[完結]インビジブルフレンド

夏伐

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3 一つだけの楽しい世界

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 問題が起きたのは中学二年、進路相談の三者面談だ。母親は進学校を希望した。私もそれに頷いた。

 その短い間に、先生は私と家族の関係が歪なことに気づいたようだった。言いたいことだけ先に言って、母は帰っていった。

「成績が急に悪くなったのは、……いや何でもない」

「……一年のはじめにクラスで小さないじめがあったんです。今はもうないんですけど、そのせいです。家族とああなのは、成績が落ちてからです」

「そうか……。何かあればすぐに相談するんだぞ」

「はい」

 私は帰り道が夕暮れで朱色に染まる中、ゆーすけくんに声をかけた。
 友達とは仲が良いし、家族とはあまりうまくいかなくなっちゃったけど学校は楽しいよ。

 彼は部屋に閉じこもり出てこない。反応もない。

 私が見ていたように、彼らも私の見ているものを共有しているはずだ。それでも表に出てこない。

「それはさくらの友達じゃないか」
「誰も僕を必要としていないだろ」

 ゆーすけくんの吐き捨てるような言葉に重ね合わせるようにオリジナルの声を聞いた。

 私は二人の様子を見守りながら、高校に進学し大学に進学した。無事に医師となったが、落ちこぼれと見なされた私に家族は冷たかった。

 活発だった弟はずっと勉強机にかじりついて勉強させられ両親の期待を背負ってとても大事にされていた。弟は、甘え方も知っていたのだ。
 優秀でかわいい弟の存在で家に私の居場所はなかった。

「さくら、ぼくがいるよ!」

「うん。そうだねくーちゃん」

 魔法も使えない魔法少女として私はここにいたが、そんな私にも見えない友達が出来た。

 小さなテディベアだ。幼い子供そのもので純粋で無垢。

 彼はとたとたとオリジナルとゆーすけくんの部屋を訪れている。今では彼らが閉じこもることはなくなった。

 私は、守るべきものが欲しかったのか、頼られたかったのか。

 それは分からないが、今では時折彼らが表に出てくれることがある。私とゆーすけくんはお仕事をこなして、家事をオリジナルの彼、映画やゲームを楽しむのはくーちゃん。

 表に出てくる一人以外は他人に見えない『架空の友達』に過ぎない。だが、一人として欠ければバランスが奇妙に崩れてしまう共依存関係にある。

 昔はイマジナリーフレンドだと考えていたが、どうやら複数の人格が共生しているらしい。

 私は魔法少女でもなかった。ゆーすけくんも特撮ヒーローじゃない。でも、この世界で楽しく暮らしている。
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