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私一人が悪者かよ
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男がいきなり倒れたため周囲は騒然としている。私は周囲に構わず、男に近寄り紙袋を拾い上げた。
「ああくそっ、全部齧りかけにしやがって」
中身のパンはクロワッサン1個と白パンしかなく、二つとも男の歯形がくっきりついていた。
「オマエのせいですべてが台無しだ」
私は中身を入れたまま紙袋を丸め、男の頭に直撃させた。
イライラする。すごくイライラする。
「こっちです」
通りの向こうから幾人かの乱雑な足音が聞こえてくる。横目で見ると軍服の制服が目に付いた。誰かが兵をここまで誘導してきたらしい。私は気を失っている忌々しい男に目をやりながら、軽く直撃させた丸めた紙袋をゆっくり拾い上げた。人ごみを掻き分け軍服の男が近づき、私の後ろに立った。
「オマエらの」
私はキッと近づいてきたであろう兵を睨み付ける。
「オマエらのせいで私のパンが台無しになったじゃないか!」
私は兵を怒鳴りつけた。とにかくこの腹立たしさを誰かにぶつけたかった。一見お門違いな言いがかりのように見えるが、間違ってはいないはずだ。兵がもっと早くこの場所に足を運ばせていたら私のパンは無事だっただろうし私もすぐ家に帰ることができたんだ。
「って、お前は」
思わず声に出してしまった。なんとその怒鳴りつけた人物は攻略キャラクターの一人、コンラッドだった。ここまで小走りで駆けてきたはずなのにコンラッドは汗一つかいた様子は見せず息も切れていなかった。
「君は」
昨日の今日なのでコンラッドも私も覚えていらしく、一瞬目を見開く。
私は昨日リーゼロッテを助けてくれた攻略キャラクターであるコンラッドを開口一番怒鳴りつけてしまった。
(…………知るか)
逆に腹立つわ。この状況に。今日は絶対見知った人間とは会わないと決めていた。決めていたのにさっそく会ってしまった。
むかつくな、主人公補正。
いらねえよ、主人公補正。
捨てたいわ、主人公補正。
私はさらに捲くし立てた。
「他の人たちはいいよ。財布取られただけだから返すだけだし、でも私は13個もパンを台無しになったんだぞ。この紙袋に入っている2個のパンだってあの男が齧ったやつだし」
私は紙袋をコンラッドに広げるように見せる。コンラッドは眉一つ動かさず黙って私の話を聞いていた。
「銀貨4枚もしたんだぞ。オマエ、パンを戻せるノア持ってんのか?持ってないだろ?あいつは気を失ってるし、だれがこの責任――」
「あの」
誰かが私の言葉を遮った。
「よかったら台無しになったパン、あげるよ」
さっきのパン屋のおじさんだ。おじさんはさきほど私が買ったパンと同じものが入った紙袋をかかえている。
「だからそんなに興奮しないで」
おじさんは宥めるかのような口調で苦笑いを浮かべている。おそらく変な小娘が兵に変ないちゃもんをつけているので見ていられなくなったんだろう。周囲を見渡すとおじさんのように『そんなに怒らなくても』と言いたげな表情を浮かべている人間が私を見ながらヒソヒソと囁きあっている。
なんだこれ。私一人が悪者かよ。
まぁ、言いがかりの自覚はあるけど。
「どうも」
不満を抱きながらパンを受け取った。一応、無料でパンを手に入れることができたので零れそうになった舌打ちをなんとか飲み込んだ。確かなパンの重みにさきほどまであった苛立ちが沈静化していく。
「ほかに何か取られたものは?」
一部始終を見ていたコンラッドは綺麗な水色の瞳で私を見据えてたままだ。
「いや、ないけど」
淡々とした口調と無表情のせいで何を考えているのかまったくわからない。
でもクール系って最初はだいたいこんな感じだろう。
「………」
「………」
さきほどの己の行動を思い返すと少々気まずい。
「彼女は一緒ではないのですか?」
「え?」
彼女ってリーゼロッテのことを言っているのか。
「いいや。私今日休みだから。何、なんかあの子に用事?」
私の問いにコンラッドがわずかに眉を潜ませる。
今日はじめて無表情以外の表情を見た。なんか変なこと言ったか?
「彼女は――」
私の問いにコンラッドはゆっくりと口を開いた。
「ぐっ……」
後ろで声がした。気を失っていた男が目を覚ましかけている。コンラッドはハッとし、すぐ様行動に移した。上半身だけ男の体を起こし、両手を後ろで拘束している。
「おい、コンラッド」
仲間の軍人がコンラッドに駆け寄ってきた。この男も見たことがある。昨日、コンラッドと一緒にいたサブキャラだ。ずっとコンラッドから視線を動かしていなかったため気づかなかった。
「だいたいの人間から話を聞いたが、こいついきなり気を失ったらしい」
「いきなり?」
コンラッドは片手で男を拘束したまま、男の身体を調べ始めた。。服のポケットの中や被っていたニット棒まで脱がせ、隅から隅まで素早く調べている。
「額が腫れている」
ニット棒を脱がせたとき、額が赤く腫れているのを見つけたらしい。
「うわ、ほんとだ。痛そう。でも周りにそれらしきものはないよね」
二人は周囲を見渡した、しかし、茶色い地面があるだけで何も見つけられていない。
「ノア?」
コンラッドはわずかに呟き男を拘束したまま周囲の野次馬に目をやる。
「だれかこの男にノアを使ったものは?」
コンラッドは野次馬に聞こえるように声を張った。
しかし、誰も名乗りでない。そりゃそうだ。ノアは使っていないが私があの男の頭に命中させたのだから。当てるつもりで投げたが、本当に当たったときは軽くびっくりした。
「なにかが頭に直撃したことは確か。しかし、それらしきものはない。もしノアだとしたら透明化の―」
コンラッドの呟きに思わずぎくりとする。
(はやく離れよう)
一応私が犯人を気絶させた当人だが名乗り出るつもりはない。正直、兵とはあまり関わり合いになりたくない。攻略キャラクターがその兵ならなおさらだ。
私は透明化のノアを左手に宿らせているが使用はしていない。使用も名乗り上げもしないのでバレる可能性はかなり低い。しかし、ゲームの世界であるここではその可能性の低さがなんの意味もない。
ふとしたきっかけで私に辿り着くこともある。
長居は無用だ。パンも手に入ったことだしもうここには用はない。コンラッドのほうに目を向けると彼らは男が盗んだ財布と盗まれた人の人数を照らし合わせているようだ。男に財布を盗まれた被害者が大勢いるようで、一人ひとりに話を聞くのは時間がかかるだろう。
今のうちだ。
「あ、そうだ忘れてた」
ピタッと足を止め振り返った。
あれ?いない。いくら周りを見渡してもうさぎの姿が見えない。うさぎは白く基本、浮かんでいるため人ごみの中でも見つけやすいはずだ。それなのに、いくら探してもその白い生体が見当たらない。
「ま、いっか」
「よくないわ~~~!!!」
うさぎが大絶叫しながらどこからともなく現れ、頭から突進してきた。
「いっ!」
そして私の頭に物の見事に命中した。急な痛みに悶絶しその場にしゃがみこんだ。目頭が熱くなるのを感じながらうさぎを睨み付けようと顔を上げた。
「なにすっ……ってうさぎその顔」
うさぎの目元にぷっくりと丸い団子状のこぶがついていた。まるでふくらんだ餅が目元にくっついているみたいだ。
「こぶとりじいさんかよ」
見事なこぶに思わず噴出してしまいそうになった。
「この顔は一体だれのせいだと思ってるの?」
うさぎは涙目になりながら顔をずいっと近づけてきた。地を這うような声で私をこれ以上ないほど睨み付けているにも関わらず、私の関心は目元の面白いほど膨れたこぶにいっていた。
思わず手を伸ばし、つんとつついた。
「いった~~~!!」
うさぎは叫びながら一気に一直線に天高く飛んだ。
そしてものすごい速さで戻ってきた。
「何をする!?」
「ほんとにこぶなんだ………漫画みたい」
「痛かったよすっごく。あのとき以上に!」
「あのとき?」
「君がぼくを壁にたたきつけた時以上だよ!」
そういえばそんなこともあった。あのときは完全に夢だと思っていた。久しぶりに投げたけどボールより投げ心地は良かったし、思いのほか遠くに飛んだ。
ある意味ストレス解消に使えるかもしれない。
おっと、こんなくだらないことをしている暇はないんだった。
辺りを一瞥した。コンラッドたちはいまだに何が起こったのか詳しく町民たちに話を聞き出している。
私には目もくれていない。私は両手で抱えている紙袋をさきほどと同じように右手のノアを使って浮かび上げ、くるりと身体を回した。
「ねぇ、僕になにか言うことあるんじゃない?」
私は騒然としている通りを後にした。
「ねぇ、僕になにか言うことあるんじゃない?」
人を避けながらコンラッドのことを少し考えた。そういえば、なんでリーゼロッテのことを聞いたんだろう。
昨日の件についてもっと詳しく聞きだそうと思ったのか?それとも昨日危険な目にあったリーゼロッテの身を案じていたのか?もしかして、一目ぼれとか?
「いや、それはさすがにないか」
「ねぇ、僕に言うことは?」
何にしてもやっぱりコンラッドはリーゼロッテの攻略対象で間違いないと思う。昨日で乙女ゲームのありがちな王道パターンが2つも出てきた。
1危ない目に遭っているヒロインを颯爽と助けている。
2何もないところで転びそうになるヒロインを正面から抱きとめている。
2つだけだが十分だ。何より今さっき私よりもリーゼロッテを気にしている素振りを見せた。
「それ以外にも何か確証が」
「ちょっと、僕に言うことは?」
「ちっ、うるせぇな」
「は?舌打ち?聞こえたよ!ちょっと」
「あ~はいはい、悪い悪い」
今考え事してんだから話しかけんな。
「僕の話聞いている?いまだにすっごくこのこぶ痛いんだよ!」
「面白いからそのままにしたら?」
いまだに空中で騒いでいるうさぎの文句を軽く流しながら歩く。
お腹空いた。もうコンラッド達が見えなくなった辺りで歩く速度を緩める。肩の力が抜けたと思ったら急に空腹が襲ってきた。
私は朝から何も食べていない。
すぐ買ってすぐ帰るつもりだった。そして今日最初の一口目をあの夢にでてきたチーズを乗っけたパンにしようと思っていた。しかしどうやらそれは叶いそうにない。
お腹鳴りそう。さきほどの件で時間を長く感じたため身体が食べ物を求めていた。
チーズを乗せたパンは食べたいが家までの道のりは30分ほどかかる。
それまで私の身体は持つのだろうか。
いや、もたない気がする。
「ああくそっ、全部齧りかけにしやがって」
中身のパンはクロワッサン1個と白パンしかなく、二つとも男の歯形がくっきりついていた。
「オマエのせいですべてが台無しだ」
私は中身を入れたまま紙袋を丸め、男の頭に直撃させた。
イライラする。すごくイライラする。
「こっちです」
通りの向こうから幾人かの乱雑な足音が聞こえてくる。横目で見ると軍服の制服が目に付いた。誰かが兵をここまで誘導してきたらしい。私は気を失っている忌々しい男に目をやりながら、軽く直撃させた丸めた紙袋をゆっくり拾い上げた。人ごみを掻き分け軍服の男が近づき、私の後ろに立った。
「オマエらの」
私はキッと近づいてきたであろう兵を睨み付ける。
「オマエらのせいで私のパンが台無しになったじゃないか!」
私は兵を怒鳴りつけた。とにかくこの腹立たしさを誰かにぶつけたかった。一見お門違いな言いがかりのように見えるが、間違ってはいないはずだ。兵がもっと早くこの場所に足を運ばせていたら私のパンは無事だっただろうし私もすぐ家に帰ることができたんだ。
「って、お前は」
思わず声に出してしまった。なんとその怒鳴りつけた人物は攻略キャラクターの一人、コンラッドだった。ここまで小走りで駆けてきたはずなのにコンラッドは汗一つかいた様子は見せず息も切れていなかった。
「君は」
昨日の今日なのでコンラッドも私も覚えていらしく、一瞬目を見開く。
私は昨日リーゼロッテを助けてくれた攻略キャラクターであるコンラッドを開口一番怒鳴りつけてしまった。
(…………知るか)
逆に腹立つわ。この状況に。今日は絶対見知った人間とは会わないと決めていた。決めていたのにさっそく会ってしまった。
むかつくな、主人公補正。
いらねえよ、主人公補正。
捨てたいわ、主人公補正。
私はさらに捲くし立てた。
「他の人たちはいいよ。財布取られただけだから返すだけだし、でも私は13個もパンを台無しになったんだぞ。この紙袋に入っている2個のパンだってあの男が齧ったやつだし」
私は紙袋をコンラッドに広げるように見せる。コンラッドは眉一つ動かさず黙って私の話を聞いていた。
「銀貨4枚もしたんだぞ。オマエ、パンを戻せるノア持ってんのか?持ってないだろ?あいつは気を失ってるし、だれがこの責任――」
「あの」
誰かが私の言葉を遮った。
「よかったら台無しになったパン、あげるよ」
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「だからそんなに興奮しないで」
おじさんは宥めるかのような口調で苦笑いを浮かべている。おそらく変な小娘が兵に変ないちゃもんをつけているので見ていられなくなったんだろう。周囲を見渡すとおじさんのように『そんなに怒らなくても』と言いたげな表情を浮かべている人間が私を見ながらヒソヒソと囁きあっている。
なんだこれ。私一人が悪者かよ。
まぁ、言いがかりの自覚はあるけど。
「どうも」
不満を抱きながらパンを受け取った。一応、無料でパンを手に入れることができたので零れそうになった舌打ちをなんとか飲み込んだ。確かなパンの重みにさきほどまであった苛立ちが沈静化していく。
「ほかに何か取られたものは?」
一部始終を見ていたコンラッドは綺麗な水色の瞳で私を見据えてたままだ。
「いや、ないけど」
淡々とした口調と無表情のせいで何を考えているのかまったくわからない。
でもクール系って最初はだいたいこんな感じだろう。
「………」
「………」
さきほどの己の行動を思い返すと少々気まずい。
「彼女は一緒ではないのですか?」
「え?」
彼女ってリーゼロッテのことを言っているのか。
「いいや。私今日休みだから。何、なんかあの子に用事?」
私の問いにコンラッドがわずかに眉を潜ませる。
今日はじめて無表情以外の表情を見た。なんか変なこと言ったか?
「彼女は――」
私の問いにコンラッドはゆっくりと口を開いた。
「ぐっ……」
後ろで声がした。気を失っていた男が目を覚ましかけている。コンラッドはハッとし、すぐ様行動に移した。上半身だけ男の体を起こし、両手を後ろで拘束している。
「おい、コンラッド」
仲間の軍人がコンラッドに駆け寄ってきた。この男も見たことがある。昨日、コンラッドと一緒にいたサブキャラだ。ずっとコンラッドから視線を動かしていなかったため気づかなかった。
「だいたいの人間から話を聞いたが、こいついきなり気を失ったらしい」
「いきなり?」
コンラッドは片手で男を拘束したまま、男の身体を調べ始めた。。服のポケットの中や被っていたニット棒まで脱がせ、隅から隅まで素早く調べている。
「額が腫れている」
ニット棒を脱がせたとき、額が赤く腫れているのを見つけたらしい。
「うわ、ほんとだ。痛そう。でも周りにそれらしきものはないよね」
二人は周囲を見渡した、しかし、茶色い地面があるだけで何も見つけられていない。
「ノア?」
コンラッドはわずかに呟き男を拘束したまま周囲の野次馬に目をやる。
「だれかこの男にノアを使ったものは?」
コンラッドは野次馬に聞こえるように声を張った。
しかし、誰も名乗りでない。そりゃそうだ。ノアは使っていないが私があの男の頭に命中させたのだから。当てるつもりで投げたが、本当に当たったときは軽くびっくりした。
「なにかが頭に直撃したことは確か。しかし、それらしきものはない。もしノアだとしたら透明化の―」
コンラッドの呟きに思わずぎくりとする。
(はやく離れよう)
一応私が犯人を気絶させた当人だが名乗り出るつもりはない。正直、兵とはあまり関わり合いになりたくない。攻略キャラクターがその兵ならなおさらだ。
私は透明化のノアを左手に宿らせているが使用はしていない。使用も名乗り上げもしないのでバレる可能性はかなり低い。しかし、ゲームの世界であるここではその可能性の低さがなんの意味もない。
ふとしたきっかけで私に辿り着くこともある。
長居は無用だ。パンも手に入ったことだしもうここには用はない。コンラッドのほうに目を向けると彼らは男が盗んだ財布と盗まれた人の人数を照らし合わせているようだ。男に財布を盗まれた被害者が大勢いるようで、一人ひとりに話を聞くのは時間がかかるだろう。
今のうちだ。
「あ、そうだ忘れてた」
ピタッと足を止め振り返った。
あれ?いない。いくら周りを見渡してもうさぎの姿が見えない。うさぎは白く基本、浮かんでいるため人ごみの中でも見つけやすいはずだ。それなのに、いくら探してもその白い生体が見当たらない。
「ま、いっか」
「よくないわ~~~!!!」
うさぎが大絶叫しながらどこからともなく現れ、頭から突進してきた。
「いっ!」
そして私の頭に物の見事に命中した。急な痛みに悶絶しその場にしゃがみこんだ。目頭が熱くなるのを感じながらうさぎを睨み付けようと顔を上げた。
「なにすっ……ってうさぎその顔」
うさぎの目元にぷっくりと丸い団子状のこぶがついていた。まるでふくらんだ餅が目元にくっついているみたいだ。
「こぶとりじいさんかよ」
見事なこぶに思わず噴出してしまいそうになった。
「この顔は一体だれのせいだと思ってるの?」
うさぎは涙目になりながら顔をずいっと近づけてきた。地を這うような声で私をこれ以上ないほど睨み付けているにも関わらず、私の関心は目元の面白いほど膨れたこぶにいっていた。
思わず手を伸ばし、つんとつついた。
「いった~~~!!」
うさぎは叫びながら一気に一直線に天高く飛んだ。
そしてものすごい速さで戻ってきた。
「何をする!?」
「ほんとにこぶなんだ………漫画みたい」
「痛かったよすっごく。あのとき以上に!」
「あのとき?」
「君がぼくを壁にたたきつけた時以上だよ!」
そういえばそんなこともあった。あのときは完全に夢だと思っていた。久しぶりに投げたけどボールより投げ心地は良かったし、思いのほか遠くに飛んだ。
ある意味ストレス解消に使えるかもしれない。
おっと、こんなくだらないことをしている暇はないんだった。
辺りを一瞥した。コンラッドたちはいまだに何が起こったのか詳しく町民たちに話を聞き出している。
私には目もくれていない。私は両手で抱えている紙袋をさきほどと同じように右手のノアを使って浮かび上げ、くるりと身体を回した。
「ねぇ、僕になにか言うことあるんじゃない?」
私は騒然としている通りを後にした。
「ねぇ、僕になにか言うことあるんじゃない?」
人を避けながらコンラッドのことを少し考えた。そういえば、なんでリーゼロッテのことを聞いたんだろう。
昨日の件についてもっと詳しく聞きだそうと思ったのか?それとも昨日危険な目にあったリーゼロッテの身を案じていたのか?もしかして、一目ぼれとか?
「いや、それはさすがにないか」
「ねぇ、僕に言うことは?」
何にしてもやっぱりコンラッドはリーゼロッテの攻略対象で間違いないと思う。昨日で乙女ゲームのありがちな王道パターンが2つも出てきた。
1危ない目に遭っているヒロインを颯爽と助けている。
2何もないところで転びそうになるヒロインを正面から抱きとめている。
2つだけだが十分だ。何より今さっき私よりもリーゼロッテを気にしている素振りを見せた。
「それ以外にも何か確証が」
「ちょっと、僕に言うことは?」
「ちっ、うるせぇな」
「は?舌打ち?聞こえたよ!ちょっと」
「あ~はいはい、悪い悪い」
今考え事してんだから話しかけんな。
「僕の話聞いている?いまだにすっごくこのこぶ痛いんだよ!」
「面白いからそのままにしたら?」
いまだに空中で騒いでいるうさぎの文句を軽く流しながら歩く。
お腹空いた。もうコンラッド達が見えなくなった辺りで歩く速度を緩める。肩の力が抜けたと思ったら急に空腹が襲ってきた。
私は朝から何も食べていない。
すぐ買ってすぐ帰るつもりだった。そして今日最初の一口目をあの夢にでてきたチーズを乗っけたパンにしようと思っていた。しかしどうやらそれは叶いそうにない。
お腹鳴りそう。さきほどの件で時間を長く感じたため身体が食べ物を求めていた。
チーズを乗せたパンは食べたいが家までの道のりは30分ほどかかる。
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