[完結]出来損ない姫と強欲な王様

夏伐

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異形

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 イージニアの寝室、薄暗い室内。
 光の粒子が煌めいてそこに女の姿が現れる。
「ただいま。うまくできた?」
 そう問いかけるイージニアに真っ黒な異形は、出ていった時とは違い自信なさそうに縮こまっている。
「またポンコツ姫になったの?」
 異形はそれには頷くものの、やはり申し訳なさそうに頭を垂れている。
「お前が本当のイージニアだな」
「!」
 部屋に響いた男の声にイージニアは声の方向に剣を構える。
「魔法が使えないように術式を組み込んでいたはずなのだが?」
 闇に目を凝らすと、知っている顔があった。この国の王だ。
「使いづらくなる程度のものでしょ?」
「お前もそれが本性か」
 異形を恐れることなく、声をかけている。
 イージニアは、剣をしまい腕を組んだ。そして異形をじろりと睨む。
「なるほど。さすがに悪いとは思うのね」
「……安心しろ罰するつもりはない。お前もイージニアの事もだ」
「ふん。何が望みなの?」
「ここには私しかいない。話し合いをしに来た、その化け物について」
「化け物、ね。これは別の国では神とでも呼ばれているモノよ」
 無知をあざ笑うようにイージニアは王を見る。
「正体は何でも良い。対価はらい願いを叶える、そのようなものだとはこの一週間でよく分かった」
「それで? こいつを利用する為に私を使おうって?」
「利用はするが、手伝ってもらうのは橋渡しまでだ。初めはスパイを疑って調べていたのだがな。消えたものは賄賂かと思っていた」
「はぁ?」
 唖然とするイージニアをよそに王はこの一週間あったことを話した。
 気まぐれにワイバーンに困っていると言ったら、無傷のワイバーンの死体が庭にあったこと。尻尾をつかめなかった貴族の横領などの証拠が机に置かれていたこと。遥か昔、山脈に行軍に行った王族が持って行ったまま死んでしまい持ち帰ることが出来なかった国宝が宝物庫に戻っていたこと。
「この一週間色々試して願いに対して対価が見合わないと、結果もそれに比例することが分かった。こいつに対する知識ではイージニアにかなうものはいない」
「私は剣をふるい、魔法を使って生きていきたいのよ」
「では騎士団ではどうだ? 祖父の代から女騎士も増え始めて今では三分の一は女だ。騎士団団長となり戦に生きるのはどうだ? 魔法騎士団なんていうのも面白いな」
「あんた私をどうしたいわけ?」
「欲しいのは共犯者だ。別に隣に立ってほしいわけではない。何かある時に相談に乗ってくれれば良いのだよ」
 話している間に異形のものは姿を消していた。
 イージニアと王はそれからまた少し話し、最後には握手をして王が部屋を出ていった。


 それからだ。
 八割が女性の魔法騎士団が誕生した。
 出来損ないの姫がそこの騎士団長に抜擢されたのだから国中が心配した。
 だが、その強さは他の騎士団と拮抗するものでモンスターの討伐などの際は率先して行軍する事から国民の味方と呼ばれるほどになった。

 また出来損ないと呼ばれた姫を数年にわたり教育したカタリットは、後に素晴らしい教育者として国立の高等学校の学園長に就任した。


 人の手で太刀打ちできないような事象や国を揺るがすような事件が起きた時、王の耳に入るとすぐに解決するようになった。
 そのたびに教育者や王や宰相までがイージニアと彼女を守る精霊の話を大真面目にしていた。

 いつしか人々は出来損ないの姫と一緒に愛に満ちた精霊が国にやってきたのだと噂するようになった。

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みんなの感想(1件)

木々井 やや

ポンコツ異形が可愛かったです!

イージニアのみならず、国中が幸せになれましたね(*´∀`*)

「異世界版座敷わらし(?)」になるのでしょうか😆

2021.12.12 夏伐

コメントありがとうございます! アルファポリスまでありがとうございます!
初めて書いた異世界ものでおとぎ話をイメージしました。
みんなが幸せになれて良かったです! プロットなしに書いていくタイプなので逆パターンの可能性もあり本当にハッピーエンドになって良かったです。

解除

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