125 / 127
三章
未来へ
しおりを挟む
「殿下!」
「セシリア、今はダメだ。血がお前に付く……」
「そんなの気になりません!」
ダリウス様の治療を終えた後、私は返り血で真っ赤に染まった殿下にギュッと抱き着いた。
血でドレスが汚れてしまうことなど気にもならなかった。
戦いが終わり、彼が無事であるということにとても安心した。
「殿下……本当に良かったです……」
「セシリア……安心しろ、もうあの男はいないから……」
いつものように彼が優しく微笑む。
しかし、その笑顔には普段と違ってどこか疲労感が見える。
(殿下……)
その理由は私もよく知っている。
ただただ殿下を抱き締めることしか出来ない。
「殿下、私はここにいますから」
「セシリア……すまない……」
――血の繋がった実の父親の両腕を、その手で切り落とした。
優しい殿下のことだから、きっとそのことを気にしているのだろう。
彼は子供のように私の肩に顔を埋めた。
そんな彼の頭を優しく撫でた。
「殿下……私が反逆前に言ったことを覚えていますか?」
「……」
その声で、彼は顔を上げて私の目をじっと見つめた。
「――たとえ国中の人間が殿下を親殺しと罵ろうとも、私だけはずっと貴方の味方でい続けると……そう言ったことを覚えていますか?」
「……ああ」
「あの約束は絶対に守りますから、そんなに不安にならないでください」
「セシリア……」
私のその言葉に、彼の口角が少しだけ上がった。
ほんの少しでも慰めになったのならそれでいい。
「俺は……他に何もいらない。お前さえいればそれでいいんだ」
「殿下……」
「お前さえ、傍にいてくれれば……」
ただ傍にいてくれればいいだなんて、生まれて初めて言われた。
真剣な彼の表情に、胸の奥が温かくなる。
「――愛してる、セシリア」
両手で私の頬を包んだ彼は、唇にそっとキスをした。
もう何回目か分からない、口付け。
前世なら絶対にありえないことだった。
「私も愛しています、殿下。貴方だけを、前世からずっと」
彼がゆっくりと唇を離すとほぼ同時に、今度は私からキスをした。
私からキスをするのはなかなかに珍しいことだからか、彼が目を丸くした。
固まって顔を赤くする殿下。
その姿がとても愛おしい。
「可愛いですね、殿下」
「……前も言ったが、男にとってそれは褒め言葉ではないぞ」
「うふふ、やっといつもの殿下になりましたね」
ようやくいつも通り、私が心から愛する彼になった。
もちろん、殿下の弱い姿だって全てを受け止めるつもりで傍にいるのだが。
「殿下、そろそろ行きましょう。国民たちが殿下の即位を待ち望んでいますよ」
「大げさだ」
彼は私の差し出した手を取り、そのまま二人並んで歩いた。
(こうしていると、本当に夫婦みたい……)
王が捕縛され、王太子とその婚約者である私たちはもうすぐ結婚することになるだろう。
もちろん、その過程で辛いことも苦しいこともたくさんあるはずだ。
しかし、彼とならどんなことだって乗り越えていけるようなそんな気がする。
「セシリア、今はダメだ。血がお前に付く……」
「そんなの気になりません!」
ダリウス様の治療を終えた後、私は返り血で真っ赤に染まった殿下にギュッと抱き着いた。
血でドレスが汚れてしまうことなど気にもならなかった。
戦いが終わり、彼が無事であるということにとても安心した。
「殿下……本当に良かったです……」
「セシリア……安心しろ、もうあの男はいないから……」
いつものように彼が優しく微笑む。
しかし、その笑顔には普段と違ってどこか疲労感が見える。
(殿下……)
その理由は私もよく知っている。
ただただ殿下を抱き締めることしか出来ない。
「殿下、私はここにいますから」
「セシリア……すまない……」
――血の繋がった実の父親の両腕を、その手で切り落とした。
優しい殿下のことだから、きっとそのことを気にしているのだろう。
彼は子供のように私の肩に顔を埋めた。
そんな彼の頭を優しく撫でた。
「殿下……私が反逆前に言ったことを覚えていますか?」
「……」
その声で、彼は顔を上げて私の目をじっと見つめた。
「――たとえ国中の人間が殿下を親殺しと罵ろうとも、私だけはずっと貴方の味方でい続けると……そう言ったことを覚えていますか?」
「……ああ」
「あの約束は絶対に守りますから、そんなに不安にならないでください」
「セシリア……」
私のその言葉に、彼の口角が少しだけ上がった。
ほんの少しでも慰めになったのならそれでいい。
「俺は……他に何もいらない。お前さえいればそれでいいんだ」
「殿下……」
「お前さえ、傍にいてくれれば……」
ただ傍にいてくれればいいだなんて、生まれて初めて言われた。
真剣な彼の表情に、胸の奥が温かくなる。
「――愛してる、セシリア」
両手で私の頬を包んだ彼は、唇にそっとキスをした。
もう何回目か分からない、口付け。
前世なら絶対にありえないことだった。
「私も愛しています、殿下。貴方だけを、前世からずっと」
彼がゆっくりと唇を離すとほぼ同時に、今度は私からキスをした。
私からキスをするのはなかなかに珍しいことだからか、彼が目を丸くした。
固まって顔を赤くする殿下。
その姿がとても愛おしい。
「可愛いですね、殿下」
「……前も言ったが、男にとってそれは褒め言葉ではないぞ」
「うふふ、やっといつもの殿下になりましたね」
ようやくいつも通り、私が心から愛する彼になった。
もちろん、殿下の弱い姿だって全てを受け止めるつもりで傍にいるのだが。
「殿下、そろそろ行きましょう。国民たちが殿下の即位を待ち望んでいますよ」
「大げさだ」
彼は私の差し出した手を取り、そのまま二人並んで歩いた。
(こうしていると、本当に夫婦みたい……)
王が捕縛され、王太子とその婚約者である私たちはもうすぐ結婚することになるだろう。
もちろん、その過程で辛いことも苦しいこともたくさんあるはずだ。
しかし、彼とならどんなことだって乗り越えていけるようなそんな気がする。
667
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
私を見ないあなたに大嫌いを告げるまで
木蓮
恋愛
ミリアベルの婚約者カシアスは初恋の令嬢を想い続けている。
彼女を愛しながらも自分も言うことを聞く都合の良い相手として扱うカシアスに心折れたミリアベルは自分を見ない彼に別れを告げた。
「今さらあなたが私をどう思っているかなんて知りたくもない」
婚約者を信じられなかった令嬢と大切な人を失ってやっと現実が見えた令息のお話。
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜
平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。
レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。
冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる