短編集 そうでないひとの短編集

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拝啓 青から赤へ

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拝啓
お元気ですか。
最近はとても暑い。熱中症になったりしていませんか。
僕は元気です。
君は水があまり好きじゃない。心配だよ。
でも逆に、最近はあまり雨が降らないから
君の機嫌はいいのかもしれない。
なんにせよ、君が日々楽しく生きているなら、それ以上の幸せはない。
朝顔の芽は出た?
去年は早々に枯らして、楽になったなんて言ってたけど、そのあとも何度か空の鉢植えを覗き込んでいた。ため息をついていた。君はわかりやすい。
きれいな花が咲くといいね。強烈な紅色とか、白に限りなく近い青とか。
去年僕があげた種を植えたなら、きっとそういう色の花が咲くはず。花が咲いたらぜひ見たい。
肥料をあげすぎたり、水をやるのを忘れたり、いじわるなことをしてはいけないよ。去年枯れてしまったのは君のせいとは言い切れない。でもだからと言って、今年は上手くやれるとは限らない。

咲いた花はどうするつもりかい。また、全部ひとにやってしまって、笑いながら悲しい顔をするのかな。
これまで何回もそうしてきたように。
君のそういう時の表情は好きだけれど、正直に言うと、ああやって笑う君はもう見たくない。
僕はそういう君を見て、同じようにしようと努めたけれど、うまくできたことは一度だってなかった。
君はすごいよ。
僕はすごくないね。
でも君は悪い。
僕は悪くないけれど。
悪くない君は君じゃない。
残念なことに、悪い僕は僕なんだけどね。
あー、また懐かしくて悲しくなってきた。
君はどう思っているんだろう。
今まで聞かなかったのは、君も知らないって知っていたからだけど、今聞かないのは、聴けないとわかるのが怖いからなのかもしれない。(答えは知っていても言わないで)

そうだ、君に花を送るよ。僕の所には今年も咲き乱れていて、もう直ぐ庭が埋まってしまいそうで。見ていて幸せだけど、なんだか息苦しくて。
君はどんな花が好きなのだろう。どうせなら、君が大切にしたくなるような、自分の庭に植えたくなるようなやつがいい。それでいて、君の朝顔に似合うやつ。

巡るものってきれいだと思わない?回りながら廻って、周り続けるもの。
だけどね。そう思うたびに、君といつか遊びに行った時のことを思い出すんだ。ほら、珍しく遠出をしたとき。ぐるぐる、まわるのりものに乗ったでしょう。覚えているかな。まわっている僕たちがまた、もっと大きな流れの中で回っている。
.
.
.



拝啓
お変わりないですか。
また僕は一つ歳をとったよ。
まるで去年の僕に戻った気分だ。
また同じ道を歩き続けるのかと思うと、少し憂畿だ。
でも最近は、道すがら新しいことを探すようにしているよ。
暑い日は上を見る気にはならないから、怖いたまま歩くし、自然と早足になってしまうけれど、ぼんやりとは歩かない。例えば、ちょっとした日陰に生えている苔とか、雨が乾ききっていないアスファルトの模様とか。きれいな石が落ちていたこともある。ひたすら歩いていると、君のことを思い出す。実際のところ、新しいものを探すようにしているのは、君のことを考える時間を減らしたいからだったりする。
忘れたいわけじゃないし、忘れたくないし、忘れられるわけはない。
つまるところ、僕は新しい君を作ってしまいそうなんだ。考えすぎて、頭の中にいる君が、君から遠のいていっている気がして。それが怖くてしょうがないんだ。ある時ふと気づいてから。





拝啓
僕らがまだ先生のそばにいて、いつも一緒に歩いていた頃のことを覚えているかい。
君と僕はよく似ていた。いまでも君ほど僕と似ている存在はないと思うけれど、あの頃は重なって1つになってしまいそうなほど近かった。
僕は、君とは言葉なしに繋がっていると思っていたし、君もそう思っていると信じていた。
時間とは怖いものだと、今切に思う。手に入れた時はあんなに嬉しくて。ずっとずっと、暖かくて際限なく心地いい、幸せという単純な言葉では表せないような複雑さで編まれたその場所にいるためなら、なんだってするつもりだったのに。
ありきたりな言葉だけれど、いつか、それが当たり前に自分の一部になって見えなくなる時がくる。
だめだね。これらは紛れもなく言い訳だ。どんなに聞き苦しいかは僕が一番よくわかっている。

彼らが見渡すには僕の庭は広すぎる。けれど僕の庭は、彼らの無知を何も言わずに溶かして消すにはまた狭すぎるのだ。
彼らは彼らの周りで、夥しい数の名もない存在が枯れていっているのに気づいている。
ただ彼らには見えないのだ。枯れて行く存在と彼らとを強く結びつけるものが。僕の目には彼らと、枯れて行く存在たちが1つにつながっているのがはっきりと見える。
彼らと僕の間に、言葉がないのがこんなにももどかしい。

彼らに見えていないものは余りにも多い。
けれど、見えないことで彼らに非はない。彼らを罪に問うようなことは決してしてはいけないよ。

彼らは気づいている。気怠い暑さの中、必死に飛ぶ術を編んでいる。いつの日か、まだ見ぬ君の庭で息をする夢を、くるくると健気に思い描きながら。夢を見ているこの花々はきっとこの庭で朽ちるだろう。彼らを囃し立てる夢は永遠に夢でありつづける。
彼らは種を送るのだ。








ーーーー答え

青から赤へ



拝啓
お元気ですか。最近はとても暑いですが、熱中症になったりしていませんか。
僕は元気です。
君は水があまりすきじゃないから、心配だよ。
でも逆に言えば、最近はあまり雨は降っていないから、君の機嫌はいいかもしれないね。
なんにせよ、君が日々を楽しく生きているのなら、僕にとってそれ以上の幸せはない。
朝顔の芽は無事に出た?
去年は早々に枯らして、もうやんなくていいから楽だなんて言ってたけど、そのあとも何度か空っぽの鉢植えを覗き込んではため息をついていたでしょう。君はわかりやすいからね。(そんなところもとても好ましい)
きれいな花が咲くといいね。例えば強烈な紅色とか、白に限りなく近い青とかのね。去年僕があげた種を植えたなら、きっとそういう色の花が咲くはずだよ。花が咲いたらぜひ見たいな。肥料をあげすぎたり、水をやるのを忘れたり、いじわるなことをしてはいけないよ。去年枯れてしまったのは君のせいとは言い切れないけれど、だからと言って今年は上手くやれるとは限らないから。
咲いた花はどうするつもりかい。また、全部ひとにやってしまって、笑いながら悲しい顔をするのかな。
これまで何回もそうしてきたように。
君のそういう時の表情は好きだけれど、正直に言うと、ああやって笑う君はもう見たくない。
僕はそういう君を見て、同じようにしようと努めたけれど、うまくできたことは一度だってなかった。
君はすごいよ。
僕はすごくないね。
でも君は悪い。
僕は悪くないけれど。
悪くない君は君じゃない。
残念なことに、悪い僕は僕なんだけどね。
あー、また懐かしくて悲しくなってきた。
君はどう思っているんだろう。
今まで聞かなかったのは、君も知らないって知っていたからだけど、今聞かないのは、聴けないとわかるのが怖いからなのかもしれない。(答えは知っていても言わないで)

そうだ、君に花を送るよ。僕の所には今年も咲き乱れていて、もう直ぐ庭が埋まってしまいそうで。見ていて幸せだけど、なんだか息苦しくて。
君はどんな花が好きなのだろう。どうせなら、君が大切にしたくなるような、自分の庭に植えたくなるようなやつがいい。それでいて、君の朝顔に似合うやつ。

巡るものってきれいだと思わない?回りながら廻って、周り続けるもの。
だけどね。そう思うたびに、君といつか遊びに行った時のことを思い出すんだ。ほら、珍しく遠出をしたとき。ぐるぐる、まわるのりものに乗ったでしょう。覚えているかな。まわっている僕たちがまた、もっと大きな流れの中で回っている。
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拝啓
お変わりないですか。
また僕は一つ歳をとったよ。
まるで去年の僕に戻った気分だ。
また同じ道を歩き続けるのかと思うと、少し憂畿だ。
でも最近は、道すがら新しいことを探すようにしているよ。
暑い日は上を見る気にはならないから、怖いたまま歩くし、自然と早足になってしまうけれど、ぼんやりとは歩かない。例えば、ちょっとした日陰に生えている苔とか、雨が乾ききっていないアスファルトの模様とか。きれいな石が落ちていたこともある。ひたすら歩いていると、君のことを思い出す。実際のところ、新しいものを探すようにしているのは、君のことを考える時間を減らしたいからだったりする。
忘れたいわけじゃないし、忘れたくないし、忘れられるわけはない。
つまるところ、僕は新しい君を作ってしまいそうなんだ。考えすぎて、頭の中にいる君が、君から遠のいていっている気がして。それが怖くてしょうがないんだ。ある時ふと気づいてから。





拝啓
僕らがまだ先生のそばにいて、いつも一緒に歩いていた頃のことを覚えているかい。
君と僕はよく似ていた。いまでも君ほど僕と似ている存在はないと思うけれど、あの頃は重なって1つになってしまいそうなほど近かった。
僕は、君とは言葉なしに繋がっていると思っていたし、君もそう思っていると信じていた。
時間とは怖いものだと、今切に思う。手に入れた時はあんなに嬉しくて。ずっとずっと、暖かくて際限なく心地いい、幸せという単純な言葉では表せないような複雑さで編まれたその場所にいるためなら、なんだってするつもりだったのに。
ありきたりな言葉だけれど、いつか、それが当たり前に自分の一部になって見えなくなる時がくる。
だめだね。これらは紛れもなく言い訳だ。どんなに聞き苦しいかは僕が一番よくわかっている。

彼らが見渡すには僕の庭は広すぎる。けれど僕の庭は、彼らの無知を何も言わずに溶かして消すにはまた狭すぎるのだ。
彼らは彼らの周りで、夥しい数の名もない存在が枯れていっているのに気づいている。
ただ彼らには見えないのだ。枯れて行く存在と彼らとを強く結びつけるものが。僕の目には彼らと、枯れて行く存在たちが1つにつながっているのがはっきりと見える。
彼らと僕の間に、言葉がないのがこんなにももどかしい。

彼らに見えていないものは余りにも多い。
けれど、見えないことで彼らに非はない。彼らを罪に問うようなことは決してしてはいけないよ。

彼らは気づいている。気怠い暑さの中、必死に飛ぶ術を編んでいる。いつの日か、まだ見ぬ君の庭で息をする夢を、くるくると健気に思い描きながら。夢を見ているこの花々はきっとこの庭で朽ちるだろう。彼らを囃し立てる夢は永遠に夢でありつづける。
彼らは種を送るのだ。


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