異世界英雄バトルナイト

後島大宗

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第1部:赤と黒の騎士

13.Act03:迂闊-正体バレは二度起きる-④

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「いいかい、ティアラちゃん?
 この野草は腹下しに効いて、こっちは解熱作用がある。
 この青い花が咲いてるやつは化膿止めになるよ。
 あとこれは・・・」

 ここは以前ティアラ達が邂逅した同じ森。
今回彼らは、森の出入り口から浅いところで
薬草の採取を行っていた。
その採取と平行して、錬金術師のロンドは
後輩の少女に薬草の知識を伝授していた。
治癒士たる者、自身の魔力のみで傷を癒やすだけではなく、
薬を併用しての治療も行えなければならない。
そのため、治療関係の役割を持つ者には自身の有する
魔力の質や精度だけでなく、階級ごとに様々な知識が要求されていくのだ。

 ティアラはロンドの指導を熱心に聞き、現在
教えられている薬草の情報を身に付けている。
彼女の熱心な眼差しを横目に見て、ロンドも教え甲斐があると
一層指導に熱がこもっていく。

そんな二人から少し離れたところで、アルフは辺りを見渡しながら
『何か』を探していた。

「うーん、提供された情報だとこの辺りだと思ったんだが・・・。
 ロンド、もうちょっと奥まで行ってくる」

「ああ、少し待ってくれ。僕らもついて行くよ」

ロンドは採取した薬草をまとめたあとに立ち上がり、
一緒にいたティアラに同行を促す。
彼曰く、「良い機会だから普段の戦い方も見ておくといい」
とのことらしい。

 二人は戦闘に巻き込まれないよう、少し距離を取って
アルフの後について行った。
そしてしばらく進んだあと、先頭にいたアルフが
言葉を発さないまま左手で静止の合図を出した。
後続二人の足が止まったのを確認すると、アルフは
携えていた鞘から剣を抜いてゆっくりと歩き出した。
何があったのか、ティアラが前方をよく見てみると
向こうにある大木の根元で大きい『何か』が蠢いていた。

「あれって・・・もしかして?」

「しーっ・・・。僕らに気付かれるとまずい」

そこにいたのは弾丸ボアというイノシシ型の魔獣。
その名の通り、その突進は銃弾並の殺傷能力があることから
名付けられたと言われている、とても気性の荒い魔獣だ。
今回見つけた個体は食事中だったのか、大木の根元に
顔を突っ込ませていた。そこに生えていたキノコでも
食べていたのだろうか。

「Bugy...?Bugyeeeeeeee......!」

こちらの気配に気付いたのだろうか、弾丸ボアが
アルフの方を向き、その存在を目視すると鼻息を荒く出して
威嚇行動をとりだした。

「食事中に悪いな。だがこっちも仕事でな・・・ッ!」

アルフは掛かってこいと言わんばかりに剣を構え、剣を
頭上へ振り上げる。
魔獣もそれを見て片方の前脚を激しく動かし、地面を掻いていく。

「あ、あの!大丈夫なんですかあれ!?」

「大丈夫大丈夫!恐がらずにちゃーんと見てて!」

「Bugyeeeeeeeeeee!!」

不安がるティアラに対し、ロンドは楽観的に答える。
そうしてる間に弾丸ボアが突進を仕掛けてきた。
全長がヒューマの成人男性の腰辺りまである巨体が
凄まじい勢いでアルフに迫ってくる。
魔獣の迫力に臆すことなく彼は構えを解かない。
そして瞬く間に距離を詰められていく中で絶好の瞬間を捉え、
一歩踏み込んで構えていた剣を勢いよく振り下ろす。

「BugyaAッ!?」

大きく鈍い音が響き、それと同時に弾丸ボアの頭部が
かち割られ、アルフは絶命した魔獣の巨体に少し
押されながらも無傷で獲物を仕留めることに成功した。

「---とまぁ、だ」

「いや、こんな感じだって言われても困ります」

 一瞬の出来事にティアラは困惑するしかなかった。
本来、弾丸ボアは複数人で倒さなければならないほど
強力な魔獣である。
そんな弾丸ボアを一人で正面から切り伏せたアルフの実力に
ただただ脱帽するしかなかった。
しかし---。

「言っておくけど、銀階級の前衛役はだからね?」

信じられない一言が耳に入ったのは気のせいだろうか。

「いや、言葉が足りなかったな。訂正しよう。
 上位の銀階級だと普通になってくるからね」

どちらにせよ信じがたい言葉だった。
新人である彼女の目から見て、銀とそれ以上の階級が
遙か高みに見えてきた。

「おーい二人とも-、こっちに来て手伝ってくれーー!」

アルフに呼ばれ、二人は討ち取られた魔獣の
ところまで駆け寄った。

 指定された魔獣を仕留めたら、まずは確認しなければ
ならないことがある。
組合から提供された魔獣の個体の特徴が、討伐対象のものと
一致しているかの確認作業である。
ただいたずらに目に付く魔獣を狩るのではなく、実際に
被害を出している個体を見つけ出し、それを
討伐することが重要なのだ。
仮に討伐対象とは別の個体を仕留め、それで依頼達成と
認定しまった場合、取り扱った組合と対応した冒険者の
信用は損なわれ、依頼元も更に被害を受けることになる。
それを防ぐためにも組合と冒険者は、情報を正確に
取り扱い、慎重に依頼をこなさなければならないのである。

さて、今回彼らが討伐した弾丸ボアの個体だが、
およその体長や全体的な特徴の一致から
指定された個体であることが判明した。
もし達成までの過程で別個体を仕留めた場合でも、
組合側からその分の追加報酬が支払われるが、勿論限度はある。
今回は運良く一体目で達成出来たため、ティアラも
先ほど見た光景を何度も見せられずに済んだことを思い、
ホッと胸をなで下ろした。
仕留めた獲物に処理を施すため、一行は近くの沢まで
獲物を移動させた。

「さーて、処理も早いとこ終わらせてっと・・・・・・?」

「・・・アルフさん?」

 作業用の短剣を取り出し、しゃがんで処理を始めようとした矢先に
アルフは手を止め、不意に立ち上がって森の奥を見た。
その様子を不思議に見たティアラを横に、ロンドは神妙な顔をする。

「ここは僕らがやっておく。
 君は急いで向かってくれ」

「---悪い、任せた」

「あと、分かってると思うけど
 から、
 コトが終わったら直ぐに戻ってきてくれ!」

「おう!」

そう返事をして、アルフは駆けながら腰にバックルを付け、
昨日見た動きをして森の奥へと入っていった。
そして彼が入っていったところへ向けてが見えたと同時に
「変身ッ!」の掛け声が聞こえた。


 アルフが離脱した後、ロンドは何事もなかったかのように
後輩に向けて弾丸ボアの処理作業の指導を行った。
まずは全身を沢に浸けての洗浄。
続けて頸動脈の切断も兼ねた頭部と胴体の切り離し。
次に腹部を切開してからの贓物摘出に血抜き作業。
そして贓物を穴を掘った地面に埋め、
これで処理作業は終わりであることを告げた。
ちなみに頭部は討伐の証拠として組合に提出するため、
胴体の移送用とは別の袋に詰められた。
更に彼曰く、後衛役はこういった作業を請け負うことで
仲間内からの評価も上がりやすく、様々な技術を
身に付けていくことが階級昇格の強みにもなるという。

一連の作業を終えて一息ついたところで、ティアラは
ロンドに疑問をぶつけてみた。

「あの、ロンドさん。アルフさんのことで
 もっと知りたいことがあるんですけど・・・」

「なんだい?
 知りたいことなら特殊性癖以外、何でも聞いてくれ!」

「いえ、特殊性癖は別に・・・」

気を取り直し、改めて尋ねる。

「---アルフさんって、さっきの様にして
 誰かを助けに向かうんですか?」

「・・・そうだね。詳しい仕組みは
 僕にも分からないんだけど、あいつが言うには
 

話を聞く限りでは、どうやらアルフは
『命の危機に瀕した際に発される感情』を感知することが出来るらしい。
しかしその範囲は際限がないワケでもなく、
ある程度制限はあるものの、決して狭くはないという。
それを知ったことでアルフが二度、ティアラの元へ
颯爽と駆けつけてこられた理由にも納得がいった。

 そしてもう一つ、ティアラには知りたいことがあった。

「ロンドさん、どうしてアルフさんは・・・
 一度、変身することを止めたんですか?」

この質問を受けたことで、ロンドの顔色が一変する。
ティアラの疑問も尤もだった。
あれだけの力があるなら、彼の精神も強靱なはず。
それだけの精神力を有しながらも、アルフは一度心折れて
赤と黒の騎士もとい、バトルナイトになることを止めてしまった。
それほどの壮絶な出来事を彼女は想像出来ず、意を決して
ロンドに尋ねてみたのだった。

「------ごめん、流石にその件は僕の口からは言えない、かな・・・」

絞り出す様な声でロンドは答える。
彼女が知りたい気持ちは分かる。
しかしこればかりは当人抜きで気軽に話せるものではない。

彼の脳裏にが蘇る。
猛吹雪の中、やっとの思いで辿り着いた先で
膝から崩れ落ちていたアルフの後ろ姿を発見する。
慌てて駆け寄って声を掛けると、振り向いた彼の表情に絶句する。
一体の異形を胸に抱きながら涙するその表情は、
今まで見たことのない程、絶望に満ちていた。
嫌でも忘れられないあの光景を思い出してしまい、ロンドは
参ったように頭を抱える。

「本当にごめん・・・。
 君の知りたい気持ちは分かるけど、これを
 他の人へ伝え聞かせる資格なんて僕にはないんだよ・・・!」

普段の振る舞いから想像つかないほど、今のロンドは
悲愴な様子をさらけ出していた。
彼の思わぬ変化に、ティアラも慌てふためいてしまう。

「す、すいません!
 私ったら無神経なことを聞いてしまって・・・」

「・・・いや、気にしなくて大丈夫だよ。
 それに安心して。この件はいつか必ずあいつが自分の口から話すから。
 それまではどうか・・・」

落ち着いてきたのか、ロンドは冷静な口調で
答えを待ってもらえるよう話して頭を下げた。

「---はい、私、待ちます。
 それと、気軽に立ち入った話を聞こうとして本当にごめんなさい・・・」

ティアラも自分の軽率な思いつきを反省し、ロンドに深く謝罪をした。

 辺りに重い空気が流れている・・・。
ティアラは責任を感じ、この雰囲気を変えようと一つ、話題を変えようとする。

「えーっと・・・。
 そういえばアルフさん、いつ戻ってくるんでしょ。
 何だか遅くないですか?」

彼女の言葉にロンドがハッとする。

「言われてみればそうだね・・・。
 いい加減戻ってくる頃合いだと思うんだけど」

そう言ってアルフが駆け出した方向を見やった。
すると・・・。

「---あぁ、やっと戻ってきた!」

奥から現れてきた人影を確認し、ロンドは立ち上がって
「おーい!」と声を掛けながら手を振り、後輩と共にそちらへ向かった。

「随分遅かったじゃないか!向こうで何かあったのか?」

「ああ、えぇっと。何があったというか・・・」

心配するロンドに対し、気まずそうな表情を浮かべるアルフ。
しどろもどろに返答をするし、何故だかこちらと視線を合わせない様にしている。

「あ、あの!ひょっとして間に合わなかったりとか・・・」

「いや、間に合った。助けは間に合ったよ・・・?
 ただなー・・・」

ティアラが抱いた不安は即座に否定された。
だがどうも歯切れが悪い。
そういったやりとりをしていると・・・。

「えへへ、こんにちはー!」

アルフの後ろから一人の少女がひょこっと現れた。
マゼンタピンクの髪色で、歳はティアラとアルフ・ロンドの間といった印象だ。

「え・・・だ、誰!?」
「あ、えーっと・・・はじめ、まして?」

突然の邂逅に驚き戸惑う二人に対して、アルフが口を開く。

「悪い、ロンド。・・・!」

申し訳なさそうな顔で白状したアルフの一言に
辺りはシィーンと静まりかえる。

「・・・・・・・・・はぁ!?」

脳の処理が追いつかない中で一番聞きたくない言葉が発せられ、
ロンドは思考がまとまってから信じられない!と言わんばかりの大声をあげた。





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