愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの

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三章

父の治療

「くっ……!!!」


真っ暗になったかと思うと、突如激しい頭痛が私を襲った。
立つこともままならないほどの強烈な痛みに、私は思わず膝を着いた。


「セシリア!!!」
「これはまずいかもな……」


殿下が慌てて駆け寄ろうとするが、周辺に結界が張られて近寄れない。
その間にも痛みは増していく一方で、何度も意識が飛びかけた。


(何これ……魂を乗っ取られているみたいだわ……)


内側から猛烈に襲ってくる痛みは、次第に全身へと広がっていく。
頭のてっぺんから足の先まで同じ痛みに蝕まれたとき、私は堪えきれずに大声を上げた。


「ああああああああああああああ!」


全身の震えが止まらない。
今にも死んでしまうのではないかと思うほどの苦痛に何度も耐える。


頭の中がグルグルと周り、吐き気を催した。
そしてついには幻覚まで見るようになった。


(あれ……これは一体……)


真っ暗な世界の中に、一箇所だけ眩しいくらいに光り輝いている場所が見えた。
痛みに耐えながらも手を伸ばしてゆっくりと近付くと、見知った顔の人がそこに立っていた。


(この人は……)


青空の下の花畑で仲睦まじくしていたのは私の両親だった。
生まれて初めて見る美しいお母様。
そしてそんな母を優しい瞳で見つめるお父様。


二人はとてもお似合いで、入り込む隙なんて無いほどの完璧な夫婦だった。


(私が生まれる前かな……)


お互いを見て笑い合う父と母。
そこに私はいない。


母は出産と同時に亡くなった。
父は私に笑顔を向けてくれたことなんて一度たりとも無い。


それなのに、あの二人はあんなにも仲が良さそうだ。


(私だって家族なのに……)


次第にドス黒い感情が私を蝕んでいく。


「――セシリア」
「……?」


朗らかな声に顔を上げると、父と母が優しく微笑みながらこちらに手を差し伸べていた。


「……お母様?」
「何をしているの、早くこっちに来なさい。お母様と一緒にお茶をしましょう」


今度は隣にいる父の方を見た。


「お父様?」
「セシリア、三人で出掛けよう。お前の欲しいものは何でも買ってやる」


初めて受ける親からの愛。
何故だか胸がドキドキした。


そんなものとっくの昔に諦めていたはずだ。


(ああ……私はずっとこんな風にしてほしかったのかしら……)


優しい笑みを携えた二人に吸い込まれそうになる。
そして私は、二人の手を――


――パシッ


二人の手を取る直前でその手を払い除けた。


「ごめんなさい、お父様。お母様。お誘いはとても嬉しいけれど、今私が取りたいのはこの手ではないの」


それだけ言うと、私は悲し気な表情を浮かべる父と母から背を向けて、暗闇の方へと走っていった。
その瞬間、妄想の中の二人は真っ黒になって消え、私は意識を取り戻した。


「ハッ……!」


どうやら現実世界に戻ってきたようだ。
劇薬を飲んだ影響で頭がクラクラするが、どうやら私は無事に耐えられたようだ。


「お父様……!」


私は立ち上がり、横になっている父の方へと向かった。


「大したもんだな、お嬢さん。あの劇薬に耐えきった貴族令嬢はアンタが初めてだ」
「セシリア……無事で良かった……」


今回も殿下にはたくさん心配をかけてしまったようだ。
これ以上彼を不安にさせないために、絶対に倒れたりしてはならない。


全身が悲鳴を上げている今の状態で、その決意だけが私を突き動かした。


「お父様……」


ようやくベッドサイドまで辿り着くと、私は目を閉じて苦しそうにうめき声を上げる父をじっと見下ろした。


(たった一人の娘にここまでさせたんだから……必ず、真実を話してもらいますからね……)


心の中でそう呟くと、私は手をかざして力を使った。
今までとは比較にならないくらいの巨大な光がお父様の体を覆った。


光はみるみるうちに大きくなり、部屋全体を包み込む。


「眩しい!何だこれは!」
「これが聖女の本気の力なのか……」


ダリウス様や殿下でさえも驚きを隠せない。
当然だ、私は数百年ぶりに現れたこの国にたった一人しかいない聖女だったから。


(お願いします、どうかお父様の体を治してください……!)


心の中で何度も何度もそう願った。
そんな切実な願いが届いたのか、光の中から薄っすらと見える父の表情が少しずつ穏やかなものへと変化していった。


(もう少し……!もう少し……!)


震える手に必死で力を込めて聖女の力を思う存分解放していく。


「ううっ……ハァ……」


それからしばらくして光が消え、金色の粒子が部屋中に降り注いだ。


「綺麗……」


ポツリとそう呟いた途端、限界を迎えたのか身体からすっと力が抜けていく。


「セシリア!」
「お嬢さん、大丈夫か!」


殿下に抱きかかえられた私は、彼を安心させるために口元に笑みを浮かべてみせた。
彼の目に滲んでいた涙が、頬を伝う。


「殿下……我儘言ってごめんなさい」
「いいんだ、お前さえ無事ならそれでいい」


殿下は私の額にそっとキスをした。
その光景を横で見つめていたダリウス様が驚いたように言った。


「グレイが泣くなんて……お前随分と変わったな……」
「そうか?」
「貴族たちが今のお前を見たら驚いて卒倒するぞ」
「何だそれは。どういう意味なんだ」
「そのままの意味さ」
「何を……」


幼馴染の二人の言い争いが始まりそうになったそのとき、随分と長い間聞いていなかった声が耳に入った。


「――あれ……ここは……」


「「「!!!」」」


私たち三人の動きが一斉に止まった。
慌てて声のした方に目をやると――


「お父様……」
「私は一体……」


――父が目覚めていた。




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