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9章 もふうさフィーバー
343.夢幻の世界
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花は頭につけて、とモアに指示された。
言われた通りに頭にのせると、耳の間にピタリと収まる。スラリンたちが『似合ってるよー』と褒めてくれた。
『始まるよー。準備はいい?』
『大丈夫だよー』
天兎たちが楽しそうに声を掛け合いながらステップを踏んで、泉の周りをぴょんぴょんと跳ねて回る。
その様子を眺め、僕は首を傾げた。
「花月の祝いって、踊ることなの?」
『それだけじゃないわよ。そうね——まぁ、モモは知らないんだし、ひとまずここで見学してるといいわ。合図をしたら、参加してね』
モアはそう言うと、身を翻して泉の周りで行われる踊りの列に加わっちゃった。もう少し教えてもらいたかったんだけどなぁ。
でも、ここで見学していればいいらしいので、天兎たちのステップを真似て体を動かしながら、これから何が起きるのか楽しみに待った。
楽しげな踊りが続きしばらく経つと、泉に変化が起きる。
「きゅぃ(あ……泉が光ってるよ)」
スラリンが驚いた様子で呟く。僕は何かを言おうと考えることもできず、美しく輝く泉に目を奪われた。
薄黄色の空を映していた泉から放たれた白い光は次第に強さを増し、少し離れたところにいる僕たちまで明るく照らす。
天兎の踊りは続き、白く染められた花畑に黒い影が跳ねた。
——不意に、たくさんの花びらが舞い上がる。
花びらは僕たちを囲むように乱れ飛び、一瞬そちらに意識を逸らしちゃったから、泉の変化に気づくのが遅れた。
「……月が、ある……?」
泉に視線を戻すと、その水面すれすれのところに淡く白い光を放つ球体が現れ、浮かんでいた。球体にはクレーターのようなものがはっきりと見え、僕が知っている月そっくりだ。
強い白の光はいつの間にか和らぎ、花畑は色とりどりな鮮やかさを取り戻している。
『お花をあげよう』
『綺麗なお花』
『素敵なお花』
『愛らしいお花』
『おかしなお花』
『カッコいいお花』
天兎が歌うように言いながら、持っていた光花を月に向かってふわっと投げた。
光花が月に触れるたびに、月は輝きを増し、美しく僕たちを照らす。
『ほら、モモも』
モアが僕を振り向いて月を指した。
僕は頭に乗せていた光花を取り、泉に駆け寄って月に向けて花を投げる。
ふわっと飛んだ光花は月に当たった途端光の粒となって、取り込まれた。
——月が昇る。薄黄色の空を明るく照らし、真白に変える月が高く、高く……
「あ……!」
花畑からたくさんの花びらが月を追うように舞い上がった。
視界が花びらで埋め尽くされ、月の姿が見えなくなる。必死に目を凝らした先で——月は空に溶けるように消えていた。
「——なんだったんだろう……?」
花びらの舞いも落ち着き、最初に見た時同様の花畑が広がっている。
天兎たちは仕事を終えた様子でグッと伸びをしたり、あくびをしたり、リラックスした雰囲気だ。
花月の祝いというものに参加できたようだけど、結局それがなんだったのかよくわからない。ただ夢か幻のように美しい光景で、それを見られただけで参加できてよかったなぁと思う。
『どう? 素敵な贈り物はあった?』
不意にモアに問いかけられて、「へ?」と声が漏れた。贈り物ってなぁに?
首を傾げつつ問い返そうとしたところで、アナウンスが聞こえてくる。
〈【花月の祝い】に参加しました。【はじまりの月】からアイテム【月の雫】が贈られます〉
——————
【月の雫】レア度☆☆☆☆☆☆
天界に昇る月に捧げ物をすることで入手できる贈り物の一つ
月の光を閉じ込めたペンダントトップがついたネックレス
装備するとスキル【月光】を使用できる
スキル【月光】
月の光を放ち、敵に光属性のダメージを与える
浄化の効果がある
——————
「凄いレアアイテムをもらったかも?」
装備にスキルが付属してるなんて珍しい。
驚きながらも、アイテムボックスから取り出した月の雫をマジマジと観察する。
光を放つ丸い水晶がついたネックレスだ。見た目はシンプルだけど綺麗。
こんなレアアイテムをもらえるなんて、花月の祝いってレアイベントだったんじゃないかな? あ、そもそも、ここに来れること自体がレアだったかも。
『よかったわね。花月の祝いは月に一度だけ行われるのよ。タイミングがあったら、モモもまた参加するといいわ』
モアは微笑みながらそう言うと、身を翻して花畑のどこかへと飛んでいってしまった。止める隙がない早業だ。
ぽかんと見送ってから慌てて周囲を見渡すと、たくさんいた天兎の姿が一体も見当たらない。
「え、え、みんないなくなるの早くない? せっかく交流できると思ったのに!」
嘆く僕に、不思議そうな顔をした花精霊が近づいてくる。
『もうすぐ時空門が閉ざされて帰れなくなるわよ?』
「……は!? ほんとに?」
『嘘は言わないわ』
衝撃の事実に固まってから、慌ててスラリンたちを一旦帰還させ、転移スキルを発動する。
時空門の近くに転移ピンを設定しておいてよかったー! そうじゃなかったら、ここから駆け戻っても、間に合わなかったかもしれない。
ふっと視界が揺らぐのを感じながら、転移する直前まで花畑の景色を視界に収める。
次にいつ見られるかわからないから、しっかり記憶に留めておきたいもん。それくらい綺麗だから。
「……あ」
パッと景色が切り替わった。
僕がいるのは洞窟の中。目の前にある時空門は、門扉がピタリと閉じられていて、どうやって開ければいいかもわからない状態になっている。
ギリギリ、無事に帰ってこられたみたいだ。
そう思ってホッと息をついたのもつかの間——
〈〈あるプレイヤーがワールド内で初めて別時空イベント【花月の祝い】をクリアしました。これよりマップに時空門の所在地が公開されます〉〉
〈別時空イベント【花月の祝い】の初クリア報酬として、称号【花月の祝福】とアイテム【月の鈴】が贈られます〉
——————
称号【花月の祝福】
月がある夜に防御力が30%上がる
【月の鈴】レア度☆☆☆☆☆☆
満月を模した形の鈴
鳴らすと、三十分間光属性攻撃の威力が50%上がる
再使用可能になるまで十二時間かかる
——————
……知らない内に、ワールドミッションをクリアしてたみたいです?
言われた通りに頭にのせると、耳の間にピタリと収まる。スラリンたちが『似合ってるよー』と褒めてくれた。
『始まるよー。準備はいい?』
『大丈夫だよー』
天兎たちが楽しそうに声を掛け合いながらステップを踏んで、泉の周りをぴょんぴょんと跳ねて回る。
その様子を眺め、僕は首を傾げた。
「花月の祝いって、踊ることなの?」
『それだけじゃないわよ。そうね——まぁ、モモは知らないんだし、ひとまずここで見学してるといいわ。合図をしたら、参加してね』
モアはそう言うと、身を翻して泉の周りで行われる踊りの列に加わっちゃった。もう少し教えてもらいたかったんだけどなぁ。
でも、ここで見学していればいいらしいので、天兎たちのステップを真似て体を動かしながら、これから何が起きるのか楽しみに待った。
楽しげな踊りが続きしばらく経つと、泉に変化が起きる。
「きゅぃ(あ……泉が光ってるよ)」
スラリンが驚いた様子で呟く。僕は何かを言おうと考えることもできず、美しく輝く泉に目を奪われた。
薄黄色の空を映していた泉から放たれた白い光は次第に強さを増し、少し離れたところにいる僕たちまで明るく照らす。
天兎の踊りは続き、白く染められた花畑に黒い影が跳ねた。
——不意に、たくさんの花びらが舞い上がる。
花びらは僕たちを囲むように乱れ飛び、一瞬そちらに意識を逸らしちゃったから、泉の変化に気づくのが遅れた。
「……月が、ある……?」
泉に視線を戻すと、その水面すれすれのところに淡く白い光を放つ球体が現れ、浮かんでいた。球体にはクレーターのようなものがはっきりと見え、僕が知っている月そっくりだ。
強い白の光はいつの間にか和らぎ、花畑は色とりどりな鮮やかさを取り戻している。
『お花をあげよう』
『綺麗なお花』
『素敵なお花』
『愛らしいお花』
『おかしなお花』
『カッコいいお花』
天兎が歌うように言いながら、持っていた光花を月に向かってふわっと投げた。
光花が月に触れるたびに、月は輝きを増し、美しく僕たちを照らす。
『ほら、モモも』
モアが僕を振り向いて月を指した。
僕は頭に乗せていた光花を取り、泉に駆け寄って月に向けて花を投げる。
ふわっと飛んだ光花は月に当たった途端光の粒となって、取り込まれた。
——月が昇る。薄黄色の空を明るく照らし、真白に変える月が高く、高く……
「あ……!」
花畑からたくさんの花びらが月を追うように舞い上がった。
視界が花びらで埋め尽くされ、月の姿が見えなくなる。必死に目を凝らした先で——月は空に溶けるように消えていた。
「——なんだったんだろう……?」
花びらの舞いも落ち着き、最初に見た時同様の花畑が広がっている。
天兎たちは仕事を終えた様子でグッと伸びをしたり、あくびをしたり、リラックスした雰囲気だ。
花月の祝いというものに参加できたようだけど、結局それがなんだったのかよくわからない。ただ夢か幻のように美しい光景で、それを見られただけで参加できてよかったなぁと思う。
『どう? 素敵な贈り物はあった?』
不意にモアに問いかけられて、「へ?」と声が漏れた。贈り物ってなぁに?
首を傾げつつ問い返そうとしたところで、アナウンスが聞こえてくる。
〈【花月の祝い】に参加しました。【はじまりの月】からアイテム【月の雫】が贈られます〉
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【月の雫】レア度☆☆☆☆☆☆
天界に昇る月に捧げ物をすることで入手できる贈り物の一つ
月の光を閉じ込めたペンダントトップがついたネックレス
装備するとスキル【月光】を使用できる
スキル【月光】
月の光を放ち、敵に光属性のダメージを与える
浄化の効果がある
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「凄いレアアイテムをもらったかも?」
装備にスキルが付属してるなんて珍しい。
驚きながらも、アイテムボックスから取り出した月の雫をマジマジと観察する。
光を放つ丸い水晶がついたネックレスだ。見た目はシンプルだけど綺麗。
こんなレアアイテムをもらえるなんて、花月の祝いってレアイベントだったんじゃないかな? あ、そもそも、ここに来れること自体がレアだったかも。
『よかったわね。花月の祝いは月に一度だけ行われるのよ。タイミングがあったら、モモもまた参加するといいわ』
モアは微笑みながらそう言うと、身を翻して花畑のどこかへと飛んでいってしまった。止める隙がない早業だ。
ぽかんと見送ってから慌てて周囲を見渡すと、たくさんいた天兎の姿が一体も見当たらない。
「え、え、みんないなくなるの早くない? せっかく交流できると思ったのに!」
嘆く僕に、不思議そうな顔をした花精霊が近づいてくる。
『もうすぐ時空門が閉ざされて帰れなくなるわよ?』
「……は!? ほんとに?」
『嘘は言わないわ』
衝撃の事実に固まってから、慌ててスラリンたちを一旦帰還させ、転移スキルを発動する。
時空門の近くに転移ピンを設定しておいてよかったー! そうじゃなかったら、ここから駆け戻っても、間に合わなかったかもしれない。
ふっと視界が揺らぐのを感じながら、転移する直前まで花畑の景色を視界に収める。
次にいつ見られるかわからないから、しっかり記憶に留めておきたいもん。それくらい綺麗だから。
「……あ」
パッと景色が切り替わった。
僕がいるのは洞窟の中。目の前にある時空門は、門扉がピタリと閉じられていて、どうやって開ければいいかもわからない状態になっている。
ギリギリ、無事に帰ってこられたみたいだ。
そう思ってホッと息をついたのもつかの間——
〈〈あるプレイヤーがワールド内で初めて別時空イベント【花月の祝い】をクリアしました。これよりマップに時空門の所在地が公開されます〉〉
〈別時空イベント【花月の祝い】の初クリア報酬として、称号【花月の祝福】とアイテム【月の鈴】が贈られます〉
——————
称号【花月の祝福】
月がある夜に防御力が30%上がる
【月の鈴】レア度☆☆☆☆☆☆
満月を模した形の鈴
鳴らすと、三十分間光属性攻撃の威力が50%上がる
再使用可能になるまで十二時間かかる
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……知らない内に、ワールドミッションをクリアしてたみたいです?
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