異世界でスナイパーやるのっておかしいですか?

幻影刃

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第40話 違和感

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 圧倒的な力を見せ付けたアスカは、気温が元に戻ったことで拘束していた氷が溶け始め、足を抜ける程度まで氷が溶けると足を上げて氷から抜け出す。

「………感じない。少し調整が必要ね」

 何を思った発言なのかもわからない言葉を誰にも聞こえないよう呟き、絶命したであろう刃翼竜の元に近づいていく。刃翼竜は白目を向いており、心拍音も呼吸もなかった。ここから息を吹き返して動くなんてことはないだろう。

「……お前、本当にアスカか?」

「正真正銘アスカよ。何、ユノスには私が別の誰かにでも見えるの? それと、はやくそこに寝てる2人を起こすか運ぶかしたらどう?」

「……確かにそうだな。アリサ、2人を起こすぞ」

「あ、はい!」

 アスカの指示に従い、ユノスはアリサと共にいつまで寝てるんだと気絶しているジョルダンとラドを起こす。
 2人はどうやら刃翼竜に打ち上げと叩き付けられた受けた時にジョルダンは左足の脛骨ともう片方の足の脛骨にヒビが、ラドは右上腕と肋骨が数本折れたようで、歩けないジョルダンをユノスがおんぶして運び、なんとか歩けるラドにはアリサが肩を貸していた。
 アスカとツカサがいる刃翼竜を討伐した場所に行くと、ツカサは刃翼竜の死体を観察、アスカは座りやすそうな岩に座って休憩していた。

「おお、アスカも無事だったか」

「…………」

「ん? おーい、アスカ?」

「……すー……すー……」

「まさか、寝てるのか? こんな座りやすそうな岩に座りながら?」

 ラドが声をかけるが、何故かアスカはぐっすりと眠っていた。しかし、理由については流石にあれだけ動けば疲れたのだろうと簡単に推測できる。

「おーい。アス」

「少し待て」

「何だよ」

「無理に起こす必要は無い。返って迷惑になるだけだ。それに……」

「それに?」

「アスカについての話をするのならば、本人が眠っていた方が好都合だ」

「それはどういう──」

「声がでかい、静かに」

 ユノスがラドにこれ以上喋るなとジェスチャーで表す。どうやらそれが通じてくれたみたいで、ラドは大人しく静かにしてくれた。

「……では、まず──」

「おーい!!」

「お前空気読めよバカがァァ!!」

 ユノスが今から真剣な話をしようとそれなりの雰囲気になっていたというのに、たった1人の声によってその雰囲気はぶち壊れる。
 その雰囲気を壊した声の正体は、先に変異種のゴブリンキングの死体を見に行ったギルドマスターとリサさんの護衛チームの1人であるレアンであった。無論、馬車も一緒だ。

「無事に魔獣を討伐したんですね!」

「もう少し空気を……いや、お前に言っても無駄か」

「え、なんですか? 何か悪いことしましたか?」

「ああ、とびきり大きい悪いことをな。それよりも、馬車も戻ってきた事だしさっさと帰るか」

「アスカさん、ツカサさん! 早く帰りますよ!」

「ん、おうわかった」

「………すー……」

「ついでにそのおねむちゃんも一緒に連れてきてくれ」

「あいよ」

 あんなに大きな声でレアンが叫んだというのに起きないというのはかなりぐっすり眠っている証拠だ。本当に何故こんな所でぐっすりと眠れるのかがわからない。
 眠っているアスカをツカサはおんぶして馬車まで運んで行き、全員が乗ったところでギルドマスターは馬車を発進させた。
 因みに、後々来るセヴィオルナの魔獣回収班がゴブリンキングの回収のついでに刃翼竜も回収しギルドに戻ってくるとのこと。

 馬車に乗りセヴィオルナに戻っている最中、馬車の中ではラドとジョルダンの骨折の処置をしたり、どんな魔獣であったかなど会話があった。

「あれ、珍しく英雄にタメ口ですか。ユノスさん英雄のことを憧れたり尊敬してたりとかしてたんじゃないんですか?」

「とっくにそんな気は失せた。……あんな愚かなことをする奴だなんて思わなかったが」

「最後何か言いました?」

「いや、戦ってる最中に敬語だとめんどいから自分と同じ立場として見ることにした。今思えば同じ冒険者だからな。いつまでも憧れとかそういう関係でいるのもアレだしな」

「へー」

 あえて本当の理由を話さない。もし話してしまうとレアンは英雄という存在に失望してしまうだろう。人は、信じるものがあるからこそ戦えるのだ。それを壊してしまえば今後の冒険者生活に支障が出る。
 ユノスはふとツカサの方を見る。ツカサはぼーっとしながら、馬車の荷台の壁を背にして眠るアスカの隣に座っていた。
 眠っているアスカに布団がかけてあるが、それをかけたのはツカサだ。自分のせいでアスカがあんな目にあったことに対して、なにかと責任を感じているのだろう。

「それぞれ話している所すまないが、今回調査して変異種についてわかったことを説明しておこう」

 馬車を走らせながらギルドマスターは言う。これは流石に聞いておいた方がいいと思い、ツカサはアスカに声をかけ起こす。

「アスカ君起きてくれ。今から変異種についてわかったことを言うらしいから」

「んー、寝ながら聞いとく。意識はあるから記憶には残ると思う」

「……そうか、聞き流すなよ」

「あいあい」

 どうもやる気がないアスカ。こう見ても先程までのアスカとはまるで性格が違う。一体意識がなかったあの時に何があったというのだろうか。

「まず、私達は無事にゴブリンキングの元に辿り着き、調べることができた。しかし、変異の原因を突き止めることはできなかった。だが、それについてを知るための手掛かりは見つけて来た」

「手掛かり?」

「うむ。リサ、あの箱を」

「わかりました」

 そう言ってリサが取り出したのは、よくあるガラス製の箱だった。そしてその中には、ぐちゃぐちゃになった小型サイズの魔獣の死体が入っていた。

「うわっ、私こういうの苦手です……」

「すまぬ、我慢してくれ。それで、この魔獣はゴブリンキングの腹を裂いて見つけたから、恐らくはゴブリンキングが食した魔獣だと思う。しかし、この死体をよく見ると、何やら中から泥のような禍々しい色をした液体が流れ出ているのだ」

「……まるで中に吸い込まれそうな感じの泥ですね。それで、これが何か?」

「ただの泥だとしても、明らかに色がおかしい。一応慎重に採取し、厳重に泥が外に漏れださないように魔法加工がされた箱に入れている。これが一体何かはわからないが、詳しいことはギルドにいる者に調べさせよう」

 その正体不明の泥はねっとりとしており、ツカサの言った通りに何でも吸い込んでしまいそうな程暗く、禍々しい色をした泥であった。
 そしてこの泥は、アスカ達が以前戦ったディアボロスの手で作られる池とは違い、この泥は徐々に自らを増やしているようにも見えた。


****


 その後、無事に何事もなくセヴィオルナに帰ってきたアスカ達は1度ギルドに行き、ギルドマスターから報酬金である50万コルを渡してもらった。
 何故こんなにも高いのかというのは、今回の護衛の難易度に変動があるのと、全世界のギルドにて最重要の事態の調査に協力してくれたからだという。

「あの泥について何かわかったらまた呼び出させてもらおう。それはともかく、今回の協力には感謝するぞ」

「ありがとうございました」

 ギルドマスターとリサはお礼を言い、アスカ達は軽く受け答えしてギルドから出ようとする。

「アスカ君、少しいいかな?」

 しかし、そこでツカサがアスカに声をかける。一体何用なのだろうか。

「いいけど、どうして?」

「いや、改めて謝ろうと思って」

「あー、それならもういいよ。もう許してるみたいだし」

「そうか。でも、俺自身が許せないんだ。謝らせてくれ」

「だから、もういいよって。態々頭下げるなんてされたらこっちが困る」

「感謝する。………ん?」

 瞬間、ツカサは先程のアスカの発言に少し違和感を感じた。

「それじゃあ、また会おうね」

「あ、ああ、また」

 そう言ってアスカはギルドから先に出て行ったユノス達を追いかけるように走ってギルドから出て行った。
 そしてアスカが出て行ったのを確認すると、先程のアスカの発言に対して感じた違和感についてを考える。

「“許してるみたいだし’’……まるで他人のことを言うような言い方だ……。話しているのはアスカ君自身なのに……どうしてだ……?」

「ツカサさん。ギルドマスターが呼んでますよ」

「……ん、ああ、わかった。今から行こう」

 ツカサはアスカの発言に対しての疑問が消えなかった。
 もしかして二重人格だったという仮説を立てて考えてみたり、そもそもあのアスカは本人ではなく双子のような存在であの時に腹を貫かれたアスカは死んでいる、なんて自分自身を少々傷付ける仮説も立てて考えてみた。
 しかし、結局真相はわからない。自分がどう結論づけたところでそれはツカサにとっての結論であり実際の真相ではない。その答えを知るのはアスカなのだ。

「アスカ君……君は一体……」

 アスカがギルドから出て行ったギルドの出入口を見ながら、ツカサは誰も聞こえない声で小さく呟いた。
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