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1.悩める国王様?

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世界が魔力の暴走による終焉迎えたかと思われた…大事変と呼ばれる出来事。
人々は懸命に乗り越えようと、力合わせ慌ただしく復興に勤しむ。

だいぶ落ち着いてきたとはいえ、各国各所全てに取り組むべき事が山積し…魔物の手足でさえも使いたいぐらいの人手不足であった。
それなのに、優先して考えるべき大事が沢山あるはずの…国王と言う重要な役職こなすべきモノが、身近な2名の若者の行く先が気になり余計な事に心が傾いてしまう。

未来ある優秀な力持つのに、自ら限界を決め留まる…次の一歩を踏み出さない臆病な者達のもどかしい行動と、勇気持てない諸事情へ向ける憤りと憂慮。

『奴らを動かすべきか…状況を動かすべきか…』

陽光の如き橙の瞳を瞼の中に沈め、眉間のシワ深くしつつ黄土の髪に手をやり…余計な事に頭悩ませる。

境界を越えてしまった…完全には人とは言えないような力持つモノであるのに、自身が何故に他者の些末な状況を気にしているのかが気になり…取るもの手につかない。
自身で判別のつかない思い…其処に宿る憤る心持ちは理解できたのだが、危惧し案ずる心の方が今一つシックリ来ない。
かつて持っていたはずの心持ちであるのに、理解できぬもどかしさに更に苛立つ。

『自身で決断下す巣立ちは、生物として必要な経験である。…なのに気付かず留まる愚かしさに苛立つ…のは解るが、何故にそれがオレの気掛かりにまでなるのか…』

他者を思い…救う力得るために、人の身で魔物の思考受け入れ融合した。だが本能優位な魔物の思考は、人としての情や思いから離れていく。
其の上…世界の管理者…と言う、真に超越した役目を背負わされ…悠久の時を生きる事にまでなってしまった。人としての常識的思いや気遣いから、どんどん離れていく自身を傍観者の様に眺めることしか出来ない。
己が向かう先を憂慮する思いは、ニュールの心を締め付ける。

それでも "見捨てられない" …と言う思いは残り、国王なんて立場までも背負っているのだ。結局…魔物な心持ちであっても度が過ぎるお人好し…であるのは、普通に人であった頃と変わらないニュール。
だが自身の中での結論と言えるような、本能で裏付けられるような理由を導き出せないために、非常にもどかしさを感じるのだった。

『思うようにならぬ状態で他人を案ずるより、自身を何とかせよ』

自分の内に住む助言者コンシリアトゥールとなった叔父でもあるニュロや、数々の過去の大賢者達の記憶の中から受ける訓戒。
その他にも、現存する周囲の者たちからも同じような指摘を受けていた。

「我が君は十分過ぎるほど背負ってらっしゃいます。周囲を切り捨ててでもご自愛下さい」

懇願するようなピオの言葉。
ニュールの耳に届くが、行動には反映されない。

『単純な攻撃…と言うモノなら…確実に自身を優先するのが当然。最終的に優先すべきは自分自身である…とは理解している…』

自身の思考を見直し、割り切れてはいるはずだとニュールは思っていた。
しかし、自身が切っ掛けとなり引き入れてしまったような若者達に対して持つ、 "責任" …の様な思いからは逃れられないし…何故か手放せない。

『執着…此れがオレの憂いの正体…なのかな…』

自身の思いに、取り敢えずの結論を付けてみる。
魔物な心持ちならば "どうでも良い事" …そんな事なのに、心揺らし保護者的責任を持ちたいニュール。

その親心的な気持ちなど露知らず過ごす若者2人。
ミーティは踏み出せる余力が自分にある事さえ気付かず…現状に甘んじているし、モーイは今居る場所に固執し…自ら囚われている事に気付かない。
そんな、もどかしい状態への不満がニュールの思考を占める。

魔物な心を持つニュールの保護下にいる子供達…と言うには育ちすぎている、もう巣立つべき時を待つだけの者達。
その姿を、憂い含む橙色の瞳で見守る。
そして自身の中に残る…人の心持ちで生じたモヤモヤを解消するため、ニュールは決断を下す。


非日常の極みと言える…天変地異的な大魔力降り注ぎ大地揺れる大事変を乗り越えたプラーデラ王国も、他国同様…徐々に日常を取り戻しつつあった。
平穏と言えるような何気ない日々の巡りが少しずつ穏やかに築き上げられる中で、ミーティは国王ニュールニアに告げられる。

「お前、実家に帰れ…」

「えっ?!」

急に国王執務室に呼び出された上で言い渡された内容に、ミーティは憤る。

「何それ!」

艶やかな黒髪黒目の優し気な青年はシャキッとした表情で立っていたが、その理解及ばぬ指示に表情が固まる。
このプラーデラの地に留まってからの1の年の程で、ミーティからは幼さ残る少年…といった雰囲気が完全に消え、見た目だけなら若手将校といった感じの一人前の青年に見えるようになっていた。

ニュールから依頼されたピオは、心から嫌々指導する。厳しく丁寧に…趣味を取り入れ、虐めぬくが如くミーティを鍛え上げた。
その姿は筋肉嫌いのピオが一目見て苛つぐらいの…彫像のような肉体美持つ、柔和な整った顔立ちの立派な好青年に育っていた。
お陰でピオから時々、本気の蹴りと殺意向けられた鍛練を受ける。

だが言葉や態度は未だ少年…と言った感じを残しているため、見た目と行動に落差がある。
申し渡された内容に、頭を掻きむしりつつ何が何でも此の理不尽に抵抗してやる…と言った表情で国王であるニュールを睨み付け異議申し立てる。
その姿はとても大人…とは言い難かった。

「承諾するわけないっしょ!」

そして立て続けに、日頃の自身の働きを並べ立て切に訴え掛ける。

「何でオレだけ? オレちゃんと遣れてるよね…遣れてますよね? 毎日鍛練してるし、一般兵の訓練も受け持ってるし、魔物の討伐にも出てるし、面倒なピオや厄介な姉さんの相手もしているんだよ!」

日々の通常業務に加えて、厄介な偉い人達の相手をする業務まで含む。
ニュールに心酔している手強いお二方の相手は、最近ミーティが担当になっていた。
かなりうるさくて粘着質で猟奇的な元敵である現プラーデラ王国の宰相務める、ミーティの戦いを指導するピオの暇潰しの遊び相手。
そして、姉さん…元敵国の将軍であり非常識な戦闘狂の現プラーデラ王国軍務大臣であり将軍であるディアスティス…との戦闘訓練。
どこまでも命懸けになる此の2人への対応…此れをこなすだけでも感謝して欲しいぐらいだとミーティは思っていた。

現在の立場になる前からニュールとミーティは旧知の旅仲間であったが、今やニュールは絶対的上司と言える国王になっている。
そのニュールに対し、取って付けたような敬語っぽい言葉で本心ダダ漏れの状態で詰め寄る。

「こんなに頑張ってるオレに出て行けって、意味わかんねーです!!」

実家に帰れ…と言う言葉を、ミーティは解雇みたいなモノだと思い込んでいた。
ミーティの心情としては、青天の霹靂…と言った気分だったのだ。

ニュールについて行きたいという衝動に動かされ、一緒にプラーデラ王国まで辿り着き…今に至る。何だかんだと凄い人たちに囲まれ過ごす内に、色々と吸収し成長している自分に満足していた。
しかも自分の能力を生かし、成長し貢献もしている…と言う自負もあった。
その為余計に納得出来ない思いに駆られる。

「別に追い出す訳じゃない。ご褒美の休暇みたいなモノだ…ついでに頼みたい事も有るんだ」

ミーティの思いと勢いに驚くが、ニュールはどこまでも冷静に本来の目的を包み隠し伝える。

『お前は成り行きで…覚悟持たずに此の場に留まっている。自身の決断を周りに示し出直せ!』

ニュールは声に出し強く指摘したかったが、言葉を飲み込む。
身も蓋もなく駄目出ししてしまいそうな、配慮しない魔物の意識持つニュールであっても予想出来る展開。

『言葉として伝えてしまえば、反発だけで重要な事を放り投げてしまうだろう…』

此の年代の者が聞き入れる耳を持たぬのは百も承知…そんな事は、自身の胸に手を当てたりして考えて見るまでもない。
ニュールは実の親とは魔石内包することで引き離されてしまったが、周囲に対し反抗的に過ごした記憶が通り過ぎた道々に山ほど残る。今の魔物な心持ちの強いニュールであっても、恥ずかしくなるぐらい理解できた。

一応、主従…と言う関係性ではあるが、「王命だ」 と立場使い脅してみたとしても… 「冗談言うなよ~」 の一言で済まされてしまうだろう。ミーティにそう言った力業は通じないし、主従だけでは表しきれない関係…それ故に余計な手出しも口出しもしにくい。

だから少しだけ言うこと聞きたくなるように手を回しておいた。
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