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数日後、ついにシャルのチャンネルに初のコラボ動画が上がった。動画は投稿されてからすぐ、物凄いスピードで伸びていった。投稿された日にはトレンド入りしていてかなり話題になっていた。もちろん世間はロミスケって一体何者?となっていたが、シャルの動画では友人としか言っていないので昔からのリア友とかだろうと大して言及はされていなかった。3日後には100万再生なんて俺には一生関係なさそうな数字を見て震えていた。
「初コラボ成功を祝して!かんぱ~~い!」
「乾杯~」
初コラボ動画が見事バズったので俺達はシャルの家で祝杯を挙げていた。普段は飲まないけど、今日くらいは良いよな?
「ねえねえ、これからもコラボしていこうよ!」
「ん、そうだね……俺も楽しかったし」
「本当は毎週やりたいけど、やっぱりレア感が大事だからコラボは時々だね~。しばらくはシリーズを挟んでから……」
動画が伸びたからと言って天狗にならず、視聴者を意識した次の動画の事をもう考えている……さすが人気実況者だ。ただただ毎日動画を上げてる訳では無いということか。
「でも、世間的には俺とシャルはリア友って感じだよな。まあ間違いではないけど……これじゃ他の人とコラボしにくいな、ははっ」
「え……」
シャルの酒を飲む手が止まった。あれ、さっきまでニコニコしていたのに真顔になっている。
「ロミスケくんは他の人とコラボしたいの?」
「え?うーん……元々コラボするつもりは無かったし、しばらくは無いかな……。実は何人かに誘われてはいるんだけど、俺上手くやれる自信ないし」
「へー……誘われてるんだ」
シャルとコラボしてからのこと、知らない実況者からのコラボの誘いが来るようになった。でも、本当に俺とコラボしたいって思ってる人はおそらく居ない。シャルと接点を持ちたい人が俺から取り入ろうとしているだけだ。
「……ロミスケくんはどうして俺とコラボしてくれたの?」
シャルは今度は不安そうな顔をした。それは俺の方こそ聞きたい事ではあるのだが。
「だって俺とコラボしたいって言ってくれたのはシャルだけだから」
「え?」
「それにシャルの動画はさ、しんどい時でも見ると元気になるんだ。だから確実に誰かを救ってるはずだ。俺もその一部になれるなら……嬉しいなって思ったんだ」
「……ロミスケくん」
「あ、ごめんなんか、勝手に俺が思ってるだけで」
「ううん、そう思ってくれてる人が居るって分かっただけで嬉しい!ありがとう」
シャルは再び眩しい笑顔を浮かべた。表情がコロコロ変わって面白いな、なんて思ってしまった。
「さ、どんどん飲んで!」
「俺あんまり酒得意じゃないんだけど……」
「飲んで飲んで!今日金曜だし、ウチに泊まっていきなよ!」
「そんなに色々してもらって良いの?ありがとう」
「ロミスケくんにしかこんな事しないよ?ありがたく享受しな~」
シャルに勧められるまま俺はビールをどんどん開けていった。明日が休みという事もあり、多少飲みすぎても良いだろうといつもより早いペースで飲んでいた。……自分が酔いやすい体質なのも忘れて。
「……それでさ、あれが…………ロミスケくん聞いてる?」
「んーきいてるよぉ」
「だいぶ顔赤いけど、酔ってる?だいぶ飲ませ過ぎちゃったかな」
「そぉ?わかんらい、ちょっとあついかも……」
「あはは、喋り方可愛くなってるね」
シャルは俺の顔を見ると嬉しそうに笑いながら俺の隣に座ってきた。俺もなんとなくにへらっと笑い返した。
「しゃるどおしたの?嬉しそーだね」
「うん。ロミスケくん眠たくなってきたでしょ?俺に寄りかかって良いよ」
お言葉に甘えてシャルの肩に頭を乗せた。うーん、なかなか乗せ心地が良いぞ、瞼が重くなってきた。うとうとしてるとシャルが何やら机の上を片付け始めた。空いた所にスマホをセットしている。
「…………これでよし、と」
「……?」
「みんなこんばんは~!久しぶりにキャスしま~す」
ん……?なんかシャルが話し始めた。実況ではなくライブ配信を始めたようだ。こんな状態じゃ邪魔になるよな。シャルから離れようとした時、腰に手を回されそのまままたシャルにくっついてしまった。これは俺も居た方が良いって事なのだろうか。
「コラボ動画良かった?ありがとね~!え、ロミスケくん?ああ……今俺の隣に居るよ。ね!」
「んぁ……?どうもロミスケれす……」
「今酔ってて呂律回ってないの!超可愛くない?」
咄嗟にいつもの挨拶をしてしまったが何の事だかよく分かっていない。どうして今配信を始めたのだろう、酔った勢いで?シャルは滅多に配信をする事は無い。俺はもうちゃんと話す気力も無かった。
「しゃる……おれもうねむい……」
目を擦りながらシャルの方を向いた時、むに、と唇に柔らかいものが触れた気がした。あれ、今の何だ?ぼやけてよく分かんないけど、シャルの顔がすごく近いな。もう一回唇に何かが触れた。なんかあったかくて気持ちいいかも……。シャルの背中に腕を回して顔を近付けた。
「ん……なに……?もっかい……」
「……はは、可愛すぎ」
シャルが何かを呟いたが、確かめる前に俺は睡魔に負けてしまった。瞼がどんどん下がっていき、俺は意識を手放した。
「え、今の音?うん、チューした!俺達チューしちゃうくらい仲良しだから!」
◇
「な、何これ!?」
翌日、起きてからツイッターを開くとシャルがトレンドに入っていた。どうやら昨日のゲリラ配信が話題になってるようだ。俺は酔っていたこともあり配信の内容は全然覚えていない。だからこそ、話題になっている理由に混乱した。
「いや、シャルと俺がデキてるってどういう事!?」
「あ、トレンド見た?めっちゃ盛り上がってるよね!」
シャルは朝食を用意しながら軽い調子で笑っていた。いやいや、何でそんなに冷静なんだ!?
「昨日どんな配信したの!?俺覚えてないし、アーカイブも残ってないから全然分かんないんだけど!」
「俺達がどれだけ仲良しかって話しただけだよ?」
「じゃあ何で俺達がデキてるって話になる訳!?」
確かに実況者でそういう楽しみ方してる人居るけど、一回の配信でそこまで話題になるのはおかしい。コラボ動画だって一本しか撮ってないんだぞ。混乱している俺をよそに、シャルはさらっと答えた。
「だって俺達チューしたもん」
「は?」
「ロミスケくんだってもう一回ってねだってきてたよ。まああんなことしてたら勘違いする人もいるかもね」
「え?いや、あの」
「でも同接いつもより伸びてたし、すごく盛り上がってたよ!」
動画が伸びた時と同じようなテンションでシャルは話しているけど、いやおかしいだろ。盛り上がるからってキスまでするか?それに配信って顔出しもしてないのに。なんだか急に目の前に居る男が恐ろしく感じた。この状況で二人きりって、かなりヤバいのではないか。今はとにかく離れないといけないと思った。
「お、俺、帰る……ごめん」
「えーもう帰っちゃうの?もっとゆっくりしていけばいいのに」
俺はそそくさと荷物をまとめて玄関に向かった。出て行く時、シャルは嬉しそうな声で言った。
「視聴者のみんなも喜んでるし、俺達これからももーっと"仲良く"しようね!」
相変わらずのキラキラした笑顔を向けてきたが、シャルの目は笑っていなかった。
「初コラボ成功を祝して!かんぱ~~い!」
「乾杯~」
初コラボ動画が見事バズったので俺達はシャルの家で祝杯を挙げていた。普段は飲まないけど、今日くらいは良いよな?
「ねえねえ、これからもコラボしていこうよ!」
「ん、そうだね……俺も楽しかったし」
「本当は毎週やりたいけど、やっぱりレア感が大事だからコラボは時々だね~。しばらくはシリーズを挟んでから……」
動画が伸びたからと言って天狗にならず、視聴者を意識した次の動画の事をもう考えている……さすが人気実況者だ。ただただ毎日動画を上げてる訳では無いということか。
「でも、世間的には俺とシャルはリア友って感じだよな。まあ間違いではないけど……これじゃ他の人とコラボしにくいな、ははっ」
「え……」
シャルの酒を飲む手が止まった。あれ、さっきまでニコニコしていたのに真顔になっている。
「ロミスケくんは他の人とコラボしたいの?」
「え?うーん……元々コラボするつもりは無かったし、しばらくは無いかな……。実は何人かに誘われてはいるんだけど、俺上手くやれる自信ないし」
「へー……誘われてるんだ」
シャルとコラボしてからのこと、知らない実況者からのコラボの誘いが来るようになった。でも、本当に俺とコラボしたいって思ってる人はおそらく居ない。シャルと接点を持ちたい人が俺から取り入ろうとしているだけだ。
「……ロミスケくんはどうして俺とコラボしてくれたの?」
シャルは今度は不安そうな顔をした。それは俺の方こそ聞きたい事ではあるのだが。
「だって俺とコラボしたいって言ってくれたのはシャルだけだから」
「え?」
「それにシャルの動画はさ、しんどい時でも見ると元気になるんだ。だから確実に誰かを救ってるはずだ。俺もその一部になれるなら……嬉しいなって思ったんだ」
「……ロミスケくん」
「あ、ごめんなんか、勝手に俺が思ってるだけで」
「ううん、そう思ってくれてる人が居るって分かっただけで嬉しい!ありがとう」
シャルは再び眩しい笑顔を浮かべた。表情がコロコロ変わって面白いな、なんて思ってしまった。
「さ、どんどん飲んで!」
「俺あんまり酒得意じゃないんだけど……」
「飲んで飲んで!今日金曜だし、ウチに泊まっていきなよ!」
「そんなに色々してもらって良いの?ありがとう」
「ロミスケくんにしかこんな事しないよ?ありがたく享受しな~」
シャルに勧められるまま俺はビールをどんどん開けていった。明日が休みという事もあり、多少飲みすぎても良いだろうといつもより早いペースで飲んでいた。……自分が酔いやすい体質なのも忘れて。
「……それでさ、あれが…………ロミスケくん聞いてる?」
「んーきいてるよぉ」
「だいぶ顔赤いけど、酔ってる?だいぶ飲ませ過ぎちゃったかな」
「そぉ?わかんらい、ちょっとあついかも……」
「あはは、喋り方可愛くなってるね」
シャルは俺の顔を見ると嬉しそうに笑いながら俺の隣に座ってきた。俺もなんとなくにへらっと笑い返した。
「しゃるどおしたの?嬉しそーだね」
「うん。ロミスケくん眠たくなってきたでしょ?俺に寄りかかって良いよ」
お言葉に甘えてシャルの肩に頭を乗せた。うーん、なかなか乗せ心地が良いぞ、瞼が重くなってきた。うとうとしてるとシャルが何やら机の上を片付け始めた。空いた所にスマホをセットしている。
「…………これでよし、と」
「……?」
「みんなこんばんは~!久しぶりにキャスしま~す」
ん……?なんかシャルが話し始めた。実況ではなくライブ配信を始めたようだ。こんな状態じゃ邪魔になるよな。シャルから離れようとした時、腰に手を回されそのまままたシャルにくっついてしまった。これは俺も居た方が良いって事なのだろうか。
「コラボ動画良かった?ありがとね~!え、ロミスケくん?ああ……今俺の隣に居るよ。ね!」
「んぁ……?どうもロミスケれす……」
「今酔ってて呂律回ってないの!超可愛くない?」
咄嗟にいつもの挨拶をしてしまったが何の事だかよく分かっていない。どうして今配信を始めたのだろう、酔った勢いで?シャルは滅多に配信をする事は無い。俺はもうちゃんと話す気力も無かった。
「しゃる……おれもうねむい……」
目を擦りながらシャルの方を向いた時、むに、と唇に柔らかいものが触れた気がした。あれ、今の何だ?ぼやけてよく分かんないけど、シャルの顔がすごく近いな。もう一回唇に何かが触れた。なんかあったかくて気持ちいいかも……。シャルの背中に腕を回して顔を近付けた。
「ん……なに……?もっかい……」
「……はは、可愛すぎ」
シャルが何かを呟いたが、確かめる前に俺は睡魔に負けてしまった。瞼がどんどん下がっていき、俺は意識を手放した。
「え、今の音?うん、チューした!俺達チューしちゃうくらい仲良しだから!」
◇
「な、何これ!?」
翌日、起きてからツイッターを開くとシャルがトレンドに入っていた。どうやら昨日のゲリラ配信が話題になってるようだ。俺は酔っていたこともあり配信の内容は全然覚えていない。だからこそ、話題になっている理由に混乱した。
「いや、シャルと俺がデキてるってどういう事!?」
「あ、トレンド見た?めっちゃ盛り上がってるよね!」
シャルは朝食を用意しながら軽い調子で笑っていた。いやいや、何でそんなに冷静なんだ!?
「昨日どんな配信したの!?俺覚えてないし、アーカイブも残ってないから全然分かんないんだけど!」
「俺達がどれだけ仲良しかって話しただけだよ?」
「じゃあ何で俺達がデキてるって話になる訳!?」
確かに実況者でそういう楽しみ方してる人居るけど、一回の配信でそこまで話題になるのはおかしい。コラボ動画だって一本しか撮ってないんだぞ。混乱している俺をよそに、シャルはさらっと答えた。
「だって俺達チューしたもん」
「は?」
「ロミスケくんだってもう一回ってねだってきてたよ。まああんなことしてたら勘違いする人もいるかもね」
「え?いや、あの」
「でも同接いつもより伸びてたし、すごく盛り上がってたよ!」
動画が伸びた時と同じようなテンションでシャルは話しているけど、いやおかしいだろ。盛り上がるからってキスまでするか?それに配信って顔出しもしてないのに。なんだか急に目の前に居る男が恐ろしく感じた。この状況で二人きりって、かなりヤバいのではないか。今はとにかく離れないといけないと思った。
「お、俺、帰る……ごめん」
「えーもう帰っちゃうの?もっとゆっくりしていけばいいのに」
俺はそそくさと荷物をまとめて玄関に向かった。出て行く時、シャルは嬉しそうな声で言った。
「視聴者のみんなも喜んでるし、俺達これからももーっと"仲良く"しようね!」
相変わらずのキラキラした笑顔を向けてきたが、シャルの目は笑っていなかった。
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