53 / 68
「始める」
しおりを挟む
「………聖女様」
お、泣くと思ったけど泣かなかったか。
薄暗くても、リオン君のお姉さんが居住まいを正そうとしているのがわかる。ベッドを少し、軋ませながらリオン君のお姉さんは姿勢を正す。
「弟から聞いています。手違いで召喚された聖女様だと」
「うん、その聖女ね。そして今日還る聖女ね」
「………こんな格好のまま、申し訳ありません」
「いいっていいって。動けないし動かないってこと、リオン君から聞いてるから」
私がおどけていった後、しばしの沈黙が部屋の中を満たす。その沈黙を破ったのは、リオン君のお姉さんの息を乗せた声だった。
「………………あの、私は」
おそるおそるといった申し訳なさそうな声。これ、断るな。
うん、想定内。
あ~マジで――。
「面倒くさい」
あれ、心の声出ちゃった?
………いや、これは夏芽の声だ。そう呟いた後、夏芽は盛大な舌打ちを鳴らした。
私の心の声とタイミングばっちりだったから、私が無意識に口から出ちゃったのかと勘違いしちゃった。
まぁ、いいや。さっさと済ませよう。済ませると言っても私は何もしないんだけど。
「お姉さん、今からその黒いの治すからじっとしててね」
「せ、聖女様。私は―」
「………………うぜー。そしてマジうるさい」
心底面倒くさそうな夏芽はお姉さんの胸倉を強く掴み、引き寄せる。
「きゃっ!?」
「ね、姉さん!」
「はい、リオン君。ストップね」
夏芽を慌てて止めようとするリオン君を私は軽く止める。
「………」
おいおいおい、なんで無言なの。
あ~、はいはい。この無言は私が説明しろってことか。
私は一回咳払いする。
「えっとね、夏芽はこう言いたいの。『私はあんたを浄化する。これはもう決定事項。そんなに浄化されるのが嫌なら、私らを殴り飛ばすかして這ってでも逃げろ。あんたが今から言う御託に付き合う気なんてない。ていうか、もう面倒くさい。今からやる。さっさとやる。さっさとやって戻る』………あ、ついでに言うと私も同じこと考えてるから」
だいたいは合ってるはず。そうだよね?夏芽。
夏芽は返事の代わりに大きく舌打ちすると、胸倉を掴んだままビシッとリオン君を指差した。
「弟を見ろ、だって」
私がそう言った後、夏芽はバッとお姉さんの胸倉を放す。お姉さんは夏芽に促されてリオン君のほうに顔を向けた。すでに目が慣れてきていた。薄暗さの中でもリオン君の表情がわかる。
リオン君はお姉さんに向けて不安と寂しさが入り混じった表情でお姉さんをしていた。
「姉さん」
声がすごく震えている。
「姉さん、僕を一人にしないで」
リオン君は右手で目元を拭った。
私はそれを見てほっとした。目の前で声を震わせているのはいい子ちゃんでも模範的な神官見習でもない、普通の十歳の男の子だったから。
お姉さんはリオン君に向けて手を伸ばすが、すぐにハッとした様子で手を引っ込めた。
「リオン………ごめんね。寂しい思いをさせて。私、甘えてたわ」
お姉さんはぎゅっと両手を組むと、意を決したかのように夏芽のほうに顔を向けた。
「聖女様、私―」
「始める」
夏芽はお姉さんの言葉を苛立たし気に遮った。
「あ~、くっそうるせぇ」
夏芽は右手の掌でトントンと自分の頭を軽くたたく。
「ねぇ、夏芽。その耳元で鳴ってる声、前と同じ?それとも違う?大きい?小さい?」
私が能天気に聞くと、ギロリとこちらを睨みつけてきた。
オイルランタンのゆらゆらとした淡い光が夏芽を照らす。私は夏芽のくっきりとした眉間のシワを視界に捉えた。きっと、この家に入った時から眉間にシワを寄せてたんだろうな。
「ごめんごめん。終わるまで黙るから」
この部屋に入った時からずっと、夏芽の耳の奥から『声』が聞こえていたらしい。
王宮にモンスターが現れた時と同じ、浄化に必要な癒しの歌詞が。
あの時と今とで、分かりやすく異なるところが一つある。それは、私にはあの歌が聞こえていないということだ。
私は副神官長の言葉を思い出す。
“神託によると、瘴気に満ちていた大地に降り立った双子の女神が歌の力によって世界に平和をもたらしたと伝えられています。歌声で人や大地を癒し、モンスターも、世に蔓延っていた瘴気も浄化されたと聞かされています”
“はい、大地を侵している瘴気は姉が、人を侵している瘴気は妹が、浄化の役割を担っていますが、モンスターは双子が一緒になって歌わないと浄化はできません”
つまり、人間担当である夏芽にしか癒しの歌詞が聞こえないということだ。もし、近い場所に瘴気に侵された大地か、瘴気のモンスターがいれば私の耳にも癒し歌詞が流れていただろう。
何にしても、ご愁傷様。最後の最後で、歌を歌うなんて私だったらマジごめんだわ。
夏芽だって、まさかまた歌を歌うなんて思って無かったろうな。
絶対、あのモンスターで最後と思っていたはず。
もう一度言うわ。ご愁傷様。
私は邪魔にならないように軽く一歩下がった。
夏芽は舌打ちを打つと、息を大きく吸い吐いた。
あ、歌う。おっとと、忘れるところだった。動画動画。薄暗いからうまく撮れないと思うけど、目の前に面白い被写体があるというのにそれを見逃して撮らないなんて選択肢は私にはない。
それに今回メインで撮りたいには『夏芽の歌う姿』じゃなく『夏芽の歌声』だった。
聖女の歌声ってどんな感じなのかな。私の歌声と違うのかな。やっぱり私と同じように聞き慣れた声とは違う『音』のように聞こえるのかな。モンスターを浄化したときは、自分が歌うのに夢中で正直夏芽の歌声にはあまり意識を向けることができなかった。だから、今回は思う存分夏芽の歌声に聞き入りたい。
音声録画じゃ、やっぱり味気ない。薄暗くても夏芽の姿と一緒に録画したい。
私は夏芽にスマホを向ける。
夏芽は口を開き、歌いだした。
「~~~♪~~♪~~~~」
ほへー。
聞き慣れていた夏芽の声なのに、初めて聞く『音』のように聞こえる。
この感想は自分で、歌った時にも思っていたことだった。でも自分で歌うのと、こうやって客観的な聞き側に回るのとではやっぱり違って聞こえるな。
面白い?感動?どちらも違うな。
なんだろう。上手く言えないな。
………リラックス?
あ、これがうまく当てはまるかも。
たぶんこれが合ってる。聞き入れば聞き入るほどリラックスする歌と歌詞だ。こんな風に思えるのは聖女の特別な力が身に宿っているせいだとわかってはいても、普段の夏芽を知っている私にとってはやっぱり物珍しく感じさせる。
まさか、夏芽がこんなリラックスできる歌を歌うなんてね。
私はカメラを夏芽に向けたままで視線をリオン君とお姉さんに向けた。
リオン君もお姉さんも私と同じように感じているみたい。
顔を見ただけでわかる。夏芽の歌を心地よく聞き入っている。
お姉ちゃん、嬉しいよ。夏芽が人を癒す現場を目の当たりにするなんて、一生ないだろうと思っていたから。しかも歌で。
ああ、思わず涙ぐんじゃう。おっとと、泣いてる場合じゃない。ちゃんと、カメラを回さないと。
あ、そうだ。肝心の瘴気に侵されたお姉さんの身体はどうなってる?
私はカメラをお姉さんに向ける。
「おお、すっご」
私はカメラ越しでなく、直にその光景に見入った。
体中の皮膚にあったグロい変色部分はみるみるうちに消えていった。
まるで、魔法みたいだ………ってこれ魔法なんだっけ。
さっきまで爛れている左半分の顔の皮膚が今では普通の肌色だ。
体中すべての爛れた皮膚を浄化したと判断した夏芽は歌うのをやめた。
同時に私も撮影をやめる。
「姉さん!」
リオン君は必死な形相でお姉さんの左手を握った。一瞬、お姉さんはビクッと身体を強張らせたが、それはほんの一瞬だった。
「………リオン」
お姉さんは穏やかな声音と眼差しをリオン君に向け、握られた左手をゆっくりと右手で上に添える。そして、二人は嬉しそうに笑った。本当に似てる姉弟だ。笑った顔がそっくり。
お姉さんはリオン君を安心させるようにふわりと微笑むと、ふっと眠るように意識を失った。
「姉さん!」
「緊張の糸が切れたんだろうね。寝かせてあげなって」
私はお姉さんの顔の覗き込みながら言った。
「あの、あの、本当にありがとうございます!」
「いやいや、私はまったく何にもしてないから。お礼は夏芽に言って―」
バタン!
ん?何だ今のバタンとした何かが倒れる音は。
私は音がした方向にゆっくりと顔を向けた。
「って夏芽、なんで倒れてるの!?」
さきほどのバタンとした音は夏芽が倒れる音だった。さすがの私もギョッとする。
急いで倒れた夏芽の体を軽く揺さぶった。
「ちょ、ちょっと夏芽―」
「すぅ………すぅ………」
「………え、寝てんの?」
夏芽は寝息を立てて、ぐっすり眠っている。
なんだよ、驚かせないでよ。ていうか、なんでこのタイミングでいきなり寝るの。
別に今、深夜ってわけでもないのに。
………そういえば夏芽、昨日あんまり眠れていなかったんだっけ。私もだけど。
よくよく考えれば、かなり珍しいんだよね。夏芽が眠っては起きて、眠っては起きてを繰り返すなんて。どんなに周囲が騒がしくても十二時過ぎれば、必ずと言っていいほど沈むように眠り、夢の中に入るから。
私が思っている以上に、帰還できるという事実に興奮してたのかな。むしろ、私以上に嬉しがっていたのかも。その昨日の分の眠気が今になってやってきたってこと?薄暗さのこの部屋がその眠気を助長させちゃったってこと?子供かっての。
あ~もう、マジびっくりしたわ。死んだかと思って、一瞬心臓止まったっての。
お、泣くと思ったけど泣かなかったか。
薄暗くても、リオン君のお姉さんが居住まいを正そうとしているのがわかる。ベッドを少し、軋ませながらリオン君のお姉さんは姿勢を正す。
「弟から聞いています。手違いで召喚された聖女様だと」
「うん、その聖女ね。そして今日還る聖女ね」
「………こんな格好のまま、申し訳ありません」
「いいっていいって。動けないし動かないってこと、リオン君から聞いてるから」
私がおどけていった後、しばしの沈黙が部屋の中を満たす。その沈黙を破ったのは、リオン君のお姉さんの息を乗せた声だった。
「………………あの、私は」
おそるおそるといった申し訳なさそうな声。これ、断るな。
うん、想定内。
あ~マジで――。
「面倒くさい」
あれ、心の声出ちゃった?
………いや、これは夏芽の声だ。そう呟いた後、夏芽は盛大な舌打ちを鳴らした。
私の心の声とタイミングばっちりだったから、私が無意識に口から出ちゃったのかと勘違いしちゃった。
まぁ、いいや。さっさと済ませよう。済ませると言っても私は何もしないんだけど。
「お姉さん、今からその黒いの治すからじっとしててね」
「せ、聖女様。私は―」
「………………うぜー。そしてマジうるさい」
心底面倒くさそうな夏芽はお姉さんの胸倉を強く掴み、引き寄せる。
「きゃっ!?」
「ね、姉さん!」
「はい、リオン君。ストップね」
夏芽を慌てて止めようとするリオン君を私は軽く止める。
「………」
おいおいおい、なんで無言なの。
あ~、はいはい。この無言は私が説明しろってことか。
私は一回咳払いする。
「えっとね、夏芽はこう言いたいの。『私はあんたを浄化する。これはもう決定事項。そんなに浄化されるのが嫌なら、私らを殴り飛ばすかして這ってでも逃げろ。あんたが今から言う御託に付き合う気なんてない。ていうか、もう面倒くさい。今からやる。さっさとやる。さっさとやって戻る』………あ、ついでに言うと私も同じこと考えてるから」
だいたいは合ってるはず。そうだよね?夏芽。
夏芽は返事の代わりに大きく舌打ちすると、胸倉を掴んだままビシッとリオン君を指差した。
「弟を見ろ、だって」
私がそう言った後、夏芽はバッとお姉さんの胸倉を放す。お姉さんは夏芽に促されてリオン君のほうに顔を向けた。すでに目が慣れてきていた。薄暗さの中でもリオン君の表情がわかる。
リオン君はお姉さんに向けて不安と寂しさが入り混じった表情でお姉さんをしていた。
「姉さん」
声がすごく震えている。
「姉さん、僕を一人にしないで」
リオン君は右手で目元を拭った。
私はそれを見てほっとした。目の前で声を震わせているのはいい子ちゃんでも模範的な神官見習でもない、普通の十歳の男の子だったから。
お姉さんはリオン君に向けて手を伸ばすが、すぐにハッとした様子で手を引っ込めた。
「リオン………ごめんね。寂しい思いをさせて。私、甘えてたわ」
お姉さんはぎゅっと両手を組むと、意を決したかのように夏芽のほうに顔を向けた。
「聖女様、私―」
「始める」
夏芽はお姉さんの言葉を苛立たし気に遮った。
「あ~、くっそうるせぇ」
夏芽は右手の掌でトントンと自分の頭を軽くたたく。
「ねぇ、夏芽。その耳元で鳴ってる声、前と同じ?それとも違う?大きい?小さい?」
私が能天気に聞くと、ギロリとこちらを睨みつけてきた。
オイルランタンのゆらゆらとした淡い光が夏芽を照らす。私は夏芽のくっきりとした眉間のシワを視界に捉えた。きっと、この家に入った時から眉間にシワを寄せてたんだろうな。
「ごめんごめん。終わるまで黙るから」
この部屋に入った時からずっと、夏芽の耳の奥から『声』が聞こえていたらしい。
王宮にモンスターが現れた時と同じ、浄化に必要な癒しの歌詞が。
あの時と今とで、分かりやすく異なるところが一つある。それは、私にはあの歌が聞こえていないということだ。
私は副神官長の言葉を思い出す。
“神託によると、瘴気に満ちていた大地に降り立った双子の女神が歌の力によって世界に平和をもたらしたと伝えられています。歌声で人や大地を癒し、モンスターも、世に蔓延っていた瘴気も浄化されたと聞かされています”
“はい、大地を侵している瘴気は姉が、人を侵している瘴気は妹が、浄化の役割を担っていますが、モンスターは双子が一緒になって歌わないと浄化はできません”
つまり、人間担当である夏芽にしか癒しの歌詞が聞こえないということだ。もし、近い場所に瘴気に侵された大地か、瘴気のモンスターがいれば私の耳にも癒し歌詞が流れていただろう。
何にしても、ご愁傷様。最後の最後で、歌を歌うなんて私だったらマジごめんだわ。
夏芽だって、まさかまた歌を歌うなんて思って無かったろうな。
絶対、あのモンスターで最後と思っていたはず。
もう一度言うわ。ご愁傷様。
私は邪魔にならないように軽く一歩下がった。
夏芽は舌打ちを打つと、息を大きく吸い吐いた。
あ、歌う。おっとと、忘れるところだった。動画動画。薄暗いからうまく撮れないと思うけど、目の前に面白い被写体があるというのにそれを見逃して撮らないなんて選択肢は私にはない。
それに今回メインで撮りたいには『夏芽の歌う姿』じゃなく『夏芽の歌声』だった。
聖女の歌声ってどんな感じなのかな。私の歌声と違うのかな。やっぱり私と同じように聞き慣れた声とは違う『音』のように聞こえるのかな。モンスターを浄化したときは、自分が歌うのに夢中で正直夏芽の歌声にはあまり意識を向けることができなかった。だから、今回は思う存分夏芽の歌声に聞き入りたい。
音声録画じゃ、やっぱり味気ない。薄暗くても夏芽の姿と一緒に録画したい。
私は夏芽にスマホを向ける。
夏芽は口を開き、歌いだした。
「~~~♪~~♪~~~~」
ほへー。
聞き慣れていた夏芽の声なのに、初めて聞く『音』のように聞こえる。
この感想は自分で、歌った時にも思っていたことだった。でも自分で歌うのと、こうやって客観的な聞き側に回るのとではやっぱり違って聞こえるな。
面白い?感動?どちらも違うな。
なんだろう。上手く言えないな。
………リラックス?
あ、これがうまく当てはまるかも。
たぶんこれが合ってる。聞き入れば聞き入るほどリラックスする歌と歌詞だ。こんな風に思えるのは聖女の特別な力が身に宿っているせいだとわかってはいても、普段の夏芽を知っている私にとってはやっぱり物珍しく感じさせる。
まさか、夏芽がこんなリラックスできる歌を歌うなんてね。
私はカメラを夏芽に向けたままで視線をリオン君とお姉さんに向けた。
リオン君もお姉さんも私と同じように感じているみたい。
顔を見ただけでわかる。夏芽の歌を心地よく聞き入っている。
お姉ちゃん、嬉しいよ。夏芽が人を癒す現場を目の当たりにするなんて、一生ないだろうと思っていたから。しかも歌で。
ああ、思わず涙ぐんじゃう。おっとと、泣いてる場合じゃない。ちゃんと、カメラを回さないと。
あ、そうだ。肝心の瘴気に侵されたお姉さんの身体はどうなってる?
私はカメラをお姉さんに向ける。
「おお、すっご」
私はカメラ越しでなく、直にその光景に見入った。
体中の皮膚にあったグロい変色部分はみるみるうちに消えていった。
まるで、魔法みたいだ………ってこれ魔法なんだっけ。
さっきまで爛れている左半分の顔の皮膚が今では普通の肌色だ。
体中すべての爛れた皮膚を浄化したと判断した夏芽は歌うのをやめた。
同時に私も撮影をやめる。
「姉さん!」
リオン君は必死な形相でお姉さんの左手を握った。一瞬、お姉さんはビクッと身体を強張らせたが、それはほんの一瞬だった。
「………リオン」
お姉さんは穏やかな声音と眼差しをリオン君に向け、握られた左手をゆっくりと右手で上に添える。そして、二人は嬉しそうに笑った。本当に似てる姉弟だ。笑った顔がそっくり。
お姉さんはリオン君を安心させるようにふわりと微笑むと、ふっと眠るように意識を失った。
「姉さん!」
「緊張の糸が切れたんだろうね。寝かせてあげなって」
私はお姉さんの顔の覗き込みながら言った。
「あの、あの、本当にありがとうございます!」
「いやいや、私はまったく何にもしてないから。お礼は夏芽に言って―」
バタン!
ん?何だ今のバタンとした何かが倒れる音は。
私は音がした方向にゆっくりと顔を向けた。
「って夏芽、なんで倒れてるの!?」
さきほどのバタンとした音は夏芽が倒れる音だった。さすがの私もギョッとする。
急いで倒れた夏芽の体を軽く揺さぶった。
「ちょ、ちょっと夏芽―」
「すぅ………すぅ………」
「………え、寝てんの?」
夏芽は寝息を立てて、ぐっすり眠っている。
なんだよ、驚かせないでよ。ていうか、なんでこのタイミングでいきなり寝るの。
別に今、深夜ってわけでもないのに。
………そういえば夏芽、昨日あんまり眠れていなかったんだっけ。私もだけど。
よくよく考えれば、かなり珍しいんだよね。夏芽が眠っては起きて、眠っては起きてを繰り返すなんて。どんなに周囲が騒がしくても十二時過ぎれば、必ずと言っていいほど沈むように眠り、夢の中に入るから。
私が思っている以上に、帰還できるという事実に興奮してたのかな。むしろ、私以上に嬉しがっていたのかも。その昨日の分の眠気が今になってやってきたってこと?薄暗さのこの部屋がその眠気を助長させちゃったってこと?子供かっての。
あ~もう、マジびっくりしたわ。死んだかと思って、一瞬心臓止まったっての。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる