愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの

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三章

未来へ

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「殿下!」
「セシリア、今はダメだ。血がお前に付く……」
「そんなの気になりません!」


ダリウス様の治療を終えた後、私は返り血で真っ赤に染まった殿下にギュッと抱き着いた。
血でドレスが汚れてしまうことなど気にもならなかった。
戦いが終わり、彼が無事であるということにとても安心した。


「殿下……本当に良かったです……」
「セシリア……安心しろ、もうあの男はいないから……」


いつものように彼が優しく微笑む。
しかし、その笑顔には普段と違ってどこか疲労感が見える。


(殿下……)


その理由は私もよく知っている。
ただただ殿下を抱き締めることしか出来ない。


「殿下、私はここにいますから」
「セシリア……すまない……」


――血の繋がった実の父親の両腕を、その手で切り落とした。
優しい殿下のことだから、きっとそのことを気にしているのだろう。


彼は子供のように私の肩に顔を埋めた。
そんな彼の頭を優しく撫でた。


「殿下……私が反逆前に言ったことを覚えていますか?」
「……」


その声で、彼は顔を上げて私の目をじっと見つめた。


「――たとえ国中の人間が殿下を親殺しと罵ろうとも、私だけはずっと貴方の味方でい続けると……そう言ったことを覚えていますか?」
「……ああ」
「あの約束は絶対に守りますから、そんなに不安にならないでください」
「セシリア……」


私のその言葉に、彼の口角が少しだけ上がった。
ほんの少しでも慰めになったのならそれでいい。


「俺は……他に何もいらない。お前さえいればそれでいいんだ」
「殿下……」
「お前さえ、傍にいてくれれば……」


ただ傍にいてくれればいいだなんて、生まれて初めて言われた。
真剣な彼の表情に、胸の奥が温かくなる。


「――愛してる、セシリア」


両手で私の頬を包んだ彼は、唇にそっとキスをした。
もう何回目か分からない、口付け。
前世なら絶対にありえないことだった。


「私も愛しています、殿下。貴方だけを、前世からずっと」


彼がゆっくりと唇を離すとほぼ同時に、今度は私からキスをした。
私からキスをするのはなかなかに珍しいことだからか、彼が目を丸くした。
固まって顔を赤くする殿下。
その姿がとても愛おしい。


「可愛いですね、殿下」
「……前も言ったが、男にとってそれは褒め言葉ではないぞ」
「うふふ、やっといつもの殿下になりましたね」


ようやくいつも通り、私が心から愛する彼になった。
もちろん、殿下の弱い姿だって全てを受け止めるつもりで傍にいるのだが。


「殿下、そろそろ行きましょう。国民たちが殿下の即位を待ち望んでいますよ」
「大げさだ」


彼は私の差し出した手を取り、そのまま二人並んで歩いた。


(こうしていると、本当に夫婦みたい……)


王が捕縛され、王太子とその婚約者である私たちはもうすぐ結婚することになるだろう。
もちろん、その過程で辛いことも苦しいこともたくさんあるはずだ。


しかし、彼とならどんなことだって乗り越えていけるようなそんな気がする。



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