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番外編:九尾狐は愛を捧げる
①これは運命
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タマモスピンオフです。全七話の予定です。
******
まるでもふもふの神に導かれたように、私はゲームの中で運命の出会いを果たしたのです——
「はわわっ、かわゆいもふもふがトテトテ歩いてるぅうう!」
小声で叫ぶ私を、近くにいた人がギョッとした顔で二度見しながら去っていきました。
理想のもふもふを見つけて興奮しているだけなので、どうか気にしないでください……
心の中でそう念じつつ、私はトテトテと道を歩いている可愛いもふもふを見つめます。
そのもふもふは、うさぎをモチーフとしている、小さな羽のあるモンスター。希少種ガチャでこんなに可愛いキャラが出ることあるんですね!?
これまで見かけた希少種プレイヤーはスライムばかりでした。たまに違う方もいましたけど……ちょっと私の好みとは外れていたんですよねぇ。
でも、ようやく素敵なもふもふを発見しました。これはきっと運命……!
頭上に出てるプレイヤー名は『モモ』。バッチリ確認しましたよ。
名前まで可愛いとは、反則ではないでしょうか。ありがとうございます!
可愛いはなんぼあってもいいですからね。これからも可愛いもふもふを堪能させてください。願わくばお近づきになりたい……!
脳内で勝手に推し認定したプレイヤーに思いを馳せていたら、横にいたユリさんに呆れた顔をされました。
「タマモ、相変わらずやなぁ」
ユリさんは、別ゲームで初めて出会い、今回始めたばかりのゲームで偶然再会した友だちです。関西弁が可愛い。
たまに『あれ? これ関西弁?』と思う時もあるので、もしかしたらリアルでは関西弁じゃなくて、ゲーム内でのキャラ設定で関西弁を喋ってるのかもしれないですけど、それもまた魅力的なので良し。
ユリさんは今回タヌキ族獣人でキャラクリしたようです。私は先祖返りのキツネ族獣人、いわゆる九尾狐の獣人です。
タヌキのもふっと太い尻尾と丸っこい耳も魅力的ですが、私の九本もある尻尾のもふもふさも負けてません。
「あれほどかわゆいもふもふを見て萌えない私は私ではありませんよ?」
「そやね」
納得していただけたようで嬉しいです。さすが奇跡的な再会を果たした友。
一応、ユリさんも可愛いもふもふが大好きなはずなんですけど……この熱量の違いはどういうことなんでしょう?
可愛い羽うさぎさんを見て、萌えないなんてことあります?
「——見つけてすぐ話しかけられないのもタマモらしいわ」
「ぎゃふん」
弱点を言われてしまいましたー……しょんぼり。
勝手に垂れる自分の尻尾に『はわわっ、このもふもふアバター可愛い!』と悶えながら、去っていく小さい羽うさぎさんの後ろ姿を見送ります。
……初対面、というか全然話したことない人に話しかけるって、難易度鬼ハードじゃありません? こう思うのって私だけです?
「あの羽うさぎさん、話しかけたら普通に対応してくれそうやけどなぁ」
「そう言うのでしたら、先にユリさんが話しかけてくださいよぉ」
「甘えるのはよくないで」
ユリさん、超クール。こういうのを『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』っていうんですよね。つまり、私のことを大好きだという証?
そういうことなのでしたら、友としてユリさんの愛情に応えなくては……!
「……がんばって話しかけます!」
「なんやめっちゃ意味わからん解釈された気配がするけど、おもろそうやし、まぁええわ。がんばりぃ」
ユリさんが手を振って立ち去る。
ゲーム内ではソロで遊ぶのが好きな人なので、交流はいつもこんな感じの距離感。慣れると心地いいです。
私も基本ソロで動きますけど、パーティやクランとかに加入すると、なぜかリーダーをしがちなんですよねぇ。どうしてでしょう? 任されると全力を出しちゃうからですかね?
まぁ、それはともかく。
「——当面の第一目標は、モモさんに挨拶する、です!」
そのためにも、まずはレベリングしながら情報を集めましょう。
◇◆◇
着々とレベリングは進められてます。他のゲームで『バトルセンスいいね』と評価を受けることがあったので、今回も上手くできてると思います。
「……モモさんにご挨拶は、一向にできてないんですけどねー……」
しょんぼり。
たまにモモさんをお見かけするのですが、金髪の女の子と銀髪の男の子と一緒に遊んでいたり、一人でのんびりと過ごしていたり、とても自由な感じです。大好き。
まぁ、その姿を眺めることしかできなくて、全然話しかけられないのですが!
——なんて苦悩を抱えていたところ、掲示板でモモさんのお友だちからアドバイスをいただくことができました!
神ですか? 神ですね? 勝手に崇めます!
あ、一番の神はモモさんですけど。もふもふは尊いのです。これは普遍の事実ですよね?
モモさんは桃が好きらしいです。好物も可愛いとか、モモさんは可愛いの権化なのでは? つまりもふもふ神。とっても納得しました。
「桃を手土産にして、次こそモモさんにご挨拶します……!」
「その決意、何度目ですの?」
友だちのメアリさんが、杖で草原狼を殴打して倒してから振り返りました。バトルが終わったみたいです。
治癒士なのに杖を物理武器にするって、珍しいプレイスタイルですよねぇ。
今日はメアリさんと一緒にバトルに来てたんですよ。草原狼はレベリングに最適ですね。次から次に来てくれるので。
あ、私の担当分は倒し済みですから、掲示板を見ていても怒られません。
「数えきれません!」
「誇らしげに言うことではありませんわよ」
呆れた感じで言われました。ぐすん。
「ご挨拶って難しいんですよぉ。メアリさん、先にモモさんとお話して、私を紹介してくれませんか?」
「ユリにあなたを甘やかすなと言われてますの。モフラーの第一人者であるあなたがモモさんと出会わないと、皆さん話しかけにくいんですのよ? 早くしてくださらない?」
「ユリさんの根回しがすごい……別にモフラーの第一人者だからって、そういう配慮はいらないんですよ?」
掲示板で調子に乗って『もふらーさん』と名乗った結果、なぜか私はモフラーの第一人者ということになっていました。
うぅ、プレッシャーが……! でも、モモさんへの愛は誰にも負けない自信がありますし、がんばります!
「ふふ、それならわたくしがモモさんの一番の友だちになってしまってもいいのかしら?」
「それは悔しいのでダメですー!」
「わがままね。まぁ、もうしばらくは見守るからがんばりなさいな」
発破をかけられました。
その期待に応えてみせます! こういう決意を固めるのも、もう何度目か数えきれないんですけど……
いえ、今度こそ、がんばりますよ。
モモさん、桃を持ってご挨拶に参りますから、待っていてくださいね。
まずは桃を入手するために、第二の街を開放します!
******
まるでもふもふの神に導かれたように、私はゲームの中で運命の出会いを果たしたのです——
「はわわっ、かわゆいもふもふがトテトテ歩いてるぅうう!」
小声で叫ぶ私を、近くにいた人がギョッとした顔で二度見しながら去っていきました。
理想のもふもふを見つけて興奮しているだけなので、どうか気にしないでください……
心の中でそう念じつつ、私はトテトテと道を歩いている可愛いもふもふを見つめます。
そのもふもふは、うさぎをモチーフとしている、小さな羽のあるモンスター。希少種ガチャでこんなに可愛いキャラが出ることあるんですね!?
これまで見かけた希少種プレイヤーはスライムばかりでした。たまに違う方もいましたけど……ちょっと私の好みとは外れていたんですよねぇ。
でも、ようやく素敵なもふもふを発見しました。これはきっと運命……!
頭上に出てるプレイヤー名は『モモ』。バッチリ確認しましたよ。
名前まで可愛いとは、反則ではないでしょうか。ありがとうございます!
可愛いはなんぼあってもいいですからね。これからも可愛いもふもふを堪能させてください。願わくばお近づきになりたい……!
脳内で勝手に推し認定したプレイヤーに思いを馳せていたら、横にいたユリさんに呆れた顔をされました。
「タマモ、相変わらずやなぁ」
ユリさんは、別ゲームで初めて出会い、今回始めたばかりのゲームで偶然再会した友だちです。関西弁が可愛い。
たまに『あれ? これ関西弁?』と思う時もあるので、もしかしたらリアルでは関西弁じゃなくて、ゲーム内でのキャラ設定で関西弁を喋ってるのかもしれないですけど、それもまた魅力的なので良し。
ユリさんは今回タヌキ族獣人でキャラクリしたようです。私は先祖返りのキツネ族獣人、いわゆる九尾狐の獣人です。
タヌキのもふっと太い尻尾と丸っこい耳も魅力的ですが、私の九本もある尻尾のもふもふさも負けてません。
「あれほどかわゆいもふもふを見て萌えない私は私ではありませんよ?」
「そやね」
納得していただけたようで嬉しいです。さすが奇跡的な再会を果たした友。
一応、ユリさんも可愛いもふもふが大好きなはずなんですけど……この熱量の違いはどういうことなんでしょう?
可愛い羽うさぎさんを見て、萌えないなんてことあります?
「——見つけてすぐ話しかけられないのもタマモらしいわ」
「ぎゃふん」
弱点を言われてしまいましたー……しょんぼり。
勝手に垂れる自分の尻尾に『はわわっ、このもふもふアバター可愛い!』と悶えながら、去っていく小さい羽うさぎさんの後ろ姿を見送ります。
……初対面、というか全然話したことない人に話しかけるって、難易度鬼ハードじゃありません? こう思うのって私だけです?
「あの羽うさぎさん、話しかけたら普通に対応してくれそうやけどなぁ」
「そう言うのでしたら、先にユリさんが話しかけてくださいよぉ」
「甘えるのはよくないで」
ユリさん、超クール。こういうのを『獅子は我が子を千尋の谷に落とす』っていうんですよね。つまり、私のことを大好きだという証?
そういうことなのでしたら、友としてユリさんの愛情に応えなくては……!
「……がんばって話しかけます!」
「なんやめっちゃ意味わからん解釈された気配がするけど、おもろそうやし、まぁええわ。がんばりぃ」
ユリさんが手を振って立ち去る。
ゲーム内ではソロで遊ぶのが好きな人なので、交流はいつもこんな感じの距離感。慣れると心地いいです。
私も基本ソロで動きますけど、パーティやクランとかに加入すると、なぜかリーダーをしがちなんですよねぇ。どうしてでしょう? 任されると全力を出しちゃうからですかね?
まぁ、それはともかく。
「——当面の第一目標は、モモさんに挨拶する、です!」
そのためにも、まずはレベリングしながら情報を集めましょう。
◇◆◇
着々とレベリングは進められてます。他のゲームで『バトルセンスいいね』と評価を受けることがあったので、今回も上手くできてると思います。
「……モモさんにご挨拶は、一向にできてないんですけどねー……」
しょんぼり。
たまにモモさんをお見かけするのですが、金髪の女の子と銀髪の男の子と一緒に遊んでいたり、一人でのんびりと過ごしていたり、とても自由な感じです。大好き。
まぁ、その姿を眺めることしかできなくて、全然話しかけられないのですが!
——なんて苦悩を抱えていたところ、掲示板でモモさんのお友だちからアドバイスをいただくことができました!
神ですか? 神ですね? 勝手に崇めます!
あ、一番の神はモモさんですけど。もふもふは尊いのです。これは普遍の事実ですよね?
モモさんは桃が好きらしいです。好物も可愛いとか、モモさんは可愛いの権化なのでは? つまりもふもふ神。とっても納得しました。
「桃を手土産にして、次こそモモさんにご挨拶します……!」
「その決意、何度目ですの?」
友だちのメアリさんが、杖で草原狼を殴打して倒してから振り返りました。バトルが終わったみたいです。
治癒士なのに杖を物理武器にするって、珍しいプレイスタイルですよねぇ。
今日はメアリさんと一緒にバトルに来てたんですよ。草原狼はレベリングに最適ですね。次から次に来てくれるので。
あ、私の担当分は倒し済みですから、掲示板を見ていても怒られません。
「数えきれません!」
「誇らしげに言うことではありませんわよ」
呆れた感じで言われました。ぐすん。
「ご挨拶って難しいんですよぉ。メアリさん、先にモモさんとお話して、私を紹介してくれませんか?」
「ユリにあなたを甘やかすなと言われてますの。モフラーの第一人者であるあなたがモモさんと出会わないと、皆さん話しかけにくいんですのよ? 早くしてくださらない?」
「ユリさんの根回しがすごい……別にモフラーの第一人者だからって、そういう配慮はいらないんですよ?」
掲示板で調子に乗って『もふらーさん』と名乗った結果、なぜか私はモフラーの第一人者ということになっていました。
うぅ、プレッシャーが……! でも、モモさんへの愛は誰にも負けない自信がありますし、がんばります!
「ふふ、それならわたくしがモモさんの一番の友だちになってしまってもいいのかしら?」
「それは悔しいのでダメですー!」
「わがままね。まぁ、もうしばらくは見守るからがんばりなさいな」
発破をかけられました。
その期待に応えてみせます! こういう決意を固めるのも、もう何度目か数えきれないんですけど……
いえ、今度こそ、がんばりますよ。
モモさん、桃を持ってご挨拶に参りますから、待っていてくださいね。
まずは桃を入手するために、第二の街を開放します!
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