[完結]出来損ない姫と強欲な王様

夏伐

文字の大きさ
3 / 4

すべてが解決する

しおりを挟む
 王が秘書や護衛と屋敷を後にする時、短剣を抱えたままイージニアは見送りに庭まで出ていた。
 イージニアには、そこから出るな、と言われている門を王が通った時の事だ。
「陛下は何かお願いがあるんですか?」
「?」
 先ほどとは違いひどく落ち着いた様子のイージニアに王が思わず振り向いた。
 宰相や護衛も、非力ではあるが短剣を持っている女だという認識だ。王を庇うように体制を整えた。
「何かお困り事ですか?」
「何の事だ」
「これをいただいたので」
 今まで、こんなことはなかった。
 思えば子供のような状態のイージニアには執事長やカタリットが面会させなかったし、そうでない時は儀礼的な会話しかしていなかった。
 子どものようなイージニアと王がこれだけ長く話したのは初めての事だろう。
「子どものような癖に妙な所は律儀だな」
「それに皆さんよく眠れていないようですし、何か困っていることがあるのではないですか?」
 イージニアのおかげで仕事が増えたのだが、そんな事は言わずに王はイージニアに近づいた。
 護衛や宰相は必死に止めようとしたものの、王がそれを制止しイージニアに内緒話をするように耳元で小さく語りかけた。
「実は国境付近の西の街道にはぐれのワイバーンが出たのだよ」
「すぐに討伐すれば良いのでは?」
「ワイバーンとなると騎士団を一つ動かさなければならなくなる。さすがに隣国近くに大勢の冒険者や騎士を派遣するわけにはいかない。戦争になるからな」
 それだけ言い終わると王はイージニアに背を向け歩き始めた。
「それが陛下のお困りごとですか?」
「ああ」
 それだけで寝不足になるはずはないが、食い下がるイージニアに納得できるように言い訳をした。
「それでは、私におまかせください」
 イージニアは冗談か本気なのか分からない様子で王の背中に声をかけた。
 虚言なのか何なのか、そんなイージニアを見ることもなく王は「楽しみにしている」と言った。
 その後はまたカタリットのスパルタ授業でイージニアはポンコツを発揮していた。



 翌日の事だ。王城の庭にワイバーンの死体が置かれていた。
 出血もなく打撲の痕跡もない。
 墜落した様子もない。
 パタリと自然に死んだワイバーンを誰かが丁寧に置いたようにしか見えない。
 王城は一時パニックとなった。
 侵入者か魔術かと慌てふためく城の者をよそに王座で一人ほくそ笑む者がいた。


 一晩、また一晩と王の書斎や玉座などに欲してはいたが手に入れるのに苦労していたものが現れ始めた。
 貴族の横領の証拠。奴隷密売の組織図。果ては失われた国宝まで。
 城の者は不思議に思いながらもこれで膠着していた仕事が一気に進むと、喜ぶものが大半だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

ヒロインは修道院に行った

菜花
ファンタジー
乙女ゲームに転生した。でも他の転生者が既に攻略キャラを攻略済みのようだった……。カクヨム様でも投稿中。

それは思い出せない思い出

あんど もあ
ファンタジー
俺には、食べた事の無いケーキの記憶がある。 丸くて白くて赤いのが載ってて、切ると三角になる、甘いケーキ。自分であのケーキを作れるようになろうとケーキ屋で働くことにした俺は、無意識に周りの人を幸せにしていく。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

処理中です...