愉快な殺し屋幽霊

キリアイスズ

文字の大きさ
42 / 54

証拠探し

しおりを挟む
「これも、藍のおかげだね、藍がいなかったらここまでわからなかったよ」

ここまでわかったのは藍が協力してくれたおかげだろう。藍がいなかったら凶器の特定やはっきりとした傷の形状がわからなかった。雫は改めて霊体である今の身体では限界があると思い知った。

「いや、たいしたことはしてないぞ」

素直に礼を言われ、藍は照れくさそうに笑った。そんな藍を雫はくすりと頬を緩ませる。

「藍、かわいいね」

「え、何だ突然」

脈絡ない世辞に藍は目を丸くする。藍は一般の女子高生よりも顔立ちが幼い。低身長で手足が短く、目線を下げなくては目を合わせることができない。だからこそ、笑うと丸顔の頬がよりふっくらし、より幼く見えてしまう。

「悪いとは思ってるんだよ?本当に」

雫は小さく呟きながらちらりと玖月を見る。
自覚はある。自分のために動いてくれている雫を騙すような形で巻き込んでいるということを。プロの殺し屋の家に無断で侵入するということが一般人にとってどれほど危険であるかということを。

雫は殺し屋として薄情な面もあるが、良識的な面も確かにある。学校で藍と行動を共にしているのは何の思惑も全くなく、ただ単に言葉を交わし合うのは楽しいと思っているからだった。だからこそ、藍の照れくさそうに笑う姿を微笑ましくもあり巻き込んでいることに対しての申し訳なさもあった。

「………………」

玖月はその視線を沈黙をもって返す。玖月は藍が巻き込まれている件について特に強くは言及するつもりはなかった。あくまで玖月の優先事項は雫の死についての追及。雫の冷血とも取れる思惑があるにしろ、合理的に判断すれば藍の協力が必要不可欠なのは明白。だからとって雫の酷薄な思考を肯定する気にもなれず、玖月は沈黙するしかなかった。

「行動を次に移すべきではないですか?いつ誰がこの部屋に入ってくるのかわかりませんし」

玖月は腕組みをしながら掛け時計に目をやる。この部屋に入ってだいたい15分ほど経つ。
まだ、15分。しかし、もう15分とも言える。

いつ部屋で睡眠を取っている吹雪と出雲が起床するかもしれないし、いつ砂霧が毒の研究を切り上げて廊下にでるのかもわからない。合間合間に間を開けるのは得策ではない。

「まぁね、じゃあ次は………」

雫は血で濡れた制服に視線を動かす。

「藍、携帯で写真撮ってくれる?後から気づくこともあるかもしれない。防音対策してあるからシャッター音が出ても気にしないでいいから」

遺体や血で濡れた制服はおそらく今日中に処分される。もう目にすることはないだろう。目に焼き付けた自覚はあるが、記憶というものは時間とともに褪せるもの。記憶というあやふやなものに頼るより形に残るカメラに頼ったほうがいいし、後々役に立つことだってある。

「わかった」

藍はスポーツバックからスマホを取り出し死体や制服の箇所を角度を変え、時には拡大しながら撮っていった。数枚撮り終えると最後に部屋の写真を一枚撮った。

「写真の後は軽く私の部屋を調べよう。引き出しとか開けて………って言っても私にはできないけどね」

「いいのか?」

「うん、どうせもう関係ないしね。私がここ調べてって指差すから」

「わかった」

藍は雫が指を指した棚や引き出しを次々と開けていった。

「何か変わったものとかあるか?何かなくなってるとか」

「いや………特にないかな」

雫の部屋が全体的に物が少ないのと同じように収納の中身の私物も必要最低限のものしか入っていなかった。物が少なくすっきりとしているため私物が移動されたのか、何かなくなっているのかわかりやすく確認できる。

「じゃあ、これで最後だな」

藍は部屋の隅に置かれたデスク下の一番上の引き出しを開けた。

「あれ?」

引き出しを開けた時、藍はあるものに注目した。それは度が入ったやぼったい黒縁眼鏡。初めて見るもので雫が掛けたところを見たことがなかった。

「雫ってコンタクトをしているのか?」

「あぁ、それ私のじゃないんだ」

「そうなのか?」

藍は眼鏡をそっと指先で持ち上げる。確かに雫が掛けるにはサイズが大きく合っていない気がする。

「別に私が持ってる必要ないんだけど、なんとなくね」

藍は苦笑いを浮かべる雫に首をかしげるがそれ以上追及しようとは思わず、そっと眼鏡を元の場所戻した。

「じゃあ、次はどうするんだ?」

死体を調べた。当時着用していた制服を調べた。部屋を調べた。
藍は雫の次の言葉を待つ。

「出よう」

雫はベランダを指差す。ここを出る。つまり、脱出だ。

「へ?」

藍は思わず、拍子抜けの声を出す。

「だから、ここを出よう。もう、だいたいわかったし」

「出るってもう調べなくてもいいのか?他の部屋は調べなくてもいいのか?」

「いいよ。廊下に出た途端ばっちり鉢合わせの可能性だってあるし」

防音対策が備わっているこの部屋に留まっている内はまだいい。危険も少なく、すぐ脱出すれば兄弟と鉢合わせすることもない。

しかし、藍は動こうとしなかった。

「でも雫、ここに来た目的ってたしか家族が犯人じゃない証拠集めだったよな。この部屋だけを調べるだけでその証明はできたのか?むしろ、家族の部屋を重点的に調べるべきじゃないのか?」

五月雨家に忍び込んだ一番の名目は犯人ではない証拠探し。現時点では判明したのは殺され方だけであり、その証拠は一つも集めていない。だからこそ、藍は次の行動に移す意思を見せ始める。
まだ、脱出するべきだはないと。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社員の青年と清掃員の老婆の超越した愛

MisakiNonagase
恋愛
二十六歳のレンが働くオフィスビルには、清掃員として七十歳のカズコも従事している。カズコは愛嬌のある笑顔と真面目な仕事ぶりで誰からも好かれていた。ある日の仕事帰りにレンがよく行く立ち飲み屋に入ると、カズコもいた。清掃員の青い作業服姿しか見たことのなかったレンは、ごく普通の装いだったがカズコの姿が輝いて見えた。それから少しづつ話すようになり、二人は年の差を越えて恋を育んでいくストーリーです。不倫は情事かもしれないが、この二人には情状という言葉がふさわしい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...