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一張羅と猫
しおりを挟む「ん、なに、ダン」
魔女は、足元に絡みつく黒猫の頭から背を、ジョウロを持たない右手で一撫でして、顎を擦った。
黒猫は喉を鳴らして尾をゆるく振る。
それから魔女は立ち上がり、台所へ向かった。
ガチャン
振り返るとダンと呼ばれた黒猫は、窓台の上、倒れた瓶を鼻先でつついていた。
窓からの風はカーテンを左右に散らす。
「なにやってんの、あぶないでしょ、降りなさい」
そう言い瓶を手に取ろうとした魔女の目を見て黒猫は、一つ瞬きして小首を傾げた。何の気なしにという風に、前足でちょいと瓶を転がす。
「え、ちょ、あーーーっ!」
窓枠から目一杯身を乗り出した魔女は叫び、7階分の落下によって粉々に砕けた瓶を、しばらく呆然と眺めていた。もっとも七階下の砕けた小瓶なんて塵みたいなもので、つまり彼女は真下の地面を食い入るように見つめるだけ。
「まじ…ですか」
魔女はブリキ人形のようにぎこちなく窓から体を引き剥がして振り返り、テーブルの上で背中の毛を舐めている黒猫を目一杯睨んでから、携帯端末を構えた。
パシャリ
“これは窓から8000円を投げ捨てたうちの猫
#畜陽光中だった日向ネズミの毛はコンクリの汚れと化した
#明日の課題どうすんだ
#諦めた”
写真とちょっと気取った愚痴をアップした端末の画面をしばらく見つめ、二つlikeがついたところでベットに放り投げた。
その手で目の前のいたずら猫の頭を撫でる。今度は少々荒っぽく。
「やりやがりましたねおまえーー」
にゃあ、と一つ鳴いて身を捩り、ベットの向こうへ逃げた黒猫をもうひと睨み。
すこし強い風を首に感じ、背後の窓から外を見る。
もう下は見ない、と魔女は顎を上げた。
霞の向こう、雲に突き刺さる摩天楼は渦巻くような気流をまとって聳え、その根元を埋め尽くす夥しい数のビル、小塔、建物の隙間から何本も伸びる赤白橙の光線が霧の中を様々に貫き踊る。
厚い雲の下、押し込められたような地上のエネルギーが蠢いている。
蛇火鉄道が街のあちこちを跳ねるように行き交って、車輪の朱色の炎が飛び上がった拍子に建物の隙間や上からちらちらと瞬く。
魔女はこの景色が好きだった。重苦しく立ち込めた霧と、其処彼処から吹き出している行き場のないエネルギー。耳をすませばすぐそこの下町らしい商店街の喧騒が聞こえる。飲み屋だらけの商店街は、一日中霧で薄暗いのをいいことにずっと赤提灯が踊っていて、いつでも陽気に飲み交わす人々で溢れている。
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