52 / 127
一章
閑話 公爵令嬢が死んだ後⑤―マリア編―
グレイフォード殿下は、セシリア様を遠くから見つめていた私を不審者だと言って剣を突き付けてきた。
ハッキリ言って私はこの男が嫌いだ。
あんなに美しいセシリア様を蔑ろにしているのだから。
王太子殿下が婚約者であるセシリア様を嫌っているのはオルレリアン王国の貴族たちの間では周知の事実だった。
このときの私は、既にセシリア様のことが大好きになっていた。
しかし、私はセシリア様の傍にいれるような身分の人間ではない。
だからこそ、傍にいれるのに蔑ろにしている殿下に嫌悪感を抱いた。
それから気が付けば何故か殿下と関わるようになっていった。
セシリア様に関する話が妙に合うというか。
(何で私がこの男と関わってんのよ……)
本来ならばこの人ではなくセシリア様との仲を深めたかったが、仕方が無い。
そんなこんなで私は今日も殿下と二人で話していた。
その際に少し気になったことを聞いてみた。
何故殿下はあんなに素敵なセシリア様に冷たく接するのかと。
すると殿下は、少し言いづらそうにした後にポツリポツリと語り始めた。
その内容は驚きのものだった。
なんと殿下の父君である国王陛下がセシリア様を自分のものにしようとしているのだと。
だから自分から引き離そうとしているらしい。
私はそれに対して妙に納得した。
あれだけ美しく優しいセシリア様を嫌いになるだなんてありえない。
殿下が冷遇するのもきっと何か理由があるのだと感じていたから。
「それでは、殿下はセシリア様を愛していらっしゃるのですね?」
「……何故そう思う?」
殿下は不機嫌そうな顔をした。
「だって王宮の舞踏会ではどれだけ他の令嬢が自分をアピールしても全くなびかなかったじゃないですか。それに……」
「それに?」
「あんなに美しくて優しくて素敵なセシリア様を男性が嫌いになるはずありません!」
「……」
殿下は呆気にとられたような顔をした。
そして、しばらく黙り込んだ後に口を開いた。
「……そうかもしれないな」
顔を背けていたので表情は分からない。
しかし耳は真っ赤になっていた。
(……この人意外と分かりやすいな)
その日から私の殿下に対する嫌悪感は少しずつ無くなっていった。
殿下の計画にも協力したりもした。
セシリア様の幸せのために。
間違っても殿下のためではない。
***
そんなある日、私は男爵家でお父様に呼び出された。
(……突然どうしたんだろう?)
書斎へ向かうと、お父様とお母様が神妙な面持ちで椅子に座っていた。
「……マリア、王太子殿下と親しくしているというのは本当かい?」
「お父様……」
やはりお父様は知っていたのか。
私と殿下の関係は貴族の間ではかなり噂になっている。
バレるのも時間の問題だったのだろう。
「マリア、お前が王太子殿下を本気で想っているのであれば……殿下のためにも身を引きなさい。男爵令嬢のお前では王妃どころか側妃にすらもなれない身分。よくて愛妾だ」
お父様が苦い顔をして言った。
「そうよマリア。愛妾ほど不安定な立場はないわ。殿下の寵愛がなくなればすぐに王宮を追い出されてしまう。しかも王妃はあのフルール公爵家のご令嬢でしょう?公爵家を敵に回すことになるのよ」
お母様も続けてそう言った。
「マリア、私たちはお前に愛妾ではなくちゃんとした妻になってほしいのだ。結婚相手は別に平民でも構わない。だが、王太子殿下だけは……」
お父様がそう言いかけたところで、私は家族を心配させまいと口を開いた。
「お父様、お母様、私は大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。ですが殿下とはそういう関係ではありません」
私は二人を安心させるように言った。
「ではあれはただの噂なのかい?」
「……詳しくは言えませんが、私を信じてください」
私は何とか二人を納得させ、執務室を出た。
(お父様、お母様。心配かけてごめんなさい。でも私は大丈夫だから)
***
その後、セシリア様と殿下は結婚し、私は表向きは愛妾として王宮へ上がることになった。
両親には申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、これだけは譲れない。
王宮へ上がることとなる日、父と母は私を止めることは無かった。
どうか元気でと少し寂しそうな顔をして見送った。
しかし、もちろん殿下とはそんな関係ではない。
私が王宮へ上がったのは国王陛下の罪を調べるためなのだから。
彼が起こした罪の数々、彼の過去……。
少し調べてみると、それはもうたくさん出てきた。
王を断罪するには十分すぎるくらいだった。
しかし、決定的な証拠がなかったのだ。
これでは殿下の計画通り国王陛下を断罪出来ないではないか。
私と殿下、そして殿下の侍従であるマルクさんはそのことに頭を悩ませた。
事件が起こったのはそんなときだった。
誰かが私の命を狙って暗殺者を送り込んだのだ。
すぐに騎士が駆け付け、私は幸いにも無傷だった。
王宮ではセシリア様が殿下の寵愛を受ける愛妾に嫉妬して殺そうとしたのではないかという噂が流れていた。
しかし私にはとてもじゃないが、そうは見えなかった。
王宮に侵入してきた賊たちは、私の命を狙っているというわりには私を殺す気はないようだった。
騎士が到着した瞬間、すぐに踵を返して逃げようとしていたのだから。
(つまり、私に対する殺意は無かったと……?)
私はそれを見てただ単にセシリア様を犯人に仕立て上げたいだけのように感じた。
彼女の生家であるフルール公爵家を貶めたい者、王太子妃の座を狙っている者……。
色々な人物が思い当たったが、最も有力なのはあの人だ。
私はすぐに殿下に報告に行き、殿下はセシリア様を守るためにしばらくの間自室に軟禁させることを決めた。
……のに。
セシリア様は亡くなってしまった。
いや、自らバルコニーから身を投げたのだ。
悔しい。
悲しい。
私は間に合わなかったんだ。
こんなの私が殺したも同然ではないか。
あぁ……
私はなんてことをしてしまったの……!
ハッキリ言って私はこの男が嫌いだ。
あんなに美しいセシリア様を蔑ろにしているのだから。
王太子殿下が婚約者であるセシリア様を嫌っているのはオルレリアン王国の貴族たちの間では周知の事実だった。
このときの私は、既にセシリア様のことが大好きになっていた。
しかし、私はセシリア様の傍にいれるような身分の人間ではない。
だからこそ、傍にいれるのに蔑ろにしている殿下に嫌悪感を抱いた。
それから気が付けば何故か殿下と関わるようになっていった。
セシリア様に関する話が妙に合うというか。
(何で私がこの男と関わってんのよ……)
本来ならばこの人ではなくセシリア様との仲を深めたかったが、仕方が無い。
そんなこんなで私は今日も殿下と二人で話していた。
その際に少し気になったことを聞いてみた。
何故殿下はあんなに素敵なセシリア様に冷たく接するのかと。
すると殿下は、少し言いづらそうにした後にポツリポツリと語り始めた。
その内容は驚きのものだった。
なんと殿下の父君である国王陛下がセシリア様を自分のものにしようとしているのだと。
だから自分から引き離そうとしているらしい。
私はそれに対して妙に納得した。
あれだけ美しく優しいセシリア様を嫌いになるだなんてありえない。
殿下が冷遇するのもきっと何か理由があるのだと感じていたから。
「それでは、殿下はセシリア様を愛していらっしゃるのですね?」
「……何故そう思う?」
殿下は不機嫌そうな顔をした。
「だって王宮の舞踏会ではどれだけ他の令嬢が自分をアピールしても全くなびかなかったじゃないですか。それに……」
「それに?」
「あんなに美しくて優しくて素敵なセシリア様を男性が嫌いになるはずありません!」
「……」
殿下は呆気にとられたような顔をした。
そして、しばらく黙り込んだ後に口を開いた。
「……そうかもしれないな」
顔を背けていたので表情は分からない。
しかし耳は真っ赤になっていた。
(……この人意外と分かりやすいな)
その日から私の殿下に対する嫌悪感は少しずつ無くなっていった。
殿下の計画にも協力したりもした。
セシリア様の幸せのために。
間違っても殿下のためではない。
***
そんなある日、私は男爵家でお父様に呼び出された。
(……突然どうしたんだろう?)
書斎へ向かうと、お父様とお母様が神妙な面持ちで椅子に座っていた。
「……マリア、王太子殿下と親しくしているというのは本当かい?」
「お父様……」
やはりお父様は知っていたのか。
私と殿下の関係は貴族の間ではかなり噂になっている。
バレるのも時間の問題だったのだろう。
「マリア、お前が王太子殿下を本気で想っているのであれば……殿下のためにも身を引きなさい。男爵令嬢のお前では王妃どころか側妃にすらもなれない身分。よくて愛妾だ」
お父様が苦い顔をして言った。
「そうよマリア。愛妾ほど不安定な立場はないわ。殿下の寵愛がなくなればすぐに王宮を追い出されてしまう。しかも王妃はあのフルール公爵家のご令嬢でしょう?公爵家を敵に回すことになるのよ」
お母様も続けてそう言った。
「マリア、私たちはお前に愛妾ではなくちゃんとした妻になってほしいのだ。結婚相手は別に平民でも構わない。だが、王太子殿下だけは……」
お父様がそう言いかけたところで、私は家族を心配させまいと口を開いた。
「お父様、お母様、私は大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。ですが殿下とはそういう関係ではありません」
私は二人を安心させるように言った。
「ではあれはただの噂なのかい?」
「……詳しくは言えませんが、私を信じてください」
私は何とか二人を納得させ、執務室を出た。
(お父様、お母様。心配かけてごめんなさい。でも私は大丈夫だから)
***
その後、セシリア様と殿下は結婚し、私は表向きは愛妾として王宮へ上がることになった。
両親には申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、これだけは譲れない。
王宮へ上がることとなる日、父と母は私を止めることは無かった。
どうか元気でと少し寂しそうな顔をして見送った。
しかし、もちろん殿下とはそんな関係ではない。
私が王宮へ上がったのは国王陛下の罪を調べるためなのだから。
彼が起こした罪の数々、彼の過去……。
少し調べてみると、それはもうたくさん出てきた。
王を断罪するには十分すぎるくらいだった。
しかし、決定的な証拠がなかったのだ。
これでは殿下の計画通り国王陛下を断罪出来ないではないか。
私と殿下、そして殿下の侍従であるマルクさんはそのことに頭を悩ませた。
事件が起こったのはそんなときだった。
誰かが私の命を狙って暗殺者を送り込んだのだ。
すぐに騎士が駆け付け、私は幸いにも無傷だった。
王宮ではセシリア様が殿下の寵愛を受ける愛妾に嫉妬して殺そうとしたのではないかという噂が流れていた。
しかし私にはとてもじゃないが、そうは見えなかった。
王宮に侵入してきた賊たちは、私の命を狙っているというわりには私を殺す気はないようだった。
騎士が到着した瞬間、すぐに踵を返して逃げようとしていたのだから。
(つまり、私に対する殺意は無かったと……?)
私はそれを見てただ単にセシリア様を犯人に仕立て上げたいだけのように感じた。
彼女の生家であるフルール公爵家を貶めたい者、王太子妃の座を狙っている者……。
色々な人物が思い当たったが、最も有力なのはあの人だ。
私はすぐに殿下に報告に行き、殿下はセシリア様を守るためにしばらくの間自室に軟禁させることを決めた。
……のに。
セシリア様は亡くなってしまった。
いや、自らバルコニーから身を投げたのだ。
悔しい。
悲しい。
私は間に合わなかったんだ。
こんなの私が殺したも同然ではないか。
あぁ……
私はなんてことをしてしまったの……!
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
【完結】白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。