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二章
疑問
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「殿下、大丈夫ですか?」
「ああ、そうだな……」
追い出された後、私たちは二人で来た道を戻っていた。
今はこれ以上何を言ったところで陛下には聞いてもらえそうになかったから。
(殿下……何だか悲しそうね……)
殿下は王妃陛下にきっぱり断られて少しだけ落ち込んでいるようだった。
隣を歩いている彼の横顔が少しだけ寂しそうに見えた。
(……ううん、それだけじゃない)
そして私は、彼の表情から見て取れるもう一つのことに気が付いた。
(……似てるわ、前世の私に)
そう、今の殿下は前世の私によく似ていた。
誰からも愛されず、毎日のように悲しみに暮れていた私。
彼にはあの日の私の面影が少しだけあった。
もしかしたら殿下は自分は両親から愛されていない、という風に感じているのかもしれない。
彼の切ない表情に胸がギュッと締め付けられる。
「殿下……」
「何だ?」
「あ……」
私の声に、殿下がこちらを向いた。
いつものように笑みを浮かべてはいたが、少しだけ悲しそうだった。
「あ……えっと……その……」
「……?」
殿下は私が話すのを待っているようだ。
(何か……何か言わないと……!)
「えっと、王妃陛下は普段どのような方なのですか?」
「……?母上か……?」
「あ、はい……」
かろうじて口から出た言葉はそれだった。
「そうだな……本当に厳しい方だ。褒められた記憶はほとんど無いな」
「そ、そうですか……」
殿下の声がほんの少しだけ低くなった。
気のせいか、表情も先ほどより暗いものになっている。
(ど、どうしよう……失敗した……!)
愚かにも、自分が失言をしてしまったということに今になって気が付いた。
落ち込んでいる殿下を慰めたかったが、掛ける言葉が見つからなかった。
そんな私の気持ちなど気にせず、彼はいつものような優しい笑みで言った。
「セシリア、馬車まで送っていこう」
「あ、ありがとうございます……」
私は殿下の腕にそっと手を回し、彼とくっついて馬車までの道を歩いた。
***
殿下と別れて公爵邸に戻った私は、自室にあるベッドに顔を伏せた状態で横になっていた。
(殿下を傷付けちゃった……)
こんなにも落ち込むのは久しぶりかもしれない。
愛する人を傷付けるというのはこれほどまでに辛いことなのか。
彼は優しい人だから尚更だった。
そしてそんな自分に嫌気が差すと同時に、ある一つのことが引っ掛かった。
(王妃陛下はどうして……殿下のことを……)
殿下は誰から見ても優秀な人だった。
美しい容姿に優れた頭脳。
剣術にも長けていると聞く。
陛下は一体そんな彼の何が気に入らないのだろうか。
(自分を蔑ろにした男との子供だから?)
だとしても理解することは出来なかった。
たとえ好きではない相手との子供でも可愛いものではないのだろうか。
そのことについて深く考え込んでいると、ふと昔の記憶が蘇ってきた。
『王妃陛下が王子殿下をとても可愛がられていらっしゃるそうです』
『まぁ、それは微笑ましい話ですわね』
『普段は冷たいお方ですのに……自分の子供はやはり可愛いのかしら』
「……」
前世で私がまだ幼かった頃に聞いた話だった。
エリザベス王妃陛下が殿下を溺愛していると。
まだ殿下に一度も会ったことが無い頃、私の婚約者はどんな人なんだろうと思って貴婦人たちの会話を盗み聞きしたときのことだった。
(……王妃陛下は殿下を愛していないわけではないのかしら?)
貴族たちの噂話ほど信用出来ないものはない。
そのことはよく分かっている。
しかし、このときの私にはどうもその会話たちが引っ掛かった。
「ああ、そうだな……」
追い出された後、私たちは二人で来た道を戻っていた。
今はこれ以上何を言ったところで陛下には聞いてもらえそうになかったから。
(殿下……何だか悲しそうね……)
殿下は王妃陛下にきっぱり断られて少しだけ落ち込んでいるようだった。
隣を歩いている彼の横顔が少しだけ寂しそうに見えた。
(……ううん、それだけじゃない)
そして私は、彼の表情から見て取れるもう一つのことに気が付いた。
(……似てるわ、前世の私に)
そう、今の殿下は前世の私によく似ていた。
誰からも愛されず、毎日のように悲しみに暮れていた私。
彼にはあの日の私の面影が少しだけあった。
もしかしたら殿下は自分は両親から愛されていない、という風に感じているのかもしれない。
彼の切ない表情に胸がギュッと締め付けられる。
「殿下……」
「何だ?」
「あ……」
私の声に、殿下がこちらを向いた。
いつものように笑みを浮かべてはいたが、少しだけ悲しそうだった。
「あ……えっと……その……」
「……?」
殿下は私が話すのを待っているようだ。
(何か……何か言わないと……!)
「えっと、王妃陛下は普段どのような方なのですか?」
「……?母上か……?」
「あ、はい……」
かろうじて口から出た言葉はそれだった。
「そうだな……本当に厳しい方だ。褒められた記憶はほとんど無いな」
「そ、そうですか……」
殿下の声がほんの少しだけ低くなった。
気のせいか、表情も先ほどより暗いものになっている。
(ど、どうしよう……失敗した……!)
愚かにも、自分が失言をしてしまったということに今になって気が付いた。
落ち込んでいる殿下を慰めたかったが、掛ける言葉が見つからなかった。
そんな私の気持ちなど気にせず、彼はいつものような優しい笑みで言った。
「セシリア、馬車まで送っていこう」
「あ、ありがとうございます……」
私は殿下の腕にそっと手を回し、彼とくっついて馬車までの道を歩いた。
***
殿下と別れて公爵邸に戻った私は、自室にあるベッドに顔を伏せた状態で横になっていた。
(殿下を傷付けちゃった……)
こんなにも落ち込むのは久しぶりかもしれない。
愛する人を傷付けるというのはこれほどまでに辛いことなのか。
彼は優しい人だから尚更だった。
そしてそんな自分に嫌気が差すと同時に、ある一つのことが引っ掛かった。
(王妃陛下はどうして……殿下のことを……)
殿下は誰から見ても優秀な人だった。
美しい容姿に優れた頭脳。
剣術にも長けていると聞く。
陛下は一体そんな彼の何が気に入らないのだろうか。
(自分を蔑ろにした男との子供だから?)
だとしても理解することは出来なかった。
たとえ好きではない相手との子供でも可愛いものではないのだろうか。
そのことについて深く考え込んでいると、ふと昔の記憶が蘇ってきた。
『王妃陛下が王子殿下をとても可愛がられていらっしゃるそうです』
『まぁ、それは微笑ましい話ですわね』
『普段は冷たいお方ですのに……自分の子供はやはり可愛いのかしら』
「……」
前世で私がまだ幼かった頃に聞いた話だった。
エリザベス王妃陛下が殿下を溺愛していると。
まだ殿下に一度も会ったことが無い頃、私の婚約者はどんな人なんだろうと思って貴婦人たちの会話を盗み聞きしたときのことだった。
(……王妃陛下は殿下を愛していないわけではないのかしら?)
貴族たちの噂話ほど信用出来ないものはない。
そのことはよく分かっている。
しかし、このときの私にはどうもその会話たちが引っ掛かった。
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