クズヒロインなのになぜか人が寄ってくる

キリアイスズ

文字の大きさ
45 / 115

マジで何やってんだ。バカじゃないの?

しおりを挟む
私はうさぎから男たちに視線を移動した。

「いいかげん教えろよ。一体どうやって教官に取り入ったんだ?」

「庶民風情が総合テスト10番以内に入るなんてありえないだろ」

「金か?まぁ、貧乏人のはした金なんてたかが知れてるか。もしかして女でもあてがったのか?それともお前が相手をしたのか?」

「おいおい、それはいくらなんでもないんじゃねぇか?たしかにあの教官性欲強そーだけどよ」

男たちの吐き気がするような会話と不快な笑い声がここまで聞こえてくる。
壁際に座り込んでいた男がゆっくりと顔を上げた。

「なんだよその顔は。気にいらねぇ」

「だいたいこっちは我慢してるんだからな。卑しい庶民と同様に扱われることを」

「お前ら庶民はもっと俺たちに敬意を払うべきなんだよ」


「なんだあのクソ会話」

光景を見て開口一番に出たセリフだ。
つまりこういうことだ。見下していた平民が自分たちよりも優秀な結果を残したため嫉妬し、筋違いな八つ当たりをしているということか。会話から連想するとおそらくあの4人は貴族で短髪の男は平民。

平民の出の訓練生は少ないと聞いた。ただでさえ、周囲が身分の高いものばかりで肩身が狭いはずなのにその貴族があんな傲慢な性格の人間ばかりだとしたらあの男に同情してしまう。兵士になるのはこの国にとって名誉であるはずなのに少しも羨む気持ちが沸いてこない。

だいたい庶民庶民うるさいよ。庶民、貴族の前にお前ら4人下品だわ。曲がりなりにも兵を育成する訓練生の制服を着た人間がこんな往来で一人の人間を4人がかりで暴行しようとするなんて教養がないとしか言いようがない。

曲がり角の通りのほうはメインストリートと比べたら人通りは少なく閑静としている。それででもちらほら人が通りすがっている。でも、関わり合いになりたくないのか4人が身分の高い家柄の人間だからなのか皆ケンカを止めようとせず、気まずそうに視線をはずし早足で立ち去っている。

まぁ、普通はそうだろうな。

「リーゼロッテ、私らも行こう。そのうちあいつらも飽きるだろう」

そう言って隣にいるであろうリーゼロッテに声をかけた。
なぜか返事がない。

「ちょっとリーゼロッ――あれ?」

返事を返さないリーゼロッテを不審に思い隣に目をやったが姿がなく足元に袋一杯の紙袋があるだけだった。

「怜、あそこ」

「え?……ってなにやってんだあの子」

うさぎが促した方向を見たら、リーゼロッテはあのケンカ真っ最中の現場に向かっていた。
『あんなの許せない』といった険しい顔で4人を見据えている。

「マジで何やってんだ。バカじゃないの?……いや、違うか」

普通だったらありえないが、乙女ゲームのヒロインだったらありえる行動だ。ヒロインにも助けるか助けないかがあるがリーゼロッテの場合は前者らしい。

困っている人を放っておけないやっかいな性質。リーゼロッテはいかにもな自己投影型ヒロインらしい行動を取る。それにしても4人の男に向かっていくなんて向こう見ずにもほどがある。身を守るための腕力もノアもあるわけではないのに。

「あなたたち何やってるの!」

ぴしゃりと言い放つ声にへらへらと笑っている男たちは一斉にリーゼロッテに視線を向けた。

「は?いきなりなんだよ」

男たちは眉間に皺をよせ、不機嫌そうにリーゼロッテを睨みつける。

「こんな往来でそんな4人がかりで取り囲むなんて恥ずかしくないんですか?あなたたち借りにも士官学校の人たちでしょ?」

その睨みにリーゼロッテは怯まなかった。リーゼロッテのその立ち振る舞いに通行人たちも足を止めはじめている。

「は?なんだよ。庶民のしかも女が俺たちに意見するのかよ」

4人のうちの一人がリーゼロッテに詰め寄り、舐めまわすような視線を向ける。

「女とか庶民とか関係ありません。身分の高い高貴な人たちがこんな真似をするほうがよっぽど卑しいです」

「んだと!」

もうよしなって。いくら本当のことだからってこれ以上は何されるかわからないぞ。そう思ってしまうほど4人の顔から青筋が浮き立ってた。

「あなた方だって気づいているはずです。なぜ他者を低めるのではなく己を高めようとしないのですか?こんな恥ずかしい真似どうしてできるんですか?」

「この小娘、言わせておけばっ」

激昂した男がリーゼロッテの髪の毛を乱暴に掴んだ。

「きゃ!」

リーゼロッテは栗色の長い後ろ髪を引っ張られ涙目になりながら顔を歪ませている。

「い、痛い!放して!」

リーゼロッテの叫び声がここまで聞こえてくる。


「……そりゃ、髪の毛引っ張られたら痛いだろうな」

「ちょっと!そんなのん気なこと言ってる場合じゃないよ!」

うさぎが耳元でわめきだした。

「助けないとっ」

うさぎが小さい手で私の服を引っ張る。

「まさか私が助けるの?」

「そうだよ!」

「髪の毛引っ張られろって?」

丸腰で興奮気味に女に絡んでいる男4人に立ち向かうなんてできるわけがない。髪の毛引っ張られる女が一人増えるだけだ。私にはそんな無鉄砲な根性はない。

「じゃあ、見捨てるの?自分には関係ないって。本心ではどうにかしたいって思ってるんでしょ?だからこの場から動かないんでしょ?」

「………」

「君には念動力のノアがあるよ」

「私にはまだ一度に1つのものしか動かせないし、あまり重いものは動かせないって言ったと思うけど」

「それでもあの子一人だけでも助けることはできるはずだよ」

「助けるって」

うさぎに言われ、なにか手頃なものはないか周りを見渡す。

「これ、使えるか」

足元にあったあるものが目に留まった。
紙袋に入ったチーズだ。円形のチーズを四等分にしたうちの二切れだ。淡い黄色で手に取ると見た目よりも重く硬質だ。これくらいなら動かせるはず。

これを左手のノアで透明にしながら髪の毛を掴んでいる男の頭に思いっきり直撃させる。その瞬間掴まれている髪の毛は解放されるだろう。透明化は5秒しか持たないため、後の3人にも素早く当てる。このチーズはかなり硬いため当たったら相当痛いはずだ。4人が悶えている間にもう1つのチーズを透明化にして今度は4人の鼻辺りに当てる。その間、私はリーゼロッテの手を引いてその場から離れる。2回も硬いものを当てられ、しかも鼻先に当てられたらしばらく痛くてその場から動けないだろう。
これでいこう。

「怜、がんばって」

「うるさい」

緊張しているんだから話しかけるな。

私はチーズを右手でぎゅっと握った。そして身を隠していた壁から一歩前出て狙いを定めようとした。

「彼女の髪を放しなさい」

凛とした低い男の声が聞こえ思わず足を止めた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...