を下げた。
「殿下……?」
「――今まで、キツく当たったりして本当に悪かった」
「……!」
王族が、臣下に頭など下げてはいけない。
聡明な殿下がそのことを知らないはずが無いのだ。
(殿下……)
ということは、分かっていてこうしているのだろう。
「セシリア、よく聞いてくれ。陛下は、お前と俺を結婚させた後お前を自分のものにしようとしている」
「……………ッ!?」
殿下から告げられたことに私は衝撃を受けた。
(う、嘘でしょう……!?国王陛下はそんなことを考えていたの……?)
到底信じられないことだが、目の前で私をじっと見つめている殿下が嘘をついているとは思えなかった。
「陛下は用意周到な人だ。おそらく俺と結婚させた後、王宮の使用人たちに指示してお前を冷遇させたりするだろうな。――それを助けた自分に、お前が好意を抱くように」
「……!」
そこで私は前世の記憶を思い浮かべた。
(そうだ……私は前世で王宮の使用人たちに憐みの眼差しを向けられたり陰口をされたりしていた……)
そして、そんな私に手を差し伸べてくれたのはいつも――
認めたくないが、変えようのない事実だった。
「言い訳がましいかもしれないが、俺はお前にそんな目に遭ってほしくなくて……お前が俺を嫌い、お前から婚約を白紙にしたいと言い出すように仕向けた。俺が婚約解消を望んだところで聞き入れられるわけがなかったから」
「殿下……」
まさか殿下がそのようなことを考えていただなんて。
つまり、私は嫌われていたわけでは無かったのだ。
「信じられないかもしれないが……」
「……」
無言で殿下の話を聞いていた私の頬を、彼がそっと両手で包んで上に向けさせた。
「セシリア、すまない。俺は、お前を手放せそうにない」
「……殿下」
その黒い瞳は潤んでいて、今にも泣いてしまいそうだった。
「お前が俺との婚約を白紙にしようとしていることには随分前から気付いていた」
「えっ……」
バレていたのか。
「それで良いんだ、これが俺の望みだって思いながらもお前が離れようとすればするほど何故だか俺の気持ちは沈んで行った。そしてお前が父上に襲われそうになったとき、ようやく気付いたんだ」
「……」
「――俺は、お前が好きだ」
そこで彼は私を抱き締めた。
愛の告白など殿下にとっては初めてなのだろう。
声が少し震えている。
「お前の笑顔を守りたいって、強くそう感じた」
「殿下……」
嬉しくて、涙が出そうになった。
(私たち、相思相愛だということ?)
「セシリア、お前が望むなら俺は魔法盟約を交わしてもいい」
「えっ……」
――魔法盟約
約束を破った者には死が訪れることとなる、恐ろしい盟約だ。
「そんな……誓いを違えたら死ぬことになるんですよ?」
「かまわない」
彼は迷うことなくそう言った。
「だからセシリア、どうか今だけ俺を信じてみないか」
「殿下……」
殿下は私を抱き締める腕に力を込めた。
「絶対にお前を守ってみせる。陛下になど渡すものか」
「……」
胸がドキドキする。
やっぱり私は彼のことが好きなんだ。
「……じゃあ、一度だけ、信じてみます……」
「……!」
私の言葉に、彼は上半身を少し離して私の顔を覗き込んだ。
そして――
「ありがとう」
そう言いながら、私の唇にそっとキスをした――
隣国から嫁いできて、頼れる人が誰もいない状態で夫となった国王陛下は自分に無関心。
おそらく彼女は前世の私よりも辛い状況だっただろう。
そう考えると、不思議と王妃陛下を恨む気にはなれなかった。
――夫に愛されない苦しさを、私は誰よりも知っていたから。
「……殿下、国王陛下は私を諦めていないのでしょうか」
私が尋ねると、殿下は軽く頷いた。
「……ああ、あれくらいで諦める人だとは思えない。陛下のお前に対する執着は並大抵のものではないからな。……陛下が夫人を未だに愛しているという事実は変わらない。だけど公爵夫人はもうこの世にはいないから。彼女によく似た娘であるお前に標的を変えたんだろう」
「陛下は……それほどまでにお母様を愛していらしたんですね」
陛下のお母様に対する深い愛についてはよく分かった。
しかし自分の息子の婚約者に、二回り近く年の離れた女に恋情を抱くなど正気の沙汰ではない。
(そして前世の私は……そんなことまるで知らなかった……)
知らない状態で国王陛下と関わっていたのだ。
やはり無知というものは恐ろしい。
改めて実感した。
私が考え込んでいると、彼が重い口を開いた。
「……セシリア」
「……はい?」
殿下は私と向き合うと、突然深く頭を下げた。
「殿下……?」
「――今まで、キツく当たったりして本当に悪かった」
「……!」
王族が、臣下に頭など下げてはいけない。
聡明な殿下がそのことを知らないはずが無いのだ。
(殿下……)
ということは、分かっていてこうしているのだろう。
「セシリア、よく聞いてくれ。陛下は、お前と俺を結婚させた後お前を自分のものにしようとしている」
「……………ッ!?」
殿下から告げられたことに私は衝撃を受けた。
(う、嘘でしょう……!?国王陛下はそんなことを考えていたの……?)
到底信じられないことだが、目の前で私をじっと見つめている殿下が嘘をついているとは思えなかった。
「陛下は用意周到な人だ。おそらく俺と結婚させた後、王宮の使用人たちに指示してお前を冷遇させたりするだろうな。――それを助けた自分に、お前が好意を抱くように」
「……!」
そこで私は前世の記憶を思い浮かべた。
(そうだ……私は前世で王宮の使用人たちに憐みの眼差しを向けられたり陰口をされたりしていた……)
そして、そんな私に手を差し伸べてくれたのはいつも――
認めたくないが、変えようのない事実だった。
「言い訳がましいかもしれないが、俺はお前にそんな目に遭ってほしくなくて……お前が俺を嫌い、お前から婚約を白紙にしたいと言い出すように仕向けた。俺が婚約解消を望んだところで聞き入れられるわけがなかったから」
「殿下……」
まさか殿下がそのようなことを考えていただなんて。
つまり、私は嫌われていたわけでは無かったのだ。
「信じられないかもしれないが……」
「……」
無言で殿下の話を聞いていた私の頬を、彼がそっと両手で包んで上に向けさせた。
「セシリア、すまない。俺は、お前を手放せそうにない」
「……殿下」
その黒い瞳は潤んでいて、今にも泣いてしまいそうだった。
「お前が俺との婚約を白紙にしようとしていることには随分前から気付いていた」
「えっ……」
バレていたのか。
「それで良いんだ、これが俺の望みだって思いながらもお前が離れようとすればするほど何故だか俺の気持ちは沈んで行った。そしてお前が父上に襲われそうになったとき、ようやく気付いたんだ」
「……」
「――俺は、お前が好きだ」
そこで彼は私を抱き締めた。
愛の告白など殿下にとっては初めてなのだろう。
声が少し震えている。
「お前の笑顔を守りたいって、強くそう感じた」
「殿下……」
嬉しくて、涙が出そうになった。
(私たち、相思相愛だということ?)
「セシリア、お前が望むなら俺は魔法盟約を交わしてもいい」
「えっ……」
――魔法盟約
約束を破った者には死が訪れることとなる、恐ろしい盟約だ。
「そんな……誓いを違えたら死ぬことになるんですよ?」
「かまわない」
彼は迷うことなくそう言った。
「だからセシリア、どうか今だけ俺を信じてみないか」
「殿下……」
殿下は私を抱き締める腕に力を込めた。
「絶対にお前を守ってみせる。陛下になど渡すものか」
「……」
胸がドキドキする。
やっぱり私は彼のことが好きなんだ。
「……じゃあ、一度だけ、信じてみます……」
「……!」
私の言葉に、彼は上半身を少し離して私の顔を覗き込んだ。
そして――
「ありがとう」
そう言いながら、私の唇にそっとキスをした――
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