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16 アロイスの訪問
「――フィオナ!大変だ!!!」
それから数時間後、慌てた様子のキースがフィオナの部屋の扉を勢いよく開けた。
机で書類作業をしていたフィオナは、思わず眉をひそめた。
「お兄様、ちょっとくらい静かにできないの?私、今作業してたんだけど。お兄様のせいで字が歪んだじゃない」
「それどころじゃないんだ!大変なんだよ!今、下に――」
キースは大股でフィオナの元まで歩くと、彼女の肩をガシッと掴んだ。
「――アロイスが来ているんだ!」
「…………………何ですって?」
最初こそ、フィオナは兄が嘘をついているのだと思った。
彼女は肩に置かれたキースの手を振り払った。
「お兄様、冗談はやめて。私を試そうとしているの?アロイスに未練は無いってさっき証明したでしょう」
「違う、フィオナ。本当だ、アロイスが下に来ているんだ」
「お兄様……」
いつになく真剣な瞳のキースに、フィオナはそれが嘘ではないということを悟った。
(どうしてアロイスが……)
フィオナは頭を抱えた。
今さら、何の用でここへ来たというのだろうか。
「彼は何て言っているの?」
「……お前に会いたいと。来るまでは帰らないとどれだけ言っても聞かないんだ」
「……」
黙り込んだフィオナを、キースは心配そうに見つめた。
彼はフィオナがこれまでどれだけアロイスに尽くしていたかをよく知っていた。
そのせいで妹が辛い思いをしていることも知っていたし、彼女に気持ちを返さないアロイスを憎んだこともあった。
「フィオナ、会いたくないなら行かなくてもいい。俺や父上で何とか――」
「いいえ、行くわ」
フィオナはキッパリ言うと、椅子から立ち上がった。
「今思えば、アロイスには最後の挨拶もしていなかったもの。いきなり何の前触れもなくいなくなるなんて、きっと困惑したに違いないわ」
「フィオナ……」
アロイスがここへ来たのは自分を愛しているからではなく、困惑しただけだ。
彼女はそう考えて気持ちを落ち着かせた。
「お兄様、心配しないで。――ケジメはしっかりと、自分でつけるわ」
今回は誰の手も借りない。
自分自身で解決しなければならないからだ。
フィオナは呆然とするキースを一人部屋に残し、アロイスの元へと向かった。
***
アロイスはフェンダル公爵家の当主であり、いくらセレナイト公爵家でも無下にできるような相手ではなかった。
フィオナの父親・セレナイト公爵は今すぐにでもアロイスを追い出したい気持ちを抑えながら、彼を客間に通した。
「久しぶりですね、閣下」
「……そうだな」
公爵は彼がまだ子供だった頃からアロイスのことを知っている。
昔はよく可愛がっていたものだが、今はわけが違う。
公爵のそんな気持ちに気付いていないのか、アロイスは親しげに話しかけた。
「公爵家へ来るのはもう十年ぶりくらいでしょうか、何も変わっていないですね」
「……」
公爵はどうやってアロイスを追い出すかを考えていた。
大切な娘に今さら会わせたくはなかったし、彼が公爵家の当主である以上、騎士に連れて行かせることもできない。
「ところで閣下、フィオナはまだいらっしゃらないのですか?」
「フィオナ……?」
彼は頭に血が上っていくのを感じた。
どの面下げて娘に会いに来たんだ――と彼が言いかけたそのとき、客間の扉が開いた。
「――フェンダル公爵閣下、お待たせいたしました」
「フィオナ……」
ドレスに着替えたフィオナが、扉の前に立っていた。
それから数時間後、慌てた様子のキースがフィオナの部屋の扉を勢いよく開けた。
机で書類作業をしていたフィオナは、思わず眉をひそめた。
「お兄様、ちょっとくらい静かにできないの?私、今作業してたんだけど。お兄様のせいで字が歪んだじゃない」
「それどころじゃないんだ!大変なんだよ!今、下に――」
キースは大股でフィオナの元まで歩くと、彼女の肩をガシッと掴んだ。
「――アロイスが来ているんだ!」
「…………………何ですって?」
最初こそ、フィオナは兄が嘘をついているのだと思った。
彼女は肩に置かれたキースの手を振り払った。
「お兄様、冗談はやめて。私を試そうとしているの?アロイスに未練は無いってさっき証明したでしょう」
「違う、フィオナ。本当だ、アロイスが下に来ているんだ」
「お兄様……」
いつになく真剣な瞳のキースに、フィオナはそれが嘘ではないということを悟った。
(どうしてアロイスが……)
フィオナは頭を抱えた。
今さら、何の用でここへ来たというのだろうか。
「彼は何て言っているの?」
「……お前に会いたいと。来るまでは帰らないとどれだけ言っても聞かないんだ」
「……」
黙り込んだフィオナを、キースは心配そうに見つめた。
彼はフィオナがこれまでどれだけアロイスに尽くしていたかをよく知っていた。
そのせいで妹が辛い思いをしていることも知っていたし、彼女に気持ちを返さないアロイスを憎んだこともあった。
「フィオナ、会いたくないなら行かなくてもいい。俺や父上で何とか――」
「いいえ、行くわ」
フィオナはキッパリ言うと、椅子から立ち上がった。
「今思えば、アロイスには最後の挨拶もしていなかったもの。いきなり何の前触れもなくいなくなるなんて、きっと困惑したに違いないわ」
「フィオナ……」
アロイスがここへ来たのは自分を愛しているからではなく、困惑しただけだ。
彼女はそう考えて気持ちを落ち着かせた。
「お兄様、心配しないで。――ケジメはしっかりと、自分でつけるわ」
今回は誰の手も借りない。
自分自身で解決しなければならないからだ。
フィオナは呆然とするキースを一人部屋に残し、アロイスの元へと向かった。
***
アロイスはフェンダル公爵家の当主であり、いくらセレナイト公爵家でも無下にできるような相手ではなかった。
フィオナの父親・セレナイト公爵は今すぐにでもアロイスを追い出したい気持ちを抑えながら、彼を客間に通した。
「久しぶりですね、閣下」
「……そうだな」
公爵は彼がまだ子供だった頃からアロイスのことを知っている。
昔はよく可愛がっていたものだが、今はわけが違う。
公爵のそんな気持ちに気付いていないのか、アロイスは親しげに話しかけた。
「公爵家へ来るのはもう十年ぶりくらいでしょうか、何も変わっていないですね」
「……」
公爵はどうやってアロイスを追い出すかを考えていた。
大切な娘に今さら会わせたくはなかったし、彼が公爵家の当主である以上、騎士に連れて行かせることもできない。
「ところで閣下、フィオナはまだいらっしゃらないのですか?」
「フィオナ……?」
彼は頭に血が上っていくのを感じた。
どの面下げて娘に会いに来たんだ――と彼が言いかけたそのとき、客間の扉が開いた。
「――フェンダル公爵閣下、お待たせいたしました」
「フィオナ……」
ドレスに着替えたフィオナが、扉の前に立っていた。
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