異世界英雄バトルナイト

後島大宗

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第1部:赤と黒の騎士

11.Act03:迂闊-正体バレは二度起きる-②

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Act03:迂闊-正体バレは二度起きる-


「あわ、あわ、あわわわ・・・」

 思わぬ種族の来訪にティアラはすっかり怖じ気づいていた。

「邪魔するぞ」

「おう、いらっしゃい」

狼狽えている少女に目もくれず、猪頭人オークの男性は
カウンターに居る男に向けて一言挨拶をする。

「お早うアルフよ、今日もよろしくである!」

「オハヨーっすアニキ!」

すると猪頭人の後ろから糸目のエルフと人懐っこい笑顔をした
ゴブリンの少年がひょっこりと顔を出してきた。

「あ、い・・・いらっしゃい・・・ませ」

続けざまに現れた来店者2人に戸惑いながらも、ティアラは
何とか挨拶の言葉を紡ぎ出すことが出来た。

「アルフ、この子、見ない顔だが新人か?」

そう言いながら猪頭人の男は席に着きながら質問を投げかける。

「ああ、最近冒険者になったばかりの子でティアラっていうんだ。
 俺と同じ先輩として良くしてやってくれ」

「そうか。・・・銀階級シルバークラスのガルシアだ。
 さっきは恐がらせてしまって悪かった」

ガルシアと名乗る猪頭人の男性は、事情を聞いて直ぐに
椅子に座ったまま少女の方へ向き直って深々と頭を下げてきた。

「あ、えと、ティアラです!
 先ほどは大変失礼いたしました!」

突然自分に謝られたことに戸惑いながらも、ティアラは
自己紹介をしてからガルシアに対する非礼を詫びるために
こちらも深々と頭を下げ、それと同時に
相手を見かけで判断してしまった自分を恥じた。

「いやはや、すぐに謝れるのは美徳であるな!
 しかし安心するといいのである。
 

「ゼフさんゼフさん、それフォローになってないッス」

横からゼフと呼ばれたエルフが少女に慰めの言葉を掛けるが、
それに対してゴブリンの少年がツッコミを入れてきた。
このやりとりに対してどう反応したら良いのか
分からず、ティアラは戸惑いながら言葉を詰まらせていた。

 この一連の様子を見ていたロンドは溜息をつきながら
片手で頭を抱えていた。

「まぁーそうなるよなぁー。ティアラちゃーん、紹介しよう。
 

「もうちょっとマシな紹介をしていただきたいのである!?」

「あんまりッスよロンドの兄さん!?」

投げやり気味なロンドの紹介に対して2人が物申してきた。
言われたい放題のガルシアは沈黙をしているものの、
3バカと一括りにされる事に対しては満更でもない様子で
「ふっ・・・」と軽く笑っていた。


「・・・っとぉ、そう言えば自己紹介がまだであったな。
 我が輩はゼファート、銀階級の学者をしている。
 気軽にゼフと呼んでほしいのである」

「オイラはポポルっていうッス!
 行商をやっていて今度鋼階級スチールクラスになるッス!」

「てぃ、ティアラです。鉄階級アイアンクラスの治癒士をやっています!
 お二人ともご指導のほどよろしくお願いします!」

 エルフのゼファートとゴブリンのポポルが後輩の少女と挨拶を交わしながら
それぞれカウンター席に着く。
場が落ち着いたところでアルフが注文をとり始める。

「それで、3人とも注文はいつものでいいか?」

「あぁ、パン入りのミルク粥な。あと水も1杯くれ」

「我が輩はベーコン付き目玉焼きとパンを一切れ。
 いつも通り半熟で頼むのである!」

「オイラは玉子入りサンドイッチっす!
 弁当用にも一つ欲しいッス!」

「了解。出来上がりまで待っててくれ」

そう言ってアルフはカウンター内にあるキッチンで調理を始める。
既に下準備は整っているので、空腹になっている彼らを
あまり待たせずに済むだろう。

「ガルシアー、昨日酒盛りにでも参加してたのか?
 あまり顔色が良くないぞ」

「あー・・・実は昨日参加した討伐依頼で活躍してしまってな・・・」

ロンドからの問いかけに対してガルシアはそう言い、
左手の指先四本で自分の左側頭部を押さえる。
ロンドの指摘通り、顔色も通常の猪頭人より不調気味だった。

「ガルシアさん、あまりお酒強くないんですか?」

「いつものことであるよ。
 下戸なのに他人に勧められた酒を断れぬとは。
 いっそ手柄を他に譲ってしまえば呑まされる機会も減るのである」

心配をするティアラをよそに、ゼファートが呆れながら話す。

「・・・請け負った仕事に一切手は抜けん。
 それに、人からの好意も無碍にはしたくない」

「全く・・・損な性分であるなぁ。
 呑ませる方もいい加減に学習して欲しいものである」

厳しく言いながらもガルシアの身を案じるゼファートの振る舞いに
ティアラは彼らの確かな友情を感じ取っていた。

「そう言えばみんなももう見たッスか?今朝の瓦版ッ!」

ポポルが新しく話を切り出し、バッと羊皮紙を広げて見せた。
それはロンドが持ち込んだものと同じ瓦版だった。

「ビックリっすよォー。まさか赤と黒の騎士が城下町に現れるなんて!」

「あ、赤と黒の騎士、ポポルさんもご存じなんですね?」

「当然ッス!颯爽と現れては困ってる人を助け、見返りも要求せずに
 去っていく!いやー、男としては憧れずにいられないッスよ~~!」

はしゃぎながら瓦版を眺めるポポルに親近感を感じたティアラは、
思わずこの話題に乗ってきた。
自分と同じく、赤と黒の騎士に好意を抱いている人と出会えたことに
喜びを感じずにはいられなかったのだ。

「もしかしてティアラちゃんも好きなんスか?
 カッコいいッスよねェーーー!赤と黒の騎士!!」

「そうなんですよー!実は私、この前その赤と黒の騎士に助けられて・・・」

「えぇーー!?何スかそれ!!
 詳しく聞かせて欲しいッス!!」

赤と黒の騎士談義に花を咲かせている2人をよそに、ロンドとゼファートは
彼らとは対照的に何やら気まずそうな顔をしていた。

「あー、えーっと2人とも?」

「そういった話題は今、やめておいた方がいいのである・・・」

そう言われてファンの2人がきょとんとしていると
カウンター席の奥から怒気の籠もった声が聞こえてきた。

「・・・・・・下らん」

ガルシアだ。表情を崩してはいないものの、テーブルに乗せていた右腕は
ワナワナと震えていた。

「え・・・なんであんなに怒っているんですか?」

「・・・ガルシアはな、正体を隠して戦う者が気に入らない性分でな?」

「なぜ己の素性を明かさずに戦うヤツをああも持てはやすのか、理解できん」

ゼファートがしどろもどろに説明している最中に
ガルシアが自ら事情を話していく。
口調は荒れていないものの、そこに含まれている感情は間違いなく
反感的なものだった。

「しかも見返りを求めないだと?
 力ある者が対価を得るのは当然のこと。それを放棄するなど
 尚更信用できんな。いや、もしかしたら何か裏があって
 人々を油断させている可能性も・・・」

「そ、そんなこと!あの人はそんなことを企んでいる人じゃありません!」

ガルシアの話す内容にティアラは思わず席を立って反論する。
しかし・・・。

「だが、どうする?
『赤と黒の騎士は無報酬で助けてくれた。お前達も無報酬で助けろ』
 そう言われたら君はどう対応する?」

ガルシアが言い返してきた言葉に何も言い返せなくなってしまい、
言葉を詰まらせてしまう。
彼の主張はもっともで、これは仕事を奪われるのではないかという
不安を抱いた人々の声の一つであると感じられた。
そして何より、自分が慕っている赤と黒の騎士に反感を
抱いている人を目の当たりにしたことに、ティアラはショックを受けてしまう。

 重くなってしまった雰囲気の中、アルフは水を入れたコップを
ガルシアの前へ静かに置いた。

「朝っぱらから何刺々とげとげしい話をしてんだよ。
 そんな眉間に皺を寄せてちゃあ、今日受ける依頼も上手くいかねぇぞ?」

「あ、あぁ、そうだな」

水を受け取ったガルシアはぐいっと水を一気飲みにし、自分の苛立った
感情を抑えるべく一息ついた。

「すまない・・・二日酔いで少し気が立っていたようだ」

そう言って詫びの言葉を入れて頭を下げたところで
ゼファートが話題を変えるべく、あっと声を上げた。

「そ、そういえばであるが、今日のアルフ殿は昨日と違って
 !な?そうであろう?」

「・・・?そんなに変わってるか?」

不思議そうに自分の顔をペタペタ触るアルフを見て、他の常連も
納得するかのように「あー」と言いながら頷いていく。

「言われてみればそうだな。何というか
 が落ちた様な・・・?」

「アニキー、昨日なんか良いことでもあったんスかー?」

彼らの反応を見て、事情を知っているロンドはニヤリと笑う。

「あれ?ロンドの兄さん、その顔は何か知ってるッスねー?」

「これは我が輩も興味あるのである。
 ロンド殿、包み隠さず話すのである!」

事情を知っているであろうロンドにゼファートとポポルが
教えるようせがむも、ロンドは頑なに話そうとはしなかった。
勿論、この常連3人には赤と黒の騎士がアルフであることは
伏せられているうえ、立ち直った要因を語ることは
それを明かすも同然である。

「あーもう、俺のことはいいだろ!
 飯も出来たから冷めないうちに食べてくれ!
 二人も朝食まだだよな?折角だから食べていってくれ」

照れくさそうにしながらアルフは出来上がった料理を
順番に出していく。
ロンドとティアラにも朝食が振る舞われ、一同は
料理の美味しさに心を奪われつつも、今日一日を生き抜くための
活力を得たのだった。


 食事も終わり、常連3人は代金を置いてから朝の酒場を後にしていく。
その際、ガルシアは出て行く前に振り返り、ティアラの方を見た。

「・・・さっきは済まなかった。
 君の言う『』を否定するような真似をしてしまった」

「い、いえ、どうか気にしないでください。
 私も・・・ガルシアさんの様な考えを持つ人がいるなんて
 思いもしなくて・・・」

申し訳なさそうにするティアラの姿を見たガルシアは、気にするなと
言わんばかりに優しく笑みを浮かべ、「また来る」と言い残して
店を後にした。
少し離れたところでポポルが
「ガルシアさーん、だったらオイラにも謝ってくださいよ-!」と
言ったことに対し、ガルシアは
「あぁ、悪かった悪かった」と適当に返していく。
そんな彼らの背中を見送った後、ティアラはカウンター内で
洗い物をしているアルフの方を見つめる。

彼女から見て、確かに今のアルフは昨日と打って変わって
がなくなっていた。
きっとこれが本来の彼なのだろう。

それと同時に、ある疑問も生まれた。

何故、目の前で自分の存在が疎まれていることを言われても
平気でいられるのか。
そして自分と出会う前、彼の身に一体何が起こったのか。
様々な疑問が生まれながら、ティアラはアルフについて
もっと知りたいと思うようになっていた。


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