クズヒロインなのになぜか人が寄ってくる

キリアイスズ

文字の大きさ
15 / 115

うざい

しおりを挟む
肉団子のスープ残さず食べきった。

「食った食った」

最後の最後にぬるくなっているお冷を飲み干し、椅子に思いっきり寄りかかる。

「あの!」

目の前の青年は再び私に話しかけた。そういえば、この人は私に話があるんだった。食べるのに夢中ですっかり忘れていた。別に忘れててもよかったけど。

青年のカップを見たら空だった。すでに飲み干しており私が食べ終わるのを待っていたらしい。
「何か?」

「どうして僕の向かい席に座ろうと思ったんですか?」

「は?」

どうしてって満席で席がなかったからここに座った。それ以外の答えなんてない。

「こんな外見なのでまさか向かい席に座られるなんて思ってなくて」

こんな外見?

「無理をして座ってくれなくてもいいんです。見ず知らずの人に憐れまれてもうれしくないですし」

憐れむ?さっきから何を言ってるんだ?もしかしてこの世界では白い髪に赤い目は偏見の対象?可哀想で無理をして座っていると思われてる?

「遠巻きにされるのもしかたがないとは思っています」

何?もしかして愚痴られてるの?見ず知らずのモブキャラに憐れまれてると勘違いされて愚痴られてるの?

「こんな外見でしかも女性のような容姿なのでしかたがないとは思っているんです」

なんで見ず知らずに人間に愚痴られないといけないんだ。こっちは慣れない重労働で身体はもうヘトヘトなんだぞ。たぶん明日は筋肉痛で動けなくなる。
それほど疲れてんだぞこっちは。

「僕ももっとがんばらないといけないってわかってるんです。でもなかなかうまくいかなくて」

私、何で黙って聞いてるんだ。そんな義理ないのに。私は目の前の青年を頬杖をつきながら凝視する。
白い髪、赤い目。思い出したくないものを嫌でも連想してしまう。
私だって愚痴や文句を言いたい。でも、その相手は今いない。徐々に冷静だった思考にふつふつとどうしようもない憤りが肥大していった。

疲れてるのに帰りたいのに眠いのに眠いのに眠いのに眠いのに眠いのに。

私はぎゅっと拳を握る。


「だから兄上にも――」

ぶちっ。
私の中で何かが切れる。

私は思いっきりテーブルに拳を振り下げた。ドンと音が響いた。

「!?」

青年は私がそんなことをするとは思わなかったので呆気にとらわれている。

「うざい」

「え?」

「さっきから聞いてたらなんだよその鬱陶しい自虐発言。あんたは見ず知らずの私にそんなこと聞かせてそんなことないって慰めてもらいたいの?すっごい迷惑。だいたい女に見られたりその白い髪の毛が嫌だって言うんだったら切るなり染めるなりできるだろ。遠巻きに見られるのが嫌なら少しでも見られないようにすればいいだけの話だ。あんたは変わりたいっていいながら本当はこのままでいい、不幸に浸っていたいって思っているだけなんじゃないの?」

「――!」

とうとう不満や鬱憤が自分でも抑えきれなくなってしまった。私はさらまくし立てた。

「遠巻きにされる原因はたぶんその外見だけじゃない。そのウジウジとした性格も入ってる。そのカビみたな髪にキノコが今にも生えそうなくらい鬱陶しい。勘違いしてるみたいだけど私、別にあんたがかわいそうだからここに座ったわけじゃない。店員に何言われたか知らないけど満席だからここに座っただけ。自意識過剰にもほどがある。思ってても言えないわ」

「あ」

私は相手が反論する余地を与えなかった。

「最初にあんたを見たときはたしかに不愉快だった。でもそれは見た目が不気味だからじゃない。うさぎに似てたからだよ。私うさぎ嫌いだから」

店内の客がちらちらとこっちを見ている。そこまで大声で話したつもりはなかったが怒気が混じった声色で捲くし立てたためやはり目立ってしまっている。

「そんなに白い目で見られるのが嫌なら自分の目と耳を潰せばいい。簡単な話だ」

最悪だ。でも、少しすっきりした。

「あの、お客様、どうかなないましたか?」

店員は何かトラブルが起きたと思ったのか顔を青くしている。

「お代」

「はい?」

「だからお代!」

「あっ、はい。銅貨4枚です」

私はポケットに入れておいたお金を出し銅貨4枚調度をテーブルに出した。

たしかあのうさぎが言っていた。銅貨1枚が私の世界のお金で換算すると二百円、銀貨1枚が二千円、金貨1枚が一万円くらいに相当する。銅貨には狼の模様、銀貨には鷹の模様、金貨には獅子の模様があるそうだ。
私は椅子に掛けておいた帽子を深く被った。

向かいの青年は何か言おうとしているみたいだが知ったことではない。もう付き合っていられない。私は帰る。帰って寝る。私はできるだけ客と目を合わせないようにして店を出た。


とぼとぼと歩きさきほどまで膨れ上がっていた苛つきが徐々に沈静化していた。

「はぁ、馬鹿なことしてしまったな」

思考が冷静になっていくとさきほどの自分の姿を思い返し、なんてみっともないことをしたと後悔した。
人前であんな醜態を晒すなんて普段の私なら絶対にしない。

“遠巻きに見られるのが嫌なら少しでも見られないようにすればいいだけの話だ。あんたは変わりたいっていいながら本当はこのままでいい、不幸に浸っていたいって思っているだけだ”

私は自分の言葉を思い出した。何言ってんだよ私。完全に棚上げ発言じゃん。

「私が乙女ゲームのヒロイン?ないだろ」

怠惰で自己中で口も悪くて人嫌いで友達がいない。一人で生きていけると思うほど幼稚ではないが避けて通れるならできるだけ人とは関わりあいたくないと思っている自分が人に好かれるとは到底思えない。
たとえご都合主義のフィクションの世界だとしても、好かれる要素があまりにもない。うさぎには大団円を目指せと言っていたが大団円はある一定のキャラクター達からの親愛度を上げなければいけない。どう考えても無理ありすぎる。

別にいいや。私はここで期限までニート生活を送ろうと思っている。特に行動を起こさなければキャラクター達に会うことはないだろう。

「帰ったら寝る、明日も寝る」

今日のことはもう忘れる。明日は絶対に起きない。何か忘れているような気がするがもうあの青年には会うことはないだろう。


私はまだ知らなかった。あの食堂に入ったことがとんでもなく面倒で慌しい日々を過ごす序章になることを。





しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。

いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。 「僕には想い合う相手いる!」 初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。 小説家になろうさまにも登録しています。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

処理中です...