魔輝石探索譚~大賢者を解放するため力ある魔石を探してぐるぐるしてみます~≪本編完結済み≫

3・T・Orion

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第三章 インゼル共和国編

22.思い迷い進まず

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「魔力。集約して収束したものを解放キアダーレ。拡散してそのまま繋がり接続コンジャクション

ニュールは魔力を集めて束ねて収めて…ぐだぐだになる。

「なかなか上手くいかないもんだな…」

今日はラビリに解放と接続の手解きを受けているが上手くいかない。
そう簡単ではない。
遠くで見ている子供たちのクスクス笑う声が届く。

白の塔には多種多様な年齢の人形が居た。そして未だ人間である者も…。
塔に繋がる決意をするまでは、やはり軟禁状態ではあったようだ。
此処に普通の人間がいる不思議さをニュールは今感じていた。

「人形にならざるを得ない人。命少ない。思い残る」

人形になってでも存在したい者…存在させたい者。
ニュールの疑問の表情に答えるラビリ。

「ラビリも同じ」

ラビリも同様に24歳まで普通に生きていたが人形となり巫女の中に入る。
個人としての思いは残らないが、一番大切にしている部分だけは残るそうだ。それ以外に残っているのは記号のような分からぬものだと言う。

「ラビリ、これ大切」

紙切れに書かれた掠れ消えかけたものを見せられ、ニュールは言葉に詰まる。

“それでも生きて―愛―てる―”

意味も分からず大切と持ち続ける哀れ。
だがラビリが告げる。

「動いていると時々繋がる…記号が記録に変わる…これ分かるようになった。嬉しいに繋がる」

そして大切そうに掌に紙を包み笑うラビリ。
一律に嫌悪を抱いていた人形にも、人形自身に存在する理由がある事をニュールは知った。
しかもラビリの話から元の状態を取り戻せる可能性さえもある。

白の塔を許容し受け入れる覚悟をしてから常識が覆される事が増えた気がした。

「さあ、遊んでるの駄目。もう一度」

ラビリに無理やり引き倒され、膝枕状態でもう一度訓練をやり直させられる。
今日のラビリは24歳状態であり、この状態だと集中力が削がれてしまう。
何時ものように口に出ているので、ラビリから叱咤激励を受ける。

「此ぐらいで集中力欠くの駄目。鍛えたい? もぉっと凄いの…必要?」

悪い笑みで誘う。
日々人間味が増し笑顔の種類が増え、ニュールの気持ちをざわめかせる。

気持ちを切り替え、目を瞑り先程の集中を繰り返す。

「集中、集約、集束、収束…収めて広がる。ニュールは全て…どこにでも存在。ラビリの中にも…ニュールの中にも…」

ラビリの声が遠くに聞こえるような状態で色々な場所を感じる。
グニャリと入り込む様な感じやさらりと漂い広がる感じる。其が様々な人や人形の中で有ることがわかる。
塔の中へ広がり共有する意識下へ潜り全ての繋がりが明確に映し出され思考の中に浮かぶ。

回路の煌めきが体…意識の中を通り抜ける。

強い輝きの回路を持ち、賢者からその先へ向かうような者さえ存在する。散り散りになるような感じや集約して突き進む感じ…あらゆる感覚が訪れ、気がつくと白き空間に浮かぶ光輝く存在が目の前にある。

其が全てであると解る。

此を手にしたら賢者の石はニュールに取り込まれ、永遠に囚われる呪縛に足を踏み入れる事になるのが分かった。
覚悟はしていたが躊躇する…。
超えるべき障壁を前にして逡巡する時が永遠に続きそうになる。

「決断したなら進むべき…」

義務の域から抜けられぬ決断の中、それでもニュールは手を伸ばすのだった。




「側に置くなら躾の行き届いた爪無き子豹か、心なくした鳴かない小鳥が良い…」

手に入った其れは望み以上のモノであった。
エルシニアは、自身の得た満足のいく結果に深い愉楽の時に浸る。
だが、その喜びを瞬時に手放し更なるモノを手に入れるため任務を片付ける。

「さぁ、お仕事の時間です、上手に出来たらご褒美を上げましょう。此処のありとあらゆる結界を解除しなさい」

目の前に広がる霧立ちこめる湖。
昼日中であっても霧で光和らぎ淡く輝く湖面は表情を変えず、全てを吸い込むように深く沈み揺蕩う。
その巨大な湖の湖畔、円形に広がる入江の中心部に曖昧に白く輝く魔力の渦が天へと昇っているのが見える。
確かに存在する其れは此の状態のままなら、晴れることの無い霧が晴れたとしても現れる事は無いだろう。

「さぁ、始めなさい」

「……」

エルシニアの指示に無反応なフレイリアルに向けて警告する。

「貴女に選択権は無いのです。失ってからで無いと分からないというのなら今亡くしてみますか?」

清らかで秀麗な面差しに研ぎ澄ませた笑みを浮かべ、無慈悲に力を行使する者の傲慢さで心を踏みつけ命令する。
反抗ではなく無気力故に動かない身体を無理矢理動かし、フレイリアルは湖の辺へ進み探索をかける。

其処には無数の複雑な陣が浮かび、湖面と上空と立体的に多数存在する。各々の陣が循環しながら連携を強化し、何かを守っているのが感知できる。
空中に濃密な魔力が存在するのも、大きな何かが存在するのを物語っていた。
湖面に漂う魔力も濃く、水に溶け込んだ魔石には何かから及ぶ魔力をたっぷりと含んでいるのが分かる。

フレイリアルは湖面に踏入り腰まで水に浸かる。
そして一番近くに展開する陣まで近付き直接手を触れ、循環する魔力の中に自身の魔力を巡らせ陣の構造を解析する。

全体で見ると、今までに体感した陣の中ではかなり大きい方である。陣の構造は複雑で其の中に思いと言葉と記憶が込められているのが分かる。

守りたいと言う思い籠る陣。

フレイリアルは自身が今から遣ろうとしている事が、自分本意であり自分だけが真ん中にいる狭い世界での身勝手な正しさである事を理解し、罪悪感で心が砕けそうになる。

だが躊躇していれば、今そこで首を掴まれ剣を突き付けられているクリールから処分の手が及ぶであろう…。
自分の正解が他人の正解じゃあ無いことは解っているつもりだし、守るなら覚悟が必要な事もフレイリアルは解っている。
だが状況を理解しても、実行に及ぶ事が…辛い。

手を触れ繋がっている陣の奥から何かが聞こえた。

「いいよ…大丈夫…」

許しの言葉が聞こえる…身勝手な思いからの幻聴かと思えた。

「大丈夫、そんなに弱くないから大丈夫」

其処に確かに存在する見知らぬモノからの思いが、陣の魔力の循環と共に身体に入り込む。
陣の解析終了の感覚と共に伝わる思いと共に届く解除に至る切っ掛けとなる見知らぬ言葉。

自分では無い何らかの意志が、フレイリアルの口を一緒に動かす。

「『解除サイファ』」

小さく呟いた切っ掛けの言葉に乗る音と魔力が、指し示す場所に繋がり鍵を動かす。塔の魔力と重なり繋がっていた循環や連携に亀裂が入り切り離される。

陣より溢れる魔力は途切れた場所から大地へと戻り、留まり停滞する魔力は少しずつ拡散し天空へと還る。

塔の支配から空間が離脱した。

切り離されていたこの場所との循環が戻り、自然空間との連携が復活し空気が流れ霧を払う。
そして霧が晴れると共に、湖上に浮かぶ白亜の塔が出現する。

魔法陣による空間遮断を発動させていた隠蔽結界陣が解除された。

「良くできました…では、後は将軍にお任せしてご褒美を差し上げましょう…」

エルシニアは立ったまま湖の中で固まり放心するフレイリアルをお付きの者に運ばせ、塔から少し離れた本陣に築き上げた建物に連れ帰った。

そこに取り残された人質として囚われる仲間達。完全自由を奪われている。手も足も口も奪われている者達は、心無くしエルシニアに良いように操られ動かされるフレイリアルを見守るより他は無かった。




賢者の石を取り込むため伸ばしたニューもの意識の中の手は、本体に加わる衝撃を感知し実際の感覚の中に引き戻される。
一瞬にして戻る塔の中、現実を写し出す視界。そしてラビリの声が直接耳に届く。

「また来たヴェステ」

「陣、解除された」

ラビリに知らされた様に湖に広がった陣を感じなくなっていた。
塔の壁にも別系統で陣が張り巡らされているので、まだまだ簡単に破壊侵入される事は無いだろう。

そして湖の陣が解除されることで外との繋がりが近くなった。

守護者の繋がりを明確に感じるようになった。
それだけ近くに居るのであろうが、フレイリアルの存在に異変を感じる。

今までどんな苦境にあるときでも繋がりの中に感じられた、輝くような生命力溢れる雨上がりの空の様な空気感と、洗い清められた緑の息吹き漂う爽快な魔力が完全に消えている。
ムルタシア神殿のあの夜に大魔力を呼び寄せた時の、何も求めない空っぽな…全てを手放し回路を自ら遮断してしまったかの様な状態だった。
それはまるで人形になる前の人形の様である。

ニュールは塔を選び、塔のみと繋がる決断をした身である。
守護者であることを捨てた自分に関わる権利はないと自覚している。
それでも守護者の誓いを立てた者の異変を見捨てしまうことが出来ないニュールが居た。

その場に増える人の気配。
珍しく無表情の中に怒りのような憤りの様なものを浮かべるディリチェルが居た。
この異変を感知し魔力の導き出しを中止して此処へ来たようだ。

「陣、解いたの巫女…」

呟く内容は相変わらず未知の内容が多い。

「持ってる。選択権ある。本物。なのに悲嘆…弱い。彼方との繋がり簡単。ディリ達苦しくて辛い…なのに狡い」

内容は分からないが、ディリの中に新たな…より人間らしい感情が生まれつつあるのがニュールにも分かった。

「彼方…許した。狡い」

怒り憤る表情。
 
「ディリ達弱い…強くない」

哀しみ憂う瞳。

懸命に感情を表すための言葉を探し伝えようとするディリ。姿も表情もディリに同調していくラビリ。
人形から脱出しつつあるが故に感じる混迷の中で、何かを掴み取ろうと伝えようと必死に足掻いていた。

ニュールは揃いの7歳の姿になっているディリとラビリの頭に手を置く。
この者達も守りたい者である。

手を広げ過ぎだ…とニュールは自身でも思うが、全ての守りたい者の安寧をつい願ってしまうのであった。 
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