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一章
閑話 公爵令嬢が死んだ後⑥
「――お前、これからどうするつもりだ?」
先に口を開いたのはグレイフォードだった。
「私は……修道院へ入ろうかと思っています。両親に迷惑はかけられませんから」
マリアは既に自分の進む道を決めているようだ。
路頭に迷っているのはグレイフォードだけだった。
彼女は守ってあげたくなるような愛らしい見た目に反して、意外にも芯の強い女性なのである。
「そうか……」
彼はマリアに対する罪悪感で胸がいっぱいだった。
実際に、今オルレリアン王国での彼らの評判は最悪だったからだ。
グレイフォードはセシリアを蔑ろにし、愛妾にかまけて正妻を自殺に追い込んだ男。
マリアは王太子を誘惑した稀代の悪女。
お互いに、普通の道は歩めそうに無かった。
「……すまないな。俺のせいでこんなことになってしまって」
グレイフォードはマリアに対して心からの謝罪をした。
もう自分の力ではどうにもならないが、彼女にこれだけは言っておきたかった。
「いいえ、殿下に協力すると決めたのは私です。それにセシリア様が命を絶ってしまわれたのは私のせいでもありますし……」
話の途中でマリアは目を潤ませた。
彼女の憧れであり、大好きだった人はもういないのだ。
セシリアの眠る墓に来ると、そのことが嫌でも伝わってくる。
「……本当にありがとう。これまで俺の我儘に付き合ってくれて」
グレイフォードはマリアに感謝の意を伝えた。
これは紛れも無い彼の本心だった。
「別に殿下のためじゃありません。セシリア様のためです」
それに対して、マリアは冷たい声でそう答えた。
「……そうか」
二人の間を、またしても沈黙が流れる。
お互いに言葉が出てこない。
二人ともこんなのは初めてだった。
しばらくして、彼が口を開いた。
「……お前の生家である男爵家には害が及ばないように尽力しよう。せめてもの償いだ」
グレイフォードはマリアがどれだけ家族を大事にしているかを知っていた。
両親の愛を受け取らずに育った彼にとって、彼女の気持ちは到底理解出来るものでは無かったが。
「……!ありがとうございます……」
マリアは一瞬だけ目を見開いた後、嬉しそうな顔で礼を言った。
周囲は彼らのことを「真実で愛で結ばれた二人」だと言っていたが、実際には二人は恋人同士という関係ではなかった。
マリアからしたらグレイフォードは「ライバル」だったし、グレイフォードからすればマリアは「協力者」だった。
セシリアが亡くなったとき、彼らは誰よりもその死を悲しんだ。
その点で言えば、二人は「同士」だった。
「殿下、今までありがとうございました。どうかお元気で」
「あぁ、お前もな」
最後の最後、二人は握手を交わした。
そしてそれを機に、お互い二度と会うことは無かった。
***
王太子の正妃であったフルール公爵令嬢が自ら命を絶ったその日から一ヶ月が経った。
正妃を自殺に追い込んだ王太子は廃嫡になり、公爵位を賜って臣下に下った。
人々はそれを当然の報いだと言った。
新しい王太子になったのは王弟殿下の長男だった。
そして、悪女だと噂された王太子の愛妾は実家である男爵家とは縁を切って自ら修道院へ入った。
その後彼女がどうなったかは誰も知らない。
王太子は公爵となったが、誰とも結婚することは無かった。
また、社交界へ姿を現すことは一度も無かったという。
――――――――――――――――――――――――――――――
これで一章終わりとなります!
次回から物語は二章に入っていきます。
二章もよろしくお願いします!
先に口を開いたのはグレイフォードだった。
「私は……修道院へ入ろうかと思っています。両親に迷惑はかけられませんから」
マリアは既に自分の進む道を決めているようだ。
路頭に迷っているのはグレイフォードだけだった。
彼女は守ってあげたくなるような愛らしい見た目に反して、意外にも芯の強い女性なのである。
「そうか……」
彼はマリアに対する罪悪感で胸がいっぱいだった。
実際に、今オルレリアン王国での彼らの評判は最悪だったからだ。
グレイフォードはセシリアを蔑ろにし、愛妾にかまけて正妻を自殺に追い込んだ男。
マリアは王太子を誘惑した稀代の悪女。
お互いに、普通の道は歩めそうに無かった。
「……すまないな。俺のせいでこんなことになってしまって」
グレイフォードはマリアに対して心からの謝罪をした。
もう自分の力ではどうにもならないが、彼女にこれだけは言っておきたかった。
「いいえ、殿下に協力すると決めたのは私です。それにセシリア様が命を絶ってしまわれたのは私のせいでもありますし……」
話の途中でマリアは目を潤ませた。
彼女の憧れであり、大好きだった人はもういないのだ。
セシリアの眠る墓に来ると、そのことが嫌でも伝わってくる。
「……本当にありがとう。これまで俺の我儘に付き合ってくれて」
グレイフォードはマリアに感謝の意を伝えた。
これは紛れも無い彼の本心だった。
「別に殿下のためじゃありません。セシリア様のためです」
それに対して、マリアは冷たい声でそう答えた。
「……そうか」
二人の間を、またしても沈黙が流れる。
お互いに言葉が出てこない。
二人ともこんなのは初めてだった。
しばらくして、彼が口を開いた。
「……お前の生家である男爵家には害が及ばないように尽力しよう。せめてもの償いだ」
グレイフォードはマリアがどれだけ家族を大事にしているかを知っていた。
両親の愛を受け取らずに育った彼にとって、彼女の気持ちは到底理解出来るものでは無かったが。
「……!ありがとうございます……」
マリアは一瞬だけ目を見開いた後、嬉しそうな顔で礼を言った。
周囲は彼らのことを「真実で愛で結ばれた二人」だと言っていたが、実際には二人は恋人同士という関係ではなかった。
マリアからしたらグレイフォードは「ライバル」だったし、グレイフォードからすればマリアは「協力者」だった。
セシリアが亡くなったとき、彼らは誰よりもその死を悲しんだ。
その点で言えば、二人は「同士」だった。
「殿下、今までありがとうございました。どうかお元気で」
「あぁ、お前もな」
最後の最後、二人は握手を交わした。
そしてそれを機に、お互い二度と会うことは無かった。
***
王太子の正妃であったフルール公爵令嬢が自ら命を絶ったその日から一ヶ月が経った。
正妃を自殺に追い込んだ王太子は廃嫡になり、公爵位を賜って臣下に下った。
人々はそれを当然の報いだと言った。
新しい王太子になったのは王弟殿下の長男だった。
そして、悪女だと噂された王太子の愛妾は実家である男爵家とは縁を切って自ら修道院へ入った。
その後彼女がどうなったかは誰も知らない。
王太子は公爵となったが、誰とも結婚することは無かった。
また、社交界へ姿を現すことは一度も無かったという。
――――――――――――――――――――――――――――――
これで一章終わりとなります!
次回から物語は二章に入っていきます。
二章もよろしくお願いします!
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