[完結]インビジブルフレンド

夏伐

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2 理想

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「勉強のしすぎかな」

「ちょっと休んだらどうかな」

 私はプリントとノートを覗き込みながら提案した。
 少し考えながらゆーすけくんはベッドに横になった。

「おやすみなさい!」

 声を掛けながら私に背を向けるゆーすけくんをぼんやりと眺めた。元々、彼は落ちこぼれだった。優秀な両親の期待を背負って、文武両道を求められた。

 祖父母も健在で、初孫であったが甘やかされることはなくむしろ厳しかった。それは愛情と期待ゆえというのは分かっていたが、それを幼い子供に理解しろ、というのは無理な話だ。

 弟と妹が生まれて、両親の期待は弟に移った。

 私は確かに幻覚ではあるのだが、イマジナリーフレンド……見えない友達としてそばにいる。しかしちゃんとここにいる。

 ゆーすけくんは、元々違う名前だ。私のように、彼の名前は日曜特撮番組のライダーの主人公の名前から取られた。

 強い憧れによって生まれたのだ。

 本当の彼はもうずっと昔に眠ってしまった。今も目を覚ます気配はない。そんな中でゆーすけくんは期待に応えるため日常をこなしている。不思議とその日以来、ゆーすけくんは私に声をかけることはなくなった。

 小学校を卒業し、中学生になった。

 友達関係もそつなくこなしていたが、彼の中ではいじめ問題が消化できなかったらしい。ついに私が表にでることになった。

「田中! お前どうしたんだ? 体調でも悪いのか?」

 先生がテストの答案を返却する時に私に心配そうに声をかけた。

 私は頭をポリポリとかきながら、へラリと笑った。

「何か急に分からなくなってしまって……あとで聞きに行ってもいいですか?」

「優等生でもそんな事があるんだな……。いつでも職員室に来なさい」

 この教師は熱血教師だ。私の言葉に嬉しそうにしている。

 私は一生懸命勉強したが、どうしてもゆーすけくんとは違い頭が良くはなかった。

 周りは心配したが、明るく社交的になった私の事を好意的に受け入れてくれた。勉強は真ん中よりは上くらいの順位をキープしていた。常に学校で一番だったが、むしろ親近感がわいたと友達や教師は見守ってくれた。

 ただ家族は違った。

 今まで優秀だった長男が、急に勉強が出来なくなったことで両親の愛情は弟と妹に向いた。それまで自由に過ごせた時間を勉強に塗り替えられて、彼らにも嫌われてしまった。

 こんな中で生きてきたんだなと、改めて私は悲しくなった。

 友達に『魔法少女さくら』のDVDを持っている子がいたので、数日にわけて鑑賞会をした。子供向けだと思っていたが、最後の敵と主人公たちが協力しあって世界の崩壊を止めるところは泣いてしまった。

 ゆーすけくんが私に背を向けてから、クラスでのいじめは沈静化していった。

 理想的な学級ということで、学校は好意的だった。
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