4 / 4
4
しおりを挟む「きゃあああああああ!」
リリーの叫び声が塔に響いた。
玄関の所で誰かが揉めている。
リリーが塔の外に引きずり出されて、子どもたちやレイナ、ノアも手に箒なんかを持って外に飛び出した。
私も急いで屋上から降りて下に向かう。
十数人の人間に囲まれて皆が殴られていた。
数的に不利になってしまっている上、六人が子供であった。大人に囲まれれば勝てるはずもない。
レイナさんも腹を庇いながら殴られている。
「皆から離れてください!」
私は『銃』を構えて叫んだ。
これは狩りにも使われるため、ずっと利用されてきた遺物だ。進化することはないがずっと作り続けられている。
私は皆にこの存在を教えていなかった。
だが人間たちは『銃』を知らないらしく、標的が増えた事を認識しただけだった。
「離れてください」
間違っても当たらないように空に向けて『銃』を放った。
発砲音に驚いて全員が私を見る。
私は中々命中させることが出来ないので、みんなから離れた人間を狙って撃つ。
一人が地面に倒れると、『銃』を何とかしないといけないと思ったのか人間たちが私に向かってきた。
ナイフや鈍器を持っている。
「皆さん、今のうちに逃げてください」
逃げ出そうとした子供を追いかける人間に向けて『銃』を撃つがその隙に私が囲まれてしまった。
鈍器を頭に受け地面に倒れる。
死なないとは言え、痛覚がないわけじゃない。
「いやああああああ!!」
流れる血を見てレイナさんが叫んだ。
私の体が再生するよりも攻撃される方が多いため、体が動かせなかったが霞む視界で急に暗くなった。
頭に響くような歌が聞こえた。
「……空クジラ」
誰かが呟いた。
空にクジラが泳ぎ、襲撃した人間たちに襲い掛かる。
青いクジラが二匹。
きっとレイナさんたちの集落を襲撃したクジラと同じだろう。
畑や小屋なんかは破壊され塔も部分的に崩れてしまっている。
結局、茫然と見上げる人間を笑うようにしてクジラは上空に消えた。
透けるような青い空。
ノイズがおさまり話声が『せんなし』から聞こえる。
「青いクジラが来て助けてくれたんです」
『おお! じゃああの説も信ぴょう性が増したね!』
「あの説?」
『三百年前に『人間の溢れた思いが空生物になる』って言ってた詩人がいたじゃない』
「あ、ああなんか言っていたような……?」
シーさんは笑った。
つられて私も笑う。
『まだまだ空を観測しなくてはいけないね』
「そうですね!」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ公爵令息の真実
三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。
設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。
投稿している他の作品との関連はありません。
カクヨムにも公開しています。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
それは思い出せない思い出
あんど もあ
ファンタジー
俺には、食べた事の無いケーキの記憶がある。
丸くて白くて赤いのが載ってて、切ると三角になる、甘いケーキ。自分であのケーキを作れるようになろうとケーキ屋で働くことにした俺は、無意識に周りの人を幸せにしていく。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる