異世界でスナイパーやるのっておかしいですか?

幻影刃

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第36話 氷を纏いし刃翼竜

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 放たれた冷気はそこまで寒い時期でも地帯でもないのこの辺りに軽い吹雪を発生させ、同時に真冬の雪国くらいの気温をまで下げる。

「さっむ!」

「……どうやら、刃翼竜が変異すると何故かはわからないが氷を操ることができるようになるらしい。しかし、刃の翼と氷……なんとも面倒な組み合わせだ」

 アスカがもう1度刃翼竜に向かって銃弾を撃ち込む。今度は先程とは違い体に付いている氷を狙って撃つ。しかし、命中した銃弾は氷をほんの少しだけ砕くいた。

「氷自体も壊すのに苦労しますね」

「………アイツのせいで……」

 ユノスに抱えられて無理矢理刃翼竜から距離を取ったアリサは、自身のせいでラドがやられたという考えから刃翼竜がラドをやったという考えに変わっていた。そしてその考えが、自身に対する怒りよりも刃翼竜に対する怒りと憎しみで溢れていた。

「落ち着け」

「……アイツだけは……」

「落ち着けアリサ!」

「……すみません、取り乱してしまいました」

「それならばいいが……。いいか。この状況において感情に身を任せては必ず負ける。そして、負け=死だ。蘇生なんてできるはずもない可能性は考えるなよ」

 全てを感情に任せて行動すれば、自然と自分にとって面倒なことか厄介なことが必ず起こるものだ。
 日本の不良で例えるならば、誰かとぶつかり、そのぶつかった人に対する怒りで暴力を振るう。すると警察を呼ばれ逃げる。そしたらそれを警察は追いかけ遂には捕まる。そこから事情聴取などの不良に限らずどんな人もいい気分にはならないことが待っている。
 何事も我慢と冷静さというものは大事だ。それが戦いの行方を変えると言っても過言ではない程に。

「お前1人で考えるな。ラドがやられたことに対する怒りも感じているのは他にもいる。俺もその1人だ。うん、アイツは絶対に許せねぇーってな」

「………」

「つまりだ、お前1人でアイツを討伐したところで俺の気は晴れない。満足するのはお前1人で他は胸くそ悪い心情のまま終わるんだ。嫌だろ?」

「……わかりました。すみません、少し感情的になりすぎました」

「落ち着いたんなら別にいい。そんじゃ、やるぞ」

「はい!」

「いい雰囲気のところ悪いが、今すぐに横に避けろ!」

 ツカサがそう叫ぶと同時に何かを口から放とうとチャージしていた量が最大になり、口から竜巻と吹雪を合わせたもののようなブレスとそれに混じって氷柱を放ってきた。ギリギリのところでユノスとアリサはそのブレスを回避することに成功する。
 そして、そのブレスが当たった1本の木は瞬時に凍りつき、後に飛んできた氷柱に跡形もなく砕かれた。

「動きを止めて氷柱でトドメとは……」

 その攻撃は、1度当たると死の運命からは逃げられないということをここにいるアスカ達は悟った。

「……ツカサさん。できればユノス君と一緒に刃翼竜の時間稼ぎをお願いできますか?」

「何か策があるのか?」

「はい。もしかするとアスカさんの攻撃で確実なダメージを与えられるかもしれません」

「アスカ君の攻撃で?」

 その会話を聞いてアスカは首を傾げる。なんたって、1度スナイパーライフルを変異した刃翼竜に撃っても効かなかった。それはもう今のアスカでは手の内ようがないということと同然ではないか。

「……わかった。その可能性に賭けよう。ユノス君もそれでいいな?」

「……賭けは苦手なんだけどな……。まあ、やるだけやってやる」

「その意気だ。時間は稼ぐがどれだけ持つかはわらない。できるだけ早く頼むぞ!」

 ツカサとユノスは時間を稼ぐために、先程の攻撃をして疲れたのか少し休んでいた刃翼竜に向かっていく。
 ツカサとユノスが刃翼竜に向かって行ったのと同時にアリサはアスカがいる場所まで走って来る。

「アスカさん、突然すみませんがそのスナイパーライフルと魔力の繋がりを断てますか?」

「断つって言っても、俺はやり方は知りせん。ていうか、それになんの意味があるんですか?」

「魔力を断つ方法はイメージです。イメージして、自分の中にある魔力を繋げている扉を閉じてください。詳しい話はながらで説明します」

 突然イメージして扉を閉じろとか言われてもアスカには何1つ理解できない。しかし、とにかくやってみようと目を閉じ、自分の中を流れる魔力を見つける。

「…………」

 流れる魔力を伝っていき、途中魔力の流れが変わる場所を見つけた。恐らくそれが扉をだろう。
 しかし、閉じろなんて言われても本当にやり方がわからない。扉を閉めるイメージをすれば勝手に閉まるなんて簡単なものなら苦労はしていない。

「魔力切り離す、そんなイメージです」

「切り離す……」

 アリサが言った通りにアスカは己の魔力を切り離すようイメージして徐々に魔力の流れを変えていく。すると、アスカの中に流れていた魔力はこの場所を伝ってきた時の流れと同じになり、それと同時にアスカの中で何かがプツンと切れる感覚がした。

「……多分、行けたと思います」

「それならば、次にマガジンを変えてください」

「でも、自動で装填されるんじゃないんですか?」

「とりあえずやってください」

 アリサの考えが理解できないアスカはとりあえず言う通りにしてみる。
 M24のマガジンを抜き、今まで自動装填ができていたということでしてこなかった魔力によるマガジンの生成をする。しかし、生成したのはマガジンだけで銃弾は装填されていなかった。
 何がおかしいのかと言うと、今まではこういうマガジンを新たに生成しても銃弾は装填されていたのに、何故か今回生成したマガジンには銃弾が入っていかったからだ。

「そして、マガジンとは別に銃弾を生成してください。そしてここでポイントです」

「ポイント?」

「銃弾の生成はいつも以上に魔力を込めてください。それじゃないと意味が無いですから」

 ちゃんと全部を説明してくれないことに不満を抱きながら、アスカはM24が装填できる銃弾である7.62x51mm NATO弾をいつも消費している魔力量よりも多めに魔力を込めて生成する。そしてその銃弾を1発ずつ装填していく。
 とてもめんどうだが、このリロードに何か意味があるのだろうと信じる。

「あとはマガジンをセットして終わりです」

「これで何が?」

「まあ、とりあえずはそれでいつものように撃って見てください。私が伝えたかったことはそれだけです。では」

 アリサは説明し終えると、時間稼ぎのために刃翼竜と戦っていたツカサとユノスの元に向かって行った。
 先程の行動をすることで一体何が変わったのかはわからないが、これがアリサの言っていた「確実にダメージを与えることができるかもしれない」という攻撃をするのに必要な行動なのだろう。
 だったらそれを試す他ない。

「…………」

 アスカはスコープを除き、ツカサとユノスに向かって暴れている刃翼竜を狙う。刃翼竜から距離を取り、接近して攻撃してはまた距離を取るというヒットアンドウェイ作戦で戦っていた2人に誤って当ててしまうということはまずない。しかし、2人に当たらないとしても問題は刃翼竜の動きにある。
 刃翼竜は変異した影響か凶暴性を増し、今まで以上に暴れ回っている。それに加え、所々に並の銃弾を弾くほどの強度がある氷を纏っている。
 暴れ回っている刃翼竜の氷を纏っていない部位を狙うというのは難易度はかなり高い。
 例えるなら、射的の商品が生命を持ち、商品に弾を防ぐ鉄板を付け、不規則に動いている所に命中させるという程だ。
 相手が人であるならばある程度の動きは予測できるのだが、相手は魔獣であり自分が魔獣ならばどうするかなんてことを考えてもわからない。もしその“どうするか’’が出たとしてもそれは人間の答えであり魔獣の答えではない。間違いなく予測した動きと違う行動をしてくるだろう。

 そして、アスカが刃翼竜の攻撃が通りやすい部位を探している最中にアリサがツカサとユノスの元にたどり着く。

「お待たせしました!」

「伝えることは伝わったのか?」

「はい。後は──」

 話の途中で刃翼竜が翼を叩きつけてき、それを回避する。この変異した刃翼竜の攻撃事態は見きれないこともないので回避自体は簡単だ。
 だが、その代わりに当たればほぼ即死か重傷といった軽傷では決してすまない攻撃力を持っている。

「後はアスカさんが命中させてくれることにかかっています」

「お前のそれ……えっと、アナコンダ? だっけか。それは効かないのか?」

「コルト・アナコンダです。確かに威力は強いですが、私はどうも狙って撃つのが苦手なんです。さっき目に命中していたのは刃翼竜が思い通りに動いてくれたからですし……。それに、刃翼竜に付いているあの氷の強度は意外とあるので当たっても精々少し砕くぐらいしかできません」

「……氷についてはユノス君と俺の剣では歯が立たなかった。俺についてはもっと強い剣があるんだが、俺としたことが忘れてきた」

「何やってるんですか……」

 3人がそんなことを話している最中にもアスカは刃翼竜の弱点を探す。
 大体の生き物共通の弱点である頭部には全体的に氷が纏われているので傷を負わせられるかと言うと微妙だろう。翼は論外。

「あそこなら……」

 そこで目を付けたのが脚部の関節──膝だ。勿論足にも氷が付いているが、氷を纏うと動きの制限される関節部分には氷は付いていなかった。それと同時に、纏っている氷は
 しかし、狙うタイミングは膝を曲げた時だ。直立状態の時は太もも部分に付いている氷が邪魔して狙えない。

「……一か八か」

 そこでアスカは、失敗すれば間違いなく戦闘不能になるリスクがある一か八かの作戦を考える。それを実行するために、アスカは1発だけ特に狙わずに刃翼竜を撃つ。
 そして撃たれた銃弾は、氷に命中したが先程までの銃弾とは違い、弾かれずに

「何だこの威力……!?」

 何故こんなにも威力が上がっているのかはわからない。しかし、今考えるべきはそこではなく刃翼竜が作戦通りに動いてくれるかどうかだ。
 今は考えるな。刃翼竜の動きに集中しろ。

「……来た!」

 自身の纏う氷にヒビが入り、どこからの攻撃かと銃弾が飛んできた方を見る。そして、己を攻撃してきた人間であろうアスカを見る。
 この時刃翼竜は、変異前に突然走った痛みによって転けたことを思い出した。恐らく、あの時の痛みもあの人間の仕業であると認識する。そして、それを厄介に思った刃翼竜はアスカを優先して戦闘不能にしようと考えた。

「そうだ……それでいい……」

 アスカを優先した刃翼竜は、アスカに向かって突進をするように向かってくる。

「突進をすれば脚は自然と曲がる。それに、こっちに向かって来るのならばより当てやすい」

 しかし、変異により知能が成長した刃翼竜はそう甘くはなかった。
 なんと、刃翼竜はより太ももに纏っていた氷を大きくし、狙われどころである膝を曲げても見えないようにしたのだ。それに、隠したのが氷ということで確実に1発は防がれる状態になってしまった。

「なんだと!?」

 これについてはアスカも想定外でもう片方の膝を見てみるが、こっちも同じように氷が大きくなり膝を隠していた。

「こうなったら……」

 アスカは先程の威力を信じて膝部分に1発撃ち込む。その銃弾は氷が端だったこともありいとも簡単に砕くことができ、膝部分も露出させることができた。
 しかし、アスカがボルトを引いて銃弾を装填しているほんの少しの間に砕いた氷はより大きくすることで元の砕ける前の状態に戻っていた。
 そうなれば連続で撃つという考えが誰にでも浮かぶだろう。しかし、このボルトアクション方式のスナイパーライフルM24の連射速度では氷が元の状態に戻る前に膝に撃ち込むということがどう頑張っても不可能なのだ。

「くそっ……!」

 幸い膝を隠すように氷を大きくした為、突進の速度は落ち離脱する時間はできた。しかし、アスカはチャンスが来るまでその場を動かなかった。
 ここで逃せばこの刃翼竜は、こうすれば攻撃は通らないと学習し、もうアスカには手の打ちようがなくなる。それどころか、刃翼竜が氷の操り方を戦いの中で学習し、想像を絶する攻防をされれば誰も生きては帰れない。

 ──奴は必ずここで仕留める。

 その意思がアスカをこの場から動かさなかった。

「アスカさん! 右膝を狙ってください!」

「……!」

 その瞬間、アリサがアスカから見て左の足である右足の膝を隠しているの氷に連続して3発撃ち込み氷を砕く。反動の強い銃を連続して3発撃ち込むとは、アリサが反動軽減のスキルを上手く使えている証拠だろう。
 そして、その予想外の攻撃に刃翼竜は慌てて氷を成長させる。しかし、まだ氷を完全に操ることができていない刃翼竜がいくら慌てたところで氷が大きくなる速度は変わらなかった。

 ──これなら間に合う……!

「食らえ!」

 刃翼竜が太ももの氷を大きくさせ膝を隠す前にアスカは引き金を引いた。
 そして、刃翼竜の膝へ真っ直ぐ飛んでいくスナイパーライフルの銃弾は少しだけ大きくなった氷に掠ってしまった。しかし、ほん少し掠っただけで速さと威変わらず狙い通りに膝部分に命中し、刃翼竜を再び転倒させた。
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