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0019 とある惑星の唄

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 木々が我さきにと日光を求め天へと枝を伸ばし、薄暗い森――その奥に開けた広場があった。そこには木の枝を十字にしただけの粗末な墓地が並んでいた。

 私はその墓を管理しながら、近くに置いてある鉢植えを見た。
 すぐにでも咲きそうなの花のつぼみは青くほのかに発光している。

 いまかいまか、と待っていると、ゆっくりと花は太陽に向けて花弁を開く。

『楽しみにしているよ』

 その声が花から聞こえた時、花がまとっていた光が失われた。

 鉢植えから花の苗を取り出して、そして墓の近くに植える。
 昔は寂しげだったこの広場も、今では美しい花が飾られている。

 こほん、と喉の調子を整えて花のつぼみをちょんちょんと指でつつく。すると、近くにあった花はうっすらと光をまとった。
 私は思わず「ふんふん」とでたらめな歌を口ずさむ。

 墓場を後にし、家に帰る道の途中で物言わぬ骸を見つけては花の種を植える。

 墓場と家にしている根城は遠く離れており、コンクリートや木造建築だが所々緑に浸食され崩れた街並みが続いている。
 誰もいない街並みを歩いて帰る。

 種をまいた骸から、植物が芽吹きそれを通りがかりに指でつつく。

 この花は私が作り上げた『魂の声を話す花』だ。
 突然に滅びることになってしまった全ての生き物に、罪悪感があった。それに、次の世界を作り直すために参考は多い方が良い。

 花がつぼみになる春は、街中はたくさんの話声がする。

「おはよう」「今日のごはんは何にするー?」「もう遅いんだから帰らなきゃダメだろ」「部活しんどー」「大会が楽しみ!」

 様々な声が木霊する街並み。私は生き物で溢れた惑星を想像してるんるんとスキップをした。

 今は滅ぼしてしまった惑星で、まだ生まれていない次の住民たちを思い浮かべる。
 魔力があってもなくても、他者がいれば争いは起きてしまう。何度繰り返してもダメだった。

 私は美しい惑星を作りたいだけなのに、どうして他の惑星と違いうまくいかないのだろう。
 けれども、今回は『音楽』という文化がとても好きだった。

 数百年前の名前も知らぬ音楽家の作った、既に知る者もいない歌を歌いながら、私はもう一度、惑星をやり直す。
 最初の生命にはこの歌を教えよう、世代を経て、それがどのように芽吹くのか。私はそれが楽しみだ。
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