他に愛する人のいる彼の元を去ったら、何故か彼が追いかけてきます

ましゅぺちーの

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31 パーティーの始まり

「フィオナ、私と一曲踊ってくださいますか?」
「もちろんです、カイル」


パーティーの始まりに合わせて、ホールの隅に控えていた交響楽団が音楽を奏で始めた。
人々はその音楽に合わせて、それぞれのパートナーとダンスをする。


(前世では何度もアロイスと踊ることを夢見てたっけ……)


その願いは虚しくも叶わなかった。
アロイスは生涯でセレシア以外の女性とは一度たりとも踊らなかった。


フィオナはカイルの手を取り、ホールの中央へと歩いて行った。
彼と向かい合ったフィオナは、お辞儀をしながら口を開いた。


「秘密を一つ言ってもいいですか」
「何でしょう」


カイルがフィオナの腰に手を回し、二人は自然と身体を密着させた。
彼と息遣いを感じるほどの至近距離で見つめ合った彼女は、困ったように眉を下げて笑った。


「私、実はダンスがあまり得意ではないんです」
「……」


カイルは一瞬驚いたように目を見張った。


「私も一つだけ秘密を言いましょう」
「カイル……?」


不思議そうに見つめるフィオナに、カイルはフッと笑いかけた。


「私も昔からダンスは苦手なんです、昔はよく相手の足を踏んでいました」
「あら、まぁ……」


フィオナは思わず笑みがこぼれそうになった。
彼女を安心させるためか、どちらにしても彼の言葉のおかげでフィオナの不安感は消えていった。


二人は会話をしながら、音楽に合わせてステップを踏んだ。


(何だ、苦手とか言ってたけど……上手くリードしてるじゃない)


カイルは軽やかにフィオナをリードしていた。ダンスが苦手だと言っていたのが信じられないほどだった。


「足を踏んでもいいですよ」
「……さすがにそこまではしません」


耳元でそう囁かれて、恥ずかしさで顔が赤くなる。
そんな二人の姿を見た貴族令嬢たちは、愛の言葉を伝えているのだと興奮していた。


しばらくして、音楽が止まった。
二人は向き合って一礼したあと、カイルはフィオナの手を取り、ホールの隅までエスコートした。


「疲れていませんか?」
「平気です」


その後、カイルは飲み物を取ってくると言い、一度フィオナの傍から立ち去った。
一人になったフィオナは、ふぅと息を吐いた。


(パーティーで踊るのは久しぶりだからかな……何だか疲れたわ……)


そもそも兄以外の男性と踊ることも初めてだった。
フィオナの手には、カイルの大きくてゴツゴツした手の温もりが未だに残っていた。
男の人に触れることに慣れていないせいか、何だか変な感じだ。


そのとき、一人隅で佇んでいたフィオナに、突然手が差し伸べられた。


「――フィオナ」


フィオナは驚いて顔を上げた。
彼女に手を差し出していたのは、何とアロイスだった。


「次は俺と踊ってくれますか?」
「……!」


アロイスは口元に笑みを浮かべながら、フィオナをダンスに誘った。
周囲から驚きの声が上がり、会場が僅かにザワめき始めた。


(ど、どうしてアロイスが……?)


彼は前世でも一度もフィオナをダンスには誘わなかった。
彼女は彼と舞踏会でダンスがしたいとずっと思っていたが、アロイスはセレシア以外の女性と絶対に踊らないことで有名だったからだ。
そんな彼を知っているからか、フィオナは諦めていた。


「フェ、フェンダル公爵様……」


フィオナは困惑して何も言えなかった。
そのとき、二人の間にカイルが割って入った。


「――フェンダル公爵閣下、私の婚約者を困らせるのはやめてください」
「カイル……!」
「な……リリアーン侯爵令息!?」


ヒーローのように颯爽と現れたカイルに、アロイスは狼狽えた。
”婚約者”という彼の言葉に、会場が再びザワついた。


「こ、婚約者だと……!?やっぱり二人はそういう関係だったのか……!」
「あのセレナイト公女が別の相手と婚約するなんて……」


フィオナとカイル、そしてアロイスは人々の注目の的となっていた。
アロイスは立ちはだかるカイルに鋭い視線を向けた。


「美しいレディーをダンスに誘うのはいけないことか?リリアーン侯爵令息」
「いえ、そういうことを言っているのではありません。閣下」
「では何が問題だというんだ?」


アロイスもカイルも一歩も退かなかった。


「あなたが自分の立場も弁えずにセレナイト公女をダンスに誘うだなんて……失礼だと思いませんか?」
「何だと?」


アロイスが眉をひそめた。
彼は全てを当たり前だと思い、何もわかっていなかった。
フィオナがこれまでどれほど自分を支え続けていたか、その過程でどれだけ多くの涙を流していたか。


「――あぁ、それともセレシア皇妃がいなくなったから彼女に乗り換えようとしているんですか?」
「なッ……!」


カイルがセレシアの名前を出した途端、彼の顔で怒りで赤く染まった。
今にもカイルに掴みかかりそうな勢いだった。


(まずい、アロイスが限界を迎えそうだわ……)


彼は昔からセレシアのことになると理性を失うことがある。
焦ったフィオナは、二人を止めようとした。
そのとき、雰囲気に似つかわしくない声が二人の間に入った。


「――おいおい、こんなところで喧嘩なんて……やめてくれよ、みっともない」
「こ、皇太子殿下……!?」


少し離れたところから三人の様子をじっと見つめていたのは、オランジュ帝国の皇太子イザークだった。



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