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5話 黒猫
シアが亡くなってもなお、彼女の影響力は大きかった。
彼女が亡くなった日、国中の人々は嘆き悲しみ、王太子と王妃は彼女を死を偲び、大きな墓を建てた。
王宮にはシアの肖像画が飾られ、王都の中央にはシアの銅像が建てられた。
社交界では未だにシアのファッションやヘアスタイルを真似する貴族令嬢もいる。
私が死んでもそのようにする人など誰もいないだろう。
むしろ両親も王太子も国民も喜ぶはずだ。
思わず笑みがこぼれる。
「妃殿下、王太子殿下が殿下を呼んでいます」
「……殿下が?すぐに行くわ」
「くれぐれも失礼のないようにしてくださいね?妃殿下は今ここにいられるだけで運が良いのですから」
侍女の態度は相変わらずだ。
でももう慣れた。
今日はどのような罵声を浴びるのだろう。
そんな事を考えながら殿下の元へと向かう。
ちょっと前に優しかった殿下の姿を夢で見たような気がするが、きっと気のせいだろう。
それか、ただそうなってほしいという妄想だ。
部屋に到着した私は、扉をノックした。
「王太子殿下、お呼びでしょうか」
部屋の中に入ると、椅子に座った殿下の姿が目に入った。
彼は手元の書類に視線を落とし、私の方を見ようともしなかった。
「……結婚祝いのパーティーが近々開かれるのは知っているな?」
「はい、存じております」
「準備はお前に任せることにする」
「わ、私がですか…?」
驚く私をよそに、殿下は淡々と続けた。
「母上も私も忙しいんだ。そのようなくだらない祭典に割く時間はない」
「……」
(王族の結婚祝いのパーティーは外国からの貴賓も訪れる大切なものなはずなのに……)
殿下や王妃が私との結婚に乗り気ではなかったことを思うと当然かもしれない。
「不満か?」
「い、いえ!ありがたくやらせていただきます!」
私は慌てて返事をした。
(また仕事が増えてしまったわ……)
実のことを言うと、ここ最近あまりの仕事量の多さになかなか眠れない日が続いていた。
そしてある日をきっかけに、密かに抱いていた疑いは確信に変わった。
私の元へくる書類には、明らかに王太子や王妃のこなすべきものが含まれているのだ。
どうやら彼らは私に自分のするべき仕事を押し付けているらしい。
「お前はその脳しか使い道がないんだから、せいぜい仕事面で私たちの役に立て」
「……」
言い返すこともできず、私は黙って殿下の執務室を出た。
普段なら執務をするため自室へ戻るところだが、疲れていてそんな気になれなかった私は、気分転換も兼ねて王宮の庭園へと足を踏み入れた。
(ちょっとだけなら平気よね……?)
殿下や王妃、侍女たちに見つかったら何を言われるかわからない。
しかし、休憩でも挟まなければやってられなかった。
庭園へ入ると、枯れた花や木々が目に入った。
(昔はとても綺麗な場所だったのに……)
シアが亡くなってから、殿下は庭園の手入れをやめてしまったのだ。
殿下はよくこの場所でシアとお茶をしていた。
彼女がいなくなった今、わざわざ手入れする意味などないのだろう。
「あら、あれは……」
枯れた草花の中に、一輪だけ見事なまでに咲き誇っていた花を見つけた。
「赤いバラ……」
シアが最も好きだった花だ。
赤いバラで埋め尽くされた王宮の庭園は、殿下がシアのために作ったものだった。
――ガサッガサッ
そのとき、すぐそばから物音がした。
振り返ったその瞬間、茂みの中から黒い物体がこちらへ向かって飛びかかってきた。
驚いて動けずにいた私の前に現れたのは、黒猫だった。
「猫……?」
王宮になぜ猫がいるのか。もしかして迷子になってしまったのだろうか。王宮の人に見つかったら捕らえられて獣の餌にされるかもしれない。
慌てた私は、猫を抱きかかえた。
いきなり抱き上げられた猫は暴れていたが、このままにしておくわけにはいかない。
「安心してね、私があなたを安全なところに連れて行ってあげるから……」
「は、離せ!」
「え?」
その瞬間、ボワッと大きな煙が猫を包み込んだ。
煙の中から姿を現したのは――
「あ、あなたは………………もしかして魔族!?」
頭から二本のツノを生やした男が目の前に立っていた。
彼女が亡くなった日、国中の人々は嘆き悲しみ、王太子と王妃は彼女を死を偲び、大きな墓を建てた。
王宮にはシアの肖像画が飾られ、王都の中央にはシアの銅像が建てられた。
社交界では未だにシアのファッションやヘアスタイルを真似する貴族令嬢もいる。
私が死んでもそのようにする人など誰もいないだろう。
むしろ両親も王太子も国民も喜ぶはずだ。
思わず笑みがこぼれる。
「妃殿下、王太子殿下が殿下を呼んでいます」
「……殿下が?すぐに行くわ」
「くれぐれも失礼のないようにしてくださいね?妃殿下は今ここにいられるだけで運が良いのですから」
侍女の態度は相変わらずだ。
でももう慣れた。
今日はどのような罵声を浴びるのだろう。
そんな事を考えながら殿下の元へと向かう。
ちょっと前に優しかった殿下の姿を夢で見たような気がするが、きっと気のせいだろう。
それか、ただそうなってほしいという妄想だ。
部屋に到着した私は、扉をノックした。
「王太子殿下、お呼びでしょうか」
部屋の中に入ると、椅子に座った殿下の姿が目に入った。
彼は手元の書類に視線を落とし、私の方を見ようともしなかった。
「……結婚祝いのパーティーが近々開かれるのは知っているな?」
「はい、存じております」
「準備はお前に任せることにする」
「わ、私がですか…?」
驚く私をよそに、殿下は淡々と続けた。
「母上も私も忙しいんだ。そのようなくだらない祭典に割く時間はない」
「……」
(王族の結婚祝いのパーティーは外国からの貴賓も訪れる大切なものなはずなのに……)
殿下や王妃が私との結婚に乗り気ではなかったことを思うと当然かもしれない。
「不満か?」
「い、いえ!ありがたくやらせていただきます!」
私は慌てて返事をした。
(また仕事が増えてしまったわ……)
実のことを言うと、ここ最近あまりの仕事量の多さになかなか眠れない日が続いていた。
そしてある日をきっかけに、密かに抱いていた疑いは確信に変わった。
私の元へくる書類には、明らかに王太子や王妃のこなすべきものが含まれているのだ。
どうやら彼らは私に自分のするべき仕事を押し付けているらしい。
「お前はその脳しか使い道がないんだから、せいぜい仕事面で私たちの役に立て」
「……」
言い返すこともできず、私は黙って殿下の執務室を出た。
普段なら執務をするため自室へ戻るところだが、疲れていてそんな気になれなかった私は、気分転換も兼ねて王宮の庭園へと足を踏み入れた。
(ちょっとだけなら平気よね……?)
殿下や王妃、侍女たちに見つかったら何を言われるかわからない。
しかし、休憩でも挟まなければやってられなかった。
庭園へ入ると、枯れた花や木々が目に入った。
(昔はとても綺麗な場所だったのに……)
シアが亡くなってから、殿下は庭園の手入れをやめてしまったのだ。
殿下はよくこの場所でシアとお茶をしていた。
彼女がいなくなった今、わざわざ手入れする意味などないのだろう。
「あら、あれは……」
枯れた草花の中に、一輪だけ見事なまでに咲き誇っていた花を見つけた。
「赤いバラ……」
シアが最も好きだった花だ。
赤いバラで埋め尽くされた王宮の庭園は、殿下がシアのために作ったものだった。
――ガサッガサッ
そのとき、すぐそばから物音がした。
振り返ったその瞬間、茂みの中から黒い物体がこちらへ向かって飛びかかってきた。
驚いて動けずにいた私の前に現れたのは、黒猫だった。
「猫……?」
王宮になぜ猫がいるのか。もしかして迷子になってしまったのだろうか。王宮の人に見つかったら捕らえられて獣の餌にされるかもしれない。
慌てた私は、猫を抱きかかえた。
いきなり抱き上げられた猫は暴れていたが、このままにしておくわけにはいかない。
「安心してね、私があなたを安全なところに連れて行ってあげるから……」
「は、離せ!」
「え?」
その瞬間、ボワッと大きな煙が猫を包み込んだ。
煙の中から姿を現したのは――
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