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おまけ ミーティの受難3

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モーイが作り出した重い雰囲気の中に、フレイリアルは突如魔力弾打ち込んだかの如き閃光放つ言葉を投げ入れる。

「ひゃぁ、ミーティってばいきなり結婚申し込むなんて非常識だよぉ…モーイが怒っても当然!! それにミーティってば、男の子が好きだったんじゃないの? 女の子と結婚する気になるなんてビックリだよ…」

非常識の塊のようなフレイリアルに常識を諭されるミーティ。

『いやっ、ソレを口に出して言うフレイの方がビックリだし常識はずれでは?!』

ミーティを含めその言葉を聞いてた者は皆、声には出さなかったが同じ考えを思い浮かべる。
だが咄嗟のことで、誰一人フレイへの突っ込みを入れられなかった。
其処へトドメ刺す様に…真剣な表情でフレイが言葉継ぎ…追い打ちを掛ける。

「もう、タリクへの思いは…気持ちの整理はついているんだよね。 思い残したままモーイも…なんて言ったら、私が許さないんだから! モーイは私の大切な友達で先生で家族で姉のような人なんだからね!!」

「!!!!!」

当事者のミーティは謂われなき言葉を向けられ…絶句するしかなかった。
しかも一時期旅を共にした、サルトゥス王国のアルバシェルの側近である美少女的美少年だったタリクがミーティの思い人として名をあげられ、一瞬皆の疑いの目がミーティに注がれる。
フレイリアルのモーイに対する善意…と言う名の凶器は、ミーティに瀕死の重傷を負わせた。
真実は其処に無かったとしても、チョットやソットじゃ立ち直れなさそうな気分になるミーティ。幸いなのは、極限られた面々の中であったことだ。

“ホントに人間?” って言う感じの我が道を行くモノが2名…この状況を我関せず…と言った距離感を持ち傍観する。ミーティを憐れみ…気の毒そうに見守ったのは、本人含め3名…其の場の半数。
このフレイによる公開処刑の様な状態に、被害者とも言えるモーイでさえ若干ミーティを不憫に思うのだった。

普通に…全くの他意なく…邪気のない…痛烈に辛辣な何気なく浴びせかけたフレイの言葉。流石、元祖ヤラカシ女王フレイ…ミーティの心をグサリと突き刺し良い加減で塩を振る。
欠片の悪意も無い分、過去のミーティの思いやヤラカシと相まって余計に心の傷口が痛む。寧ろ、悪意持ち故意に告げられた方が、手の施しようがあっただろう。

それでも、フレイリアルの無意識の大裁きにチョットだけ溜飲下がるモーイの気持ちは若干和らぐ。

「そっかぁ、宗旨変えしたんだぁ。ふぅぅん…」

そしてこの状況作り出す要因となったもう一人のモノは…小さく呟きながら、獲物を狙い定めた魔物のように目を鋭く光らせる。
そして…ミーティをジッと見つめ…匂い立つ花の様に優美で艶やかな笑みを浮かべ、罠に誘い込むように導くリーシェライル。
今使っている器であるグレイシャムも非常に美しい男ではあるが、其の内に入るリーシェライルとは色合いも容姿も異なる。なのに表情や魔力…全てが恐ろしくリーシェライルに馴染み同化していて、全く違和感を感じない。
今の小意地悪な企み秘めた…楽し気で美しい表情は、かつてのリーシェライルそのものに見える。
面白い玩具を見つけたかのように、悪企む。
リーシェライルは、改めてミーティに横から声を掛けた。

「ミーティ…だったよね。変な誤解しちゃって悪かったね…」

非常に優雅な…男女問わず惑わせる艶麗な笑みを浮かべ、ミーティの頬に手を伸ばし微かに触れる。労りと謝罪…の為の行動に見えたが、ミーティはその一挙手一投足から目が離せなくなった。
艶やかで妖艶な香り漂うようなリーシェライルのミーティに対する行動は、完全にミーティを手玉に取るための手段であった。
外見は以前と全く違うと言うのに、かつて…ニュールさえもドギマギさせたリーシェライルの妖艶な表情がミーティの心をたぶらかし絡めとる。
完全に手のひらの上で弄ばれるミーティは、横にモーイが居るにも関わらず逆上せてボーっとしたまま動かない。

今の状態にモーイはいきり立ちそうなモノだが、モーイは知っていた…。
リーシェライルの誘惑する微笑みが、ニュールの治療に近いような力…抗えない魅了的な効果持つことを…。
本当は…ニュールに対するミーティの行動についても、理解はしていた…頭では。
ただ、心が悔しくて切なくて…。

『?!?!…アタシってば…嫉妬か??』

モーイは今、自分自身の思いに気付く。
今この状況の中に、ミーティの心からの思いは入ってない…だから悔しくない。…ニュールの時はミーティの思いが入ってそうだから…。
モーイの気付きは状況を打開する。

「大賢者リーシェライル様、申し訳ありません。此の者、アタシの玩具なんで、お譲りする事は出来ません」

『えっ? オレって玩具?』

思わず其のあんまりな扱いにミーティが正気に返る。
だがモーイとリーシェライルとの遣り取りに口を挟む機会もなく自体は収拾していく。

「そうだね…モーイにはフレイが色々とお世話になってるから、今回の件は残念だけど無しにしとくよ…」

リーシェライルがモーイの働きかけにより、伸ばした手を収めてくれた。
結局…自身の事だったのに…今の今までフレイリアルの口撃で撃沈した上…リーシェライルの誘惑に落ちそうになり…自力で浮上する事も出来ず、全く抜け出せなかったミーティ。


「オレって役立たずだよな…」

挨拶の後、ミーティとモーイは其々塔の別部屋に案内された。
ニュールの用事を済ませる為と、モーイの強い希望により明日か明後日まで滞在することになったためだ。
モーイはフレイの部屋に泊まり、ミーティはブルグドレフに貴賓室へと案内される。
部屋に入りブルグドレフから、説明を受けているにも関わらず思索に耽り…思わずミーティが呟いてしまった言葉。

「…椅子にお掛けください。お茶をお入れします」

普通なら説明が終わった時点で去りそうなブルグドレフだったが、有無を言わさず動き始めた。
青の間でもそうだったが…優雅に流れるように作業するブルグドレフの姿は、フレイリアルの "仮の" 婚約者を名乗れる程の高い身分持つであろう者にとっては違和感…としか言いようのない姿である。
本来なら自身で作業することなく、遣ってもらって当然の身分であろう者が自ら茶を入れる。

「何でブルグドレフ…様は、自分で出来るんだ…です? 高い身分なん…ですよね?」

若干言葉遣いを気にして見たけれど、フレイリアルと同類であるミーティは…思ったままを口にする。

「高い…と言っても、あの方達の中で一番下ですので、他に人を入れないから…遣らざるを得ないんですよ」

「大変ですね…」

ミーティは下っ端の気持ちがわかる下っ端として、身分違えど心から同情したくなる。

「近くに居るなら遣れることを遣らないと…。それにアノ御方はこう言った事まで全て一人で出来ますから…私が出来ないと…こちらが暫く立ち直れないぐらいの圧力が…視線と言葉で注がれます…」

苦笑いをしながら答えるブルグドレフ。
ミーティも自身の近くに似た人物が居るのを久々に思い出し…印象重ねて重い気持ちになる。

『あぁ、アレともまた過ごさねばならないのか…』

ミーティはプラーデラにいる直属の上司であるピオを思い出し沈む。
そんな微妙な表情の落ち込みを読み取ったのか、ブルグドレフは更に親しげに接してくれる。

「気軽な口調で大丈夫ですよ。立場的には貴方と変わらないと思いますから…」

予想外の気さくな声掛けに驚く。

「同じ??」

「だって、貴方も大賢者様に仕える者でしょ? 私も同様です」

「確かにそうかもしれないな…」

ブルグドレフの言葉に納得するミーティ。

「しかも、アノ御方に仕えるって大変そうだな…」

「えぇ、あの方々の近くにいるいと自分が情けなくて…小さく見えて…萎んでしまいそうにな気分になります」

「!!」

ミーティの気分を言い当てたかのような言葉だった。

「…だから、貴方の呟きが自分の呟きのように感じ…ミーティと…少しお話したくなったのです」

ブルグドレフの労わるような言葉と優しい視線がミーティの気分を楽にさせる。
他愛も無い会話を重ねる事で少し気力取り戻したミーティは、ブルグドレフに聞いてみる。

「意見を聞かせてほしいのだけど…突然結婚申し込むとかっ…ヤッパリいきなり…って言うのは無しなのかな…」

「人、思いの強さ、其々の状況…にもよると思いますよ。そもそも婚約者を他者に定められるとか言う話も…勝手で突然の出来事だと思いません?」

ただ色々な状況想定して例をあげただけだと思いつつも…思わず気になり、ミーティは尋ねてしまった。

「ブルグドレフはフレイとの婚約嫌なのか?」

ブルグドレフはミーティの目をしっかり見て答える。

「私のは野心や打算が入ってるので何とも言えません。…それに "仮の" ですし、手に入る御方でもありませんので…思いがあってもどうとなる訳でもありませんから。それに未だ命は惜しいです…」

「あ゛…」

ミーティはアノ御方に、自分の過去の言動を精査され…先ほど責め苛まれたばかりである事を思い出した。
本当にヤラカシていたら…今頃…いやっもっと前に…生きたまま端から微塵切りにされ…この世の地獄を見ていたかもしれない。

「うんっ、そうだね…命は惜しいよね」

そのまま同意した。

「…それでも…思い極まれば、貴方のように言葉と行動が情熱に従い…先走ることがあるのかもしれませんね…」

ブルグドレフの言葉は、ミーティに対する批判でも揶揄いでもなく…羨望…に近い思いのようなモノに感じた。
ミーティは微妙な立場に立つ者の悲哀を改めて実感する。

このブルグドレフとの一瞬の近づきは、ミーティの心を確実に軽くした。
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