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5.不穏な集落
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集落のある外周壁内…門内の空間は清浄であり、先程の気になる負の魔力が淀む様な感じは内部へは影響していないようだ。外壁に施された防御結界陣が効果を発揮しているのだろう。
『樹海の魔力の乱れか…集落内部が正常なら問題ないと言う事かな…』
一応ミーティもモーイから言われて感じた違和感を隠蔽かけた探索魔力で探るが、門周辺には怪しさ感じられないことを把握し少し安心する。
ミーティは魔力の扱いは不得意であったが、探索と隠蔽だけはピオから嫌になるほど念入りに叩き込まれたので周囲の者に気取られることもなかった。
取り敢えず集落内の状態は納得できるものだったので、ミーティは当初の予定に従い…祖母であり…語り部の長である…アクテの住む家へ行くことにした。
「そんじゃ、行くよ」
ミーティはラオブに別れを告げ、進み始めようとした。
その時、肩を捕まれ…前に回り込まれ…予想外に行く先を遮られる。
「ダメだ、今は集いの最中なんだ…」
立ち入りの拒否…今までに無いことであったが、其の事を告げるラオブの表情は酷く冷ややかだった。
「何で…」
ミーティの中で沸き起こる疑問を、言葉として口にする前に返事が帰ってきた。
「お前…貴方は今回、身内という立場だけではなくお客様でもあるから…」
「今さら戻った部外者様に教えてやれよ!」
途中から言葉遮り割り込み、強い口調で責め立てるように横から声を掛けてきた者がいた。ラオブの弟…ミーティの幼馴染みのニドルだった。
「黙れ! 集落の長よりの言いつけを守るんだ」
ラオブが強く制止すると、ニドルは不服そうに睨み付けるが言葉押し留める。
ニドルとは仲が良いと言う関係性ではなかったが、頭ごなしに罵るような言葉かけられる仲でもなかったのでミーティは驚きの表情を浮かべる。
「今は語り部の集いの最中、儀式に関係する者以外の祭場周辺は立ち入り禁止なのです。語り部長の家はその周辺だから集落の者も近づくことは禁じられてます」
「前はそう言うの無かったよね?」
ミーティは飄々とした態度で気軽に質問する。
「貴方が集落はずれの館にある古い転移陣から外部へ飛んだ後の…まだ1の年経ったか経たないかの決め事です。ウチへ…滞在場所へ案内する者を付けますので、本日はそちらへお願いします」
何故か目線外すが、それでも丁寧に質問に答えるラオブ。
語り部の集いとは…集落の語り部が集まり、新規の記憶の記録の共有と過去の記憶の再形成と定着を行う儀式である。
その間、語り部と集落の要職に付くもの以外は集う場所に近づけぬ。
以前からも集う時は、集落に招かれる様な事は無かった。だが、もし偶然その時に集落を訪れたとしても、厳密に管理されるような事は無かった。
そもそも集う場所には結界が施されているため、例え不届き者が現れたとしても近付けないはずだ。
それでも最近施された決まり事に従い、今回は集落の代表の家にある客人用の離れが貸し出されることは決定事項のようだった。
ミーティとモーイは徒歩で転移陣ある森の館から集落まで移動したので、集落に着いた時には既に日が暮れていた。
「今は少し集落の人手が減っているので、詳しい話などは集いが終わった後にお願いします。お食事等はご用意してありますので、儀式の妨げにならぬよう離れから出ないようにしてください」
門を管理していた幼馴染の兄であるラオブが一通りの対応をした後、案内する別の者に引き継がれた。その者もミーティにとっての馴染みの者であり、双方が幼い頃から知っている知人である。それなのに浮かべる表情は冷たく、態度の中に殺気まで籠るようだった。
もともと祖母や母の居ない時の集落での扱いは知れていたので、ミーティはあまり気にしなかった。
案内された集落の長の家の離れは、元々来客用として作られたもので数棟連なっている。簡素ではあるが堅牢な作りの建物であった。
その中で一番小振りな建物に通されたが、それでも中に入ると10メル四方の広間のような大部屋に4部屋ほど個室が付いていて予想より広々としていた。
「以前と雰囲気が違うんだな…」
集落長の家まで連れていかれ離れまで案内されたあと、言葉通り既に用意されていた夕食を前に今まで口を閉ざしていたモーイが呟く。
和気あいあいとした前回の訪問とかけ離れた緊張感ある状態をモーイは訝しむ。
そんなモーイに、気楽な感じで事も無げに答える。
「まぁ、オレに対しての事は気にしないでくれ」
モーイが更に顔をしかめるのを気にもせず、ミーティはカラカラと笑い飛ばすのだった。
案内人が去ったあと、ミーティは屋敷の敷地内に指定をかけ隠蔽した探索魔力を広げ周囲を確認する。
「特に襲撃するような者の気配は無さそうかな…敵意や悪意はあるが、本格的な害意…殺意までは…今のところ…多分、大丈夫…かな。流石に親族に近いような者達の中でその部分は信用したいんだけどなぁ…」
昔馴染みの…以前より際立ったあからさまな態度を取られ、寂しげな表情を浮かべるミーティ。
もっともモーイは親族こそ、油断と危険を孕む存在であることを知っていたので、ミーティの言葉を素知らぬ顔で流すしかなかった。
「雰囲気だけじゃなくって…言動の辻褄が合わない感じだったじゃないか」
モーイは善意の解釈をしようとするミーティの心情を気遣いながらも、門での集落の者達の応対に違和感があったことをハッキリと伝える。
「どこらへんが?」
ミーティはモーイが抱く引っ掛かりを全く感じなかったようだ。
「ここに来る前にニュールが連絡してたし、了承の返事もちゃんと貰ってただろ」
「えっ、だからお客だから何たら…って言って、此処に通されたんだろ?」
ミーティはモーイの持った疑念をまだ理解出来ていなかった。
「ミーティが門に現れたことに、随分驚いている感じだった」
「久しぶりに会ったからじゃねえの?」
ミーティにとっては集落は善良であり、ミーティ自身がどのような対応受けていたとしても然程気になることでもなかったのだ。
「それだけじゃない感じ…一応滞在先など予め用意してあるくせに、まるで集落に実際辿り着いたこと自体に驚いていた感じだったじゃないか」
「うん……確かにそうだな…」
モーイに強く言われ、遅ればせながらミーティもその時の様子を思い返し少し違和感を覚える。
自身の中の思い込みを取り払うように考え込んだ。
かつて好意的であった者達からも、以前から集落の一部の者が向けてきた侮りのような感情を示された。より強い…拒絶感の様なモノや、一瞬すれ違っただけの者の中に、憎しみ…に近い感情を浮かべる者さえも居た。
人の心の機微に疎いミーティでさえも感じとることが出来る…あからさまな変化。
完全な部外者として扱われたために生じたのか…時の流れにより起こったことなのか…他の要因があるのか…、いずれにしても何か予期しない事が水面下で動いているような感覚。
意識の奥底で何か予兆の様なものが蠢き、2人の心をザワつかせる。
「ニュールの事前連絡は、プラーデラ王国の使者として訪問する事を申し入れたって言ってただろ?」
モーイは、出発前にニュールから言われた事をミーティに伝え確認する。
「うん、オレもソレ聞いた」
「まるで来るはずが無い者が来た…って感じの反応になるのは、おかしいんじゃないか? 非公式だからって、国の使者を受け入れる…って返事をしたなら、迎えぐらい寄越すだろ。それが出来ない火急の要件があったからって、少なくとも門でアノ応対は無いと思うぞ」
モーイが違和感の覚える理由…とも言えそうな部分を取り上げ、次々とミーティに疑問をぶつける。
「…そうだな、客として扱う…ってことは、連絡は伝わってたって事だよな。顔見て戸惑ってたのは…来られないだろう…って確信してたってことだよな」
ようやくミーティもモーイが抱いた不信感を理解し始めた。
「あぁ、来られないようにしてあった…って事じゃないか?」
そしてモーイが決定的な違和感の正体を口にした。
だが確実な証拠がある訳でもなく、消化しきれない疑いだけを残し…それ以上の手掛かりを探し出すことは出来なかった。
「来た時の転移陣の事で、少し気になることがあるからニュールに確認出来ると良いのだけど…」
「転移魔石で手紙でも送るか? そういう時のためのもんだろ」
「そうだな…確認したからって謎が解けるわけでもないけど、スッキリはさせときたいな」
「あぁ、食えるもん食ったら始めるか」
ミーティは気軽な雰囲気のまま、より慎重に考え始める決意をした。
『樹海の魔力の乱れか…集落内部が正常なら問題ないと言う事かな…』
一応ミーティもモーイから言われて感じた違和感を隠蔽かけた探索魔力で探るが、門周辺には怪しさ感じられないことを把握し少し安心する。
ミーティは魔力の扱いは不得意であったが、探索と隠蔽だけはピオから嫌になるほど念入りに叩き込まれたので周囲の者に気取られることもなかった。
取り敢えず集落内の状態は納得できるものだったので、ミーティは当初の予定に従い…祖母であり…語り部の長である…アクテの住む家へ行くことにした。
「そんじゃ、行くよ」
ミーティはラオブに別れを告げ、進み始めようとした。
その時、肩を捕まれ…前に回り込まれ…予想外に行く先を遮られる。
「ダメだ、今は集いの最中なんだ…」
立ち入りの拒否…今までに無いことであったが、其の事を告げるラオブの表情は酷く冷ややかだった。
「何で…」
ミーティの中で沸き起こる疑問を、言葉として口にする前に返事が帰ってきた。
「お前…貴方は今回、身内という立場だけではなくお客様でもあるから…」
「今さら戻った部外者様に教えてやれよ!」
途中から言葉遮り割り込み、強い口調で責め立てるように横から声を掛けてきた者がいた。ラオブの弟…ミーティの幼馴染みのニドルだった。
「黙れ! 集落の長よりの言いつけを守るんだ」
ラオブが強く制止すると、ニドルは不服そうに睨み付けるが言葉押し留める。
ニドルとは仲が良いと言う関係性ではなかったが、頭ごなしに罵るような言葉かけられる仲でもなかったのでミーティは驚きの表情を浮かべる。
「今は語り部の集いの最中、儀式に関係する者以外の祭場周辺は立ち入り禁止なのです。語り部長の家はその周辺だから集落の者も近づくことは禁じられてます」
「前はそう言うの無かったよね?」
ミーティは飄々とした態度で気軽に質問する。
「貴方が集落はずれの館にある古い転移陣から外部へ飛んだ後の…まだ1の年経ったか経たないかの決め事です。ウチへ…滞在場所へ案内する者を付けますので、本日はそちらへお願いします」
何故か目線外すが、それでも丁寧に質問に答えるラオブ。
語り部の集いとは…集落の語り部が集まり、新規の記憶の記録の共有と過去の記憶の再形成と定着を行う儀式である。
その間、語り部と集落の要職に付くもの以外は集う場所に近づけぬ。
以前からも集う時は、集落に招かれる様な事は無かった。だが、もし偶然その時に集落を訪れたとしても、厳密に管理されるような事は無かった。
そもそも集う場所には結界が施されているため、例え不届き者が現れたとしても近付けないはずだ。
それでも最近施された決まり事に従い、今回は集落の代表の家にある客人用の離れが貸し出されることは決定事項のようだった。
ミーティとモーイは徒歩で転移陣ある森の館から集落まで移動したので、集落に着いた時には既に日が暮れていた。
「今は少し集落の人手が減っているので、詳しい話などは集いが終わった後にお願いします。お食事等はご用意してありますので、儀式の妨げにならぬよう離れから出ないようにしてください」
門を管理していた幼馴染の兄であるラオブが一通りの対応をした後、案内する別の者に引き継がれた。その者もミーティにとっての馴染みの者であり、双方が幼い頃から知っている知人である。それなのに浮かべる表情は冷たく、態度の中に殺気まで籠るようだった。
もともと祖母や母の居ない時の集落での扱いは知れていたので、ミーティはあまり気にしなかった。
案内された集落の長の家の離れは、元々来客用として作られたもので数棟連なっている。簡素ではあるが堅牢な作りの建物であった。
その中で一番小振りな建物に通されたが、それでも中に入ると10メル四方の広間のような大部屋に4部屋ほど個室が付いていて予想より広々としていた。
「以前と雰囲気が違うんだな…」
集落長の家まで連れていかれ離れまで案内されたあと、言葉通り既に用意されていた夕食を前に今まで口を閉ざしていたモーイが呟く。
和気あいあいとした前回の訪問とかけ離れた緊張感ある状態をモーイは訝しむ。
そんなモーイに、気楽な感じで事も無げに答える。
「まぁ、オレに対しての事は気にしないでくれ」
モーイが更に顔をしかめるのを気にもせず、ミーティはカラカラと笑い飛ばすのだった。
案内人が去ったあと、ミーティは屋敷の敷地内に指定をかけ隠蔽した探索魔力を広げ周囲を確認する。
「特に襲撃するような者の気配は無さそうかな…敵意や悪意はあるが、本格的な害意…殺意までは…今のところ…多分、大丈夫…かな。流石に親族に近いような者達の中でその部分は信用したいんだけどなぁ…」
昔馴染みの…以前より際立ったあからさまな態度を取られ、寂しげな表情を浮かべるミーティ。
もっともモーイは親族こそ、油断と危険を孕む存在であることを知っていたので、ミーティの言葉を素知らぬ顔で流すしかなかった。
「雰囲気だけじゃなくって…言動の辻褄が合わない感じだったじゃないか」
モーイは善意の解釈をしようとするミーティの心情を気遣いながらも、門での集落の者達の応対に違和感があったことをハッキリと伝える。
「どこらへんが?」
ミーティはモーイが抱く引っ掛かりを全く感じなかったようだ。
「ここに来る前にニュールが連絡してたし、了承の返事もちゃんと貰ってただろ」
「えっ、だからお客だから何たら…って言って、此処に通されたんだろ?」
ミーティはモーイの持った疑念をまだ理解出来ていなかった。
「ミーティが門に現れたことに、随分驚いている感じだった」
「久しぶりに会ったからじゃねえの?」
ミーティにとっては集落は善良であり、ミーティ自身がどのような対応受けていたとしても然程気になることでもなかったのだ。
「それだけじゃない感じ…一応滞在先など予め用意してあるくせに、まるで集落に実際辿り着いたこと自体に驚いていた感じだったじゃないか」
「うん……確かにそうだな…」
モーイに強く言われ、遅ればせながらミーティもその時の様子を思い返し少し違和感を覚える。
自身の中の思い込みを取り払うように考え込んだ。
かつて好意的であった者達からも、以前から集落の一部の者が向けてきた侮りのような感情を示された。より強い…拒絶感の様なモノや、一瞬すれ違っただけの者の中に、憎しみ…に近い感情を浮かべる者さえも居た。
人の心の機微に疎いミーティでさえも感じとることが出来る…あからさまな変化。
完全な部外者として扱われたために生じたのか…時の流れにより起こったことなのか…他の要因があるのか…、いずれにしても何か予期しない事が水面下で動いているような感覚。
意識の奥底で何か予兆の様なものが蠢き、2人の心をザワつかせる。
「ニュールの事前連絡は、プラーデラ王国の使者として訪問する事を申し入れたって言ってただろ?」
モーイは、出発前にニュールから言われた事をミーティに伝え確認する。
「うん、オレもソレ聞いた」
「まるで来るはずが無い者が来た…って感じの反応になるのは、おかしいんじゃないか? 非公式だからって、国の使者を受け入れる…って返事をしたなら、迎えぐらい寄越すだろ。それが出来ない火急の要件があったからって、少なくとも門でアノ応対は無いと思うぞ」
モーイが違和感の覚える理由…とも言えそうな部分を取り上げ、次々とミーティに疑問をぶつける。
「…そうだな、客として扱う…ってことは、連絡は伝わってたって事だよな。顔見て戸惑ってたのは…来られないだろう…って確信してたってことだよな」
ようやくミーティもモーイが抱いた不信感を理解し始めた。
「あぁ、来られないようにしてあった…って事じゃないか?」
そしてモーイが決定的な違和感の正体を口にした。
だが確実な証拠がある訳でもなく、消化しきれない疑いだけを残し…それ以上の手掛かりを探し出すことは出来なかった。
「来た時の転移陣の事で、少し気になることがあるからニュールに確認出来ると良いのだけど…」
「転移魔石で手紙でも送るか? そういう時のためのもんだろ」
「そうだな…確認したからって謎が解けるわけでもないけど、スッキリはさせときたいな」
「あぁ、食えるもん食ったら始めるか」
ミーティは気軽な雰囲気のまま、より慎重に考え始める決意をした。
応援ありがとうございます!
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