愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの

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二章

もう一度だけ

「殿下……」
「……」


私はこの日、殿下と初めての口付けを交わした。


(ドキドキする……)


心臓がうるさいほどに音を立てている。
体に火が付いたかのように全身が熱くなっている。


(こんなの初めて……)


前世では殿下以外の男性と関わったことなど無く、今世でもまた男性との交際経験など無かった。
つまり、私の男性経験はゼロである。


(今は十四歳だけれど……前世を合わせたらとっくに成人してるものね……)


まごうことなき、私のファーストキスだった。
彼の唇は柔らかくて、でも何故か温かくて。
深く口付けられたわけでもないのに、心臓の鼓動は未だに鳴り止まなかった。


(軽いキスくらいでこんな……恥ずかしいわ)


しばらくして、唇をそっと離した殿下と目が合った。


「……」
「……」


今、きっと私は酷い顔をしているだろう。
顔中真っ赤っ赤で、林檎のようになっているはずだ。
そんな自分自身が情けなくて、私はこちらをじっと見つめる殿下から顔を背けた。


今はとてもじゃないが、彼の顔を直視することが出来なかった。
普段は冷たいその瞳が、今ちょうど私に向けられているときだけは異様なほどに優しくて。


(殿下への恋は諦めたつもりだったけれど……)


今の真摯な彼の姿を見ていると、もう少しだけ殿下と一緒にいても良いのかなと思う。
何より、私を見つめる彼の瞳には間違いなく愛情が込められているから。
陛下が私を見ているときのような下心ではなく、純粋な愛。
それだけで、本当に嬉しかった。


考えれば考えるほど顔が火照っていく私の頬に、殿下がそっと手を添えた。


「……!」
「セシリア」


そして、ゆっくりと自分の方へと向けさせた。
再び彼の黒い瞳と目が合った。


「殿下……」
「顔を見せろ」


殿下はもう片方の手も私の頬に添え、両手で私の顔を包み込むような形になった。
彼の手に触れられるだけで胸が高鳴る。
私の顔をまじまじと見つめた殿下は、独り言のようにボソッと呟いた。


「……綺麗だな」
「え?」


彼と至近距離で目を合わせていた私は、ハッキリとその言葉を聞き取ることが出来た。


(綺麗……?)


「私が、ですか?」
「お前以外に誰がいるんだ」


殿下は少し照れ臭そうにしながらも、さも当然とでもいうかのようにそう口にした。


(殿下が……私のことを綺麗って言った……)


そんなことを言われたのは別に初めてではない。
しかし、殿下からハッキリとそう言われるのは前世を含めても初めてなので少し驚いた。


(……この人、こんな人だったっけ?)


目の前にいる殿下はムスッとしながら、恥ずかしそうに口元を押さえている。
二度も言わせたのが気に食わなかったのだろうか。


「……ふふ」


何だか殿下に対する愛おしさがこみ上げてくる。
彼がこんなにも可愛らしい人だったとは。


「何で笑ってるんだ」
「もう、殿下は本当に可愛いですね!」
「ま、また可愛いって言ったな!?」


そういえば前にも似たことを言ったような気がする。


「可愛いものは可愛いんですよ、殿下!」
「嬉しくない!」


前世で、私が最後に見た彼の姿は十九歳の頃だった。
身長も平均をゆうに超えて、声変わりをし、大人びた顔立ちになった時期である。


しかし、今は違う。
今の殿下はまだ十四歳の子供なのだ。
これを可愛いと言わずして何と言うのだろうか。


「……ふっ……ふふふっ……」
「おい、笑うなよ」


ぶすっとした殿下と、笑いが止まらない私。
それから私たちは、二人きりの部屋で久しぶりの会話に花を咲かせた。

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