私と彼等の日常は、あまりにも非現実的すぎる(逆位置編)

死神の嫁

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逃れられない罪(吊るされた男の逆位置)

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 『吊るされた男』と聞くと、正位置の姿が思い浮かぶ。彼は自身の意志であの体勢になっていると聞き、彼なりに自分の犯した罪に向き合おうとしている事に感銘を受けた。

「主ちゃーん、これ解いて~!」
「……」

 然し、この男は自身の意志では無いらしい。出会い頭に足の縄を解いてくれとせがまれる。

「あんたね……ちょっとは反省しなさいよ!」
「何をだい? 僕は何もしてないじゃないか! なのにこんな姿にされてるんだ……理不尽だよー!」

 彼の名は『吊るされた男』の逆位置、主な意味は『逃れられない運命・他人のせいにする・足を引っ張られる』など。正位置とは異なり、足を縄で縛り付けられ、常に何かから引っ張られている。それから逃れようとしているのか、何時も出会い頭に解いてくれとせがまれるのだ。

「大体どういった経緯でそんな格好になったの? やっぱり何かしたからじゃないの?」
「僕は被害者で騙されたんだ! 僕の意志でやったんじゃない……なのにこんな仕打ち……あんまりだよ!」
「あ、そうなんだ……じゃあ正位置さんとは異なるんだね……」

 彼曰く、昔ある人に騙され大罪を犯してしまい、いくら身の潔白を証明しようとしても聞き入れて貰えず未だに引きずり込まれているのだとか。大罪を犯した事に変わりはないのだろうが、その要因を生み出した人物が居るのであれば、本人も納得は出来ないのだろう。

「僕は確かに大罪を犯した、それは変えられないのは分かってるんだ。だから受け入れようとも思ってる……でも、やっぱり心の底ではどうしてって気持ちがあるんだよ。どうして僕だけがって気持ちは拭えない……」
「そうだよね、実際あなたは利用されたんだもの。被害者なんだよね……」

 私は複雑な思いを胸に抱えながら悶々と考えた。彼は大罪を犯した、その事に関しては反省するべきではある。当然被害者側から非難の声も上がるだろうし、その声に対する償いを一生をかけて行わなくてはならない。
 然し彼もまた、別の誰かによって騙された身。視点を変えれば彼も被害者になる。勿論だが、それでも罪は無くならない。罪は無くならないが、周りのものが少しでも彼に耳を傾けていれば、お互いの気持ちも少しは晴れたのでは無いだろうか。

「主ちゃんが話を聞いてくれるだけで救われるよ、本当にありがとうね。僕は僕が犯した罪と向き合うよ、それが今の僕がするべき償いだしね。いつか、僕のように騙されて大罪を犯してしまった人の心を、救えるようになりたいな……」

 彼はそう言って悲しそうに呟いた。
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