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11 第三皇妃セレシアの噂
「……ありがとうございます、ですが令嬢にそこまでしてもらう必要はありませんわ」
「……」
マリアーノは羞恥に身体を震わせながら言葉を紡いだ。
「自分の結婚相手は……自分で選びますから……」
「そうですか、クルシュ嬢にピッタリだと思いましたのに」
彼女の性格上、いくらハイスペックとはいえフィオナの捨てた男と結婚するなど御免なはずだ。
「フフッ、クルシュ嬢も早く良い人と巡り会えるといいですね」
「……」
完全な負けを悟ったのか、彼女は黙り込んだ。
公爵令嬢であるフィオナは、いくら嫁ぎ遅れとはいえ縁談がいくらでも舞い込んでくる。
帝国に四つしかない公爵家と縁を持ちたいを思う者は国内外にたくさんいるからだ。
シンとした空気の中で、口を開いたのは主催者のアイリスだった。
「クルシュ嬢が心配せずとも、公女様には素敵な結婚相手が見つかりますわ」
「そうですよ、公女様」
アイリスを始めとした参加者の令嬢たちは、完膚なまでにマリアーノを言い負かしたフィオナの肩を持った。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
お茶菓子を口に運んだ彼女に、予想外の質問が投げかけられた。
「ところで……公女様はフェンダル公爵閣下とはどのような関係なのですか?」
「……」
質問主は主催者のアイリスだった。
彼女がそのような踏み込んだことを聞いてくるのは意外だった。
「……ただの友人ですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」
フィオナの言ったことは間違いではなかった。
二人は決して男女の関係というわけではない。
「そうだったんですね、今は一緒に住んでいらっしゃるのですか?」
「いえ、最近セレナイト家に戻ったんです。今は実家で暮らしています」
フィオナは昨日フェンダル邸を出たばかりだった。
二人が一緒に暮らしていることは社交界では有名だったため、周囲からは驚きの声が上がった。
「フェンダル公爵閣下といえば……第三皇妃様の……」
「……」
そしてアロイスが第三皇妃を未だに愛しているということもまた、有名な話だった。
フィオナはそのような話をされるたびに、居心地の悪い思いをした。
本当はセレシアがいるべき場所を、彼女が奪い取ってしまったかのようで。
そんな重い空気の中、一人の令嬢が面白そうに笑った。
「――そういえば、第三皇妃様のある噂をご存じですか?」
「噂……?」
全員の視線が彼女に集中した。
「皇宮に勤めている友人から聞いた話なのですけれど……第三皇妃様は、皇帝陛下と一度も閨をしたことがないんだとか」
「そ、それは本当ですか……!?」
(……皇帝がセレシアと一度も寝ていないですって?)
フィオナを始めとした参加者たちは驚きを隠せなかった。
皇帝の女好きは有名で、多くの女を後宮に囲っていながらも、別の貴族令嬢と浮名を流し続けていた。
フィオナは、皇帝があれほど美しいセレシアに手を出していないということが信じられなかった。
「第三皇妃様が皇宮に上がったのは六年も前でしょう?」
「陛下が美しい皇妃様に一目惚れしたと聞きましたわ」
セレシアは六年前、アロイスの恋人だった頃に皇帝陛下に見初められ、彼の側室――第三皇妃になった。
しかし、未だに懐妊の兆しはなく、表舞台へ姿を現すこともほとんどない。
「真偽はわかりませんが……療養を理由に今は離宮に引きこもっているそうですよ」
「やはり、フェンダル公爵閣下と引き離されたのが苦痛だったのでしょうか……」
セレシアとアロイスは今でも互いを想い続けている。
あれほど愛し合っていたのだから、彼女もきっとアロイスと同じくらい憔悴しているのだろう。
フィオナはセレシアの現状に胸を痛めた。
「……」
マリアーノは羞恥に身体を震わせながら言葉を紡いだ。
「自分の結婚相手は……自分で選びますから……」
「そうですか、クルシュ嬢にピッタリだと思いましたのに」
彼女の性格上、いくらハイスペックとはいえフィオナの捨てた男と結婚するなど御免なはずだ。
「フフッ、クルシュ嬢も早く良い人と巡り会えるといいですね」
「……」
完全な負けを悟ったのか、彼女は黙り込んだ。
公爵令嬢であるフィオナは、いくら嫁ぎ遅れとはいえ縁談がいくらでも舞い込んでくる。
帝国に四つしかない公爵家と縁を持ちたいを思う者は国内外にたくさんいるからだ。
シンとした空気の中で、口を開いたのは主催者のアイリスだった。
「クルシュ嬢が心配せずとも、公女様には素敵な結婚相手が見つかりますわ」
「そうですよ、公女様」
アイリスを始めとした参加者の令嬢たちは、完膚なまでにマリアーノを言い負かしたフィオナの肩を持った。
「そう言ってもらえて嬉しいです」
お茶菓子を口に運んだ彼女に、予想外の質問が投げかけられた。
「ところで……公女様はフェンダル公爵閣下とはどのような関係なのですか?」
「……」
質問主は主催者のアイリスだった。
彼女がそのような踏み込んだことを聞いてくるのは意外だった。
「……ただの友人ですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」
フィオナの言ったことは間違いではなかった。
二人は決して男女の関係というわけではない。
「そうだったんですね、今は一緒に住んでいらっしゃるのですか?」
「いえ、最近セレナイト家に戻ったんです。今は実家で暮らしています」
フィオナは昨日フェンダル邸を出たばかりだった。
二人が一緒に暮らしていることは社交界では有名だったため、周囲からは驚きの声が上がった。
「フェンダル公爵閣下といえば……第三皇妃様の……」
「……」
そしてアロイスが第三皇妃を未だに愛しているということもまた、有名な話だった。
フィオナはそのような話をされるたびに、居心地の悪い思いをした。
本当はセレシアがいるべき場所を、彼女が奪い取ってしまったかのようで。
そんな重い空気の中、一人の令嬢が面白そうに笑った。
「――そういえば、第三皇妃様のある噂をご存じですか?」
「噂……?」
全員の視線が彼女に集中した。
「皇宮に勤めている友人から聞いた話なのですけれど……第三皇妃様は、皇帝陛下と一度も閨をしたことがないんだとか」
「そ、それは本当ですか……!?」
(……皇帝がセレシアと一度も寝ていないですって?)
フィオナを始めとした参加者たちは驚きを隠せなかった。
皇帝の女好きは有名で、多くの女を後宮に囲っていながらも、別の貴族令嬢と浮名を流し続けていた。
フィオナは、皇帝があれほど美しいセレシアに手を出していないということが信じられなかった。
「第三皇妃様が皇宮に上がったのは六年も前でしょう?」
「陛下が美しい皇妃様に一目惚れしたと聞きましたわ」
セレシアは六年前、アロイスの恋人だった頃に皇帝陛下に見初められ、彼の側室――第三皇妃になった。
しかし、未だに懐妊の兆しはなく、表舞台へ姿を現すこともほとんどない。
「真偽はわかりませんが……療養を理由に今は離宮に引きこもっているそうですよ」
「やはり、フェンダル公爵閣下と引き離されたのが苦痛だったのでしょうか……」
セレシアとアロイスは今でも互いを想い続けている。
あれほど愛し合っていたのだから、彼女もきっとアロイスと同じくらい憔悴しているのだろう。
フィオナはセレシアの現状に胸を痛めた。
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