初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

ましゅぺちーの

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19 王太子殿下の訪問

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「お嬢様、お客様が来ているそうですよ」
「……お客?」


レイナからそんな話を聞いた私は、思わず身構えた。


(来客の予定なんて無いのに……)


この邸を訪れる人間は限られている。
両親は社交界での評判がかなり悪いため、親しくしている貴族はほとんどいない。


(嫡男のラウル目的ならたまにあるけれど……私にお客様だなんて珍しいわね)


侯爵家のお荷物である私にわざわざ関わろうだなんて、一体どこの誰なのか。
そんな興味本位からか、私は急いで応接間へと向かった。


「――失礼します……………え?」


客人の待つ部屋へと足を踏み入れた私は、中にいた人物を見て驚きを隠せなかった。


「昨日ぶりだな、アリス嬢」
「お、王太子殿下……!?」


目を丸くする私を見て、殿下はニコッと微笑んだ。


(な、どうして殿下がここに……!?)


何か忘れ物でもしたのだろうかと慌てて昨晩の記憶を辿った。
しかし、どれだけ考えても思い当たる節は見当たらなかった。


「アリス嬢、座って話そう」
「あ、は、はい……」


殿下のその声で現実に引き戻された私は、彼の正面にあるソファに腰を掛けた。


(我が家のお茶、お口に合うかしら……)


目の前で優雅にお茶を飲む殿下の姿はまるで絵画のように美しい。
ルーカス様もとても見目麗しい方ではあったが、それとはまた別の美しさを持つ人だ。


「急に訪問して驚いたことだろう」
「はい、それはもう……」


私がコクコク首を縦に振ると、彼は再びクスリと笑った。


「すまないな、どうしても君に伝えたいことがあったんだ」
「伝えたいこと……でございますか?」
「ああ、大事な話だ」


殿下はそう言うと、突然ソファから立ち上がった。


「だから君のご両親と兄弟、そして屋敷にいる使用人たちを全員この部屋に集めてくれないか?」
「は、はぁ……分かりました……」


(家族と使用人を全員呼べって?急にどうしてそんなことを……)


何が何だかよく分からなかったが、私はひとまず殿下の指示に従った。






***




「ジークハルト王太子殿下、ご機嫌いかがでしょうか」
「顔を上げてくれ」


応接間に集まった家族と使用人たちが殿下に向かって深く礼をした。


「本物の王太子殿下よ!」
「噂通りとても美しい方だわ!」


王太子殿下の美貌にキャーキャー騒ぐ侍女たち。


「何で隣国の王太子がここに……」
「まさか、あの噂は本当だというの……?」


突然の殿下の訪問に動揺するラウルと母親。


「本日はどのようなご用件でしょうか」
「ああ、貴方の娘に用があって来たんだ」
「アリスに……でございますか」


父の口元が分かりやすく弧を描いた。


(お父様ったら、相変わらず顔に出やすいのね)


「アリス嬢、こちらへ」
「はい、殿下」


殿下の隣へ行くと、正面にいた父親と目が合った。
そのときの父の目は獲物を狙う猛獣のように鋭く、”絶対に逃がすな”と私に目で伝えているようだった。


「……」


これまで散々虐げてきたくせに、私が王太子と親しくしていると知った途端手のひら返しするだなんて。
幼い頃は少しでも父親に認められたいと思っていたが、今はただ腹が立つだけだ。


「殿下。せっかくこうして我が家に来てくださったのですから、娘と外を散歩してきてはいかがでしょうか?」


父がこびへつらうように殿下に言った。
今ここにいるのは隣国の王太子殿下。
昔から権力を欲している父が、こんな絶好の機会を逃すわけがない。


しかし殿下は、そんな父親に対して冷たく言い放った。


「――いいや、そのつもりは無い」
「……え?」
「貴方は少し黙っていてくれないか?私に気安く話しかけないでいただきたい」
「な……」


口を開けてポカンとする父を無視した殿下は、隣にいた私に向き直った。


(…………な、何?)


そして私の手を取ったかと思うと、跪いた。


「で、殿下……?」


下から顔をじっと見つめられて、何だか恥ずかしくなる。
突然の行動にあたふたしていると、殿下の口から衝撃的な言葉が飛び出した。


「――アリス嬢、どうか私と結婚してはくれないだろうか」
「…………………え、ええ!?」




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