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おまけ ミーティの受難4

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ミーティは激しく動揺していた。
何故ならば…いつ届いたのかも分からない…モーイからの呼び出しの伝言が記された紙を、部屋の扉の下で見つけたからだ。

『コレって何時届けられたんだ??』

今は既に真夜中過ぎ…あと3つ時で日が昇ると言う頃、何となく目覚めると何か気になり…扉へ近付き発見した。

"日が昇る前までに気付いたならば地上階グラウンドフロアに来てくれ"

署名も何も無かったが、それがモーイからのものだと一目で分かった。

エリミアの賢者の塔中央塔は重要な施設は多いが、塔に所属する賢者達が暮らす空間は他の棟より少ない。王宮に転移陣を設置してからは、魔力で鉄壁の防御築かれているので人員削減のために夜間は完全に扉を閉ざし警備を減らしている。
そのため深夜から日が昇る前までは、地上階から人の気配が消える。

「悪いな…呼び出しちまって…」

魔石で出来た非常灯が薄ぼんやりと灯る中央階段…一番下の段に座る人影がある。
ミーティがその場に着くとモーイは既に待っていた。

「いやっ、オレもモーイと話したかったけど…待ったんじゃないか?」

「少し考え事するために来てただけだ…気にするな」

いつ届けられたか分からない伝言を見つけ飛んできたが、モーイはどれだけ早く此処にいたのだろうか…。漠然とそんなことを考えながら、ミーティはモーイに近づき隣に座る。

「ずっと此処に居たなら冷えたんじゃないか?」

大賢者と塔の繋がりが途絶え、機構が動かぬ状態。以前よりは建物内の環境も外気に影響されやすくなっている。
ミーティは心配になり、思わず以前と同じようにモーイの頬に触れる。
その行動で一瞬モーイが緊張するのが伝わり、ミーティは思い出す。

『あっ、オレってモーイに口付けした上に、告白しちゃって、しかも結婚まで申し込んでる人だった!!!』

自分が置かれている状況を思い出し慌てる。

「…へっ、変なことしないし…僕は悪い男じゃないよ!!」

「ぶふっつ!!」

動揺したミーティの口から出る間抜けな言葉に思わず吹き出すモーイ。
その楽し気な表情に地上階の床に描かれている防御魔法陣の極わずかに光る青い輝きが映る。現実とはかけ離れたような光景。
幻想的な光の中…お伽噺に出てくる妖精のように、モーイが柔らかな眩しすぎる微笑みを浮かべミーティに囁く。

「…もう十分悪い男だと思うぞ」

そう言うと…ミーティが頬に軽く触れてきた手をガシリと掴み、その手にモーイはピタリと頬を付け擦り寄る。

「???? もっ、モーイ??」

モーイのその仕草と表情があまりにも可憐なのに妖艶で…一気にミーティの熱が上昇する。ミーティはいきなりの其の積極的行動に一瞬…戸惑いはしたが、それ以上に…近付いてくれたモーイに近付きたくなる。
心惑わすモーイの美しい姿を抱きしめたくて…片方の手をとられたままモーイを引き寄せ、強く抱きしめる。

「ミーティ…色々と怒っちゃってゴメンな…アレって焼餅だったんだと思う…」

抱きしめられたままミーティの腕の中に大人しく納まるモーイが…予想外の事を話し始めた。

「ミーティがニュールの事を、…アタシと同じように…とても大切に思っているのは知っている。師匠として…家族のように…強く思っていることを…」

モーイが淡々と自身の考えや思いを語り始める。

「だけど、ミーティが治療で魅了されてる姿を見て…ニュールに向けられているミーティの思いが…悔しくて…悲しくて…羨ましくて…2人の心の繋がりを見ているのが切なくてなっちゃって…気付かないうちに嫉妬してたんだと思う。そして、八つ当たりしてた…ゴメン…」

モーイの素直な告解はミーティの気持ちを蕩けさせる。

「ナニコレ…可愛すぎるよモーイ…気持ちが…止まらない…」

心の声そのままに言葉を発するミーティ。
自分の暴走しつつある状態にまったく気付いていない。
消え入りそうな反省の言葉を可愛らしく述べるモーイが愛しくて…ミーティの理性はぶっ飛んだ。

周囲に人の気配無いとは言え、他国の賢者の塔…地上階の中央階段前大広間。
その階段1段目に座る2人。
それでも、場所も時間も状況もすべて忘れ…ミーティには目の前のモーイしか目に入らない。
ミーティは思うがままにモーイを抱きしめ…貪るように唇を奪う。思い確かめるように繰り返し…繰り返し…深く唇を重ねる。時々見つめあう瞳の輝きが繋がり、更に2人の思いに湧き出る魔力が重なり…巡り始める。
一瞬が永遠になり…止まらぬ2人の時が紡がれ続け、2人だけの世界が広がる。

…と思ったその時、上の階から声が届く。

「紳士とは程遠いお子様ですねぇ…本能のままに向かえば只の獣。過度な思いは重しとなり…嫌われますよ。顔が多少良いからって、油断しちゃって…存分に痛い目みて下さい…後ろ指差して笑ってあげますよ」

聞き覚えのある…辛辣な言葉。
酷薄なのに執拗…両極に属する性質を同居させた、猟奇的資質持つ男の声がする。
ミーティは咄嗟に耳を塞ぎたくなった。

「ここで色々と致してしまうのは…そりゃぁ見物のし甲斐はありますが…知り合いとしては、チョット恥ずかしいと思うのですが…如何なモノでしょう? それに忍耐力の無い根性なし…って思われちゃいますよ。若気の至りってやつかもしれませんが…浅慮を絵に描いた様な些末な行いですね…」

勝手に長々と語り、色々と考えを押し付けてくる言動。明らかに、ある者を指し示しているのだが気付きたくないミーティ。
それなのに…その者は自ら名乗りをあげる。

「ミーティ…数日ぶりですねぇ! 寂しかったですよ。優しーい上司であると同時に兄貴分であり師匠でもある、私…ピオが君のことを直接迎えに来てあげました。有難く思ってください」

「!!!」

『何故に此処に此の人が現れる!』

心の中で叫ぶミーティ。
知りたくもないけど良く知っている…予感はしたけど予想外の登場人物…驚愕する。

「何故此処に僕が現れるか…って思ってます? 心の声駄々洩れですよ! それは用事があるから来るに決まってるじゃぁないですか… 少しも考えない頭は切り落として捨てたほうが良いですね。お手伝いしましょうか?」

シレっといつものように残忍な…必要以上に長々と言葉並べるピオ。
プラーデラ王国の宰相様務める…苛烈にて残忍…この上なくニュールに執着する切れ者策士。国王不在のプラーデラで、上に立ち仕切っているはずの者が…何故に此処にいるのか腑に落ちない。

「あぁ、邪魔して悪かった…間が悪かったな…なるべく早めに対応したい事があったんだが…無粋なことした…スマン」

しかもピオの背後にニュールまで控えていた上に、何とも言えない気まずい雰囲気の中…配慮が足りなかった…と謝罪されてしまった。

『メチャメチャ恥ずかしい!!』

密会の現場的場所に、上司と主が2人で現れる。何と言葉を返すべきか…頭が回らないミーティ。ピオが言うように頭働くようになるのなら、一度切り離したい気分だった。


ピオが持ってきた報告は2つ。
樹海の集落より転移陣を使って使者が来訪している事と、ミーティが仕切っていた荒野の魔物討伐が佳境に入ってるので早々に戻って自分で仕切れと言う将軍ディアスティスからの命令だった。
だが何故、宰相務めるピオ自身が直接この地に赴いたのか…。

「決まっているじゃないですか、君と入れ替わるためですよ」

あっけらかんと主目的をそのまま言い放つ。

「君のご実家の海千山千な方々に対峙するような、根性も義理もありません。利益がありそうなので、あちらの希望に沿ったおもてなしをしようと思っただけです」

『樹海の集落からの使者って…何か忘れ物でもあったっけ?』

ミーティは動揺しながら、予想外の展開で廻らない頭を無理やり働かせて考える。
その様子を理解したピオが言葉を足す。

「…何でも…職場見学…とか、参観…と…おっしゃってましたよ。お母さまが」

「????!!!!」

一瞬の驚きのあと、心の中の叫びがミーティの口からそのまま溢れ出る。

「何故ここにきて母さんまでしゃしゃり出てくる??」

「綺麗で素敵なお母さまですね。お父様は亡くなられて大分経つそうですから、僕が伴侶に立候補したいぐらいです。そうしたらミーティくんは僕のことお父さん…って呼んでくれますか?」

「はいいっいぃ?? そんな事言えるか!」

思わず不満の叫びを上げてしまった。
混乱が混沌の様相呈してきた時、ニュールが口を開く。

「そう言う事なんで、悪いがプラーデラに先に戻ってもらえるか?」

不満は山ほどあるが自分の決めた道。

「御意に。陛下の仰せのまま…」

ニュールに向かい、跪く姿勢にて返事をするミーティ。
だが、意気消沈し声が尻すぼまる…。
良い事と悪い事…幸と不幸…期待と失望…喜びと憂い…全ての事象ついて対峙する運命が巡っているのではないか…と密かにミーティは達観する気分になるのだった。

「モーイと共に戻っても良いぞ」

ニュールの気遣いを受けるが、何だか小っ恥ずかしい。
それにモーイがフレイリアルとの再会を楽しみにしていたのを知っている。

「お気遣いありがとうございます。でもオレ1人で戻ります」

わきまえた改まった言葉使いでニュールに答える。
そしてモーイには改めて気持ち込めて伝える。

「モーイ、オレは行かなきゃならないけど、フレイと楽しんできて。オレ…先に戻るけど、離れててもモーイの事を大切に思ってる」

永遠の別れかよ…と言う突っ込みを入れたくなるような、切なげな様子のミーティ。
目まで潤ませている。

「…本当は少しも離れたくない。…モーイの事凄く大切だ…大好きだ。…結婚したいし…ずっと一緒に居たい」

とうとうミーティは公開告白をヤラカシタ。
だが一途に恋する男子には周りが目に入らない、その言葉を受け取るモーイの方が真っ赤になって恥ずかしそうに俯く。
それでもモーイは、出来る範囲で真面目に何とか言葉を返す。

「…アっ、アタシも…帰ったらチャント返事すっから…」

モーイの言葉を受け取り、まるで了承もらえたかの様にミーティの顔が幸せそうに華やぐ。
その状況と表情を見たピオが、面白そうに嗜虐的笑みを浮かべながら…ミーティを少し上の段から見下ろしていた。


日の昇る前ではあるが、完全に皆目覚めている状態。
凄く差し迫った状況と言うわけでも無いが、そのまま賢者の塔の転移陣を利用させてもらい、ミーティはプラーデラに戻ることになった。
すっかり別れの挨拶や再会の約束して、ミーティは転移陣の上…魔力満ち始め青い輝き強まりつつある最中…ピオが楽しそうに疑心の種を蒔く。
半歩、転移陣に近付きピオが尋ねる。

「ねぇ、ミーティってば本当に女の子で良いのですか?」

しかも、内緒話に見えるように…だけど絶妙にモーイに聞こえるように…。
ミーティはその質問の意図が分からなかったので、呆けたまま対応できない。

「…だって主君の治療受けた後…引き剥がされて昂り収まらなかったのか、…僕を押し倒したじゃないですか…」

「えっ?」

確かに何度かは全く意識のない状態で治療受けた事はあるし、最終的にピオが面倒見てくれている事もあった…だが、全く身に覚えがない。
ましてやピオを襲った記憶など…有るわけ無い。
治療受けない時のニュールに思い昂ることが無いように、普段から興味は女子にしか持ってない…はず。
胸を張って断言できるとミーティは思う。

「…本当は…僕みたいな筋肉少ない…少年っぽい体型が好みなのか…と思って…、女の子にも同じような体型の子で挑戦するのか…と」

予想しなかった切り口での口撃。
火の無い所に煙を無理やり送られた様な状況。
ミーティが反論の口開く瞬間、目で追うモーイの表情が…眉間にシワ寄せ…怪訝な表情になっていた。
しかも転移陣の発動で反論さえも許されない、誤解生まれそうな状態での出発。
転移中の空間歪曲する中、誰も取り合ってくれない叫びを、転移前の空間に届くことを願い大声で…今更だけれども叫ぶ。

「オレは男が好きなわけでも、少年っぽい体が好きなわけでもない!! 女の子しか好きになったことないんだから信じて!! 今はモーイ一筋だからぁ」

この叫びが響き渡るのはプラーデラの転移の間。
そして、この微妙な叫びは余計な勘繰りの元、プラーデラで新たな噂を生むのだった。
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