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三章
劇薬
「お父様!!!」
公爵邸へ到着した私たちは、すぐに父の自室へと向かった。
部屋の中にはダリウス様が深刻な顔で立っていた。
「来たか」
「ダリウス、公爵の容体はどうだ」
ベッドの傍に近寄ると、苦しそうな顔をしているお父様の姿が目に入った。
(行く前はここまででは無かったのに……)
一体どうして急に。
「この男の体は元々生きているのが不思議なくらいボロボロだ。おそらく限界を迎えたんだろう」
「……」
お父様の体は魔術師のダリウス様でも修復不可能なくらい壊れていた。
だけど、王国でたった一人しかいない聖女の私ならどうにかなるかもしれない。
「ダリウス様、私にお父様を治療させてください」
「……何だって?」
「――私、聖女の力を開花させたんです」
「……それは、本当か……?」
私は能力を証明するため、お父様に力を使ってみる。
手に力を込めると先ほどと同じように白い光が出現したが、光はあっさりと弾き返されてしまった。
「ッ!」
「セシリア!」
殿下がよろめいた私を支えた。
その光景を見たダリウス様が冷静に呟いた。
「この男にかけられた魔法が聖女の術を弾き返したんだろうな。どうやら相当強力な呪いをかけられたみたいだな」
「魔法……お父様にかけられた魔術が私の聖女の力を上回っていたから弾かれた……ということでしょうか」
「その通りだ」
聖女の力を使えば治せると思ったが、どうやらそう簡単にはいかないようだ。
(これ以上強い力を出すなんて……)
先ほど能力を開花させたばかりな上に、既に大勢を治療した後だった。
正直に言うと、これ以上の力は限界である。
困り果てた私を見て、ダリウス様が不思議そうに尋ねた。
「お嬢さん、そこまでして父親を治したいのか?」
「もちろんです、だからこうして魔術師であるダリウス様にお願いしているのではありませんか」
「そうか……だが、公爵は娘である君を長年冷遇していたと聞くが。それでも父親のことが好きなのか?」
「……」
彼は到底理解出来ないというような顔をしている。
たしかに、彼の考えも分からなくはない。
お父様は私にとって決して良い父親では無かったから。
しかし、血の繋がった父親が死ぬというのに、放っておくことなんて出来るわけがない。
「私は、私が愛されなかったのには何か隠された理由があると思っています」
「……」
「――それを知りたいから、このままお父様を死なせるわけにはいかないんです」
「お嬢さん……」
ダリウス様はしばらく私をじっと見つめていたが、突然あることを提案した。
「一つ俺に考えがあるんだが」
「……何でしょうか?」
「――令嬢の今の状態で強大な力を出す方法は一つだけある」
「!?」
驚いた私は彼の方を見た。
殿下は訝し気に眉をひそめていたが、私にとっては朗報だ。
「早く教えてください、ダリウス様!」
私のその言葉を聞いた彼は、ローブの中から紫色の液体の入った小瓶を取り出した。
「……それは、一体……」
「ダリウス!!!何馬鹿なことを言っているんだ!!!」
小瓶を見た殿下が激しい怒りを露わにした。
しかし、ダリウス様はそんなもの気にも留めず話し始めた。
「これは自分の持っている力を最大限に出せる劇薬だ」
「持っている力を最大限に出せる……」
「だが、当然リスクはある」
ダリウス様の目が鋭くなった。
「――一度だけ強大な力を使える代わりに、寿命十年分を失う」
「十年の寿命……」
「それに加え、これを飲んで正気を保っていられる人間は全体の一割だ」
「それは一体……」
「十年の寿命を失ってしまうほどの劇薬を飲んで耐えられる人間は少ない。死ぬか、生きていても壊れてしまうか……」
「そんな……」
黙って聞いていた殿下が声を上げた。
「セシリア!!!そんなものを飲む必要は無い!!!他に治す方法は俺が探すから……」
そう言いかけたとき、ダリウス様が理性を失った殿下の肩に手を置いて制止した。
「まあ落ち着きなよ。飲むかどうか決めるのは令嬢だ。父親を助けたいのならこれしか方法は無い」
ダリウス様は私の手に小瓶を握らせた。
彼ら二人の視線が私に集中する。
私を試すようなダリウス様の目と、泣きそうになっている殿下。
どうするのが正解なのか、とても悩んだ。
この劇薬は九割の人を実質的な死に至らしめるほどの薬だ。
私が耐えられるとは思えない。
それに聖女の力を最大限に使ったところで、お父様が助かるという確信も無い。
お父様は私にとって良い父親では無かった。
そんな人のために、命を懸けるべきなのか。
もし失敗すれば、私もお父様も両方死ぬこととなる。
私が死んだ後の殿下や友人、使用人たちの姿は想像したくなかった。
(だけど……それでも……)
――私は、私の運命が捻じ曲がった理由を知りたい。
「ごめんなさい、殿下!」
そう決意した瞬間、私は瓶の蓋を開け、中身を一気に呷った。
驚いて目を丸くするダリウス様と、必死の形相でこちらに手を伸ばす殿下の姿を最後に、私の視界は闇に包まれた。
公爵邸へ到着した私たちは、すぐに父の自室へと向かった。
部屋の中にはダリウス様が深刻な顔で立っていた。
「来たか」
「ダリウス、公爵の容体はどうだ」
ベッドの傍に近寄ると、苦しそうな顔をしているお父様の姿が目に入った。
(行く前はここまででは無かったのに……)
一体どうして急に。
「この男の体は元々生きているのが不思議なくらいボロボロだ。おそらく限界を迎えたんだろう」
「……」
お父様の体は魔術師のダリウス様でも修復不可能なくらい壊れていた。
だけど、王国でたった一人しかいない聖女の私ならどうにかなるかもしれない。
「ダリウス様、私にお父様を治療させてください」
「……何だって?」
「――私、聖女の力を開花させたんです」
「……それは、本当か……?」
私は能力を証明するため、お父様に力を使ってみる。
手に力を込めると先ほどと同じように白い光が出現したが、光はあっさりと弾き返されてしまった。
「ッ!」
「セシリア!」
殿下がよろめいた私を支えた。
その光景を見たダリウス様が冷静に呟いた。
「この男にかけられた魔法が聖女の術を弾き返したんだろうな。どうやら相当強力な呪いをかけられたみたいだな」
「魔法……お父様にかけられた魔術が私の聖女の力を上回っていたから弾かれた……ということでしょうか」
「その通りだ」
聖女の力を使えば治せると思ったが、どうやらそう簡単にはいかないようだ。
(これ以上強い力を出すなんて……)
先ほど能力を開花させたばかりな上に、既に大勢を治療した後だった。
正直に言うと、これ以上の力は限界である。
困り果てた私を見て、ダリウス様が不思議そうに尋ねた。
「お嬢さん、そこまでして父親を治したいのか?」
「もちろんです、だからこうして魔術師であるダリウス様にお願いしているのではありませんか」
「そうか……だが、公爵は娘である君を長年冷遇していたと聞くが。それでも父親のことが好きなのか?」
「……」
彼は到底理解出来ないというような顔をしている。
たしかに、彼の考えも分からなくはない。
お父様は私にとって決して良い父親では無かったから。
しかし、血の繋がった父親が死ぬというのに、放っておくことなんて出来るわけがない。
「私は、私が愛されなかったのには何か隠された理由があると思っています」
「……」
「――それを知りたいから、このままお父様を死なせるわけにはいかないんです」
「お嬢さん……」
ダリウス様はしばらく私をじっと見つめていたが、突然あることを提案した。
「一つ俺に考えがあるんだが」
「……何でしょうか?」
「――令嬢の今の状態で強大な力を出す方法は一つだけある」
「!?」
驚いた私は彼の方を見た。
殿下は訝し気に眉をひそめていたが、私にとっては朗報だ。
「早く教えてください、ダリウス様!」
私のその言葉を聞いた彼は、ローブの中から紫色の液体の入った小瓶を取り出した。
「……それは、一体……」
「ダリウス!!!何馬鹿なことを言っているんだ!!!」
小瓶を見た殿下が激しい怒りを露わにした。
しかし、ダリウス様はそんなもの気にも留めず話し始めた。
「これは自分の持っている力を最大限に出せる劇薬だ」
「持っている力を最大限に出せる……」
「だが、当然リスクはある」
ダリウス様の目が鋭くなった。
「――一度だけ強大な力を使える代わりに、寿命十年分を失う」
「十年の寿命……」
「それに加え、これを飲んで正気を保っていられる人間は全体の一割だ」
「それは一体……」
「十年の寿命を失ってしまうほどの劇薬を飲んで耐えられる人間は少ない。死ぬか、生きていても壊れてしまうか……」
「そんな……」
黙って聞いていた殿下が声を上げた。
「セシリア!!!そんなものを飲む必要は無い!!!他に治す方法は俺が探すから……」
そう言いかけたとき、ダリウス様が理性を失った殿下の肩に手を置いて制止した。
「まあ落ち着きなよ。飲むかどうか決めるのは令嬢だ。父親を助けたいのならこれしか方法は無い」
ダリウス様は私の手に小瓶を握らせた。
彼ら二人の視線が私に集中する。
私を試すようなダリウス様の目と、泣きそうになっている殿下。
どうするのが正解なのか、とても悩んだ。
この劇薬は九割の人を実質的な死に至らしめるほどの薬だ。
私が耐えられるとは思えない。
それに聖女の力を最大限に使ったところで、お父様が助かるという確信も無い。
お父様は私にとって良い父親では無かった。
そんな人のために、命を懸けるべきなのか。
もし失敗すれば、私もお父様も両方死ぬこととなる。
私が死んだ後の殿下や友人、使用人たちの姿は想像したくなかった。
(だけど……それでも……)
――私は、私の運命が捻じ曲がった理由を知りたい。
「ごめんなさい、殿下!」
そう決意した瞬間、私は瓶の蓋を開け、中身を一気に呷った。
驚いて目を丸くするダリウス様と、必死の形相でこちらに手を伸ばす殿下の姿を最後に、私の視界は闇に包まれた。
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