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女王の言葉(女帝の逆位置)

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女王の言葉(女帝の逆位置)

 普段とても親身に接してくれる、女帝さん。そんな女帝さんには、お姉さまがいる。きっと姉妹そろって親身なのだろうと想像された方、甘いですよ。

「くだらないわね、捨ててしまいなさい!」

 彼女の名は『女帝』の逆位置、先程も言ったように女帝さんの姉にあたる存在だ。女帝さん同様に国を治めるお姉さまは、非常に横暴な上に我儘な女王様で、主な意味もそれに伴い『傲慢・横暴・束縛』など。彼女の一言と気分で、全ての事柄や決まりが覆される。

「女王様、こんにちは」
「あら、誰かと思えば……無能な主じゃないの。私の機嫌を伺いに来たのかしら?」
「無能なりに貴女の意見を聞きに来ました、お話聞いてもらえます?」
「あら、私を頼るとはいい心がけじゃない、気分がいいから聞いてあげるわ」

 そんな横暴な彼女だが、気持ちの良いくらいにスパッと嫌なことを切ってくれる。この日も彼女に聞いてもらいたい話があり、尋ねてみたのだがタイミングが良かったようだ。

「さぁ、聞こうじゃない。無能な主は高貴な私にいったいどんなくだらない話を聞かせに来たのかしら?」
「聞く前からくだらないって決めつけるところが清々しい……まぁ、確かに女王様からしたら、全部くだらない話ではあるか……」

 彼女は決して偽りを言わない。全て彼女がその時に思った事感じたことを、包み隠さず話してくれる。妹の女帝さんも話は聞いてくれるしアドバイスをくれたりもするが、やはり私に遠慮してかオブラートに包んで話してくれる。それがありがたいときもあるが、遠慮されていることに疎外感を覚えてしまう時もある。

「ふぅ~ん、やっぱり無能な主が持ってくる話はどれもくだらない話ばかりね。退屈しのぎにもならないじゃない」
「ははは、すみませんねこんな話ばっかりで……」

 不思議と彼女にくだらない話だと言われても、嫌な気がしない。それは心の何処かで自分も同じことを考えているからなんだと最近は思う。
 話し始めた当初は、真剣に聞いてくれない彼女に怒りを覚えたが、その直後にスッキリした気持ちになった。
 その理由を探るべく、懲りずに彼女に話をしに行くようになり、やっとわかったのだ。本当は、くだらない話だと切り捨ててほしかったのだと。こんなことでもやもやする時間がもったいないと、別のことに時間を使いなさいと、叱ってほしかったのだと。
 そんな私の思いにこたえてくれるのは、彼女しかいないのだ。何の遠慮もない、建前もない。ド直球に自分の意見をぶつけてくれる、そんな存在。

「あら、今日はずいぶんと物分かりがいいようね。やっと分かってきたのかしら?」
「貴女にしごかれているおかげで、何となくね」
「無能が有能になるのも、そう遠くはないかもしれないわね。勿論私には到底追いつかないだろうけど」

 彼女からの嫌味にも、随分慣れたものだ。それどころか闘争心が湧いてくる。本当に不思議なものだ。

「その時は召使として雇ってあげてもよくてよ、でしょう? 残念だけどその時にはやりたい事を見つけて専念するから」
「あらそれは楽しみね、私の召使いになるのが先か有能になって自分のしたいことをするのが先か……楽しみだわ」

 今日も女王様は高らかに嗤う、でもそれは決して嫌味ではなく彼女なりの愛情であることを知るのは、もう少し先の話。
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