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24.出直して一緒に進む

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不退転の決意で今後進む先を決めたミーティなのだが、一番最初に皆の前で公表した…最重要案件については…中々一歩目が踏み出せなかった。

自身で宣誓した…モーイへの告白。

聞いてもらえない事には何も始まらない。
いつもながらのニュールから受ける治療に伴うミーティの呆れた行動…のせいで、モーイに近寄ることを許してもらえなかった。

それでもミーティはひたすら追いかけ、子供のように無邪気に…小動物のような潤んだ瞳で…モーイの足元に跪き…縋り…なりふり構わず謝罪する。
どんなにモーイが冷たく接し…顔を背け…足蹴にし…弾き飛ばしても、何処までも付き従い擦り寄ってくる。
避け続けるモーイと追いかけ続けるミーティ、途中から何故か本気の攻防が始まる。

アクテの館の周囲を使った鬼ごっこによる訓練をしているような状態、2人とも体調は回復はしていたので際限がない。
子供の頃から此の場所で遊んでいたミーティは場を制し、モーイの隠れて居そうな場所を手に取るように把握する。モーイは以前の職業柄…隠密行動が比較的得意であり、絶妙な加減で逃げ切り見つからないよう切り抜ける。
まさしく、イタチごっこ。

あまりにも決着付きそうもないので、ミーティは勝負に出る。
離れの周囲にある木立の陰…ある程度場所を限定し、モーイに向かい…何十回目かの謝罪の言葉を大声で投げかけた。

「モーイごめん…本当にごめん…」

叱られた子供のように悄気たミーティが、哀願し…話を聞いてもらえるように…乞い願う。恥も外聞もなく…果てし無く許しを求めるミーティの気持ちが痛いほど届く。
モーイはちょっと根負けしてしまった。
あまりの低姿勢で憐れなミーティの様子に、距離を開けつつも話を聞く姿勢になる。無言ではあるが、逃げ隠れを止めて…その場に留まる。
逃げなければ直ぐに近付ける…ミーティは直ぐに5歩の距離まで近づいた。

「モーイ…此処に居てくれて…聞いてくれて…ありがとう…」

ミーティは真摯な瞳でモーイを見つめ続ける。

「いっつも怒らせる様なことしちゃってゴメンな…」

素直な…心からの謝罪に、モーイの心の扉が次第に開く。

「オレ達…多分同じ思いを持っていると思うんだ…」

俯いたままでいるモーイだが、耳を傾けてくれているのが感じられたのでミーティは勇気を振り絞り続ける。

「あのさっ…おれっ、ニュールに関わって…近づいて、憧れて、拾われて、救われて…主として掲げ、この人に何かを少しでも返せるなら、命掛けられると思う気持ち持っているんだ…」

まずニュールへの思い語るミーティの言動に "…んっ?" と怪訝に思う。
だが確かに、其の思いはモーイが抱く気持ちと一緒だった。

一生掛けても返せない恩…感謝伴う思慕…全て捧げても後悔しないと確信持つ思い。

だからこそ、全てを受け取ってもらうために…そして自身の心の抜け落ちた部分を埋めるために…モーイはニュールを散々過激に誘惑し、篭絡すべく手を尽くしてみた。
だがニュールは毎回上手くかわし…モーイの目論見は失敗する。
本当に面倒ならば、適当に受け入れて捨ててしまえばそれまでなのに…まるで大切な者に…思い違い指摘するかのように…拒否し続けた。
ミーティも選択する行動は違うけど、モーイを大切に扱う。
そして、其所にはニュールからは手に入れられなかった、特別…が付く大切が有る気がした。

モーイの中で巡る思いを包み込むように…優しく…そして熱い思い込めてミーティが続ける。

「だけど…それとはまた違う感じかもしれないけど…モーイに対しても…同じようにオレ…命捧げられると思うんだ」

ミーティの言葉は真剣だった…モーイの心へと真っ直ぐ届く。

「オレ、モーイのこと大好きだ! だから…同じ方向へ…モーイもニュールへの思い持ったままでも良いから、一生一緒に進んでいけたら良いなって、だから…」

モーイは答えにならない答えの代わりに、今までの思い溢れ…涙を流していた。
ミーティはそれに気づくと、離れていた距離を一瞬で埋めてモーイを抱きしめる。
ただただ…思いを込めて…思いを受け止めて…。
そしてミーティが伝えていた最後の言葉は、モーイの耳元で囁かれることになる。

「…だからな…、モーイが納得出来る時が来たら…オレと結婚して欲しい…考えてもらえると嬉しい…」

純粋な…策も思惑も無い…状況読むこともない…心からの気持ち込めた素直な告白。
ちょっとだけ、飛び抜けた流れで…想像の斜め上を行き…全てを凌駕しそうな…予想外の結末を求められただけだった。
一足飛びの結婚申し込みに、モーイは言葉受け取るだけで手一杯で何も考えられなくなってしまった。


樹海の集落とプラーデラ王国としての会見済ませた後、ニュールの行動は早かった。
一応公式訪問と言う感じに整えたので1日滞在して接待や視察なども行ったが、翌日の朝出発する事は決定事項にしていた。

「オレは明日朝一で移動するから、お前らは自分たちの体調や希望に合わせて行動して良いぞ…」

「えっ、ニュールと行った方が楽じゃん!」

ミーティとモーイに告げると、ある意味ミーティからは予想通りの答えが返ってきた。
最悪な状態だったミーティの体調は、ニュールの治療で超短時間での回復を果たしていたし…確かに問題はない。

「いやっ、ゴタゴタしてたし…居心地悪い状況だっただろ?碌に休んでないし…」

既に、集落での状況を全て把握しているニュール。
折角、祖母アクテや母イラダと過ごせるようになったのであるから…と気を遣う。

「集落での扱いは子供の頃からあんなモンだったし、用事は済んだし…気になんないよ。行きたくなったらまた休みとって行くから大丈夫だ!」

ミーティは全く気にしていなかった。
好きな時に休み取る気満々であるが、直属の上司であるピオが易々と許可与えるとは思えぬ。だが、そんな上司の存在をミーティはすっかり忘れているようであった。

「モーイは良いのか?」

「アタシは早くフレイに会いたい!」

ミーティからの予想外の最終告白…まで受けて、内心動揺するモーイ。少しでも相談できる場所が欲しかったので、心からフレイに会いたかった。
モーイがその場で拒絶しなかったため、検討はしてくれると判断した楽観思考のミーティは、 "告白成功!" …っと相当浮かれている。
ミーティの其のお気楽さが妙な圧力となり…モーイのあせる心持ちを増す。結局モーイの希望により…最初の予定通り、3人で揃ってエリミア王国の賢者の塔…青の塔へ向かうことになった。

会見のために呼び寄せたニュールの側近達は森の転移陣使わせてもらい、既に早朝…直接プラーデラに戻てもらっている。
今更だが…来た時の陣は、集落の長達の策略によって最初は破壊されていた…とニュールから直接知らされた。
事も無げにニュールは転移陣を修復し使っていたのだが…その事実を知らせる返事は、ミーティが持つ懐の転移魔石の横で今の今まで眠っていた。

「おいっ、返事ほしくて問い合わせたなら確認ぐらいしろ! 流石にそれは非常識だぞ!」

ミーティの頭の上にニュールから軽く拳固が降ってきたのは致し方ない。


「本当にこんなウツケモノで申し訳ないだい…」

見送りに来たアクテがその話を聞き及び、頭を抱える。
イラダも見送りに来ていたが複雑そうな表情浮かべミーティを見つめる。

「便りがないのが元気な証拠…なんてのは、横着な無精者の言うことだよ! 公私ともに、きっちり連絡…かっちり報告! それが大人ってもんだよ。まぁ、相談は身近な所でしてくれて構わないけどね」

ミーティに向けた言葉の後に、イラダはモーイを抱きしめる。

「ちょっとお馬鹿だけど、頼りになるところもあるから宜しくね」

予想外の抱擁と言葉に異様なほど緊張して固まるモーイ。表情は真っ赤になり照れっ照れで、何だかんだと言いながらイラダの言葉に頷く。

そして久々に出会えたニュールにもイラダは抱擁しながら挨拶する。
今は魔物の心と完全に融合してしまった状態だが、ニュールも旅の途中で寄ったスウェルでの出会いは忘れていない。

「久しぶり…元気そうだね。それに何か凄く立派な感じになってて…吃驚しちゃったよ」

「あぁ、久しぶりだな。ミーティは大切に預からせてもらうよ…」

「うん、父親役お願いね! バシバシ育ててやって」

イラダはニュールに抱きついたまま、微妙な表現でミーティを任せる。
そして少し色々な思い込めて、ニュールを仰ぎ見る。

1年ぶりの邂逅である。
以前と変わらず非常に魅力的な…お姉さんな感じの、ミーティの母。
ニュールに対して然り気無く持っていた好感度は、再会し強さを感じ取る事でイラダの中で跳ね上がった。今イラダは、完全に狙い定める肉食獣の瞳で熱くニュールを見つめている。
夢見心地な気分にさせてくれるお布団になる…豊かな双峰も健在であり、魔物と同化する前のニュールなら…簡単に陥落していたであろう。
だが今のニュールは込められた思いを理解しつつ、微笑みながら余裕で退ける。

『何? この母さんのニュールへの空気感って?!』

ミーティの直感が警鐘を鳴らす。

「変な行動すんの止めろよな! オレの主を誘惑するな!!」

母の魔の手から、主を守る。

「我が主に手を出すな!!」

ピオが良くミーティに対し憤り叫んでいた気持ちを…ミーティは少し理解出来た気がした。
主に不埒な思い抱くものは排除する気概を持つ。
アクテもその行動見てヒョヒョヒョッと笑いながら微笑ましそうに述べる。

「ミーティよ、成功すれば最高の父さんが得られるんじゃから邪魔するじゃないだい。まぁ、爺ちゃんを手に入れる…ってのも有りかもしれんぞぉ! お前の主様は、ワシとはチュウしちゃった仲じゃからな!」

アクテも意識下での消耗激しく、それ迄の負荷もあり…此方へ戻った時はミーティ以上に深刻な状態だった。
その状態から救うため、一番に治療受けていたのだ。
ミーティ同様に相当駄々をこねた様だが、その時の状況などおくびにも出さない。
過酷な状況から生還して直ぐに場を取り纏められたのは、完全回復していたからだ。

ミーティはあまりにも元気で…自由すぎる家族の困った言動に振り回され、げんなりした表情になる。
そして決意する。

「オレは穏やかで平穏な…愛溢れる家庭を築く!!」

青少年は絵に描いたような美しい夢を見るのだった。


プラーデラに戻る前にエリミアの賢者の塔を訪ねるのは、ミーティ達の予定に組み込まれている旅立つ前から与えられたお楽しみ事項。
そこへニュールが同行することになったのだ。
実際は別行動希望したのに、無理やり同行されたのはニュールの方である。

「皆、何だかんだ忙しく過ごしていたから、1の年近く直接は会ってないか…」

ニュールの呟きにミーティが乗っかる。

「そうだよなー、フレイがどーんだけデッカクなってるか楽しみだな!」

「お前っ!! 何かその言い方、イヤらしい感じだぞ!」

「えっ、オレ別にフレイの乳がデカくなってるのを期待してるとか言ってないぞ!!」

「今、言ってる!」

「変なこと考えてないもん! オレの好きなヒトは此処に居るんだから関係ないさ」

そう言ってモーイを抱きしめるミーティ。

「ばかっ!!」

告白の返事を返してないとはいえ、抱きしめるミーティを拒絶することもなく、言葉は強いが許容しているモーイ。どう見てもツンデレ属性…というやつか。
もし、この後ミーティへお断りの返事をしたとしたら、気の毒…としか言いようがないだろう。
不毛な…まとめて馬鹿が付くような2人組…彼氏彼女の痴話げんか的遣り取りに巻き込まれているニュールは、煩くて面倒な状況の中で気が遠くなる。

「…やっぱ面倒だから、オマエら別口で行け」

手をヒラヒラしながら追いやるが全く気にしてない様子…いつもながら話を聞く気はない様だ。

「何か、皆で旅してる時みたいでワクワクするな」

ミーティが無邪気に…背が伸びて楽に届くようになった腕を、今度はニュールの肩に回す。

「うん、懐かしい感じだな」

そう言って、今度はモーイまでニュールの腕に絡みつく。
ニュールも大きな溜息をつきながらも、諦めたかのように楽しそうに笑う。

「あぁ、まだまだ旅は終わらないからな…」

ニュールは転移陣の青い輝き放つ起点を作りながら改めて告げる。

「覚悟を決めたなら出発するぞ!!」

そして残像残し、次の場所へ飛び立つのだった。
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