上 下
9 / 43

0009 いただきます!

しおりを挟む
 俺は必死に彼女を追っていた。
 人がいなくなった都会をさまよっていた俺は、久しぶりに心躍っていたのだ。

 既に都市は機能していない。そして、無事な人間は人がいない地方へと逃げ延びて行った。
 どのくらいの時をここで過ごしたのか記憶はないが、まるで初恋のようなトキメキと共に必死に逃げる少女を追った。

 若く美しい肌、美しい黒髪は短く切られている。どことなく学校一の美少女カスミさんの面影を感じる。ていうか美人って何となく顔似てるよね。比率の問題さ。

 少女はかわいそうに、ついにビルの屋上に追い込まれてしまった。
 追いかけてるのは俺一人だけど、でもこんな時代に女の子が一人で歩いている方が悪いと思う。俺は悪くない。俺だって久しぶりに人間を見たんだから、追いかけるしかないじゃないか。

 少女は大きく口を開けた。

「いや、こないで……!! 来ないで化け物!!」

 いただきまーす!
 これが習性ってものさ。俺の体は少女を真似るように、大きく口を開けて少女の腕にかじりついた。

「――ゾンビになんか……なりたく……」

 それが少女の最後の言葉だったけど、きっと目が覚めたら俺に感謝するはずさ。
 久しぶりのご飯過ぎて少し食べ過ぎてしまったけど。
しおりを挟む

処理中です...