クズヒロインなのになぜか人が寄ってくる

キリアイスズ

文字の大きさ
20 / 115

私は優しくない

しおりを挟む
「そういえば、君なんで追われてたの?」

二人で大通りを人込みに紛れてこつこつと歩いているとき疑問を口にした。

「わかんない、ねことあそんでいたらいきなりはなしかけられたから」

男の子はきゅっと握っている手に力を込めた。

「猫?」

「うん、おいかけていたらいっしょにあそぼうっていわれて、いやだって言ったんだけどいきなりつかまれてびっくりしちゃって」

そういえば、奴ら『売る』だの『ボス』だの言っていた。それを考えると『そういう目的』のためにこの子を捕まえようとしていたんだろう。まさかそんな漫画かゲームでよく見るありがちな状況に巻き込まれるとは思わなかった。
いや、そういえばここはゲームの世界で私は一応ヒロインの一人だった。そんなお決まりな出来事に嫌がおうにも遭遇する体質なんだった。やっぱりあんまり外に出るべきではないか。それにしてもこんな子供を一人で外で遊ばせるなんて親はどうしてるんだ。おかげで私はヒロイン特性でよくあるやっかいごとに巻き込まれてしまった。

「ここからまだ遠い?」

「もう少し……あそこだよ」

男の子は指を指した。目を向けると青いドアに目を引き寄せられた。壁が白く塗装されているためその青が一層際立って見える。ドアの近くにスタンド看板が立っているがなんて書いてあるかここからじゃよく見えない。私は男の子に被せた帽子を取り自分の頭に被せた。

「ここでいいね。これからはあんまり一人で出歩かないようにね」

男の子は無言で私の足に抱きついてきた。顔をうずめるようにしてるため表情はわからない。
この子にとって私は自分を助けてくれたヒーローに見えているのだろう。
でも、私はヒーローじゃない。こんな小さい子に縋られて胸が多少痛むが私はそれよりも早くここから立ち去りたいという気持ちのほうが大きかった。

「私、行くよ?」

「……」

男の子は何も言わない。このままでは埒が開かない。どうしたものか。私は持っていた手提げの袋に目をやった。

しかたがない。私はゆっくりと男の子を引き剥がし視線が合うようにかがんだ。

「これあげるから」

「なぁに?これ」

男の子はぽかんとしながらそれを見た。

「これ、かぼちゃのケーキだよ」

「ケーキ?」

男の子の表情が少し明るくなかった。

「少し、形が崩れたかもしれないけどおいしいと思う」

おいしいなんて自分で言って少し恥ずかしくなる。

「家族の人は中にいる?」

「たぶん、いる」

「いきなりこんなものを持ち帰ったらびっくりすると思うから難しいかもしれないけどゆっくり事情を話すんだよ」

初めて会った子供にケーキを渡すなんて親からみたら私は危ない人間に見えるだろう。でも事情を知れば多少不審な感情は払拭されるはずだ。

「うん」

男の子おずおずと手提げ袋を受け取った。私は男の子が受け取った瞬間、さっと踵を返した。
「おねえちゃん―――」
後ろ髪を引かれる思いがあったがそれを押し込め、聞こえないふりをしながら立ち去った。


「あ~あ、せっかく作ったのに」

ため息が出る。まさか一晩かけて作ったケーキを見知らぬ子供にやるはめになるなんて自分でもびっくりだ。
「それにしてもあの男の子どっかで見たような」

「『レイ』にはあんな小さい子の知り合いはいないはずだよ?」

「違う。会ったことじゃなくて見たことがあるかもしれないってこと」

頭の中で微妙にひっかかっている。あれほど顔立ちの整った子どもは人目見たら忘れなさそうだが、生憎そんな記憶はない。

「裏路地に入った瞬間、胸の中がムラっと嫌な感じがしたのはきっとあの裏路地にはああいう不良共が屯っていたからだろうな」

「嫌な感じがしたの?」

「たぶん『レイ』の身体の記憶が教えてくれていたと思う。前にそんな目にあったか、見かけたか、あぶないっていう噂があったのかわからないけど」

もうあの裏路地や見知らぬ場所に行くことになって胸の中がムラッと嫌な感じがしたら近づかないでおこう。

「でもさ、そのケーキをあげるなんてけっこう優しいじゃん」

「あげなかったらいつまでも離してくれそうになかったから」

「君ってぶっきらぼうに振舞ってるけど根はけっこう優しいよね。男の子をなんだかんだ言って助けたし」

「優しくない。助けることができたのは透明化のノアと念動力のノアがたまたまあったからだ。違うノアだったらあの子を助けることができなかった。たぶん助けなかったよ」

もし、奴らが足を止めたら。もし、小石に気づかれたら。もし、あの子を追うのをやめて私に目を向けられたら。もしもなんて考えたらキリがない。でも、助けられる可能性より助けられない可能性のほうが大きかった。私は少年漫画の主人公のように身を挺して赤の他人を庇おうと思う自己犠牲精神はない。おそらく自分かわいさにあの子を奴らに渡していた。

「だからあんまり褒めんな」

私は自嘲気味に言った。

うさぎは何か言いたそうにじっと私を見る。

「なんだよ」

「君はやっぱり優しいよ」

「話聞いていた?」

「本当に最低な人間だったらそんな可能性の話に罪悪感なんて抱かないよ。ノアのチカラがあっても助けないという選択肢だってあった。でも君はそれを選ばなかった」

私はさきほどよりも強くうさぎにデコピンした。

「あだっ、何するの?」

「うっさい」

うさぎはひりひりとさせている額をさすりながら涙目になっている。私はうさぎに構わず早足で歩いた。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

あっ、追放されちゃった…。

satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。 母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。 ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。 そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。 精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。

【完結】竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました

七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。  「お前は俺のものだろ?」  次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー! ※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。 ※全60話程度で完結の予定です。 ※いいね&お気に入り登録励みになります!

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...