愉快な殺し屋幽霊

キリアイスズ

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すり抜ける雨

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「………あ~、それ」

「それに私は調べるべきなのは、雫のお父さんの部屋だと思う」

「え、なんで?」

「なんでって………だって雫言っていたじゃないか。雫の死には雫のお父さんの前職、探偵時代の出来事が関わっている可能性が高いって」

察しの悪い雫に藍は呆れ顔を向ける。

「あ」

すっかり忘れていた。
そういう設定にしていたことを。

「むしろ、調べることを考えないのが不思議だ」

「………………いや、たぶん無駄だと思う。探偵時代の資料は捨てたって父さん言っていたから」

「でも、それは雫のお父さんが言っているだけで本当に捨てたかどうかわからないじゃないか」

藍は食い下がる。テコでも動きそうにない。
藍は五月雨家が殺し屋であることを知らない。だから、多少の無茶を口走れる。
藍は想像もしていないだろう。見つかったら藍にとって最悪の事態が己の身に起こることを。

「お父さんの部屋ってどこにあるんだ」

「1階の書斎だけど」

「じゃあ、調べに行こう。せっかくここまで来たんだから。家の中にいる3人が同時に部屋にいる今がチャンスだ」

藍はドアに目を向ける。雫の了承が得られればすぐに体を動く気でいる。

「いや、ここを出よう」

雫はゆっくりと首を振る。

「どうして?絶対見つからないようにするって」

「気持ちは嬉しいけどやっぱり出よう。家族が犯人の可能性がゼロじゃない以上、もし見つかりでもしたら危ないからね。それに一人ならともかくこの家には3人もいるんだから。確かに証拠集めをしてほしいって言ったけど個人的にはそれよりも今日中にしか調べられない私の身体を調べることが目的だったから」

雫ははやる藍を落ち着かせるように淡々と且つゆっくりとした口調で話した。

「目的はもう果たせたよ」

「でも」

「じゃあ、こうしよう。今日は家の中に3人いるから鉢合わせの可能性がある。だから、家に誰もいない日にまた、改めよう」

「誰もいない日?」

「そう、平日とかは皆会社や学校に通っているからさ、その時に。そうなると藍に学校をずる休みしてもらうことになるけど、そのほうが確実かつ安全に調べられると思うよ」

「………」

チャンスは今日だけではない。
雫の物言いに藍は冷静に聞き入っている。

「どうする?私は見つかる危険を冒すよりそっちのほうがいいと思うけど」

「………わかった」

藍は心境的に完全には納得してないが、雫の案のほうが理にかなっていると感じ、最終的に頷く。

「25分です」

ぼそりと玖月は時計を見ながら呟く。

「ここに入ってから25分です。出るなら急ぎましょう」

「そうだね。じゃあ、私と玖月くんで外の様子を見てくるから。いつでも出られるようにしていて」

「ああ、わかった」

藍がこくりと頷くと二人は外に飛び出した。


◇◇◇


空全体が暗い雲で覆われ、雨が降る一歩手前までの空。
少し前まで鳴いていた蝉の音が今は聞こえない。雨が降るのは時間の問題だろう。

玄関まで戻った雫は空全体を見回しながら息をつく。
大ぶりになる前に藍を脱出させたい。

それに兄弟3人がいつ、部屋から出るのかもわからない。

部屋には藍に細かい指示をして、誰かが侵入した痕跡を残さなかった。すぐ脱出できれば誰かがこの部屋に入り遺体に探っていた、と気づかれることはないだろう。
用心は家の中の3人だけではない。外側にも目を向ける必要がある。外出から帰ってくる3人にも用心しなくてはいけない。帰ってくる時間帯がわからないから、尚更だ。

「私こっち側確認するから玖月くんは反対方面を確認………」

「また、ここに来るつもりですか?」

雫の言葉に玖月は遮った。

「え?」

「さっきの話です。僕はてっきり家への忍び込みは今日だけだと思っていたので」

玖月はさきほどの話を蒸し返す。無表情で抑揚のない口調で言うので雫のことを案じてわざわざ口にしているのか判断できない。

「だって、ああでも言わないとそのまま1階に行っちゃいそうだったからね」

雫は軽く肩を竦める。

「僕はあのまま藍さんを1階に行かせるのかと思いました。たとえ、見つかったとしてもその時はその時だと言って」

雫が藍に告げていた父親が探偵だった話は協力させるための嘘だが、家族の中に犯人がいるかもしれないという話は事実。まだその可能性を捨てきれていない。

「ええ、ひどいな。まぁ、たしかに藍がベランダに登る前はちょっとは思ってかも」

「思ってたんじゃないですか」

「思ってたんだけど………もう意味ないからね」

「意味がない?」

道の向こう側に目を向けていた玖月が雫のほうに顔を動かす。

「あとで話すよ。それに3人に鉢合わせの可能性が高いって言うのもそうだけど、違う意味で藍には1階に行かせたくないんだ」

「違う意味?」

「これも後で………いや、これは言わないほうがいいかな」

雫は小さく呟きながら目を逸らす。

「あれ?」

小さな水滴がぽつぽつと天から降りてきた。視線を下に向けると乾いていたアスファルトに所々、水滴の輪が見える。それが徐々に増えてゆき、アスファルトを濡らしていく。

「ついに降ってきたか」

雫は掌を広げて前に出す。雨の粒は雫の掌をすり抜ける。
雨音が大きくなってもそれは変わらなかった。雫は雨が降っているにも関わらず一切濡れない掌をぐっと握り締める。

「急いで周囲を確認しよう」

「ええ」

二人は背中合わせでふわりと空中に浮かび、確認するため逆方面に飛んでいった。
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