異世界踊り子見習いの聞き語り3 月土竜の見る夢~魔輝石探索譚異聞~

3・T・Orion

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水袋甲虫マイヤルの巣から小走りで来た道を、サファルを間に挟みニウカが先頭を行く。
途中までは順調だった。だが岩場に入ると小さな蛇を見るようになった。

『嫌な予感がする…』

ウィアの予感は結構当たる。

「止まってニウカ!!」

ウィアが制止を掛けた直後、前方から害のない小さめの草蛇が飛ぶように散らばりつつ此方に向かってくる。

「ニウカ!別の道へ入って」

その言葉通りにニウカは横の洞窟を選び入る。岩陰に隠れつつ背後を確認すると草蛇の大群が必死で逃げていく、逃げていくのを追うのは砂蛇だった。
紫…魔物蛇も居る。
大半は草蛇に付いていったが一部分岐で蛇が止まる。

『不味い!』

砂蛇は音を聞き分ける。そして魔物化した紫の砂蛇は判断する頭を持つ。

ウィア達は止まって息を潜め様子を見ていたが、頭を持ち上げ揺れている蛇たちがこちらを向き一斉に動き始める。
再び追われることとなったウィア達は、全速力で走り逃げる。

岩場のためウィアはけつまづき転ぶが、無言で起き上がる。
前を行くニウカ達が岩場を登るのが目に入った。
まさか自分が物語の様な冒険や危機に会うとは思わなかった。

『アタシもアタシの話を語れるんだから、此所でくたばっちゃあいけないよ』

躓いた痛みを押しやり再び駆け出した。
岩場の高い所に登るニウカとサファルが叫んで呼び寄せる。

「ウィア急げ!! こっちだ!」

いくら攻撃力は持っていても、ウィアには唯一の弱点とも言えるものがあった。
高い所に登ることは苦手であるのだ。
足を掛けた岩場が崩れると足がすくみ次の足が出ない。

「ウィア早く!チッチャイのが近付いてる!」

「そっ…そんな事言っても…」

引き上げてくれる大人がいない状況でウィアが上に登る事は難しかった。泣きそうな顔をしていたと思う。

「諦めるな!!」

ニウカが少し降りてきて手を差し出す。
9歳のニウカが11歳のウィアを支えて持ち上げるのは難しいと思われ、ウィアは差し出された手を取れなかった。下手をするとニウカまで落ちてしまう…。

「ウィア、大丈夫だ! オレを信じろ!!」

その真剣で頼もしい風情にウィアは動かされた。
手を取るとタイミングを合わせてよじ登る。
ウィアをしっかりと掴み支えるニウカの手は、いつの間にか逞しく人を支えられる力を持つようになっていた。

「ニウカ、ありがとう。本当に助かった…」

下にウジャラといる蛇達を見て心底感謝した。そんなウィアの感謝の言葉に照れ隠しで種明かしをしてくれた。

「ちょっと父さんに教わった小技を使ったけどな!」

生活用の魔石の力を利用して岩をくっつけ固定したそうだ。

「父さんが言うには、体の中に魔石なんか持ってなくても其処にある魔石の力を上手く使えば、大事な者を守るぐらいには十分戦えるぞ!...って言うんだ…」

言った後に少し照れる。

「今回使ったのは、畑を作るときに…」

照れ隠しでニウカが魔石の話を更に詳しく語ろうとしていた時、サファルが声を掛ける。

「兄ちゃん! 何か音…」

皆で耳を澄ます。
ズルズルした音が遠くから近づいてくる。
まさかと思ったが大岩蛇グロッタウが此方へ来てしまった用だ。子蛇を餌とする大岩蛇は人間も襲うし岩の上にもやっって来る。

「「「……」」」

皆で絶句してしまった。回りを見回すがこれ以上の逃げ場は無かった。

戦うにしてもウィアの弓とニウカの魔石では時間さえ稼げないだろう。
今度はニウカも泣きたくなっていた。
だけど、一度乗り越えたウィアは冷静に回りを見て諦めなかった。ウィアはニウカに尋ねた。

「ニウカ…! ニウカの魔石で岩や土を固めて堤を作ることは出来るかい?」

自分のやった実験と言う名の悪戯を思いだし答える。

「…分からないけど、短時間なら自分で作った橋を固く出来た」

巡業先の街で小川に橋を掛け、ビントを騙して落とした事があった。
ニウカとしては落とすつもりは無かったが魔石の魔力切れで崩れた。結果、ニウカはその時リビエラに大目玉を食らう事がになった。
まぁ、落ちたら面白いと思って遣った事であり、立派な悪戯であろう。自業自得だ。

「じゃあアタシがあっち側の天井のもろそうな岩場を崩して通路を埋めるから、それを固めてくれ」

「天井を崩して大丈夫か?」

「あっちの岩場はこっちと質が違う。此方は崩れないがあっちならいけそうだ」

崩れやすい砂質岩場と普通の岩場との2重構造であり、この道は割かし危険な経路だった様だ。
だけど今はそれが役に立つ。

ウィアは弓をつがえて適所を狙う
一回目、ポロポロといった感じで…2回目も同様…3回目も。

「ヤッパリ弓じゃ砂質でも崩せないかなぁ…」

沈むウィア。

「諦めないんだろ!」

鼓舞する言葉を掛けるニウカを見つめ、再度決意する。

「アタシは諦めだけは悪いんだ」

「オレもだ!」

「矢のバランスは少し崩れるかもしれないけど、魔石をくくりつけて硬質化の魔力を纏わせて見るのはどうだ?」

ニウカの出した意見に乗ってみる。

「やってみよう!」

そしてもう一度狙う。
目的の場所に今度は刺さった…が崩れない。

「落ちろ~!!!」

その時見ていたサファルが大声で叫ぶ。
その瞬間パラパラと崩れてたものがドサッと落ちた。
山盛りの砂の山が出来上がるが…此ならいくら固くしても大岩蛇なら乗り越えてしまう。

「ウィア…コレを固めても…」

ニウカが不安そうに尋ねた。

「今日が満月って知ってたかい?」

ニウカもサファルも首を振る。

「そしてソコに顔を出してるのが月土竜で、大岩蛇が水嫌いだって知ってるかい?」

ニウカとサファルが作戦を把握し、驚きの表情を浮かべた。
硬化処理をするための魔石を、ニウカが砂山の様な岩の崩れた山に配置する。意外と適当だがそれで良いらしい。

「厳密に置かなくても繋がるイメージを持てれば繋がるって父さんが言ってった」

ニウカは意外にも父さんっ子で父親を限りなく尊敬していた。

「音、近づいてきた」

大岩蛇監視役のサファルが知らせてくる。

「ニウカ出来そうか?」

ウィアが尋ねると自信満々に答える。

「あぁ、もう大丈夫だ」

「じゃあ、いくぞ!結構な水が来るらしいから気を付けろ」

そう言うとウィアが矢を放つ。

「ピギッ」

直撃はさせなかったが、敵意を感じるぐらい十分驚かせることは出来たと思う。
微妙な感じの叫び声が聞こえた後、10匹位連動して出てきた。

月土竜は通常は森に生息する種類の魔物だが、誰かが持ち込んだのか流れ着いたのか元々居たのか、砂漠のオアシスであるこの地の地下で生きながらえ繁殖ししている。
そして連帯感が強く回路を一族で繋げているそうで、一匹が被害に会うと連動する一族で反撃の水掛を行う。
薄暗い洞窟の中で赤い点が20光ったと思ったら大量の水が降ってきた。

「上からかぁ…」

予想外の場所からでウィアは吃驚だった。
本当に大量の水であったが、そいつらの居る岩壁から飛んでくるかと思ったら敵であるウィア達の真上からか降り注いだ。
確かに戦ってるときなら十分、戦意喪失する量だ。

坂道を利用し急遽作り上げた堤防にかなりの水が溜まっている。
その時ゆっくりと巨体をくねらせながら大岩蛇が現れた。少し飛び散った水を忌避するようにゆっくりとした動きになるが、ウィア達を認めるとまっしぐらに此方へ向かってくる。

「ウィアどうする? もうやっちまうか?」

「もう少し全体に被りそうな位に近づいてから…」

大岩蛇は他の蛇と違い、気孔と皮膚で呼吸しているらしい。そして、その粘膜が水に弱く水を被ると呼吸が苦しくなり動けなくなるそうだ。
こいつが蠢く場所では砂蛇もそれに混ざる紫砂蛇も逃げ出す。

「そろそろ…」

「これ以上は無理! ごめん」

その声と共に眼下の岩と砂の結合硬化が融け、水が勢いよく大岩蛇に向かって流れる。

「十分だよ! ニウカありがとう」

「へへへッ」

心からのウィアの感謝を受け照れ笑いをするニウカ。
でもまだ終わりじゃない。
この場から待避する道を見つけるか討伐するかしか無いがその先の道が無い。

だが此所でやっと大人組が剣を持ち此方へ到着してくれた。
水を浴びて伸びている大岩蛇に留めを刺し、蛇避けを撒き登った岩の上から下ろしてくれた。
今回は予想外に自分達の冒険譚を紡いでしまった。

大分表層まで上っていた様であり、砂と岩で出来た天井の一部が崩れ日の光が入る。
月土竜の出した水の飛沫が舞散る洞窟内に、物語の終わりで出てくるような虹が出来上がった。

「ウィアの話す物語もこれぐらいだと、手に汗握りドキドキなんだけどな!」

またニウカらしい可愛くない事を言う。
折角の活躍と感謝が半減した…けれど自称大人なウィアは、広い心で感謝の言葉とお礼のキッスをニウカとサファルの頬に与えた。

リビエラの真似であり子守りとしては当然のモノであると思ったのだが、ニウカが固まってしまった。

顔を除き混むと真っ赤だし、月土竜の水で熱でも出たのかと心配し体温を確かめようとすると避けて顔を隠し離れて行ってしまった。
なので帰宅後、一応ウィアからもリビエラに色々報告するが、ニカニカ笑うリビエラが其処に居た。

『まぁ、難しい年頃だから多目に見てくれっ。済まないが気長に付き合ってやってくれ』

その言葉と妙な笑顔だけが返ってきた。



そして、いつもの怒濤の様に過ぎ去る就寝時間となり今日のお話はアタシ達の冒険譚。

ちょっと寝る前のお水は控えめで楽しい物語を語るひと時。
皆寝入ったかと思ったらニウカが起きあがり謝る。

「心配してくれたのにゴメン。それとオレもウィアに助けてもらった…ありがとう…」

そして返礼の頬へのキッスを貰ってしまった…。
ニウカはすぐに布団を被ってそっぽを向いてしまった。体験しないと理解が遅く鈍いウィアが理解した。

『…うん。此れは気恥ずかしい…ニウカに悪いことをした…』

ニウカ同様赤面しながら固まり、反省するウィアであった。
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