異世界踊り子見習いの聞き語り マルチカダムの恩返し~魔輝石探索譚異聞~

3・T・Orion

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2.へなちょこキックで勝負

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魔物の話を口にしたウィアに、ニウカは一切悪びれることなく気楽に言い返す。

「何言ってんだ? 動物も魔物も食ったもん返すなんて事はしないさ」

「そんなこと無い! 心ある生き物なら、助けられれば有り難いって思う。特に食い物の恩ってのは、直接心に響くんだ!」

ニウカの小馬鹿にするような断言する物言いに、ウィアは食べ物から伝わる慈愛を説き…真っ向から挑む。

「はぁ? 生きるために食ってるんだし、食っちまったら全部消えちまうんだ。食いもんの恩なんて、結局糞になっちまうだけさ」

「お前がクソなだけだ! 食い物の恨みは恐ろしいんだぞ。奪うだけで感謝の無い奴は、いつか痛い目見るからなっ」

「ちっせぇ~な~! 恩を売ろうってんなら、もう一皿寄越せっつーんだ。それなら糞にしかならない恩でも、しょーもない恨みでも買ってやらぁ」

思わず平手打ちを食らわせたい気分になるが、ウィアはグッと怒りを飲み込む。

「余っ程…お前より恩を知ってる魔物の話を聞かせてやるから、自分の恩知らず加減を反省しろ!」

売り言葉に買い言葉で険悪?…に見えるが、いつものアノ勝負に雪崩れ込む流れ。
勿論ニウカも受けて立つ。

「ほぉ~。魔物話を教訓に説教しようってんなら、幾らでも聞いてやる。だけどなぁ~いっつもチョロい話ばっかしてっから、全然…心に響かねぇんだよなぁ~。いくらでも何度でも…後腐れなく食っちまえるわ」

「!!!!!」

ウィアは怒りで一瞬言葉失う。
昼時終わりに始まった…飯を取った取られたの2人の争い、いつもより…じゃれ合いが緊迫している。
飯を盗み食った…処罰されて然るべきニウカの生意気さが半端ない上、何だか偉そうに場を仕切り…煽るかの如き文言まで口にし始めているせいかもしれない。

此の状況を、周囲の大人達は聞き流す。
ある意味…ウィアに実害が出た状況であり…仲裁する大人が1人ぐらい居ても良さそうなのだが、一座を取り仕切るリビエラが日頃から掲げる "命の危険さえなけりゃあトコトンぶつかってみるのが真の繋がり生み出すコツ!" と言う荒事容認主義の方針が行き渡るお陰で…誰も反応しない。

しかもニウカが執拗に突っかかる原因を察する大人達は、其々に…シラっと無表情で遣り過ごしたり…ニタニタと含み笑いしたり…吹き出すのを堪えたり…皆で平静装い生暖かい目で見守る。
本人達は真剣其の物…であり、ウィアに何故突っかかってるか自身でも理解してないニウカに至っては…一層ウィアを焚き付ける。

「あぁ~分っかんないかもしれないけどぉ、お前のヤツ…蕩けるような…最高の味わいだったぞぉ」

「はあああ??? …っくっそ、アタシの熊肉!! お前は倍食ったから、味わった分だけ一層旨いって思えたんだろ!」

「そっか~オレが食ったのと違う気がしたのは、お前の分まで食ったからかぁ~」

悪びれずに語るニウカの鼻先に指を突き立て、ウィアは怒りのままに言葉放つ。

「ぐぁぁぁぁー、本っ当~に腹立たしい! 脳ミソごと腐って塞がっちまってるような耳の穴、今からでも綺麗にかっぽじって良~く聞きやがれ。オッチャンから仕入れた素晴らしーい話で…己の罪を認められるよう親切丁寧にアタシが改心させてやるから、お前も其の出来損ないの残念な頭を高速回転させ…少しでも理解する努力をしてみろ! そうすれば…お前のやらかした事が、魔物より劣る所業である…って自覚できるようになるはずだ」

腹立ちまぎれの…相当な上から目線の物言い、師匠の息子である事とか年下である事とか…ウィアの中から建前が消し飛び出た啖呵。
ウィアは、ニウカを悔い改めさせると断言する。
ニウカがヤラカシタ所業…其れを発端に、ウィアはいつもの聞き語りへと持ち込む。


「今回の話も…いつもの宿屋常連のおっちゃんが話してくれたんだけど、おっちゃんの師匠でもあるじーちゃんから聞いた話だそうだ」

「めっちゃ胡散臭いオヤジの師匠のじーさん…って、何もんだ? 怪しさ満点だな」

「おっちゃんは色んな所を周って仕事をする、商人で武人で…国からの仕事も引き受ける凄腕だ! おっちゃんも色々な所行くから面白い話を一杯知ってるんだが、今回は其の師匠が更に遠い所へ行って見聞きした話だ! 凄いよなっ」 

「…ったく、騙されんじゃないぞ! そもそも、一体何の師匠だってんだよ。其れに…今時金さえ有れば遠くまで行き放題だし、少しも凄くなんかないっ」

相変わらず突っかかってくるニウカだが、ウィアはお構いなしに続ける。

「…で、其のおっちゃんの師匠が赴いた先で仕入れてきた話の中で、おっちゃんのお墨付きの…おっちゃんの師匠が仕入れた話だ」

「おっちゃんおっちゃん…ってクドイ」

適切な感想かもしれない。
だがニウカのうんざり顔を余所に、ウィアは目を輝かせながら語る。
ちょっと魔物の威を借る獣と言うか…見知らぬジジーの威を借る…と言った感じなのに、とても嬉しそうで…得意気だ。

「アタシも直接じーちゃんに会ったのは1度きりだが、呑気な感じのじーちゃん…っつーてもバリバリに強そうな奴だったぞ。ポツリポツリとしか語らないんだが…何~か癖になる喋りでな、じーちゃんは王様の師匠にもなったことがあるらしいんだからな!!」

「ふーん…ったく、嘘くさ。師匠…師匠って、お笑いか詐欺師の師匠なんじゃねーか?」

ウィアが自慢げに語るジジイ達の話に、ニウカの表情が不機嫌そうに曇る。

「実際凄い奴は何処までも凄いんだ、だから師匠は師匠なんじゃないか?」

「…で?」

更なるウィアのジジイへの称賛に対し、ニウカは臍が曲がってる時の癖である…言葉短かな返事をする。だが其れに気付いても、ウィアは気にせず続ける。

「…此れは樹海と砂漠と湖が程近い…とある場所へ狩りに行った奴等の話らしい」

勝負を挑むように突っ掛かったニウカと…周囲で聞き耳立てつつ見守る大人達、全てを巻き込み…物語の中へ沈んだウィアの声が物語を静かに紡ぐ。



「そっちだっ!」

「捕まえたか?」

「あぁ、簡単だ。ほれっ!」

ラダの手からケイスに渡ってきたのは、ケモケモの獣…いやっ魔物のよう。
獰猛さとは掛け離れた見た目なのに魔力放ち、一丁前に魔石を持っている様だ。
此のチンチクリンのモソモソした生物、今回依頼されている捕獲予定の魔物と比べれば…限りなく雑魚。
だが放たれた魔力は、魔物と言うにはショボ過ぎる。

マルチカダム…噛猫熊と言われる魔物、チョビっとした見た目に反し…樹海に良く居ると言う魔物熊の系統。
だが此の魔物の希少価値は高いと思われる。
砂漠で見掛けることのない…此処にいる事自体予想外の魔物であり、最強と言われる熊系魔物とは性質異なり臆病な性質のようで警戒心強く…生息域でさえも目撃情報自体が少なく滅多に捕獲される事が無いらしい。
ケイスの頭の中、何処かで見た情報がチラリと過る。

捕まえたソイツをクルリと手で回し…大体何なのか把握したケイス、通じないとは思いつつも…声掛ける。

「悪い奴だな! ひとの飯盗もうとするから捕まっちまうんだぞ!」

そしてケイスは大きな袋を咥えたまま足掻いてジタバタするソイツを、腕に抱えたまたま…更にまじまじと眺める。
生態として…砂漠での生息は難しいはずなのに、何故か此の地で捕らわれ…ムグムグと元気に暴れている魔物。
抱えた腕の中…短かい足を必死に回転させるが、威力無く…攻撃としては無意味であり虚しく空を切るのみ。

「何故こんな所に居るんだ?」

ソイツと会話するように呟き、ケイスは暴れまくるモフモフ毛玉を押さえつけつつ…更に記憶を呼び起こす。

樹海の奥…鬱蒼と茂る木々の間に生息すると言われる魔物であり、苔むした横長の岩…に見えるよう木々の根本で擬態する。普段は他者に存在悟られぬよう転がるように移動し、危機的状況に陥ると立ち上がって2足歩行で消えるように逃げる。
其の姿から、 "幻の小人妖精" …と呼ばれる。
希少魔石の近くで見られる事が多く、 "幸運の印石" …とも呼ばれる。
単独では弱いが、集団で狩りを行えばオークぐらいは余裕で倒す勇猛さ見せる。

狩猟組合の埃を被った資料室で、そんな感じの情報が記載された本を見た気がした。

「樹海深部に生息するんだったよな…」

目の前に居る…威嚇しているのに見ているだけで気が抜けそうな呑気な感じの魔物、砂漠地域で生活するケイスには馴染みがない存在。

「コドコドっぽい顔つきなのに、何でか間抜けだな。資料を読んだときは、熊だけあって意外と狂暴な面があるんだ…って感心したんだがなぁ」

見ているだけで、何とも言えぬ気の毒さを感じてしまう。

「もしかして、油断誘うため…策略か!?」

資料の印象に近付けるべく推し量ってみたが、今…腕の中で足掻く実際の姿を目にしていると…何だか酷く残念な気分が増す。

組合で閲覧出来る資料は、貴重な情報源の1つ。自身が半人前である自覚を持つケイスは、レダの迷惑にならぬよう…少しでも役立つよう…読み尽くす。
実際に活用出来たので、結構信用していた。

「気を付けないとな…」

必ずしも手に入れた情報が…組合の資料などが絶対的に正しい訳でなく、信憑性の低い伝承の如き内容まで含まれる事もあるのだと実感し…盲信しないよう自省した。
そして、改めて自身の目で実際に確かめる。

ケイスの視界に入る、小ぶりで…見るからに弱々しいケモケモ。胴が長いのか…足が短い故に長く感じるのか、脇を抱えると緊張感無く間延びし…必死にバタつく足は滑稽でさえある。
小さな耳を思いっきり後ろ側に倒しながら…クリクリとした瞳に怒り宿し、目一杯? 抵抗しながら威嚇してくる。其れなのに…少しの迫力も醸せぬ、憐れみ誘う魔物。

『本当に動物に近いようだ…。勿論…魔を帯び突然変異したものではなく…世代重ね命繋ぐ系統の魔物なのだろうが、此より強そうな獣など山程居るぞ。…書いてあった通り、土魔力を含有する魔石を持つと言うのは正しそうかな。でも、何か他にも魔石の気配が…ある…よう…だが…』

資料の内容を検証していたケイスは、其の真剣な言葉とは裏腹に…徐々に表情が弛んでいく。
其れは実際の観察で、資料に記載の無い特徴を発見したから。

『…だが…何より、此の特筆すべき特徴が書いてないじゃないか!!』

「ふぁ~病みつきになる程のフカフカの手触り~究極のモフモフ~。あぁぁ…全身…まみれてみたい…」

思わず声に出してして呟いたのは、ケイス自身が残念に見える一言。
相方のレダに捕まえてもらったケモケモは…抱えてみて初めて気付いたが、極上の…綿毛の様なホワホワのモフモフ毛皮を持つ…愛くるしい魔物であり愛玩用にされそうなぐらいに心地好い。
人を駄目にする、最高のモファモファ。

見極める為の短い間…極上の魅惑的モアモアに触れ、ケイスは其の至福の感触に現を抜かし…堪能してしまうのだった。
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