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夢にしたかった

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ゆっくりと思考が冴え眠気から覚めてくる。
最初に考えたのは「珍しい」だ。
普段ならどんなに早く寝ても目覚まし時計をかけてもなかなか起きられずいつも母にたたき起こされる。
最近は特にだ。目覚まし時計もかけていないのに一人で起きたのは久しぶりだ。

私はある違和感に気づく。
部屋は薄暗くカーテンから日が差していない。体をゆっくり起こしカーテンを少し捲る。

真っ暗だ。夜が明けていなければ朝日が昇る気配すらない。

私は時計を見た。時計の針は6時45分で止まっている。
「?」
私がベッドに入ったのは6時30分頃だった。つまり私は15分程度しか寝ていないことになる。私は基本寝つきは良いが寝起きは良くない。こんなに短い睡眠で起きることなどありえない。
私は寝癖のある長い髪をかきあげ、自分の部屋から出た。

階段を下り、リビングに入る。そこには母と姉と帰宅したばかりの父の姿があった。
だけどどこか不自然。姿ではなく、動きがおかしい。

3人とも硬直したかのように動かない。母は皿をテーブルに並べたまま動かず父はスーツを脱ぎ脱衣所に向かおうとしたまま動かず姉はテレビに釘付けて大口あけて馬鹿みたいに笑ったまま動かずにいた。人間だけではなく、家中が一時停止したかのように動かない。まるで時が止まったみたいだ。
私はひとつの結論にたどり着いた。

「まだ夢を見ているんだな」

これほど長い時間夢だとはっきりしているとは思わなかった。それにしても宙に浮いたしゃべるうさぎに家の中が停止したみたいに動かなかったり、まったく一貫性がない。
でも、夢だから一貫性がないのは当たり前か。

寝よう。明日になったら元通りになるだろう。
階段を上がり、部屋に戻った。

「痛って」
部屋に戻った途端、急に右腕に鈍い痛みが走った。右腕を持ち上げたら白い物体が腕にぶら下っている。いや、ぶら下っているのではなく噛み付いているといったほうが正しい。
よく見たらさっきの夢うさぎだ。
私はそれを取り払おうと腕をぶんぶん振り回したが噛み付いたまま離れない。夢の中でも痛みってこうもはっきり感じるんだな。よく見たら頭の部分に餅が膨らんだかのようなぷっくりとした丸いこぶがあった。

「ぶぐうううう」

噛み付いたまま何か言っている。

「は?」

とりあえず痛いから放してほしい。

うさぎは恨みがこもった様な目で私の顔に近づいてきた。うさぎに睨まれてもぜんぜん怖くない。むしろ、こぶのついたうさぎなんて面白い。

「よくも壁にぶつけてくれたね。人間のしかも女の子に耳つかまれて投げられたのなんて初めてだよ。まったく、いくら非現実的な人外が宙に浮いてるからって」

これは夢だから人外がいてもおかしくないけど。

「普通の女の子だったら驚くか唖然とするかって思ったのに。いくらなんでも壁に叩きつけるなんて」

なんだかめんどくさくなってきた。いくら夢でもうさぎの文句に付き合えほど私はお人よしじゃない。
第一私はうさぎが嫌いだ。

「こんなかわいくてキュートなうさぎを………ってちょっと」

自分でかわいいなんて言うなうぬぼれうさぎ。それとかわいいとキュートは同じ意味だ。私は隣でいまだに文句をいっているうさぎに気にせずベッドに入る。

「ちょっと寝ないで」

うさぎはベッドに入るのを邪魔するかのように下から顔を出した。

「どうやったらこのふざけた夢から覚めるんだろう」

「夢じゃない。まずはそこは自覚して!」

「いや夢だ。じゃなきゃおかしいだろこの状況」

「気持ちはわかるけど夢じゃないの!」

「夢だ。消えろブサギ」

「ブッ!?顔はかわいいのに口悪いね」

「うさぎに遣う気なんか持ち合わせてない。私はベッドに入るんだ。そこどけ」

「これは夢じゃないって。しつこいな」

「ちっ」

なんで夢のうさぎと口論しないといけないんだ。
めんどくさいな。また壁にたたきつけてやろうか。もう出てこれないほど。

「こうなったら」

「?」

うさぎは何かを決心したかのように息を吐いた。消える決心をしてくれたのなら願ってもない。


ばっちーーーーん!!!!


突然だったので何が起こったのかわからない。
右頬が痛い。目頭から火花が散るような衝撃とはこのことだ。左方向に体が倒れそうになった。

なにが起こったんだ。すぐには理解できなかった。それほどの衝撃だ。

私はこのうさぎに殴られた。私は生まれて初めてうさぎに殴られた。

「これでわかったか!」

うさぎはドヤ顔で言った。
私は右頬をさすりながら左手でウサギの耳を思いっきり掴んだ。

「いじっ!?」

うさぎは痛そうにしたがそんなのかまうものか。こっちはうさぎ以上に痛いんだ。
いまだに目頭が熱い。
なんでこんな妙なうさぎに殴られなければいけないんだ。しかもなんださっきのドヤ顔。人の顔殴っといてドヤ顔なんてするな。

「あの、痛いので」

「………」

「そろそろ」

「………」

「離して」

「はぁ」

私はぽいっと宙に投げるようにして手を離した。殴られたせいか頭が冴え、途端に冷静になってきた。

夢じゃないなこれは。この頭がガンガンするような頬の痛みを夢と片付けることができない。微妙に気がついてはいたけど夢ということにしたかった。
それほどまでにこの脈絡のない急展開な現状を理解するのは面倒だった。
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