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23.思い固める

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ニュールが魔物の力を注ぎ込み行う…口付けを介した治療方法。
累代魔物は傷ついた時に魔物同士で同様の行動を取る。
魔物の癒し行動…と言われ、魔物の研究者により完全回復の症例も数十例確認されている。
実際に類似している行動…治療である。

ニュールの持つ力は、体の組織を活性化させ回復を促し…魔力を強制的に循環させ…本来の状態へと導く強烈で強力な治療法である。
魔力活性集約点ホットスポットなどによる治療の比ではない、完璧な回復へと早急に導く。
若干…獣的行動…とも言えるため、ニュールに心酔するピオが治療受ける者に対して…毎回憤る。
そのため色々と研究して行為伴わぬ治療…他の方法を模索しているが、今のところ有効な代替方法は見つかっていない。

治療であると周知するため、あらかじめ集落の者…医事司る者達にも治療方法を説明した。傷に対し、目の前で直接口から魔力流すことで起こる効果の実証もしてみせた。
それに…見るものが見れば魔力などの譲渡と同様、治療により回路が活性化している状態が見て取れるはずである。一瞬ギョッとされ…引き気味の対応はされたが、納得はしてもらえた。

だが、それによって引き起こされる施術受けた者の状態は…周囲の怪訝な表情を生み、一歩後ずさる人々を生む。

この治療の唯一の欠点…。
魔物が持つ…魔物魔石による魅了効果を受けた…とでも言えるような状態に陥るのだ。
この魅了効果は、苦痛和らげるための本能に働きかける力から及ぶ…と思われるのだが、ヒトにとっては大変厄介な効果である。

ミーティにとっては定番の反応であり、慣れっこな状態であった。
治療開始により…ミーティの理性は…いつもの様に吹き飛ぶ…。

勿論、治療であるがゆえに軽く済ませる予定のものなのだが、ミーティが毎回ニュールの頭を捕まえ…抑え込み離さない…。
深く貪るように吸い付き、絡みつき…離れようとするニュールの頭を必死に手繰り寄せるミーティ。
我を忘れて行動する。

今回も一気に動けるぐらいまで回復したミーティが、周囲の者など一切目に入らないかの様に恍惚とした表情を浮かべ…ピオに止められる更なる先を求めるかのようにニュールを力強く…引き寄せる。
魔物なニュールは性別問わず来るもの拒まないし、治療のためであり気にもしてない様子。

周囲に居合わせた5~6名の世話する者達の反応は様々で、その光景に嫌悪感浮かべ "ウゲッ" と声出しそうな者…冷静に興味深げに観察する者…思わずウットリ一緒に魅了され逆上せる者…様々だった。

横にいるモーイの表情は、刻々と…確実に…冷え冷えと…凍っていく。

『このまま放っておいて、何処までやらかすのか見てみたいもんだよ』

心で呟くが…当然のようにミーティに対してのみ怒りが湧く。

『昨日…人に言い寄ってたヤツが、身もだえしながら男を引き寄せ恍惚とした表情で口付けている微妙な状況…って、どう考えりゃあ良いんだかな…こりゃ浮気になるのか?』

怒りと蔑みが同居するような気分になるモーイ。
顔をしかめつつも目を離さず…見つめる。

『煩悩から解放されて悟りが開けそうだよ…』

頭の芯から感情が冷えていくのをモーイは感じる。
万人の目がある中で更に突き進むのなら、心の崖から…ミーティを突き落とすつもりだった…一生目に入れぬ為に…。
だが、幸いその先の濃いい状況を目にする事は無かった。

「馬鹿やってるで無いだ! まったく…此の餓鬼は、モノにしたい女子の前で…しかも仕える主に対して何をしくさってるんだい!」

アクテは引き連れてきた者達に、ミーティを取り押さえるように指示する。
体調は治療によりほぼ完治…と言う所まで一気に導かれているようであり、抵抗する力も強かったようだ。正気失い、ニュールに絡みつき逆上せるミーティはやっとの事で警護の者に押さえつけられた。
その場には超絶微妙な空気が広がっていた。

少し時間が経ち、魔物の力による魅了が解け…気迷いから解放されたミーティだったが、随分と気まずそうにモーイに視線を送る。
モーイは完全にシラっとしていて、達観の域に入っている…と言った状態だった。
ミーティは自身がヤラカシてしまった事を自覚する。
正常な状態に戻ってからは、モーイの事しか考えられなくなっていた。

『誤解だけど、誤解じゃない状態…どうしよう…』

今のミーティのモーイに対するおどおどした姿は、半の日前まで勇猛果敢に穢れた魔力と対峙していた者と同じ人間…とは思えないような情けない有様だった。


語り部の長アクテとプラーデラ国王であるニュールは初めての御対面だった。

「この度の救出、治療の助力…集落を代表して感謝致します」

正式に集落が用意した席であり、双方2名ずつの側近的立場の者を引き連れての会談を行なう。
ニュールは転移陣を使いプラーデラより2名を招集する。
ピオが何処かから連れてきた、優秀な頭脳と事務処理能力持つ元影だった…と思われる者と、元々プラーデラで外交担当していた大臣の補佐を呼び出した。
アクテは、集落内部の反乱分子的行動を取り事態を悪化させた集落の長を処分した。その為、自身の語り部補佐と、語り部の副長を伴う。

初対面の堅苦しい挨拶とアクテからの謝辞を受けた後、ニュールは語り部達との情報交換を始める。
ミーティの意識下に呼ばれ繋がった時点で、ニュールは意識下からの情報取得の接続点を得ていた。従って、語り部の長のみ繋がれる場所以外…語り部達が共有する情報については全て開示された状態となっている。

確認作業の様な話し合いが終わった時、アクテが切り出す。

「ここからはミーティの祖母として話させて頂きますが、このままミーティを貴国に預けたい。可能だろうか?」

アクテはズバリと願い問う。
ミーティは記憶の一部継承受け、語り部同様の繋がる扉を持ち…意識下に入る覚醒を済ませた者となっている。
大賢者の保護下に入れなければ集落にて強制的に語り部にされるか、拒否すれば一生監禁される…下手したら処分されるであろう。
ニュールはアクテが語らぬ其れらの内容や、この集落が闇組織とも繋がりを持つ事まで…語り部達が共有する記憶から把握していた。いくらミーティが立年の儀を終えているとは言え、専門職集団まで含む者達が手ぐすね引いて待ち構える作為ある罠…そういったモノから逃れ続けるのは難しいであろう。

「貴女の願いは聞けない。聞く義理がないし利点もない…」

状況を理解しているのに…ニュールの答えは否だった。
アクテは、魔物の様なニュールの冷徹な言葉と態度に口を真一文字に結ぶ。

『だが、ここで断られては、イラダと約束した…ミーティの自由を保てなくなる…』

再び説得を試みるため、更なる言葉を継いで説得しようと思った。その矢先…ニュールが更なる言葉足す。

「…だが、それは貴女の願いであるからだ」

「??」

「私が義理や情を持つのはミーティ自身に対して…。自分自身の責任を持つべき年齢の者に対し、彼の者の希望聞かず応じる訳にはいかんだろ?」

「!!!」

アクテもやっと気付く。

ミーティが既に世話されるだけでない、自分で判断し行動する一人前の者になっていることを…自身の展望持つべき時を迎えていることを…。
ニュールが求めたのは強制でも…成り行き任せでもない…自分自身の考えや思いから導き出される、自分で持つ意志であった。


語り部の長アクテとプラーデラ国王ニュールニアの公式会見した状態のまま、お二方の御前…と言った感じの場所へ招かれミーティは混乱する。

これから何を尋ねられ、何が起こり、何が始まるのか…皆目検討がつかなかった。
私的な慣れ浸しんだ人々と空間であるのに…公式な会見後に設けられた席への呼び出し…と言う矛盾ひしめく状況下、第一声を自分が発して良いのか…待つべきなのか…さえも判断できない。
だが沈黙に耐えられず、少しおどおどしながら最初に口を開いてしまうミーティ。

「オレ、何で呼ばれたんだ?」

この言動と状況判断の甘さ。

「…はぁ…じゃから、世話せにゃならんと思っちまったんだい…」

アクテは頭を抱えながら思わず呟く。
ニュールも思わず失笑漏らす。

「確かに長殿が思い違いをしてしまうように、あと4年は荒波に揉まれる必要があるかな…」

「はいっ?? えっ、どういうコト?」

「お前が今後どうしたいのか、自分自身で周りに伝えて…覚悟をもって前に進むべき…って話をしていたんだよ」

ニュールに説明を受けた。
何故それを問われるのか今ひとつ状況飲み込めないが、ミーティの中で今進むべき方向は決まっていた。

「オレ…まず、モーイに告白したい!」

その宣言に思わず皆、不意打ちを食らう。

一瞬の静寂後…そこに居るもの全てを巻き込んだ大爆笑が生まれた。
一応公式な会見終了後の話し合い…ではあったが、これで一気に知り合い同士の談話になった。
ニュールに随行する事になった者たちは普段からミーティとも親交ある者たちであり、場違いな…でも青少年にとっては重大な問題を素直に表現したミーティの一大決心に和まされる。

「あぁ、その重大事は個人的に進めて、結果だけ教えてくれ。皆興味深く見守っているぞ」

「成功したら、祝いの席を設けてやるから報告待ってる!」

「成功したら集落でも祭りを開くだい!」

皆が口々に同じような事を述べるが、場が落ち着いた時点でニュールが居住まいを正し、再度尋ねる。

「では、改めてプラーデラ王国の国王務める者として問う。プラーデラ王国将軍補佐務めるミーティよ。お前が今後進む道は何処へ続く?」

今度はミーティにもしっかりと問われている内容が理解できた。
そして、意志ある強い目で真剣にニュールに向かう。

「オレは…私は、今後とも、ニュールニア国王陛下に忠誠を誓い、仕える者の一人として付き従いたいです」

「考えての上か?」

「自分に足りないものを手に入れるには、プラーデラでもっと極めたい…。貴方に受けた恩を返すためにも、敵を弾き守れる…国王の盾になれるぐらいの強さを手に入れたいんです」

一から出直し選択した道には、ミーティ自身の覚悟が入っていた。

「覚悟持っての選択ならば…受け入れよう」

ミーティは自分が進む道を選び…主張し…自身の手で…手に入れた。
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