結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの

文字の大きさ
6 / 19

6話 魔族ラギレス

「あ、貴方は一体……!?」


私は驚いてその場から動けずにいた。
目の前にいる男は頭から二本のツノを生やし、尖った耳をしていた。
魔族の特徴そのものだった。


(猫が……とても素敵な男性になったわ……)


ハッキリ言って、彼の見た目はそこそこタイプだった。
程よく筋肉のついた体に、整った顔立ち。


魔族は様々な魔法を使えると聞いたが、ならさっき黒猫に姿を変えていたのも魔法だろうか。


「俺か?俺はラギレスだ」
「ラギレス様、よろしくお願いしま……ってそういうことではなく!どうして魔族様が王宮にいらっしゃるのですか!」


(魔族は普通魔界から出ることなんてほとんどないって聞いていたのに……)


魔族の姿を見たのは初めてだった。
王太子や王妃などの王族は魔界とも交流していると聞くが、私のようなただの貴族令嬢には縁のないことだった。


「ああ、それは色々とあってだな……」
「色々と……ですか?」
「事情を説明するわけにはいかない。人間に見つかったのは想定外のことだった。そうだ、いっそお前の記憶を今ここで消してしまおう」
「な、何するんですか!?」


そう言うと彼は、私の腕を掴んで魔法陣を展開させた。


「なぁに、心配するな。失敗しても死ぬことはないから。ただちょっと大事なことまで忘れちゃう可能性があるってだけで」
「ダ、ダメです!!!」


私は何とか逃れようと暴れた。


「ぜ、絶対に誰にも言わないからやめてください!」
「そういうわけにはいかない。俺の姿を見られたからには処理をしないと――」
「わ、私はこの国の王太子妃です!バレたらただでは済まされないですよ!」
「王太子妃……?何だ、お前王族だったのか」


私が王族だということに気付いたラギレスは、ようやく私を放した。


――「妃殿下、どちらへいるんですかー?」
「……!」


そのとき、遠くから私を探す声が聞こえた。


どうやらいつまでたっても部屋に戻らない私を、侍女が探しに来たようだ。
慌てた私は、ラギレスの服を掴んだ。


「こ、ここにいたらまずいですよ!私はともかく、あなたが――」
「シッ!」


彼は人差し指を唇に当てると、パチンッと指で音を鳴らした。
その瞬間、体が軽くなるような、妙な気分になった。


「静かにしろ」
「は、はい……」


侍女がだんだん近づいてくる音が聞こえる。
私は内心焦っていたが、彼はそうではないようで、ただじっと息を潜めているだけだった。


「妃殿下?一体どこほっつき歩いてんだか……」
「……」


(……私たちが見えていないの?)


驚くことに、侍女には私やラギレスの姿が見えていないようで、そのまま通り過ぎていった。
侍女がいなくなったのを確認すると、彼はふぅと安堵の息を吐いた。


「行ったみたいだな」
「今のは……魔法ですか?」
「ああ」


(やっぱり魔法を使えるのね!)


なら今のは姿を消す透明化の魔法だろう。
何だか自分が魔法使いになったようで興奮した。


「まだ大事なことを教えてもらっていません、魔族様がどうしてここにいるんですか?」


私が尋ねると、ラギレスは言いづらそうに目を逸らした。


「あーそれは……ちょっと人間界で調査しないといけないことがあってな……」
「調査しないといけないこと?」
「――それよりお前、行かなくていいのか?さっきのはお前を探していたんだろう?」


その言葉で、私は自分がこんなことをしている場合ではないということに気が付いた。


「あっ、そうでした!早く仕事に戻らないと、また殿下に叱られてしまう!」


素早くラギレスに挨拶をした私は、慌てて自室へと戻った。


***


アリサが去ったあと、一人になったラギレスに背後から近づく者がいた。


「……ラギレス様」


その正体は彼の従者だった。
ラギレスは彼を一瞥してすぐ、再び王宮に目を向けた。


「……お前も感じるか」
「はい、間違いありません」
「……」


ラギレスは異様な雰囲気を醸し出している王宮を見つめながらつぶやいた。


「――何故、あの女の魔力がこの国から感じられるんだ……」



あなたにおすすめの小説

もう演じなくて結構です

梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。 愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。 11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。   感想などいただけると、嬉しいです。 11/14 完結いたしました。 11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。

お望み通り、消えてさしあげますわ

梨丸
恋愛
一国の次期王妃と言われていた子爵令嬢アマリリス。 王太子との結婚前夜、彼女は自ら火を放ち、死んだ。 国民達は彼女の死を特に気にもしなかった。それどころか、彼女の死を喜ぶ者もいた。彼女の有していた聖女の力は大したものではなかったし、優れているのは外見だけの“役立たずの聖女”だと噂されるほどだったから。 彼女の死後、すぐさま後釜として皆に好かれていた聖女が次期王妃に召し上げられた。 この国はより豊かになる、皆はそう確信した。 だが、“役立たずの聖女”アマリリスの死後──着実に崩壊は始まっていた。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) ※この調子だと短編になりそうです。

初恋の人を思い出して辛いから、俺の前で声を出すなと言われました

柚木ゆず
恋愛
「俺の前で声を出すな!!」  マトート子爵令嬢シャルリーの婚約者であるレロッズ伯爵令息エタンには、隣国に嫁いでしまった初恋の人がいました。  シャルリーの声はその女性とそっくりで、聞いていると恋人になれなかったその人のことを思い出してしまう――。そんな理由でエタンは立場を利用してマトート家に圧力をかけ、自分の前はもちろんのこと不自然にならないよう人前で声を出すことさえも禁じてしまったのです。  自分の都合で好き放題するエタン、そんな彼はまだ知りません。  その傍若無人な振る舞いと自己中心的な性格が、あまりにも大きな災難をもたらしてしまうことを。  ※11月18日、本編完結。時期は未定ではありますが、シャルリーのその後などの番外編の投稿を予定しております。  ※体調の影響により一時的に、最新作以外の感想欄を閉じさせていただいております。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

わたしがお屋敷を去った結果

柚木ゆず
恋愛
 両親、妹、婚約者、使用人。ロドレル子爵令嬢カプシーヌは周囲の人々から理不尽に疎まれ酷い扱いを受け続けており、これ以上はこの場所で生きていけないと感じ人知れずお屋敷を去りました。  ――カプシーヌさえいなくなれば、何もかもうまく行く――。  ――カプシーヌがいなくなったおかげで、嬉しいことが起きるようになった――。  関係者たちは大喜びしていましたが、誰もまだ知りません。今まで幸せな日常を過ごせていたのはカプシーヌのおかげで、そんな彼女が居なくなったことで自分達の人生は間もなく180度変わってしまうことを。  17日本編完結。4月1日より、それぞれのその後を描く番外編の投稿をさせていただきます。

決めるのはあなた方ではない

篠月珪霞
恋愛
王命で決まった婚約者に、暴言を吐かれ続けて10年。 逃れられずに結婚したカメリアに、実はずっと愛していたと言われ。

【完結】私が貴方の元を去ったわけ

なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」  国の英雄であるレイクス。  彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。  離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。  妻であった彼女が突然去っていった理由を……   レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。      ◇◇◇  プロローグ、エピローグを入れて全13話  完結まで執筆済みです。    久しぶりのショートショート。  懺悔をテーマに書いた作品です。  もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!

嘘つきな貴方を捨てさせていただきます

梨丸
恋愛
断頭台に上がった公爵令嬢フレイアが最期に聞いた言葉は最愛の婚約者の残忍な言葉だった。 「さっさと死んでくれ」 フレイアを断頭台へと導いたのは最愛の婚約者だった。 愛していると言ってくれたのは嘘だったのね。 嘘つきな貴方なんて、要らない。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 11/27HOTランキング5位ありがとうございます。 ※短編と長編の狭間のような長さになりそうなので、短編にするかもしれません。 1/2累計ポイント100万突破、ありがとうございます。 完結小説ランキング恋愛部門8位ありがとうございます。